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心雪と狐雪  作者: ユコマ
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「第一節 狐雪と秘密の祠」



目が覚めると薄暗く濃い霧の中に僕は居た。

覚えがない。さっきまで自分の部屋にいたのに。


「ここ何処だ?」


うーんと頭をポリポリと掻き少し頭の中で状況を整理する。


「そうか。寝ぼけてるんだな。アハハ…こりゃ参った~。」


考えた意味なし。状況は理解できなかった。

取り敢えず地面に寝ていた自分は体を起こし周囲を見渡した。周りは木々が生い茂っていた。どうやら森の中らしい。他は霧で何も見えない。次にズボンのポケットに手を入れて持ち物を確認した。中には充電の切れているスマートフォンが入っていた。他に何か無いかとゴソゴソ探るとジャラっと音がした。

ん?と眉を細めながからポケットから出すとペンダントが入っていた。


「なんじゃいこりゃ?こんなん持ってたかな?」


手に顎を乗せ首を傾げた。


「まぁいっか。持っとこ。」


でも誰もいないし落とし物なら届けようかなと自分の微量の良心が働いた。気まぐれである。

持ち物はそれだけだった。ぼーっと少し立ち尽くしていたが考えても無駄だなと諦めた。


「とりあえず歩くか。どこかわかんないけど。」


適当に歩き始めるとふっと青い光が自分の前を横切った。


「おわっ!?ゆ、幽霊?お、脅かさないでよ!  ゆ、幽霊はだめなんだかりゃあ!」


変な声が出ておまけに噛んだ。


「あだっ!」


小雪(こゆき)の後ろの木からゴンッと何かがぶつかった音がしてひらひらと葉が落ちてきた。


声が聞こえた。周りは誰もいないしなにもないはず。目線を下にして注意深く見てみると白く綺麗な猫が居た。


「はわわっ!猫?」


白く綺麗な猫はぶつけたおでこを撫でながらこちらに目線を向けた。


「ありゃ?あんたアタシのこと見えてるね?」


喋った。猫が。これは本格的にやばい。自分のボケの症状は重症らしい。


「ね、猫が喋った!」


ビックリして腰を抜かした。猫は私をじっと見つめて「あんた食ってやろうか?」とニヤッと口角を上げてぼそっと呟いた。


「え?」


食われんの?この子猫に?口をぽかんと開け少し後ずさりしながら猫を見た。


「ニャハハ!冗談さね、冗談ニャハハ♪」


冗談に聞こえない。猫は口を大きく開けて笑った。


「ところで何であんたあたしが見えるんかね?あたしみたいな上級の妖怪は相当力がないと会話すら出来ないはずなのに」


知らん!そう頭の中で思った。そんな力もないし昔から妖怪とか見えたこともない。てか見たくない!だって怖いもん。猫にそう言いたかったが、ビックリしすぎて腰を抜かしているものだから動けないし言葉も出なかった。


「わ、分かんないで、です。わ、私妖怪とかみ、見たことないので…。」


絞り出すように恐る恐る喋った。少しずつ後ずさりしているとポケットからさっき拾ったペンダントが落ちた。


「おっ?あんた「鍵」を持っているのかい。あとは…お前さん家族で見えたりしたやつとかいなかったかい?」


猫はちらっとペンダントを見てそう言った。


「か、鍵?あ、えーっと確か昔零寺じいちゃんが、見えるとかどうとか。一人で時々なにもないところで喋ってたし。」



私の祖父は昔から妖怪が見えた。私はおじいちゃん子で、よく祖父の話を聞いていた。私には見えなかったしよく理解は出来なかったが祖父は楽しそうに妖怪のことを話してくれた。

 

