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幻想茶飯事  作者: 宵月
3/4

退屈を祓う:後編

ついに幽霊をみつけた杏華。

しかし、忠告を無視した女教師の一言によって悪霊化してしまう。

無事に幽霊を祓うことができるのか。





シュッ


「ッ…」

弾ききれなかった鉛筆が右頬をかすめる。


もう5分は経っただろうか。

悪霊との距離は一向に縮まらず、弾ききれなかった鉛筆によるかすり傷が増える一方だ。


シュッ

カンッ


「クソっ、キリがねえ」

弾いても弾いても、終わらない鉛筆の雨。

床に落ちている鉛筆は数え切れないほどになっている。


「あいつの側まで近づけたら…」

近づくことさえできれば、鎮めるのは簡単。

札を使えばいいだけのこと。

ただ、近づくためには飛んでくる鉛筆を避けながら進むか、捨て身で相手の懐に飛び込むかの2択しかない。

安全なのはもちろん前者だ。

避けながら隙を見つけることができればそこから一気に畳み掛けることができる。

問題は、その隙があるかどうかだ。


悪霊の周りは四方八方を鉛筆が囲んでいて、人間が通れる隙間は見当たらない。

それらの鉛筆が同時に飛んでくれば、避けるのはほぼ不可能と言える。


と、なると後者を選ぶしかないが…


シュッ


「ッ…」

いくら鉛筆とはいえ、悪霊が霊力を込めて飛ばしてくるものだ。

そのへんの子供が投げているのとは訳が違う。

下手に当たれば致命傷になりかねない。

恐怖心が体を支配し、飛び込むことを拒む。


こんな時、婆ちゃんならどうするだろうか。

そんなことを考えていると昔の記憶が呼び起こされた。


その日、婆ちゃんの目の前には悪霊化した幽霊がいた。

次々に飛んでくるナイフに防戦一方の婆ちゃん。

その時の私はまだ小学生で、幽霊を祓うことはできても悪霊を鎮めることはできなかった。

「おばあちゃん、もう逃げようよ!」

両親が行方不明になったばかりで、祖母も失うことになるのではないかという恐怖からか咄嗟にそう叫んだ。

それでも、婆ちゃんは逃げようとしない。

それどころか、今にも泣きそうな私の方を見向きもせずに声を張り上げる。

「バカ言ってんじゃないよ!あたしが逃げたら誰がこの悪霊を祓うってんだい!」

「除霊師ってのはね!怖かったら逃げていいなんてそんな甘い職業じゃないんだよ!」

突然の言葉にその時の私は固まることしかできなかった。

そんな私にはお構い無しに、婆ちゃんは飛んでくるナイフを弾きながら悪霊の方へと突っ込んでいく。

弾ききれなかったナイフが頬や腕を掠めようが気にしない。

一瞬で悪霊との間合いを詰めると札を取り出し、悪霊を祓う。


その帰り道、服も身体もボロボロな婆ちゃんは隣を歩く私に言った。

「除霊師ってのは時には命を賭けなければなんないことがある。そん時に、怖いから無理ですなんて言ってるようじゃあ立派な除霊師にはなれないんだ」

「無理だよ。だって、怖いもん」

小学生の私には恐怖よりも強いものはなかった。

「怖くてもやらにゃならん」

「でも、その時になったら私、動けないよ」

「動けるさ」

その時の婆ちゃんの言葉には確信が込められていた。

可能性ではなく、絶対という確信が。

「どうして、そう思うの?」

「そんなの決まってるだろう」





あんたが婆ちゃんの孫だからだよ。





「あんの脳筋ばばあが。もっと戦略的なことを教えてくれよ!」

そんなことをいいながらも、記憶のおかげで覚悟ができた。

箒を握り直し、悪霊の方を見る。

目を閉じて深呼吸をし、心を落ち着かせる。

悪霊に少し近づくと向こうも鉛筆を幾つも作り出す。


しばらく対峙したままでいる私たちを翠と少年が静かに見守る。

最後にもう一度深呼吸をし、ゆっくりと目を開ける。

向こうが動こうとするのを確認し、すぐにこちらも動く。

記憶の中の婆ちゃんのように、飛んでくる鉛筆を弾きながら一直線に悪霊へと突っ込んでいく。

