50話 人質との再会
「しかしだらしないねえ。ジェイスもエイチもエフンも。オーリよりは使えると思ってたのに」
そう言う理事長の後ろにオーリの姿も見えた。いつもの高圧的で生意気な表情はどこへやら、すごく罰が悪そうに顔を下に向けていた。
「もういいよ役立たず共」
理事長が指をパチンと鳴らす。
――瞬間!
「ぐっ!? あがあああああ!」
ジェイスが苦しみだす!
いや、ジェイスだけではない。気絶してたエイチとエフンも目を覚まし、苦しみだす。
これは一体……
「ジェイス……まさかこのワシが、なんの副作用もなく足を治してやったと思ったかい? 仮に出来ても、そんなことしてやるわけがなろう?」
やはり何か仕掛けていたのか!
「ワシがお前に施したのは、傀儡傀儡魔法。ワシの意思で、ワシの思うように対象を動かす魔法だよ」
――なんだと? それじゃあ……
「お前は何も疑わずに、長いワシの儀式魔法にかかった。ゆえにあらゆる全てをワシに操られることとなった。――つまり、足は治ったのではなく、ワシが魔法で操って動かしただけだ」
ジェイスの足は治ってない……そんな状態だからこそ、あまりにも急激な動きも出来たわけか……無理やり動かされていただけだから。
でもそうなると、体の負担も相当なもののはず……
理事長がそんなこと気にするはずもないが……
「他の二匹も同じだ。更なる力を求め、ワシの儀式にかかった。結果、ワシに全て操られることとなると知らずにな」
「三人に……何をした」
僕は問う。すると理事長は自分の髭をさわりながら笑う。
「別に? 全身の痛覚を刺激しろと命令しただけさ。ジェイスに至っては動けない足を無理やり使ったからね……その痛みは尋常ではないはず。今までは麻痺させてたからね。ほっとくと死ぬかも」
「貴様!」
「おっと!」
僕が理事長に向かおうとすると、背後から二人の人物が部下と思われる者達に連れてこられていた。
一人は美しい女性、一人はベッド事運ばれて来てそこに横たわる男性……
僕の母、エヌエットと、兄、アールスだった……
「母様……兄さん……」
「え、エクス……」
震える母様と眠っている兄さん……
理事長……!
「ほらほら。大事な家族が人質なんだよ? 逆らっちゃダメダメ」
憎たらしく煽る理事長……今すぐにでも殴りに行きたい……
「実はね、ここにワイズを呼んでるんだ。時期に来るはず」
「……何が言いたい」
「バカだねえ。君と殺しあいしてもらうために決まってるだろう?」
呆れるような顔をする理事長。心底腹が立つ。
「拒否権はないよ。二人の命がかかってるんだからね」
そう言うと、部下が母様と兄さんの首元にナイフをちらつかせる。
「ワイズを殺す事に成功すれば、二人は解放して、兄さんの病気を治してあげるよ。クフフ」
信用ならない……病気を治せるかもわからないし、出来たとしても、この男が二人を簡単に解放するだろうか?
僕を操る武器として、二人をずっと人質として手元に置いておくつもりとしか思えない。
父やリコードの家の者は二人をないがしろにしてるから、助けなんて期待できない。
永遠に僕を下につけるために利用してくるとしか思えない……
でも二人を見捨てるなんてできるか?
できるわけがない。
僕にとって……母様と兄さんは唯一の、大事な家族なんだ……
例え僕の事を愛してくれていなくても……
「え、エクス……」
母様?
「わ、私達の事はいいから……ね? 自分の事、大事にして」
「母様、何を……」
「私は……あなたに守ってもらえるような魔族じゃない……あなたをないがしろにしてきた……アールス可愛さに、あんな酷い事も言ったし……」
「……」
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『あんたがこうなればよかったのに!』
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兄さんの病気に僕がかかればよかった。
……僕はあれには子供ながら深く傷ついた。でも、やはり母様はずっと気にしてくれていたんだ。
それだけで……僕は嬉しい。
愛してない、他人の子供の僕の事を、そんなに気にしてくれてたなんて……
僕は知ってる。それでも母様は優しかった。だから僕は懐いてたんだ。
いつも笑顔で僕に優しく接してくれた。頭を撫でてくれた。本を読み聞かせてくれた。
愛されてると、思わせてくれた。
それだけで……いい。
「母様、安心してください。僕が助ける」
『ならあなたは! ワイズ様を殺すのか!』
大声で僕に叫ぶ女性の声。母様達の後ろにもう一人、捕まってる女性……?
確か、ワイズの隣によくいる女性……アイリスだったか?
※8話に少し出た取り巻きのメガネの子である。
「理事長なんかの言うことを聞いて、ワイズ様を殺すなんてことしたら……許さない!」
アイリスは怒りの表情を僕にぶつける。
……そうだよね。シールちゃんに限らず、ワイズは人気者。僕が死んでも悲しむ人はいないかもしれないけど、ワイズは違う。
これだけ愛してくれる人がいるワイズ……うらやましいな。
――すると、シールちゃんとユーノさんが壊したドアの一部に軽くノックする音が……
振り替えるとそこには、ナンバーワンの……ワイズが来ていた。
「こんにちはゼットさん。わたしに何か御用があるようで」
理事長は……目を見開き、笑った。




