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幻想茶飯事  作者: 宵月
1/2

退屈を祓う:前編

「体積は、縦×横×高さで求めます。なのでこの図形の体積は…」


授業はつまらない。

先生は何を答えても猫なで声で褒めてくる。

そんな僕をある人は尊敬、ある人は嫉妬の目で見てくる。


「このように底面の面積に高さをかけると柱型の図形の体積になります」

先生の説明なんて聞かずに窓から見える景色を眺める。

ふと門の方を見ると、人が立っていることに気づいた。

その人は肩にカバンをかけて、屋上の方をじっと見つめていた。

何を見てるんだろう…


そのままその人のことを見ていたら視線に気づいたのかこっちを見た。

そのままじっと見つめあっていると、先生に当てられた。


「この問題を解いてみてください」

「4×3×7=84だから、84cm³」

「正解!」

流石です、と大袈裟に褒めてくる先生を無視してもう一度窓の外を見る。


さっきの人はもうそこには居なかった。




5月中旬。

テレビでは天気予報士が7月中旬並の暑さになると話している。

誰もいない部屋にテレビの音だけが響き渡る。


同時刻、その隣の部屋、応接室で私、倉橋杏華(くらはしきょうか)は依頼主から依頼内容を聞いていた。


「学校にいる幽霊を祓ってほしい…と」

「頼む、こんなの頼めるのはお前しかいないんだ」

そう懇願してくる目の前の人物が今回の依頼主。


田中博道(たなかひろみち)、市内にある桜坂(さくらざか)小学校の先生。

ちなみに、桜坂小学校は私の母校でもあり、田中先生は私の6年生の時の担任だった。


依頼内容は、夜、学校に現れる幽霊を祓ってほしいというもので、あまり難しいものではない。

その幽霊というのは、先生によると昔屋上から飛び降り自殺をした元生徒の霊らしく、夜に巡回役の先生が校内を歩いていると窓の外を人のようなものが降っていったり、窓ガラスが割れたり、何もしていないのに掃除道具入れが倒れたりと怪奇現象が後を絶たないらしい。


