プロローグ ~猫カフェ「ルナ」の穏やかな一日~
新作はじめました!
小鳥たちのさえずりが心地よく響く、のどかな昼下がり。
深い森の奥深く、人通りの少ない場所にひっそりと佇む猫カフェ「ルナ」は、今日もまったりとした空気に包まれていました。
大きな窓からは、木漏れ日が差し込み、店内を暖かく照らしています。窓の外には、色とりどりの花が咲き乱れる小さな庭が広がり、まるで絵画のような美しさ。カウンター席に座る老紳士は、その庭を眺めながら、ブラックコーヒーをゆっくりと味わっています。かつてこの近くに住んでいたという老紳士は、大学教授を退官後、静かなこの森で隠居生活を送る常連さんの一人。猫カフェ「ルナ」には、開店当初から通っていて、オーナーのレオンや看板猫のルナともすっかり顔なじみです。
「ふむふむ…相変わらず世界は騒がしいなぁ…」
老紳士は、新聞に大きく載っている国際情勢の記事に顔を曇らせます。最近は、世界各地で争いが絶えず、不安なニュースばかりが目につくのです。
「まったく、人間ってやつは…どうしてこうも争いが好きなんだ…」
老紳士は、大きくため息をつき、視線を窓の外へと移しました。すると、庭でじゃれ合う猫たちの姿が目に入ります。日向ぼっこをする猫、追いかけっこをする猫、木陰でまどろむ猫…それぞれが自由気ままに過ごしています。その無邪気な姿を見ていると、老紳士の心は自然と安らいでいくのを感じます。
「やっぱり、猫はいいなぁ…心が洗われるようだ。」
老紳士は、そう呟きながら、目を細めました。
その時、カフェの入口のベルがチリンと鳴り響き、若いカップルが入店してきました。二人は、店内を見渡すと、目を輝かせます。
「わぁ、すごい! 猫がいっぱい!」
女性は、思わず声を上げました。
「可愛い~!」
男性も、目をキラキラさせながら、猫たちに駆け寄っていきます。
二人は、早速、猫たちと戯れ始めます。人懐っこい猫たちは、二人の周りに集まってきて、スリスリと体をこすりつけたり、じゃれついたりします。
「あ、この子、毛並みがすごく綺麗! 触り心地最高!」
女性は、うっとりとした表情で猫を撫でています。
「こっちの子は、ちょっと人見知りなのかな? でも、可愛い。」
男性は、そっと猫に手を伸ばし、優しく撫でました。
「ご注文はお決まりですか?」
明るい声が店内に響きます。猫カフェ「ルナ」でアルバイトをしているエリアです。16歳の彼女は、ポニーテールを揺らしながら、元気いっぱいの笑顔で二人に近づいてきました。
「えっと、私はブレンドコーヒーと、それから…猫型クッキーください!」
女性は、メニューを指さしながら注文しました。
「僕はアイスティーで。あ、猫ちゃんパンケーキもお願いします。」
男性も、笑顔で注文します。
「かしこまりました~」
エリアは、注文を復唱すると、軽快な足取りでカウンターに戻り、オーナーのレオンに伝えます。レオンは20歳の穏やかな青年で、エリアのことを妹のように思っています。
「レオンさん、ブレンドコーヒーとアイスティー、それに猫型クッキーと猫ちゃんパンケーキお願いします!」
「はいよ~」
レオンは優しい笑顔で返事をすると、慣れた手つきでコーヒーを淹れ、パンケーキを焼き始めます。レオンは料理が得意で、カフェのメニューは全て彼が考えているのです。特に、猫をモチーフにしたスイーツは、見た目も可愛らしく、お客さんにも大人気です。
ジュージューと美味しそうな音が響き、甘い香りが漂い始めます。
「レオンさん、今日のパンケーキ、すごくいい匂いがする!」
エリアは、カウンター越しにレオンに話しかけます。
「ああ、今日はちょっと特別な蜂蜜を使ってみたんだ。気に入ってくれるといいな。」
レオンは、そう言いながら、焼き上がったパンケーキに蜂蜜をたっぷりかけました。
「わぁ、美味しそう! 私も食べたくなっちゃった。」
エリアは、パンケーキをじっと見つめ、思わずよだれを飲み込みます。
「はは、後でこっそり作ってあげるよ。」
レオンは、エリアの頭をポンと軽く叩きました。
しばらくすると、甘くて美味しそうな香りが店内いっぱいに広がります。パンケーキが焼きあがったようです。レオンは、丁寧に盛り付けられたパンケーキとコーヒーをエリアに手渡します。
