45話 ワイズの努力
『大きく出たなあワイズ!』
魔王になると宣言したワイズの前に、婿、もとい父と当主の祖父が現れた。
父は言う。
『現魔王陛下は病に苦しんでるという。いずれ次期魔王を決める選定が行われる可能性はある』
『……』
『だがな、魔王になりたい者などいくらでもいる。現幹部たるゼット殿を筆頭にな』
『あの嫌な雰囲気の人か……』
ワイズはこの時点でゼット理事長を信用していなかったらしい。
幼いながら看破する力は優れてたんだろうね。
『お前は確かに優秀だ。でも魔王はトップでなくてはならない。ただ優秀ではなれないんだよ』
『なら、なりますよ。シールのために、家族のために』
そう言うワイズに灰皿を投げつける父。だが、ワイズは泡のようなものを飛ばし、灰皿が自らに当たることを防ぐ。
『自分のためや他の理由ならいざ知らず、そんな人間のためにだと!? 汚らわしいゴミのためだと?』
『ゴミじゃない。シールです。わたしの大事な妹です』
『貴様……』
『まあ待たんか』
当主の祖父が間に入る。
『ワシも人間は好かん。その上娘も亡くなった事から、そこの人間を疎ましく思っとる』
『そこの人間じゃないです。あなたの孫ですよ』
当主にすら意見するワイズ。彼自身幼いながら、父と祖父によほど思うところがあったのだろう。
祖父は話を続ける。
『だがなワイズ。お前がデュラミス家始まって以来の魔王になるというのなら……ワシとしては言うことはない』
『お義父様!?』
『茨の道だろうが進んでみろ。どうなるか……楽しませてもらうぞ』
他の子供達を見る当主。
『と、言うことらしい。ワイズが魔王になりさえすれば、お前達も人間を家族として認めてやりなさい』
ざわつく他の兄妹や親戚の子供一同。バカにするものはいなかった。
子ども達の中でも、ワイズは天才と有名だったし、ワイズ自身は尊敬する兄だった。
家の教育に、親や当主に言い聞かせられてきた。人間は汚らわしい存在だと。
それなのにシールを甘やかすワイズ。彼ら彼女らは嫉妬心もあったのだ。大好きな兄がシールにべったりだったから。
そんな大好きな尊敬する兄がそこまでの覚悟を持つのなら……魔王になるというのなら……子ども達もまた、何も言えなくなった。
それを見て、改めてワイズは魔王になると決心したという。
♢
その後、婿殿ことワイズの父は後妻を娶る。さらに子どもも生まれ、シールちゃんにとっては血の繋がらない両親と、弟と妹ができた。
当然ながら後妻、さらに弟と妹すらシールちゃんを冷遇した。
結局味方はワイズだけだった。
でも当のシールちゃんは少しずつ明るくなってきていた。長兄かつ慕われてるワイズが味方なため、執拗ないじめなどはされなかったからだ。
――そして、
『よーっし! いっけえ!』
亡くなった母、ティーチィさんがよく見せてくれていたヒーロー番組を、かぶりつくように見て、はまりだしたのもこの頃からだったらしい。
自分を助けてくれたワイズとヒーローが重なり、ヒーローにシールちゃんは憧れを持つようになったのだ。
大好きな母が残してくれた物だということもあり、シールちゃんにとってヒーローは自分を救ってくれたものでもあったんだ。
だからこそ、シールちゃんはヒーローになりたいと思うようになっていた。
この日シールちゃんは部屋に引きこもり、ヒーロー番組を見ていた。隣にはワイズも一緒。
『ね、お兄ちゃん! すごかったね! 今のシーン!』
『そうだね。特にみんなを助けたところとか……』
『あれ? お兄ちゃん番組見ながら何か描いてた?』
ワイズの手に筆が握られていた事に気づく。
『あ、ちょ、ちょっとした趣味をね……』
ワイズは後ろに何かを隠していた。シールちゃんはそれを取り上げると……
そこにはヒーロー番組を見て楽しむシールちゃんが描かれていたらしい。
『わ、わ! あたしだぁ!』
『ごめんね勝手に描いて……』
『そんなことないよぉ! とっても上手! 絵を描くの好きなの?』
『ん、ま、まあね……』
ワイズは争い事よりも、絵を描くのが好きだったらしい。
次期当主と言われてるが、本人は画家なり絵に関する仕事につきたいと思っていたんだとか。
ワイズは魔王になりたいわけではないと、シールちゃんは察した。
じゃあ何故魔王になろうとしてる? 自分のせいじゃないかと、シールちゃんは思ったという。
ワイズにはずっと穏やかに絵を描いていてほしい。誰よりも愛する兄の幸せをシールちゃんは願った。
ヒーロー番組を再び見る。ヒーローならこんなときどうするか。
そこでシールちゃんは決心した。
自分が魔王になれば、自分が強くなれば、ワイズの負担はなくなる。魔王にならなくてもいい。
……だからシールちゃんは……夢幻学園に入学したのだという。




