56話 この時が来た
――一連の騒動から数週間が経った。
僕は今日、ナンバーワンたるワイズに挑戦する。
どういう事かというと、夢幻学園で定期的に行われるトーナメント戦。その決勝で僕とワイズが当たる事になったからだ。
トーナメントは国の有数な幹部達からも関心を持たせる大イベント。
要はお遊びと言えなくもない。
特殊な空間で戦うことにより、どれだけ全力で戦っても互いに死ぬことはない、安全な手合わせができる。
……今まで僕は、ワイズにこのトーナメントでも、授業の実戦でも、まともに傷一つ負わせた事はなかった。
でも今日この日に僕は準備をしてきた。
シールちゃんの運動能力への慣れも完璧。理事長達との戦いで必殺技、黄金幻想武具も完成した。
勝機は……ある。
……はず。
「ファイトですわよエクス! わたくしに勝ってるんだから自信もって!」
「エクス、負けてもお母さんが慰めてあげるから、頑張ってね」
「エクス! 兄ちゃん応援してるぞ!」
ユーノさん、母様、兄さんがそれぞれ激励してくれた。
一方シールちゃんは……
「う~んエクスさんには頑張ってほしいし、お兄ちゃんには魔王になってほしくないから……応援するべきなんだろうけどぉ。でもお兄ちゃんの負けを願いたくはないっていうかぁ」
複雑な心境なようだ。
そりゃあブラコンな彼女を考えれば、そうだよね。
まあでも無理する事はない……
僕はシールちゃんの頭を撫でてから、みんなに軽く頭を下げる。
「では、行ってきま……」
「キィイイ! 小娘ばっかし!」
あのユーノさん、締まらないんで……
とまあその後ユーノさんも撫でて、いつものようにハンカチを取られてから、僕は会場に向かう。
みんなはその後近くの観覧席で観戦予定。
――別にこの勝ち負けで魔王になるのが決まるわけではない。
でも僕はこの日、ワイズに最初の勝利を手にするつもりだ……
全て解決し、母様との仲も良くなり順風満帆。その上ワイズに勝てることがあれば……僕の二番は卒業できる気がする。
すでにワイズは待ち構えていた。待ちくたびれたと言いたげに。
僕たち二人は並び立つと、目の前に別空間が作られる。
この中での戦闘は、大怪我をしようと、死亡しようと、この空間が出た瞬間全てがなかったことになる魔法がかけられている。
夢、ゲーム内、どれでも好きな想像をしてもらってかまわない。
それらに近い状況になれる魔法だね。
――だから、遠慮なく、全力で手合わせをすることができるわけだ……
胸が踊る……
今はワイズに対して苦手意識もない、怖くもない。
ただ……ワクワクする。
『それでは決勝を始めます! ナンバーワンのワイズ・デュラミスと、永遠のナンバーツーといわれるエクス・リコード……ついに下剋上なるか?』
アナウンサーさん、ご期待通りにさせてみせますよ。
僕とワイズは空間に入る。
「待ちわびたよ。この時を」
と、ワイズ。
……いやそのセリフ、こちらが言いたいよ。
僕がどれだけ君を目指したか、嫉妬したか、憧れたか……
ワイズ・デュラミス。君は僕にとって最大の壁だった。
そのせいでひねくれそうにもなった。腐りそうにもなった。
でも、君でよかった。
君だから……負けても納得できた。そしていつか勝ちたいとも思った。
君は今となっては尊敬に値する人物だよ……
魔王の座が君の物になったとしても、悔しくはなるだろうけど、心からお祝いできる気もする。
別に負けてもいいと思ってるわけではない。ただ、僕がなれなかった場合の人物としては……これ以上ない存在だから。
君はそれだけ偉大な人物だよ。
……照れくさいし恥ずかしいからとても口には出せないけどね。
「魔導転移、だったかな? それでシールの身体能力を借りてるんだろ?」
と、ワイズ。
……バレてたか……
「シールの動きはよくわかってる。この前のゼットさんとの戦いでピンと来たよ」
「……卑怯でごめん」
「いや、責めるつもりはないよ。誰もが使えるわけでもない、君にとっての武器を使ったまで。それもひっくるめて君の実力だよ」
……この器の大きさ……本当にかなわないな……
いや、今日こそは勝ってみせるけどね……
「実はね、わたしは全力というものを今まで使ったことがないんだ」
――え?
全力を使ったことが……ない!?
「こんなこと、嫌みになるから誰にも言ったことはないけど……君には伝えておくよ」
「……なぜ?」
「だって出させてくれるんだよね? わたしの全力。ならば……嫌みにならない」
「……言ってくれるね」
緊張もふっとんでしまったよ。
この男……人をのせるのもうまいんだからさ……
「さあ、……始めようか?」
「そうだね……ワイズ・デュラミス、ナンバーワンの座、退いてもらうよ」
「やってみるといい」
「「それでは決勝戦、ワイズ・デュラミス対エクス・リコード……始め!」」




