51話 こんな形で戦いたくなかった
ワイズ……来てしまったのか……
彼はアイリスさんを人質に呼ばれたのか?
「来たなワイズ。このゴミ虫野郎」
急に口調が荒くなる理事長。
「いやあ待ちに待ったよ。お前が無様にくたばる姿……夢にまで見た最高の瞬間を見れる!」
狂喜とも思える笑みを浮かべている……はっきり言って気持ち悪いの一言だ。
「そんな戯れ言はいいですので、わたしの秘書を返してもらえないかな」
秘書? アイリスさんの事か。
「相も変わらず忌々しい……エクス! ワイズを殺せ! でないとこの二人の命はない!」
――理事長は母様を平手打ちにした! 母様は弱々しくその場に倒れた。
「母様! 理事長貴様!」
母様を、母様を叩いた……ゆるせない! 僕の大事な母様に!
「黙れ永遠の二番手風情が! 早くワイズを殺せ! これは命令だ!」
「ぐっ……」
「そしてワイズ……手を出してみろ。このエクスの家族二人と、アイリス嬢の命もない。まさか魔王になろうなんて者が、三人を見捨てたりしないよなあ?」
憎たらしく笑いながら理事長はワイズに視線を向ける。
ワイズはため息をつく。
「小物……まさに小物そのものですねゼットさん。そんなあなたに魔王の資格などない。似合うのは牢屋の中ですかね」
「クソガキがあ! 死ね死ね死ね! お前のようなゴミに、魔王の座などもったいないんだよ! 力しかない能無しが!」
「あいにく、あなたにはその力もないわけですが」
たまらず理事長は魔導弾、魔力の弾丸をワイズに放つも、彼は軽く水魔法で防いでみせる。
やはり……強い。普通に戦えば理事長程度では歯が立たない事だろう。
「何抵抗してやがるクソ虫がああ! 人質が! 見えてないのか!」
理事長はアイリスさんにナイフを突きつける。
「ワイズ様! ワタシの事なんていいので!」
「黙れ! そこは助けを乞うところだろうが!」
まずいな……あんなに頭に血が上ってしまっては、何があってもおかしくない……
「エクス! 何してる! ワイズを殺せ! この二人殺してやろうか!」
理事長は倒れてる母様を踏みつけた!
こいつ!
……ぐぐ……耐えるしかないのか……
母様……
僕はワイズを視線を向ける。
「ワイズくん。……すまない」
僕は謝罪する。
……こんな形で君と戦いたくなんて……なかった。
「気にする事はない。人質がいるんだ。家族なんだろう? なら、大事にしないとね」
ワイズは……笑っている。
僕は……武器を生成する。
いつもなら、ワイズの水魔法が射出され、武器は砕かれる。……でも彼は今回ばかりは動かない。
抵抗できないから……
「エクスさん! やめてよ! お兄ちゃんに攻撃しないで!」
シールちゃんの訴え……ごめん。僕もしたくはないんだ……
今シールちゃんの身体能力は僕にある。ゆえに彼女は割って入る力も今はない。
普段なら性格上割って入ってきてるところだろうけど……
ユーノさんも疲弊してる事で動けない。彼女もまた、心配そうにこちらを見つめている。
ごめん。ごめんなさい。
こんな、誰からも愛されないどうでもいい奴が、みんなから好かれる魔王筆頭のワイズを手にかけないといけないなんて……
許されることじゃないのに……
「早く殺れエクス・リコード! このアバズレ女を殺すぞ!」
「あ、あああ!」
踏みつける力を増し、母様は苦痛に悶える……
やるしか……ないのか!?
いや、むしろ僕が自殺でもすれば……
――ワイズは、自らの首を指す。気にせずこい。そう言ってるように見えた。
ワイズは最強だ。
全力で攻撃しても、大丈夫なのかも……しれない。
僕は頷き……目にも映らぬ最高速度でワイズに向かい……切りかかる。
「お兄ちゃん!」
シールちゃんの叫びもむなしく僕の剣はワイズに届く……
「……」
ワイズはその瞬間、僕に……ある言葉を告げた。
――その後、血しぶきが舞い……
ワイズは……僕の目の前で……
倒れた。




