43話 ワイズとシール
さて、当主をぶん殴った事だし、することはすんだ。
母様と兄さんがさらわれたのはわかったわけだし……あとは……
そういえばユーノさんは? 姿が見えないが……
「ありがとうございます!」
ん? メイドさんの声……
声のした方へ向かうと、ユーノさんがメイドや執事達に何か渡していた。
……賄賂?
「オーッホッホッ! よろしくてよ! その代わりこのわたくし、ユーノの事をよろしくお願いしたくてよ! とにかくわたくしの事を褒め称えてエクスの……」
「なにしてるんですユーノさん」
「おひゃあ!!」
奇声をあげて飛び上がるユーノさん。勢いあまって屋敷の天井を頭で貫いた。
あー穴空いちゃった。
貫いた頭を引っこ抜き、ゆっくり降りてきたユーノさんは、すんとした態度をする。
「お、驚かせないでくださいまし」
「……いや、何をしてたのかと」
「な、なんでもあ」
「わたしたちメイドや執事一同に菓子折りをくださいまして!」
メイド長が代わりに答えてくれた。
「なんでも、お坊っちゃまとの仲をとりもっ」
「あーあーあーあーあー!」
……なんですユーノさん。大声だすから聞こえないじゃないですか。
「そして旦那様や先代様方がお気に召すものを教え」
「あーあーあーあーあー!」
……だから聞こえませんって。
「よ、用はすんだんでありましょう!? な、なら早く行きましょう! さあ!」
僕はユーノさんに腕を引っ張られ、連れてかれる。
シールちゃんは軽くみんなにお辞儀してから、僕らを追っていく。
♢
とりあえず、理事長の元に向かう事にした。母様と兄さんを誘拐した。それはつまり、僕を無理やり言うこと聞かせるために他ならないだろう。
今の出来事をユーノさんに伝えたら、「わたくしもお義父様とはいえ、殴ってやりたいところでしたわ!」と、一緒に怒ってくれた。
ユーノさんとは気が合うね。
理事長の元に向かい、もし奴の計画に協力させられそうになれば……シールちゃんに伝えないわけにはいかないか。
僕は移動の道中、シールちゃんに……伝える。
理事長の目的……ワイズの殺害、そしてそれを僕に手伝うように要求してることを……
シールちゃんは血相変えて僕に問う。
「もちろん断るんだよね!?」
シールちゃんにとって大事な兄……不安で仕方ないよね。
「断る……断りたいけど、僕の家族が人質にとられてる……」
「……まさか」
「待って、だからって理事長の思いどおりにはさせたくない」
あの人の言うことなんて聞きたくないからね。
だから……
「母様と兄さんが捕らえられてる所を突き止めたら、ユーノさんとシールちゃんに救出してほしい。そうすれば、僕は奴に従う理由はなくなる」
兄さんの病気の件は……後日考えるしかない。理事長から治療法吐かせるなり、何か方法はあるはずだ。
「……なんであのおっさん、お兄ちゃんを殺そうなんて考えるの?」
シールちゃんはらしくなく、暗く、落ち込むような表情を見せる。
「……自分が魔王になりたいからだろうね」
「そんなことくらいで?」
シールちゃんは信じられないと言いたげに目を見開く。
「魔王というのは、それだけの価値がありますからね~。だからって殺しが許されるわけではありませんが」
ユーノさんが補足してくれた。
「価値があるだとかあ! 関係ない! あんな優しくて、非の打ち所のないお兄ちゃんを殺そうなんて考えるなんて頭おかしい! ぼこぼこにしてやるぅ!」
地団駄踏むように、シールちゃんはお怒りモード。
この子ブラコンだからな。身内ってだけじゃなく、それだけ好きな人が殺されるなんて、頭くるのも当然だ。
僕にとっての母様と兄さんみたいなものなんだろうし……
「せっかくだからさあ。道中であたしとお兄ちゃんの事話していい? 前にエクスさんの事聞いてるから」
シールちゃんとワイズの?
どれだけ仲良しなのかってことかな?
まあ興味はあるね。
「話してくれるなら……聞かせてくれる?」
「うん」
そうして、シールちゃんは過去の出来事を語り始める……




