54話 奥の手
「おのれおのれおのれ! このワシを騙したというのかあ!」
魔法の弾幕を兄さんとアイリスさん、二人の人質に放つ――が、
案の定無傷。ワイズの水魔法で完全に守られている。
「もう無駄なことですゼットさん。あんたの負けだ」
「ワイズ~! 忘れたとは言わせん! 貴様を倒すための研究は成功したと言ったはずだ!」
「なんの話です?」
その話は僕に言ったことで、ワイズは知らないだろ。
「行けキマイラ! ワイズを殺せ!」
なにやら魔法をキマイラに送り込むと、キマイラは突然暴走する。
イースお母さんがいなくなったことで意思は空っぽになったはずだが、魔法で無理やり動かしたようだ。
キマイラは前足の爪でワイズを狙う……が、
突然前足が爆発し、キマイラは倒れる。
「なにぃ!?」
水蒸気爆発か? 魔法によって水を蒸気に瞬時に変え爆発魔法に……
ワイズ、やはり多才な奴……
「わたしに対し相性のよい土魔法……でもそれくらいで倒せると思われたくはないですね」
ワイズは動けなくなったキマイラに近づき、水を剣へと変える……
「水晶烈斬」
目にも映らぬ速度の斬撃が唸る。
すると、キマイラは跡形もなくバラバラとなって散った……
……対策ねった怪物だったんでしょ?
呆気なく倒されましたよ理事長。
「ば、バカなバカな……」
開いた口が塞がらないようだね。
「さあエクスくん。大将首は君に渡そう」
ワイズは理事長を指した。
……そうだね。母様を傷つけ、兄さんを人質にとった巨悪……僕の手で倒す必要がある。
「おのれおのれおのれ! まだだ! キマイラの力をワシに取り込んで! 貴様らまとめて血祭りにあげてくれる!」
「ああそう」
僕は瞬時に理事長の目の前に移動、そして……
渾身の拳を理事長の顔面にぶつけてみせた!
「ごはっ……」
鼻血を吹き、倒れそうになるも耐える理事長。
まだ終わらないよ。
僕は武器生成で、金色の鉄甲を作り装備。そして……
移動しながらの拳の乱打をおみまいする!
「ごっ! があ! のあ!」
理事長は為す術がなく、僕に殴られ放題。
「この、クソが、」
言い終わる前に、ボディーブロー
「ごばぁ!!」
はらわたをえぐるような一撃に悶え苦しむ理事長。
「ご、ごの……い、いいのか! 兄の治療方法……」
「どうせ素直に教える奴ではないだろあんたは。屋敷内を調べつくしてから無理やりにでも吐かせるよ。……治療方法あるかの確証もないけどね」
「この、外道があ!」
どの口が言ってる。
「外道はあんただろ!」
理事長の拳にカウンターを合わせ、顔面を殴り捨てる。
フラフラした後、無様に倒れる理事長。
……とどめだ。
「ワシは! ワシは魔王になる男! 頭が高い! ひかえろお!」
理事長は魔力を全放出。自爆でもしかねないほどの……屋敷もろとも破壊するつもりか!?
まあそんなもの、叩き切ればいいだけだがね。
僕は瞬時に理事長の周囲に武器を生成し……一斉に放つ!
「黄金幻想武具」
放たれた武器は理事長の魔力を全て何もなかったかのように叩き切り消滅させる……
「な、なんだとお!」
そしてフィニッシュ……
同時に動いた剣を持った僕の一撃が……
理事長に直撃した。
「がはあああ!」
切り裂いた理事長の腹部からは血が飛び散り、無様に地面に倒れた。
勝負……ありだね。
♢
人質は無事に解放。アイリスさんは「ワイズ様! 信じてました!」と、大絶賛してた。僕も戦ってたんだけどね。まあいいけど。
兄さんも無事。怪我一つなく眠ったまま。当然母様も……
「ねえ、理事長どうするぅ? 殺す?」
と、シールちゃん。野蛮な発言……
「まあでも、生かしておくのも危険ですわよね。牢にぶちこむだけではちょっと……」
ユーノさんも同意見なようだ。
国の代表に事の一件を伝え牢に入れるのが妥当。でもこの人は権力者、それだけじゃ安心できないのはわかる。
「ま、待ってくれ!」
オーリが僕たちに土下座しだす。
え、オーリが?
弱いものいじめばかりして、多くの悪事をしつつ、誰もから嫌われている魔族が僕たちに……?
「お、おれも罪を償うからさ! 親父を殺さないでくれよ!」
「あんたバカぁ? こいつあんたの事なんとも思ってなかったじゃん」
シールちゃんの言う通りではある。
奴にオーリへの愛情なんて一つもなかった……
「それでも……親父なんだよ……おれにとって、唯一の……頼むよ! もう悪いことなんてさせないから!」
信用は……できない。理事長がやってきたことは死刑レベルの重罪。人体実験に、ジェイスら生徒達にやったこと……兄さんの病、母様達への殺人未遂。
とても改心するような奴ではない。
でも……
泣きながら懇願するオーリを僕は無下にできなかった。
母様にどう思われようが、愛した僕と被る……
「事の被害者は君だエクスくん。君が決めな」
ワイズはそう言った。
僕は目を閉じてゆっくりと考えてから……決断した。




