53話 理事長、あんたをぶちのめす
「な、……にぃ?」
理事長は今起きた出来事に驚いていた。現し世に魂を呼び戻したはずが、自らの意志でイースお母さんは消えたのだから。
「バカな……やはりまだ死者召還は未完成だったのか?」
だろうね。あんたはそうとしか考えられないだろうね。
実際完璧なものではないのは事実。でもね、天国に帰ったのはイースお母さんの意志だ。
……イースお母さんは、僕のために、エヌエット母様を奪わないように……去ってくれたんだ。
母の愛を……僕は感じた。
誰も愛していないような、自分の事しか考えてない理事長、あんたには一生わからないことだ。
動揺していた理事長は、母様から手を離していた。母様は一目散に僕の元に駆け寄り……
――え?
母様は僕を抱きしめてきた……!?
な、なんで?
「ごめんねエクスごめんね……イースさんと変わってあげられなくて」
「……」
「ごめんねこんなワタシを母として愛してくれて」
「……」
「二度とあんな事は言わない。エクスは大事なワタシの子供だから……愛してる。愛してる……」
「母……様」
情けない、情けないかもしれないけど……僕は……
泣きそうに……なっていた。
まだ何も解決してないのに、まだ何も終わってないのに……僕は……
涙を流していた……
「うっうっ……ズズ……エクズうう良かったですわねえ……」
少し離れたところで涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってるユーノさんが見えた……
「下らんねえ。家族愛? そんな一銭にもならない感情を持つからこうしてワシに逆らえなくなるんだ」
理事長は僕たちを見下すように嘲笑う。
涙を拭いて、母様に優しく離れてもらってから、僕は理事長をにらみつける。
「……あんたにも息子がいるじゃないか」
僕は理事長の後ろに隠れるように立っているオーリを指す。
「これがなにか? まさか愛があるとでも思ってたのかい?」
違うというのか?
確かに期待してないだとかは言っていた。でも、オーリの悪事を揉み消したりしていたんだろ?
そこに愛があったからなんじゃ……
「一応言っておくよ。こいつは優秀だっから大目に見てあげたんだ。だから学園で悪事を働こうが罰を与えず好きにさせた。無能だったら庇うものか」
「え……?」
オーリは信じられないと言いたげに理事長を見ていた。
確かにオーリは学園上位の成績だったかもしれないが……
優秀だったから?
それはどこか、リコード家での僕とかぶる……
僕だって優秀じゃなければ、家での扱いは悪くなっていたはずだから……
「でも見込み違いだったよ。ワイズや君とは違って大した才能はなかった。もうそこのキマイラの餌にしたっていいくらいこいつにはあきれてしまったよ」
「え、え? 親父?」
「子供なんて、また作るかどこかで拾ってくればいい。もちろん使える奴をね」
そんな非道な発言を聞いたオーリは、膝から崩れ落ち、涙を流していた。
オーリは確かに悪い奴だ。でも今の様子を見ると、父である理事長への愛情はあったと見える……
そしていろいろと揉み消してもらっていたことで、愛されてると疑わなかったことだろう……
なのに、それは偽り……
僕を見ているように……哀れに感じる……
腸が煮えくり返る……
僕は理事長に剣を向ける……
「理事長、あんたをぶちのめす」
「戯れ言を。兄も人質ってことを忘れてるのか? ついでにワイズの秘書もな」
「……ワイズを倒したら解放するって話は?」
「バカめ。そんな約束守ると思うか?」
憎たらしい笑みを浮かべる理事長。
「選ばせてやる。お前は一生ワシに従うか、それともここで死ぬかをな……兄さん、殺されたくないよなあ?」
「そんなことだろうと思ったよ」
「わかっててワイズを殺したなら、マヌケだねえ君。情なんて下らんものもつからだ。気持ち悪いマザコンめ」
ふっ。
マヌケはあんたの方なんだけどね。
「その人質、よく見てみなよ」
僕がそう告げると、視線を少し動かす。僕を完全に視界から外さないようにゆっくりと。
なるほどね。僕から視線をそらすのも危険とわかってるわけだ。
今の僕はシールちゃんの身体能力をもってるからね。その速度をもってすれば、一瞬で詰め寄る事も可能だ。
――だが、そのために視線をそらさせるわけではない。
本当に人質を見た方がいいから教えてやったまで。
「な、なんだこれは!?」
人質となっていた兄さんと、アイリスさんは、水の塊のようなものに包まれていた。ちなみに水の中とはいえ息はできているようだ。
「み、水……まさか……」
『ご名答』
僕の背後に致死量の血液を流していたワイズが、何事もなかったように立ち上がる。
僕が切りかかる時、ワイズは言った。
『死んだふりをして人質を助ける。構わず切るんだ』
そう言われて僕は切った。するとワイズは水を放出した。赤い水を。
ようは血のりに過ぎなかったわけさ。
理事長はそうしてワイズから視線を背けた。死んだとおもいこんだからね。
その隙にワイズは慎重に水の魔法で人質を包み込んだ。これにより、理事長は下手に手出しができなくなった。
「ば、バカな。なんで生きて……」
「普通に考えて、ナンバーワンがあれくらいで死ぬわけない。この場の誰もがわかってたことだよ」
僕がそう言うと、ユーノさん、アイリスさんなどが頷く。
シールちゃんの絶叫は……
「ね! 名演技だった?」
そう、ただの演技だ。
「さて理事長、形勢逆転ですね」