「分かりました、その依頼引き受けましょう」

________


バイトへ向かう途中、時間があったため下見も兼ねて校舎へ寄ってみた。

「懐かしいな、この校舎」

卒業してからそう長くは経っていないがとても懐かしく思えた。


授業中ということで中には入れないが門の側から校舎全体を見回し、屋上を注意深く見てみる。

流石にこんな昼間には幽霊も姿を現さないようで何も見えなかった。


ふと視線を感じそっちの方をむくと授業中だというのに窓からこっちの方をじっと見つめてくる少年と目が合った。

しばらくそのままで居るとどうやら先生に当てられたようで何かを答えていた。

________


バイトが終わり1度家に帰って何枚か(ふだ)を持って再び学校へ向かう。


校舎に着くとすでに授業は終わっていて、帰宅する生徒がぞろぞろと門から出ていく。

グラウンドでは、サッカー部が元気よくボールを追いかけていて、その周りを陸上部が走り回っていた。


約束の時間までは少し時間があるが許可は貰っているため帰宅する生徒とは逆に校舎へと向かう。


「…」

「何見てるの。早くしないと置いてくよ」

「うん、分かった」

________


「理科室には入るな?」

1つ伝え忘れたことがあったなんて真剣な顔で言うもんだから何を言われるか覚悟を決めて聞けば、理科室には決して入るなという訳の分からないことを言われた。


「幽霊を祓ってほしいから私に依頼したのに、理科室には入るななんて。もしそこに幽霊がいたら祓えないんだけど」

祓えなければ依頼を遂行できなかったということになる。

そうなれば今後に影響がでることも有り得る。

こちらは仕事で来ているのだ。

本気で困っているわけではないのなら今からでもこの依頼をお断りしたいのだが。


「そんなこと言われても、俺にもよく分からないんだよ。理科の先生からそう言われて」

「幽霊のことは?」

「伝えたんだけど、理科室は大丈夫の一点張りで」

なんの確証があってのそのセリフなのかはその先生に聞いてみないと分からない。

ただ、立ち入り禁止の理由はおおよそ、実験に使うという名目で危険な薬品を大量に保管しているからだろう。

もしくは…


「分かった、理科室は入らない。その代わり、理科室に幽霊がいたら祓えないから」

これ以上問い詰めたところで理科室の立ち入りが許可されることはないと分かりすぐに引き下がる。

その場合は幽霊を祓うことができないと伝えると分かったと言葉を返された。


他に何か伝え忘れたことは無いか問いただすと次々と情報が引き出された。

そもそも幽霊は毎日でる訳では無いということ、田中先生自身は幽霊を見たことがないということ、幽霊がでる日は決まって新任の教師が巡回役だということ。


合わせてくれたのか今日はその新任の教師が巡回役の日らしい。

とりあえず、夜まで時間があるから学校中を探検することにした。


20時30分、いかにもという雰囲気になり始めた。

そろそろ始めるかとスマホ片手に重い腰をあげる。

すぐに取り出せるように道具をポケットにしまい今いる教室からでる。


廊下は静まり返っていて人の気配ひとつしなかった。

スマホのライトをつけて周りを照らす。

今のところ、幽霊の気配も人の気配もしない。

まずは巡回役の先生が居るかどうかを確認しなければ。


「我と契約せし式神よ、今ここに顕現し我を助け給え。思業式神(しぎょうしきがみ)、翠」


スマホをしまい、式札(しきふだ)を構え呪文を唱える。

すると目の前に水色を基調とした着物を着た少女が現れる。


(ぬし)!」

名前は(すい)

代々倉橋家と契約している式神で除霊師を継ぐときにおばあちゃんから譲り受けた。

少女の姿をしているが昔おばあちゃんに見せてもらった翠の姿は大人の姿だった。

思業式神は呼び出した人の実力などが姿にも影響する。

おそらく、私の実力がまだそこまで伴っていないのだろう。


「翠、巡回の先生を探してきて」

「分かったよ、主!」

先生を探すよう命令すれば、そのまま元気に走り出す。

北は翠が探してくれるから、私は南を探そうかな。

再びスマホのライトをつけて手に持つ。


「今の何!どうやって出てきたの!」

「え」

驚いて振り向けばここの生徒だろうか、子供が1人私のすぐ傍に立っていた。

「ばっ、あんた、今何時だと思っ、て…」


あれ、この子確か…


「ねぇ、さっきの子は何!」

この子、翠のことが見えてる。

そんなのは普通ありえない。

なぜなら式神は普通、人には見えないからだ。

じゃあ、なんでこの子は翠が見えて…


「そこに誰かいるの」

「!」

とっさに目の前の子供を抱えて近くの教室に入る。

そこが入るなと言われた理科室だと気づいたのは入ってしばらく経ってからだった。


「どうしたの」

「しー、静かにしろ」

机の下に隠れて息を潜める。

しばらくすると足音がして扉の前で止まる。

扉が明るく照らされ隙間から光が漏れる。

しばらく扉の前で止まっていたが再び動き出し足音が遠ざかって行った。


「…行ったか」

足音がしなくなったのを確認して机の下から出る。

「いだっ…」

机に頭をぶつけたようで子供が頭を抱えてしゃがみこむ。


やっぱりだ。

この子、午前中に下見をした時に目が合った少年だ。


一体どうやって侵入したというのか。

とりあえず、巡回の先生に見つかる前に帰らせなければ。

「翠」

「はーい」

名前を呼べばすぐに返事が返ってきて目の前に現れる。

「わ、さっきの子!」

「翠、この子を家まで送り届けてあげて」

「分かった!」


翠に少年を任せて理科室から出ようとする。

「どこ行くの、僕も連れてってよ!」

少年がついてこようと立ち上がり私の後ろへと付く。

「ついてくんな」

「こっちも遊びじゃねえんだ。さっさと帰んな」

帰るように促すと少年はムッと頬を膨らませこちらを見る。

「どうやって家を抜け出してきたか知らねえけど、親にバレる前に帰れ。良い子は寝る時間だぞ」


後ろで少年が何か言っているが、それを無視して理科室を出る。

明かりのない廊下はどこか不気味でいつ幽霊が出てきてもおかしくはなかった。


理科室はどこか異様な雰囲気が漂っていた。

幽霊とは別の異様な雰囲気。

おそらく、原因は薬品などが保管してある部屋、理科準備室だろう。

図らずとも、理科の先生が理科室の立ち入りを禁止した理由が分かった。


ただ、今回の依頼とは無関係のため今日は干渉しない。


さて、さっき先生がいることは確認できた。

ここからは、幽霊探しだ。

倉橋(くらはし) 杏華(きょうか)

16歳

高校には行かず家業である除霊師を継いでいる

その他にもいくつかのバイトを掛け持ちして生活費を稼いでいる

祖母と二人暮しで父と母は杏華が小学3年生の頃から行方が分からなくなり今も消息不明

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