37話 頼み事
「頼み? シールちゃんへのいじめの指示なんかしてた人の言うことなんて聞きたくありませんね」
僕は少しにらむように告げた。
理事長にはかなり嫌悪感を感じるよ。ここまで僕に思わせる魔族なんて珍しいよ?
「まあまあそれくらい多目に見なさい。結局君という存在がシールくんを助けてしまったから、うまくいかなくなってしまったんだし」
それくらい? ふざけるな。
シールちゃんは深く気にした様子はないが、よってたかって弱い女の子をいじめる最低な行為に対してなんて言いぐさをするんだこの男……
「君がある意味ではボディーガードになっちゃったからね。その子を人質にするとかの使いようがなくなってしまった」
なるほど、ワイズにとって唯一の弱点にシールちゃんはなりそうだからね……
常日頃僕が共にいれば、そんなふざけた行動はできなくなったわけだ。
「いろいろ実験について嗅ぎ回り、シールくんも抱き抱える君の存在は厄介だ。ならばこそ、君を引き入れれば万事解決と思ってね」
「……は?」
「単刀直入に言うよ。エクスくん、わたしと組まないかね」
まあ、そんなところだろうとは思ってたよ。とんだ戯れ言だ。
「君は二番なのが嫌なんだろ? ワイズが死ねば、自動的に君はトップになれるよ? 悪くないと思わないかい?」
「戯れ言を……そんなことで一番になりたくはないし、それに僕がここで一番になりたいのは魔王になりたいから。あなたが魔王になるというのなら、一番になったところで何の意味もない」
下らないことで時間をとられたね。シールちゃんを起こしてさっさと部屋を出……
「お兄さん、病気なんだってねえ……」
その一言で僕の動きは止まる。
「なにやら原因不明の病気なんだとか、医者もお手上げなんだってね?」
「……それがなにか?」
「何でそんな病気になったんだろうねえ……君と違い、健康優良児だとか聞いてるのに」
確かに病弱の僕と違い、兄は今まで病気一つかかったことのない人だ。今の病にかかるまでは……
「確か元気だった頃の学生時代、ある人体実験してた研究家を摘発した依頼を受けたんだったかな? その時……変な病原菌なりウイルスでもかかったのかもね……」
人体実験?
この前の研究家みたいな?
――この前の!?
「まさか!」
「お兄さんの病気の原因、わたしの仕業でね……」
「貴様!」
僕は殴りかかろうとするも、寸前で止める。
「賢いね! そう、わたしには逆らわないほうがいいよ? お兄さんの病気治せる可能性……わたしにはあるかもしれないからね」
こいつ! こいつ!
兄さんがどれだけ苦しんだと思ってる! 母さんも……
許せない! 僕の大事な家族をこいつがめちゃくちゃにしたというのなら!
「リコードの跡取りと聞いたから弱みを握れるかもと思ったんだが、本当の跡取りは君だったと聞きしくじったと思ったよ。でもこうして利用価値できてよかった。アールスくん様々だ」
「お前……兄さんの病気を利用して、リコード家を脅すつもりだったのか……」
「まあね。でも跡取りじゃない上に当主のジース、彼の子供じゃないってことで、脅しにならなかったんだよ。金すらせびれなかった。あ、もちろん部下がやったことだからわたしの素性はばれてないよ?」
兄さんは周りに慕われてはいたが、祖父母や父からは冷遇されていた。リコードの血を引いてないから。
そんな子供の病気のために、何か行動するつもりもなかったというわけだろう。
相変わらず……リコード家そのものは大嫌いだ。
特にジース……父親の癖に……
「わたしに協力なさいエクスくん。そうすれば、お兄さんを助けてあげてもいいよ?」
信用なんてできない!
兄さんの病気を治せる保証だってないんだ!
でも、でも……日に日に弱ってく兄さんを……見捨てるなんてこと……
「それにリコード家、憎くないかい? 両親に愛されてないんだろ? 母親には拒絶されたとも聞く」
どこから仕入れたその情報……
「兄さんを助けるだけでなく、協力してくれれば、君を唯一愛してくれる方と会わせてもいいよ?」
「唯一愛してくれる方……?」
「誰かわからないかい? いるじゃないか……」
ゼットはほくそ笑みながら……言う。
「君の本当のお母さん」