「はい、エリア、お願いね。」
「はーい!」
エリアは、トレーを両手でしっかりと持ちながら、カップルのテーブルへと向かいます。
「お待たせしました~」
エリアが笑顔で運んでくると、カップルは歓声を上げます。
「わぁ、可愛い! 写真撮ってもいいですか?」
「もちろんです!」
二人は、猫型クッキーと猫ちゃんパンケーキをあらゆる角度から写真に収め、SNSにアップします。それから、フォークを手に取り、早速口に運びます。
「ん~、美味しい! このクッキー、サクサクで最高!」
「ほんとだ! このパンケーキ、ふわふわでとろける~!」
カップルは、幸せそうにパンケーキを頬張り、至福の表情を浮かべています。
その様子を、カウンター席の老紳士が温かい目で見守っています。
「若いっていいなぁ…。」
老紳士は、遠い昔を思い出しながら、懐かしそうに呟きました。
窓際では、ルナが気持ちよさそうに日向ぼっこをしています。ルナは、ただの黒猫ではありません。人間の言葉を理解し、心を読むことができました。そして、時折、未来の断片を垣間見ることもできるのです。ルナは、この猫カフェの守護者であり、世界の均衡を保つという重要な役割を担っていました。
ルナは、カフェの中の様子を穏やかな目で見つめています。人々の笑顔、猫たちの穏やかな寝顔、美味しそうなスイーツの香り…全てが、ルナの心を和ませます。
(今日も、みんな幸せそうでよかった…)
ルナは、そう思いながら、目を閉じました。
その時、ルナの脳裏に、不吉な未来のビジョンが フラッシュ した。それは、世界を覆う暗闇、人々の悲鳴、そして破壊の光景だった。ルナは驚き、目を覚まします。心臓がドキリと高鳴り、額には冷たい汗が滲んでいました。
「これは…一体…?」
ルナは不安な気持ちを抱えながら、カフェの裏にある小さな扉へと向かいました。その扉は、ルナしか知らない秘密の部屋へと繋がっています。部屋の中央には、古びた石碑が置かれ、その周りには奇妙な文様が刻まれていました。ルナは石碑の前に座り、静かに目を閉じます。
すると、ルナの意識は深い闇の中へと沈み込んでいくようでした。そして、どこからともなく、優しい声が聞こえてきます。
「ルナ…ルナ…」
それは、ルナの師である白竜アルカディアの声でした。アルカディアは、古代の叡智を感じさせる巨大な白竜で、世界の歴史と秘密に関する膨大な知識を持っています。かつて、この猫カフェの場所に存在した古代文明の守護竜でもありました。
「アルカディア様…」
ルナは敬意を込めて呼びかけます。
「ルナよ、お前が見たビジョンは、まもなく訪れる世界の危機を予兆している。邪悪な力が、この世界を闇に染めようとしているのだ。」
アルカディアの言葉に、ルナは息を呑みます。
「邪悪な力…? どうすれば、それを阻止できるのでしょうか?」
「その鍵を握るのは、人間の少女だ。特別な力を持つ少女…エリア。」
ルナは、アルカディアの言葉にドキリとしました。エリアのことだ。だが、特別な力とは…?
「エリア…彼女はまだ子供です。どんな力を持っているというのですか…?」
ルナの言葉に、アルカディアは静かに答えます。
「エリアの力は、まだ眠っている。だが、それは計り知れない可能性を秘めているのだ。ルナよ、お前はエリアを導き、彼女がその力に気づくように手助けするのだ。」
ルナは、重大な使命を託されたことに身震いしました。しかし、同時に、世界の危機を回避するために、自分が何かをしなければならないという強い決意も湧き上がってきます。
「わかりました、アルカディア様。私はエリアを導き、この世界を守ってみせます。」
ルナは力強く宣言しました。
意識が現実に戻ると、ルナは秘密の部屋を出て、カフェへと戻りました。エリアは、いつものように笑顔で接客をしています。その笑顔を見て、ルナは胸が締め付けられるような思いがしました。
(エリア…私は、あなたに世界の運命を背負わせなければならないのでしょうか…?)
ルナは複雑な気持ちを抱えながら、エリアに近づいていきました。
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