「妖怪は色んなとこにいるんだよ。儂の膝の上に座っているお前の隣にも居るし。ほらあそこ見てご覧。あの草の影にもいる。」


家の縁側で甚平を着てうちわを仰ぐ祖父の膝の上に座り私はニコニコしながら話を聞いた。


小雪は自分の隣に妖怪がいるというので、気になって小さな手を伸ばし何かを触るかの様に指を動かした。しかしそこには何も無く小雪は首を傾げた。

祖父はこれこれと止める様に優しく小雪の手を引っ込めさせた。

その時の祖父には何か見えていたのだろう。


「妖怪にはな。悪いやつも多いが人間と仲良くしてくれる優しいやつも多くてな。儂に助けて下さいって訪ねてくるような妖怪もいるんだよ。」


「じゃあおじいちゃんはその妖怪を助けてるの?」


「そうさ。助けてやるとありがとうって丁寧にお辞儀して帰っていくんだよ。」……


昔のわたしが幼かった頃の祖父の話をすると猫は少し驚いた顔をしていた。


「ほう…あの零寺の孫なのかい。どおりで私が見えている訳だ。じゃああんた名前は心雪かい?」


「は、はい。白藤心雪(しらふじ こゆき)です。な、なんで私の名前を?」


猫は私の名前を呼んだ。初めて会ったのになんで知ってんの?私はもう考えるのを止めた。


「あいつから孫の話は聞いていたからね。孫が可愛くてとかあいつは儂みたいに大物になるぞ!とか。のろけたことばかり聞かされていたからね。あたしの名前は狐雪(こゆき)あんたと同じ名前だね。これでも狐の妖怪だ。でもそこら辺の妖怪とは訳が違う。超〜凄いそれはそれは美しい妖怪だ。」


猫はえっへん!と胸を張り鼻高々と紹介をした。

その姿に小雪は「猫ですよね?」と頭で考えたことが、声に出ていた。


「猫ではない!これは仮の姿なのさ!あまりの力の強さに封印されたのさ!あんたの爺さんに!まぁ色々あって封印されたんだがね。」


そう言うと猫は少し暗い顔をした。


「じいちゃんが。」


祖父がこの妖怪と関わりがあったなんて驚きだ。家族の中では浮いているような祖父だったが、妖怪であれ祖父と繋がりのある人に会えるのは嬉しい。驚いたと同時に私の顔は少し笑っていた。


「まぁ零寺を知っている(よし)みだ。雪姉さんと呼びなさい!同じ名前だとややこしいからね。」


 猫は後ろを向いて猫の手でグッと指を立てた。

 あれは多分親指なのだろう。その背中は小さいがとても大きく頼もしく見えた。


「お〜!ね、姉さん!」


思わず私は猫にパチパチと拍手していた。


「でもおかしいです。私妖怪なんて見えたことないんですよ?急に見えるなんてそんなこと。」


そうそれ。多分自分の中でここどこ?の次に大事なことだ。やっと聞けた。


「それはほれ。そのペンダントだよ。妖力が、とても強いものでね。それのおかげで妖怪が見えるのさ。それとは別であんたは零寺の孫だ元々は妖力が高いんだよ。きっと遺伝したんだね。ペンダントを持っているおかげで元々の力が発揮したんだろうよ。」


猫改め雪姉さんは説明をしてくれた。

「ほへぇー」と私は間抜けな返事をした。

とりあえず話は理解できた。


「とりあえず歩こうかね。ぼーっとしてても仕方ないし!ほれっ。行くよ心雪!腰抜かしてないでさっさと立ちなさいな!」


「はっ!お、置いてかないでー!」


ほけーっとしていた私ははっとしてちょこちょこ歩く雪姉さんの後ろを歩き始めた。


歩きながら私はふと疑問が湧いた。


「なんで雪姉さんはあんなところにいたんですか?封印されてたんですよね?」


質問を投げ掛けるとすぐに雪姉さんは答えてくれた。


「封印が弱まったのさ。多分零寺になんかあったんだろね。あんたなんか知ってるかい?」


「私病院に居たんです。じいちゃんのお見舞いで。少し体悪くしてて入院してるんです。家族も嫌がってお見舞いは私以外誰も来ませんでしたしで私病院で寝ちゃって。目が覚めたらあそこで寝てたんです。」


