26話 魔王になる理由
母はそう叫んだ後、すぐにはっとしていた。
言いすぎたと思ってくれたんだと思う。優しい人だから。
ずっと隠してくれてたんだ母は。
一番大事な兄と、愛してない僕への扱いを同じように見せて……
だから僕は同じくらい愛されてると勘違いしてた。
滑稽だよね。
母にすら愛されてない僕は、一体誰に愛されてるというのか……
幼いながら僕はそう悩んだ。
『病気になったのがオレでよかったよ』
兄さんは咳き込みながら僕に言った。母さんが僕に言った事を知ってたのかはわからないが、僕と二人の時にそう言ってくれた。
『お前はリコード家の大事な跡取り! オレとは大事さが違うんだからさ!』
僕はそう思えなかった。
むしろ僕の価値はそれしかないのではないか? そう思っていたから。
人となりを評価されてる兄と違い、跡取りとしての血、能力の高さ。僕の価値はそれだけ。
そう考えると怖くなった。
落ちぶれたとき、僕の周りには誰もいなくなるんじゃないかと。
母さんに至っては、本当は兄さんに跡を継いでもらいたかったんだろうと今なら思う。
大事な息子の立場を奪う僕は、母さんにとっては敵なんだ。だから僕の事が嫌いなんだ。愛せないんだと。
兄さんだって、嫉妬心あってもおかしくない。僕の存在が兄さんの全てを奪ったとも言えるし……
でも、僕は家督を譲るわけにはいかなかった。
だって僕の価値はそれしかないから。優秀な事しか価値はないから。
天才じゃない僕に、価値はないから。
♢
その後、僕はある話を耳にした。
魔王の座についたものには、ある絶大な魔法を会得することができると。
絶大な魔法。それだけでは抽象的でピンとこない。
ただその話を聞いた病状に伏してる兄さんは一言……
『それでオレの病治ったりしてな』
一生病に苦しみ、いつ死ぬかもわからない兄さんにとって、藁にもすがる希望になるかもしれない。僕はそう思った。
兄さんは冗談半分で言ったと思う。
でも、魔王の魔法……
それは常識の範疇を越えるもののはず……
どちらにせよ、魔王になって家を大きくし、兄さんの治療をもっと良いものにするつもりではあったんだ。
その魔法の事も含め、魔王の座を求める理由ができた。
そう。僕は兄さんのために魔王になることを決意したんだ。
それなら母さんも僕を息子として認めてくれるかもしれない。
みんなが僕を好きになってくれるかもしれない。
まあつまり、結局は自分のためなんだけどね。
失望するかい?
♢
それから数年後……
理由はどうあれ、僕は魔王になることを望んだ。
家の者達はこぞって応援した。お前ならできるだとか言ってね。
まあ、リコード家始まって以来の天才と言われてたからね。期待はされてた。
兄さんには特に励まされた。
『エクス! 頑張れよ……兄ちゃん、影ながら応援してるからな!』
そして母とはあれ以来気まずい関係となっていた。でも、夢幻学園入学の時には少し声をかけてもらった。
『え、エクス。身体には……気をつけてね』
僕は頷く事しかできなかった。
もう母をトラウマのように感じていたからかもしれない。
昔のようには……戻れなかった。
そして夢幻学園に僕は入学した。自信はあった。
入学前から僕は魔法の教育は受けており、家の誰よりも強かった。当主の父よりもだ。
だから入学試験もトップ通過間違いなし。そう、思ってた。
僕の魔力や魔法の制度を記録した試験官は僕に言いはなった。
『素晴らしいよ君! 新入生で二番目の好成績だ!』
……二番目の?
僕にはその言葉が信じられなかった。




