30話 完膚なきまでの敗北
「まあ雨も酷くなってきたしなあ。よしお前ら、校内に入るぞ~」
教師の指示に従い、生徒達は続々と校舎に向かっていく。
「ワイズ様~」「素敵でした~」
ワイズの取り巻きが彼を囲いキャアキャア言っている。
ワイズは軽く礼を言ったあと、僕をチラリと見る。
「面白い能力だったよエクスくん。少なくとも、今まで戦った誰よりも強かった。また挑戦待ってる。これはお世辞なんかじゃない。本心だから」
そう告げた後、ワイズは取り巻きと共に去っていった。
同情でも、バカにされてても、本心でも……僕の敗北感はぬぐえない。
僕には自信があった。魔王になる自信が。
天才と言われ続けてきたから。
天才だから、ギリギリ家の者達にも最低限の愛をもらってたから。
だから、魔王になれると……思ってた。
みんなが期待してくれる力があると、間接的に教えてもらっていたから。
でも負けた。
わずかな差とかじゃない。絶対的差だ。
100%勝てない、次元の違う圧倒的な差。
実力ですら一番になれない僕は……誰にも愛されないんじゃないか?
僕は恐怖で震えていた。
一人雨の中……
いや、他にも一人残ってた人がいた。
「見事な負けっぷりでしたわね。エクス・リコード?」
この声に聞き覚えがあった。振り返らなくてもわかる。前回僕を救う言葉をくれたユーノさんだ。
とはいえこの時点では彼女と初対面。あの時は会話したわけではなかったから。
そうか、彼女も試合を見ていたのかと納得した。
「あなた、わたくしより成績上なのですわよ? それであんな様、許せませんわね」
「……」
「ちょっと、聞いてらっしゃるの?」
「……すいません」
僕はゆっくりと振り向く。
――するとユーノさんは……
「かわいい顔……」
かわいい? 男の僕を侮辱してるのか? そうこの時思った。
そしてこの時僕は恥ずかしい事に……
涙を流していた。
「え、な、泣いてらっしゃるの? え、い、言いすぎました!?」
「あ、いや……あ、雨でそう見える……だけですよ」
そう、僕はとぼけた。
すると、ユーノさんがこちらを見てボーッと見てる。
どことなく顔が赤いような……
熱でも出たか? この雨だし。
「泣き顔……かわいいですわね……い、いじめたい……」
「え?」
聞き間違いか? なんか変な事呟いてなかったか?
「ふ、フフフ! え、エクス・リコード! 今度はわたくしがあなたに試合を申し込みますわ!」
「え? ああ……あのやられっぷり見て、容易に倒せると思ったとか?」
「いえそうではなく、その、あの、ぐ、グフフ」
え、なに怖いんだけど。
笑いを我慢しようとしてるのかなんなのかわからないが……
恍惚として、ニヤニヤしてる……
え、お嬢様とは思えない、少し下品な笑顔見せてますが……
「ご、後日、よろしくて!?」
「……いいですよ」
僕は彼女の一言に救われたし、それくらいお安い御用だ。
それに、僕は完全に魔王になるのをあきらめたわけではない。
実戦で学べば実力を高める事もできるかもしれないしね。
あれだけやられた癖にまだ挑む余裕があるのかと、思われるかもしれない。
でも、僕の存在価値はそれしかない。
僕はワイズが魔王になるその日までは、魔王になるのを諦めるわけにはいかない。
兄のため、母のため、自分のために……




