55話 騒動終結
「よかったのかい? 見逃して」
と、ワイズが聞いた。僕は頷く。
結局僕は殺さなかった。屋敷内を徹底的に調べてもらい、理事長の悪事をおおやけにしてもらった。
理事長は理事長の座を追われ、結果牢屋行き。オーリも学園を退学処分となるようだ。
屋敷内を調べた結果、兄さんの病気についての資料があった。うまくいけば、回復する可能性もあるとわかった……
兄さんは助かるかもしれないと心から安堵した。
「ゼットさんは反省するような人じゃない。いつか復讐にくるかもしれないよ?」
「その時は返り討ちにするまでですよ。二度とあんな人の思い通りにはなりません」
「そうかい」
それより、僕は聞きたいことがあった。
「ところでワイズくん、死を装う時、なんで赤い血を作ったの?」
僕たち魔族の血液の色は黄緑だ。人間の赤とは違う。なのにわざわざ赤くした理由がわからなかった。
「赤なら、わたしが出血したと思わないだろ? 他のみんなも」
……そうか、みんなあれくらいでワイズが死ぬわけないとはわかってても、激しい出血が見えたら心配する可能性もある。
それが赤い血だったら、みんなわざと死を装おってるとわかってくれるか。
「シールに心配かけたくなかったし、演技したのは驚いたけど」
「でも逆に理事長にバレる心配もあったんじゃ……」
「それはないね。あの人、心からわたしを恐れていた。死んだと思えば、それが現実と信じたかったはず。そしてわざわざ死体を確認しに行く度胸もない」
「でも血の色が……」
「先入観」
……? 先入観?
「人に興味のない魔族は、血が赤い魔族がいるなんて思わない。だからユーノ嬢やアイリスなどはわたしの死なんて想像もしなかった」
「うん」
「でも理事長ほどの知識の持ち主なら、魔族の血が赤いパターンを知ってる」
「それって……」
「そう、人との混血パターン。その場合は赤か黄緑どちらかなんだよね」
そうか、妹のシールちゃんは人との混血、それゆえに余計に理事長からすれば、ワイズの血が赤に疑問を持ちづらくなってたのかも。
「わたしの血が黄緑だなんてわかるはずもないからね。だって学園で血を流したことなどないから」
さすがだね……実技どころか依頼も無傷でこなしてきた男の言うことは一味違う……
「仮にばれてたら、それならそれで対策練ってたし」
本当に末恐ろしい人だよ……
僕が手なんて貸さなくても、一人でこの騒動どうにかしてたんだろうね……
「さ、早く行きな。お兄さん、病院にはこばれたんでしょ?」
「うん。ありがとう助かったよ」
「……手合わせできる日を、心から待ち望んでいるよ」
「え」
そういうとワイズは去って行った……
あの向かうところ敵なし、最強の男に……目をかけてもらったのか!?
ライバルと……認めてもらった?
……それだけで、少し嬉しい。
♢
――兄さんの病室。
理事長宅から発見された資料を元に作られた薬で、兄さんの症状は少しずつ良くなってきていた……
今この場には兄さんと僕、母様、ユーノさん、シールちゃんがいた。
母様は僕に話があると言っていた。……なぜか僕を抱きしめたまま。
「おかあさんね、離婚してリコード家出ようと思うの。アールスのこともあったから踏ん切りつかなかったけど、もう心配なさそうだから……」
「……そう。それがいいですよ」
あんな家に、いる必要なんてない……母様が選んだ事なら、僕は賛成だ。
「でも僕がリコード家継いだら、呼び戻しちゃうかもしれませんよ?」
「もう、かわいい事いっちゃって! そうね~よくよく考えたら、おかあさんとエクスって血は繋がってないんだから~エクスのお嫁さんになるのもありかもね~」
「は?」
僕より先にユーノさんが声をあげた。
ピクピク眉をひきつけながらユーノさんは言う。
「ババ……じゃなかったですわ。お義母様? それはいろいろと問題あるかと思いますわよ?」
「どうして~? 血縁上問題なくない?」
「今までの関係に、年齢考えたほうがよいかと……」
「仲良しだし、愛してるからよいと思うけど? 年齢も……ほら、おかあさん美人だし?」
「……この年増……」
な、なんで荒れそうになってるんだ? 母様も冗談がすぎる……
「弟が父親になるっていうのも、奇妙で面白いなあ。ハハ」
に、兄さん、笑い事じゃない……
「あたしもぉ、お兄ちゃんと結婚するからぁ、結婚式合わせる? エクスさん」
シールちゃん、火に油注がないで……
「エクスはわたくしの奴隷にするんですから! ダメですわよお義母様!」
「大丈夫大丈夫! 第二夫人認めるから!」
「誰が第二夫人ですかあ! 正妻はわたくしでしょうが! あ、って何言わせるんですの! ち、違いますわよ? そういう意味じゃ、あれ? いや違うわけでは、いやエクスのことはす、ああああ!!」
……病室では静かにね。
でもなんか……自然と笑ってしまう……
こんなこと久々な気がする……
家族関係は修復し、友人達に囲まれ……
僕は今、幸せなんだと思う。




