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堕つる碧空

作者: 萩津茜

 縦横に広がる砂塵の広場にポツリ、黒々と陰影をつくっている。それは土色と分かち、深々とした陸上の湖となっている。ここだけではない。焼け付く顔で、石灰によって形成された安っぽいレーンの周を辿って往くと気付く、足下に在るものと同じ、楕円の湖水が等間隔で出来上がっていた。非常に無機質で、はかなくて、何より、冷涼の効能を生み出しているのだ。否、視覚だけではなかった。そこにそっと手を添えれば、凍てつく石の無感情さを実感するのである。無機質さの権化であり、鋭利に手へ刺さる。約一メートルないし五十センチメートルの地面の特異さの何ということか。

 また、これが夏の寂しさであろう。灼熱の陽は感覚器官を殺し、狂わせ、明日には秋が隣に居る。それで以て、初夏、夏惜しみ、時をかける少女のような奇跡を、どこか期待していた。

 校舎頂上を見上げても、キーマンみたいな人影が在るはずもなく、広場の群衆の声々の届かぬほどに静寂を保っている。ここじゃ何もハプニングは起こるわけがないのだ、自惚れるな。校舎の時計に叫ばれたのみで、人為的であっても己が報われるようなドラマチックさはありゃしない。

 広場に群がる情熱がかえって涼しい。勝負を濁して選手らを嘲笑する、所謂審判という立場からすれば、井戸から取って持ってきた滴である。手で拭えばもろくも去る。信実の所在を信じて疑わない和の者らに、この心が分かるはずもない、と独り合点したのが数か月前である。審判に立候補した訳など云うまでもない。

 頭蓋骨の内で巡らせてもどうしようもない高気取りで冥々。呆気に駆られて、堂々たる欠伸がでた。そしてまた、最接近のレーンをスタスタ、タッタッと走り過ぎる青春に茫と見とれていたので、結局与えられた仕事をサボって夢想しているではないか、と自分を叱りつけるように、ちょっぴり背筋に意識した。

 己はこれを楽しんでいる。日射が痛くとも、広々の一点に孤独となろうとも、目的を抱けずに心へ堕ちようとも。

 初志貫徹。そんな御立派な抱負を失わないように、心を、叩き、叩き、聴こえない咆哮が上がっている。

 いや、やはり。

 限界超えた熱で気でも狂った。

 本当は、空っぽだろう、心の声すら。

 ドンッと、ピストルが鳴り響いた。来賓席の手前から一斉に、タッタッと駆け出す選手らは、遠ざかったかと思へば、すぐに接近する位置にまで。

 背を向け、去った。

 苦しいかな、飢えかな、碧空を仰ぎ見ても、茜には染まりつつ。

 総て私に落ちて打ちつけるのだ。

 そのとき、屋上の影と鏡写しの気がした。

 また、時をかけたかな。

 海は、深まった。

少し前に書きました。スポーツできる人って、青春感在るよね。

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