36話 目的
「なぜワイズの命を……って、理由なんて一つしかないですよね」
ワイズの命を狙う理由……どう考えても、彼が今一番魔王の座に近いからに決まってる。
理事長は魔王の配下、それも大幹部。本来なら次期魔王候補の筆頭となる人だ。
そうなると、ワイズが邪魔で仕方ないはず……
「この学園、元々は魔王につかえる者を育成するためのものだった。それは知ってるかい?」
僕は質問に頷く。
魔王健在時からあった学園だ。最初から魔王養成学園でないことは知っている。
能力の高い魔族を育成し、国のための戦士を作り上げるのが本来の夢幻学園。魔王が決まれば元の学園に戻るんだろうね。
「わたしはその昔の学園の時に、先代魔王の指示で任されてね……そこから何十年か理事長の座についた」
「……」
「先代が亡くなれば、ここが魔王養成校に変わるのも知ってた。とはいえ子供にも魔王のチャンスを与えるだけで、魔王候補に選ばれる者なんて現れるわけがないと思ってたんだよ」
……魔王の幹部だった人から言わせれば、それはそうか。
長年他国との戦争、成り上がるために研鑽した実力……その月日。それが、なんの経験もない子供に負けるはずないと思うだろうからね……
「先代がやっとくたばった時、ついにわたしの時代がくると、胸が踊ったよ。他の幹部共を出し抜ければ、わたしこそが次期魔王になれると思ったからね」
くたばったって……言い方悪いな。先代が亡くなって喜んでるとか、死者に対して失礼な人だ。
この様子では、忠誠心なんてなかったんだろうね。
「……ワイズくんと会ったのは先代が健在の時……彼が五歳だかだったかな? デュラミス家に用事で伺ったんだよ」
幼い時にか……
「他の兄妹達と遊んでいるものの、子供にしてはやけに達観とした態度……虫酸が走ったねえ」
五歳の子供にそんな感情向けるとか何を考えてるんだこの人……
「そして、五歳にしては恐るべき魔力を感じた……あの時は末恐ろしいガキとは思ったけど、成長したら伸び悩む子供も多いからね。そんな子供と同レベルと判断した」
理事長は軽く頭を抱え笑う。
「いやあ~あの時デュラミス家の連中に気づかれぬように……殺しとくべきだったと後悔したよ」
……なんて事を口に出すんだこの人……イカれてる。
「先代が死に、学園が魔王養成校に変わると……奴は入学してきた。全てにおいて一位の成績でね」
それは……よく知ってるよ。
学園始まって以来の成績だったらしいじゃないか。
……僕も一部の成績は今までの学園の記録を上回ってたんだけどね。でも上にワイズがいたから何も目立たなかったけど。
「それだけなら別に構わんさ。問題なのは……奴はわたしよりも強かったことだ!」
テーブルを強く叩き、置いてあった飲み物が倒れこぼれる。
隣に座ってるオーリがビクッとして驚く。らしくない態度に恐怖を感じてるようにも見える。
「教師や君をいとも簡単に倒したワイズに、わたしは嫌な予感がした。そして人気のない場所で手合わせを申し出た」
……過去の僕の敗北、見てたのか。
※28、29話参照。
「完敗したよ……わたしのプライドはズタズタだ! そこで思ったのだよ! こいつは次期魔王候補の筆頭になると!」
やはりそうか。僕は前々から思ってた。
ワイズは学園内最強ではなく、この国で最強の魔族だと。
大人だろうが関係ない。国どころかこの魔界全域の中でも、ワイズに勝てるものなどいるのか疑問に思うからね……
「魔王の座……ぽっと出のガキに奪われてなるものか! だからこそ、奴の水属性に対抗する研究を始めさせたのだよ……」
「そんなことのために人体実験を? 魔族をなんだと思ってるんですか……」
「わたしが魔王になるためだよ? 必要な犠牲ではないか」
なんて奴……こんな自己中心的な奴に魔王の資格なんてない……
「え、親父……おれに魔王になってほしいんじゃないの?」
オーリはこの状況でずれた発言をした。
となると、彼は自分のために理事長が動いてたと判断してたわけか……
「オーリ、お前に魔王など任せたら国は終わるよ」
理事長は優しい笑顔で、息子を貶した……
「そもそも、お前にはワイズとその妹をどうにかするよう指示していたのに……しくじった時点で期待はしてないよ」
――!? シールちゃんをオーリがいじめていたのは、ただ人間だからではなく、理事長の指示でもあったのか!?
こいつ……
「では、話を戻すとして……エクスくん。君に折り入って頼みがあってね」




