6話 トップの兄、最下位の妹
「わ、ワイズの妹……?」
「え? うん」
ワイズが人間の血を引くとは聞いたことない。となるとこの子とは異母兄妹かなにかなのか?
……しかし学園最強の兄を持つのに魔力が皆無なのか……
魔力がないということは、おそらく成績は最下位だろう。
トップと最下位の兄妹……
ワイズも家柄が悪いわけではない。そう考えると家での扱いも彼女、悪いんじゃないのかな……?
失礼かもだが聞いてみるか。
「ワイズの妹となると、いろいろと比べられたりしたんじゃな
い?」
「……うん、まあ。両親からはろくに口聞いてもらえないし、他の身内にも基本見下されてる。学園では見ての通り」
やはりそうか……
かわいそうという感情は彼女にとって失礼かもしれないが、そう感じずにはいられない。
同情とランチを邪魔されたことを合わせて、やはり奢ってあげるか。
……少し話もしたいしね。
「ランチ、ご一緒してもよろしいかな? 奢るよ」
「え!? 本当に!?」
「ああ」
「やった! いいランチ頼んでもいい?」
「いいよ」
この喜びよう……まあ当然か。
実は成績に応じてこの学園内でしか使えない通貨を渡される。
学園内の買い物は基本その通貨しか使えないことになっている。
つまりこの学食もその通貨しか使えないわけだ。
成績が良ければ大量に通貨を月に配布される。そうなると最下位の彼女に配布される通貨は、微々たるものだろう。
最低限の安いランチしか頼む余裕はないと思われる。
一応は外でも使える通貨を換金する制度はあるが、よほど困窮してる時しか許されない。
それに彼女の家での扱いを考えると、そういった仕送りも期待できなさそうだしな。
ちなみに卒業時に通貨を換金することは可能なんだとか。
外で豪遊するためにここで溜め込む者もいたりするらしい。
ちなみに通貨の名は円と言う。
何でも人間界の通貨の名前なんだとか。
「奢りならさ、学園優秀者だけが頼めるランチとかも食べていいのかな! え、えっと……エンツーさん?」
あ、僕の名前知らないんだったね。
「僕はエクス・リコード。エンツーってのは不本意なあだ名だよ。永遠ナンバーツーの略」
「あ、聞いたことある! 先輩にそう呼ばれてる、何から何まで二位の人がいるって!」
……事実だけど心にくるね……
後輩からも知れわたってるとは……
僕は学園の有名人のようだね。
嬉しくないけど。
「あ、気にしてるなら言わない! エクス先輩でいい?」
「いいよ。あと、優秀者限定ランチは僕が頼んであげるからそれもいいよ」
「やった!」
テンション高く、ピョンピョン跳ねるシールちゃん。
背丈もちっこいし、子供みたいでかわいらしい。
……こんな幼さの見える子があんなパワー秘めてるんだからな。人は見かけによらないとはこの事か……
生徒Aがそっと寄ってきて僕の肩を抱いてくる。
「なあなあエンツー。おれにも奢ってくれよ~今月散財しちゃってさ!」
「……はあ。一食だけですよ」
「さっすが話しわかる~」
シールちゃんに生徒A、ま、たかが二人分の食事、僕の支給されるお金を考えれば全くダメージないだろうし。
毎月結構余らせてるくらいだし……
「えっと! こっからここまでの料理全部!」
ブッ! ぜ、全部!?
シールちゃんが指したのは優秀者限定ランチ全てと、肉料理系全てだった。
「あ! これとこれは特に美味しそうだから三つずつね!」
み、三つ! い、いくつ食べる気なんだ!?
そうしてシールちゃんは、頼んだ料理を運んできた。テーブルにのりきらない……
「とりあえずのるだけのせて、食べ終わったら下げていけばいいや!」
と、シールちゃんは凄まじい勢いで食事を開始した。
……食べるのはやいはやい。しっかりとよく噛みなさい。
空の皿がどんどんと積み上がっていく……
それらを下げ、また新しい料理を……
「先輩! 支払い支払い!」
「あ、はい」
減っていくのは料理だけでなく、僕の財布の通貨も同様だった。
……おいおい今月分パーになりかねないぞこの勢い。
し、しかし遠慮をしらないな……
そ、そうだ。食べてる時に悪いが、こんだけ奢ってるんだ話を聞いてもらおう。
「シールちゃん、一ついいかな?」
「なに? ご飯ならあげないよ!」
「そうじゃなくて……」
僕は彼女に頭を下げて頼み込む。
「僕と、組んでくれないかな?」
「?」