52話 実の母、イース
「いやああああ!」
シールちゃんの絶叫。その後彼女は崩れ落ちる。
……ワイズからは致死量と思えるほどの大量出血……
彼はピクリとも動かない。
「ふ、ふはははははははは!! よくやった! よくやったぞエクス! あのゴミ虫野郎無様にくたばりおったわ! これでワシが次期魔王だああ!」
バカ笑いする理事長。すると奴は……
「エクス、礼をやろう」
そう言った瞬間、天井に穴が空く。そこから巨大な化け物が降ってきた。
化け物が僕たちの前に落下すると、その衝撃で吹き飛びそうになる。
化け物は羽の生えた生物……世に言うキマイラのような姿をしている。
「こいつはワイズ対策で研究し、作られた怪物でなあ、地属性魔力に満ち溢れておる」
ワイズの水に強い地属性か……
――で、それがなんなんだ。なぜ礼になる。
「こいつにはな……意思が宿っている。死んだ魔族の意思がな」
「死んだ魔族の意思?」
キマイラは唸りながら……僕を見ると……
「エ、エクス……」
「……?」
なぜ僕の名前を……?
「このキマイラにはなあお前の実の母、イースの魂が宿っているのだ」
……は?
「言ったではないか。実の母に会わせてやるとな」
※38話参照。
化け物の中に実の母を!?
それで会わせたと!?
何を考えてるんだこの男は!
「もちろん完全ではない。だが、こうして現し世に死者を召還することができたのはすごいと思わないかい?」
「ちゃんと意志があるようには見えない……」
「そうだね。まだそこまでの完成度はない。だがこうして呼び出せればこちらのもの」
理事長はエヌエット母様を掴む。
「汚い手で母様に触るな!」
「まあ落ち着きたまえ。このアバズレの体に、イースの魂を入れてやろうというのだ」
「――は?」
母様の中に、実の母を?
「さすがに化け物の姿で愛されたくはないだろう? だからマザコンで気持ち悪いお前の大好きな美しいこのアバズレ女の体に、愛してくれるイースの魂を入れてやればあら不思議。美しく、お前を愛してくれる母が完成する」
「何をふざけた事を……」
「ふざけた事? そうかね? アバズレはお前を愛してはくれないよ? 愛してくれるイースに変わった方がいいじゃないか」
……こいつ……
「エクス……あなたが望むなら、それでもいいわ」
母様!?
「ワタシは……あなたに酷い事をした。傷つけてしまった。一番に愛してあげられなかった……そんな最低な母親の心……イースさんと入れ換えられても仕方ないと思えるから」
「な、何を……」
「ごめんねエクス。でもね、でもね、……あなたを愛してないわけじゃないの。言い訳にしか聞こえないかもしれないけど……あなたはワタシの大事な息子。そこに間違いはないの」
……
……僕は、そんな言葉を信じられずにいる。
母様を疑いたくはない。でも、死にたくないからそう嘘をついてるように……感じてしまう……
「エクス、愛してるわ。幸せにね。……理事長、ワタシとイースさんの魂、入れ換えて」
すると理事長は腹を抱えて笑いだす。
「ふはは! この平民のアバズレ、自ら命を投げ出すつもりか? バカにもほどがあるわ! 言っておくが、キマイラの方に魂が行くわけではないぞ! あちらの魂が来たとたん、お前という存在は消え失せるのだ!」
「……かまわないわ。エクスのためにならこの命、惜しくない」
「良く言った! キマイラ! こちらに来い!」
キマイラは命令通り、理事長の元に向かう……
僕は即座に理事長達の前に立ち、キマイラの進行方向を塞ぐ。
「エクス……いいのよもう」
「よくないよ」
僕はキマイラに視線を向ける。
「イースお母さん。僕をこの世に生んでくださり、ありがとうございます」
僕はキマイラとしてではなく、実の母、イースさんとして接した。
「僕を愛し、そのためにリコード家とも争ってくれた……とても嬉しいです」
「エ、エクズ……」
僕の名前しか呼べないのかもしれない。死者だから仕方ないのかもしれないよね……
「あなたも、僕のお母さんです。そこに間違いはないです。……だけど、」
僕はエヌエット母様を見て、視線をイースお母さんに戻す。
「エヌエット母様も、僕の母様なんです。とても大事な……母様なんです」
「エクス……」
「お願いします。僕の母様を……奪わないでください」
僕は深々と頭を下げた。
――すると、イースお母さんはしゃがみこみ、手を僕に伸ばす。
「え、エクス……幸せ……に」
そう言うと、イースお母さんは目を閉じた……
するとキマイラの中からイースお母さんの魂が消えていく……そんな気配を僕は……感じた。