途中、何度も鉛筆が身体のあちこちを掠めていったが気にしない。

悪霊の前まで来るとすぐに札を取り出す。

「怒れる魂、怒りを鎮め我の言葉を聞き給え。急急如律令!」

驚いた悪霊は反応が遅れ、鉛筆を飛ばすことも札を避けることもできなかった。

周りが光に包まれる。


あまりの眩しさに翠と少年は目を瞑る。

次に目を開けるとそこにはボロボロな姿で立っている杏華と元の姿に戻った幽霊がいた。

あれだけ飛んできていたはずの鉛筆は跡形もなく消えていた。


「あれ、私今まで何して」

混乱している幽霊に杏華は優しく話しかける。

「改めて、私は倉橋杏華。依頼があって貴方を祓いに来た除霊師だ」

「杏華。依頼?除霊師?どうゆうこと?というか、なんでそんなにボロボロなの?」

幽霊から次々に飛んでくる質問。

まずは状況説明をと依頼を受けてから今までのことを全て説明する。

途中に出てくる質問にも丁寧に答えながらなんとか説明を終えると、幽霊から謝られる。

「ごめんなさい。そんなボロボロになるまで傷つけてしまって」

「別に気にしてない。除霊師にとってはこんなのはいつも通りだ」

「そんなことより、なんでこんなところにいるんだ?」

そう質問すると、少し考えるように俯いた後ぽつりぽつりと話し始める。


どうやら、この幽霊はこの学校に通っていた生徒だったようだ。

3年生まではただ楽しく過ごしていたが、4年生になると突然虐められるようになり、6年生の時、虐めに耐えかねてこの屋上から飛び降りたんだそうだ。

それから、幽霊となって自由に生きてきたが、自分を虐めていた人がこの学校の先生になったと知り、悪さをするようになった。

ちなみに、その先生というのが先程のあの女の人のようだ。

別に、殺すつもりはなかったそうだが悪びれる様子のないことに怒りを覚え、悪霊化したようだ。

「事情は分かった。それじゃあ、悪いけど祓わせてもらうよ」

そう言って懐から札取り出して構える。

すると、今まで静かに話を聞いていた少年が声を上げる。

「ねぇ、未練とかはないの?」

「え、未練?」

「うん、未練」

「はぁ、あのなぁ、邪魔するなってあんだけ言っただろうが。てか、未練なんか聞いてどうすんだよ」

突然何を言い出すと思いきや、突拍子も無い言葉に呆れ構えた札を一度下ろして少年の方を向く。

「?、未練を聞いてそれを叶えてあげてから祓うんじゃないの?」

「それは成仏してもらう時にするもので、除霊の時にはしねえよ」

と言っても、未練をなくしても成仏しない幽霊も多い。

そのため、最近は未練を聞かずに強制的にお祓いする除霊師も少なくない。

私は自主的に成仏することを望む幽霊に関しては未練を聞いているが、その他の幽霊は未練を聞かずに祓っている。

「?、ねぇねぇ、お姉ちゃん名前は?」

「え、せ、星螺、清水星螺(しみずせいら)

「星螺お姉ちゃん、何か未練とかないの?」

「ばっ、なに勝手に!」

慌てて訂正しようとするが、時すでに遅し。

幽霊、もとい星螺は自身の未練を口にする。



「1度でいいから、中学校の制服を着てみたかった」



なんとも小学生らしい未練だった。

1度でいいのなら叶えることは簡単だ。

だが、子供は次から次へと欲が出るものだ。

1つ叶えれば次が出てきてもおかしくない。

さてどうするかと考えていると少年と、目線を逸らせば次は星螺と目が合った。

2人からの期待の眼差し、そして、未練を聞いてしまったことから断ることができなかった。

今日一番のため息をついて諦めたように話す。


「私の使ってた制服でいいなら、あるけど」

明けましておめでとうございます。

前回の投稿からかなり時間が経ってしまい申し訳ございません。

ここまで読んで下さりありがとうございました。

よろしければ、感想などいただけると励みになります。

今度ともどうぞよろしくお願いします。

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