雪姉さんは一度立ち止まり笑うとスッと顔を変え呆れたような顔をした。


「ニャハハー!。あいつも歳か!しっかしあいつの家族はろくでもないのしか居ないのかい?妖見えるから何だってんだい。人間ってのは器の小さい生き物だね。まったく!」


と私に返事を返すと短い腕を組みプンプンと怒った。


猫は怒るのを止めると「さっ行こうか」と小さな歩幅で歩き始めた。


「あっあのこれは何処へ向かってるんですか?」


雪姉さんの後ろを付いて歩いていた私は頭に?を浮かべながら雪姉さんに聞いた。


すると雪姉さんの口から驚く答えが返ってきた。


「何処ってあんたのお家さね。帰るんだろ?あんた。家まで送ってあげるよ。あたしも暇だからね。暇つぶしさね。」


「ん?わ、私の家ですか?な、なんで?確かに帰ろうとは思ってましたけど……。てか雪姉さん家わかるんですか?」


来たことないよね?ってかここ林の中だし何処かわかんないのよ?私は目をパチパチさせて雪姉さんを見つめた。

さっきから驚いてばかりいる。目をパチパチと動かし続けているせいか目には疲労が溜まってきていた。


すると雪姉さんは「秘密の通路があるのさ~♪」とニコニコしながら尻尾を左右に揺らし言った。


「実はね。この今いる場所とあんた達の場所は違うものでね。妖怪は自由に行きき出来るんだけど人間はそうはいかないのさ。だからその通路を使って人間の場合は行ったり来たりしてるって訳さね。零寺も使ってたよ。凄い力はあるのに何故か場所の行き来だけはできないみたいでね。ニャハハ!」


……ア◯ラゲート的な感じ…かな?ふと心雪は頭で考えた。ゲームのやりすぎでこういった事はゲームやアニメなどの情報に変換される。日本のサブカルチャーに浸りすぎなのである。


「じゃあそのア◯ラ…じゃなかった。通路を通れば帰れるんですか?」


「そうさ。まぁ少し頑張ってもらう必要はあるけどね♡」


雪姉さんはフフっと不敵な笑みを浮かべ心雪の顔を見た。その笑顔を見て心雪は「な、何するの?」と引きつった笑顔でヘヘっと笑った。


薄暗い霧の中を歩いてどのぐらい時間が経ったのだろうか。そうこうしていると雪姉さんが、「さっ着いたよ。」と心雪の顔を見て腕を組んで仁王立ちした。雪姉さんはどや顔をしていたが、心雪はなんともかわいい姿だなとただペットの猫を愛でる様にその姿を見ていた。


「何ボーッとしてんだい!」


心雪は雪姉さんの言葉に反応し祠へ目線を動かした。そこは大きな鳥居が建てられていて手入れのされていない草木が生い茂りその長く伸びた草は鳥居にぐるぐると巻き付いていた。

鳥居の奥に祠はあった。祠はボロボロだった。

上へと上がる三、四段の木製の階段は所々穴が空いていて扉のふすまも穴だらけ、屋根の瓦は所々なく、その祠を支える石段は今にも崩れそうな感じだ。しかし立派に堂々と祠はそこに建っていた。小雪は思わずポケットの中の携帯を取り出し写真を撮ろうとしたが、携帯の充電が切れていることに気づき少し残念そうに項垂れた。


「こ、ここがその秘密の通路ですか?」


小雪は目の前の祠に驚きながらも雪姉さんに質問をした。


「そう。ここがその秘密の通路。着いて早速だけどまずお絵描きしてもらおうかね。」


「お、お絵描き?」


「移動するための陣を書くのさ。この祠の前でしか陣が発動しない。他でも試したことはあるが、ここだけだった。さっ説明はやりながら教えてやるよ。まず祠の前に大きく円を書くんだ・・・」


心雪は言われるがままに陣を書いていった。


「こ、これでいいんですか。雪姉さん。」


心雪は疲れてはぁーっと陣の外で尻餅をついた。


「上出来さね。ようやった。ようやった。」と

雪姉さんはうんうんと頷いた。


「じゃあ円の真ん中に立って血を垂らしなさい。本当はもっと他がいいんだけどまぁ大丈夫でしょ。」と言って心雪の肩に飛び乗った。


「血!?血ですか!しかもそんな適当でいいの!?」


心雪は、え?痛いよ?と目を丸くして肩に乗った雪姉さんを見た。


「耳元で煩いねぇ。

じゃあ手出しな……あ〜んぐっ!」


手を出した瞬間食べられた。心雪は叫びながら手をブンブンと振り雪姉さんを投げ飛ばした。


「こらこら!暴れるんじゃないよ!よく見てみな!」


ぱっと食べられたはずの手を見ると少し血がポタポタと下へと落ちているだけで、手は付いている。痛みもなかった。


「あれ?なんともない?なんかちょっと血出てるけど痛くないや。」


「ビビり過ぎなんだよあんたは!少し血が出るようにやさーしく噛んだだけさね!これから帰そうって人間を食べるわけないだろう?しかもあんたみたいな不味そうな人間この高〜貴なあたしが食べるわけないでしょうが!」


