2話 ナンバーワンの男
「エンツー、まだあきらめずに修行かよ」
僕をバカにしてる生徒Aがケラケラ笑いながら言ってきた。
僕は頷く。
「……だったら?」
「やめとけやめとけ。お前なんかじゃどうあがいて無理無理むーりー」
……ムカつく。だが大人げないため僕はあえて黙る。だからこそ冗長されるのだと思われるだろうが仕方ない。
嫌ならワイズに勝て。僕の頭はそれだけだ。
「「キャー!」」
女子生徒達の黄色い声援が聞こえる。当然僕に向けられたものではない。
向けられているのは……
「見ろよエンツー。ワイズの野郎だ」
言われなくてもわかってる。この学園でカルト的人気を誇る生徒など一人しかいない。
永遠のライバル、目の上のたんこぶ、嫉妬の対象……
ワイズ・デュラミスだ。
きらびやかで美しい長い青髪。
学園の女子を魅了する絶世の容姿。そして学園最強の肩書き。
モテないわけがない。そんな男だった。
「ツラだけならエンツーもそれなりなのにな!」
ニヤニヤとバカにするように笑う生徒A。
……まあ、顔立ちが良いと褒められたことはある。
水色の髪と赤い眼、背丈は少し小さめではあるが容姿端麗頭脳明晰と、言われたことはある。
学園内での美男子人気投票なんて企画でも上位だったしね……
順位?
フフ。二位だよ。
もちろん一位はワイズだ。票数の差はかなりあったけどね。
なにからなにまで敵わない……
唯一奴に付け入る隙があるとすれば、体格や身体能力は並みってところなんだけど……
僕はそれ以下だ。
生まれつき病弱でね。身体的能力は貧弱なんだ。
体力テストは……
下から二番目。
……上でも下でも二番なんだよ。
身長低めと言ったけど、背丈も学園で下から二番目だよ。
二番二番二番……
そりゃ永遠ナンバーツーなんて不名誉な名前つけられるはずさ……
♢
僕はワイズから逃げるようにその場を去った。
取り巻きの女子達が何かしら煽ってくるのは目に見えてるからね。
――さて、ご飯でも食べるかな。
たまには学食ランチでも……
――ガラガラガシャン!
なにやら皿が複数枚割れたような音が食堂に響きわたる。
――なんだ?
音のした方は視線を向けると、複数の魔族が一人の女の子を取り囲んでいた。
どうやら女の子のご飯を皿ごと床に叩き落としたようだな。
……もったいない事をするな。
「エンツー、あの囲まれてる女子知ってるか?」
生徒Aが聞いてきた。というかついてきてたのか君。
「いや、知らないけど」
「あいつ、人間らしいぜ」
「人間!?」
人間というと、この魔界とは別世界の住人のはず……
魔界に迷い込む人間がいると聞いたことはある。だがこの目で見たのは初めてだ……
「混血だかなんだか知らねえけど、脆弱な人間らしく、魔力はてんでねえって話だぜ。だから成績も最下位! ギャハハ!」
……人の成績を笑い者にするのは気に入らないな。
それプラス、人間という事実が笑われる理由の一つなのかもしれないがな。
我々魔族は基本、人間を見下し嫌っている。
差別の対象のようなものだ。
まあ、僕はそんな下らないことに興味などないが。
つまるところ、あの女の子は人間ということで差別、いじめに近い事をされてるわけか。
……そうなら見苦しい。割ってはいるか?
「薄汚ねえ人間風情が! この学園に来てんじゃねえよ!」
一人の生徒が女の子に叫んだ。
……案の定か。
「うっせ! わたしはここで正義の味方になるんだ! 邪魔すんな!」
おっと、女の子のほうも負けずに言い返したな。
青髪ツインテールで幼さの残るかわいらしい女の子だった。
……この女の子と出会ったことで、僕の運命は変わることになる……