雪姉さんはせっかく優しくしたのに!とガミガミ説教のように喋り始めた。


「でももっと違うやり方があったでしょうよ!ビックリしたわ!しかも不味そうって一言余計よ!」


心雪は何故か噛まれたことより不味そうと言われたことにカチンと来た。もっと怒るところはあるはずなのになぜかそこに怒った。


雪姉さんのと心雪はベラベラと文句を言い合い、顔を引っ掻きあったり頭を噛んだり気づいた時には二人共はあはあと息を切らしていた。心雪は息を切らしながら一旦冷静になり、


「はぁ…はぁ…雪姉さんこんなこと…してる場合じゃあないですよ…」


と一時喧嘩の停戦を持ちかけた。


「はあ…はあ…そうだったね…仕方ない。喧嘩はお預けだ…..まずは返してやろう。」


お互いに睨み合い顔を立てに振った。

停戦の条約が結ばれた。


「さっ気を取り直して。

血は垂らしたからもう一度円の真ん中にたちな。であたしのあとに続いて唱えなさい。」


雪姉さんは真剣な顔で心雪に作法を教えた。


「は、はい。」


心雪は呪文みたいな感じかなとワクワクしたが、また喧嘩になったらたまったもんじゃない。と顔に出さず雪姉さんの後に続いた。


「…我、彼岸と此岸を繋ぐ術者なり。

我、世を繋ぐ扉を開け、願いを聴き届けよう。

術者の契約において、世を渡る翼を得たり…」


心雪は噛まずに言えた!とほっとすると

「よそ見すんな!さっ行くよ!」と雪姉さんの一喝が。

唱え終えた瞬間地面が光った。

ボロボロの祠のふすまが、ガバッと開くとみるみると体が吸い込まれた。


「お、おぉ!?うわ~~!!」


目の前が真っ暗だ。


あぁ死んだのかな?そっか〜最後の思い出が猫との喧嘩って。とほほ。直前の出来事を振り返り心雪はがっくしと肩を落とした。落ち込んでいると何処からか声が聞こえた。恐る恐る声のする方へ足を進めていく。


「…きな!…雪!」


聞き覚えのある声だ。


「だ、誰?」


足を進めていくと奥の方から光が見えた。心雪は走り出し光の方へと向かった。


「起きな!心雪!コラ!バカ心雪ー!」


光の方へ向かっていった瞬間頬にぷにぷにと柔らかいものが当てられていた。雪姉さんの肉球だった。痛くはなかったが、心雪は凄い勢いで雪姉さんにビンタされていた。目が覚めると心雪は草っぱに寝転がっていた。


「あっ雪姉さんおはよ~。」


「おはよ~じゃないよ!全く!やっと起きたこのお馬鹿。」


雪姉さんは心雪のおはよ~を大袈裟に真似をして

寝ぼけている心雪の頭叩いた。


「あでっ。ここどこですか?」


叩かれて声が出たがそこはスルーして心雪は雪姉さんに聞いた。


「どこじゃないよ。よく見てみな!」


雪姉さんに言われて半目状態の目を擦りながら周囲を見ると病院がどん!っとそびえ立っていた。


「お、おお。つ、着いたんですか?」


「着いたよ。元の場所に。」


「でも…なんでこんなとこで寝てるの?」


「そんなの知るか!着いたらここだったんだよ。あんたは呑気に寝てるし!」


「あ、あはは…。すいません。」


心雪はへへっと苦笑いしながら頭をポリポリと掻いた。


「ってなんで雪姉さん居るんです?あっちの世界に居なくて良いんですか?」


「ま、まぁあそこに居ても暇だったしそれに喧嘩も途中だったしな!着いて来てやった!」


雪姉さんはえっへん!と胸を張ってニヤリと心雪を見て笑った。


「妖怪も見えるようになったことだし零寺の孫だしなあんた意外とこれから危険だよ?仕方ないからこのあたしが守ってやろう!どうだ!嬉しいだろう!」


「えー!嘘ーーーーー!!」


正直不安しかない。だってちんちくりんな猫なんだもん。しかもえ?命狙われてんの?おじいちゃん何やらかしてんの?と思った心雪だが、あえてそこで声には出さずその思いを込めて思いっ切り叫んだ。



続く








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