第2話
連続投稿です!
次話はまた明日に……m(_ _)m
「大変申し訳ありませんでした!!」
ひとまず客室に通された私は、ルーク様に土下座をされています。
私がこれから生活する部屋は、大至急で用意して下さっているそうです。
付き添いの護衛兼従者達がかなり急いでいたので、予定よりもだいぶ早く到着してしまったのです。
用意していただけるなら、どんな部屋であっても嬉しいです。ニンゲル国の私の部屋ほど酷いことは無いでしょうから……。
――因みにルーク様は、ポヨンとした水色の滴のようなスライム型から、人型に戻っていらっしゃいます。
男性に土下座をされるのは生まれて初めての経験ですが、好みの顔の男性に土下座をされるなんて、なかなかシュールな展開です。
「……ル、ルーク様!取り敢えずお座りになりませんか?」
新たな趣向に目覚めてしまう前に、気持ちを切り変えなくてはなりません。
癖になりそうだと思う、この感情は永久に封印せねばなりませんわ……!
「……ありがとうございます」
大きく頷いたルーク様は、何度も深呼吸を繰り返す私の横に、躊躇いもなく腰を下ろしました。
…… こ、こ、ここに座っちゃいますか……!?
テーブルを挟んだ向かい側のソファーへの着席を促したはずでしたのに、ルーク様が座ったのは何故か私の隣。
驚きすぎて息が止まるかと思いました。
お、お、お、お、お、お、お落ち着いて、私!
心臓は今にも口から飛び出してしまいそうな勢いでバクバクと大きく鼓動していて、ドレスの外側からでも鷲掴みできてしまいそうです。
何事もないかのように必死で冷静さを装おっていますが、今にも口元がヒクヒクと引きつりそうです。
不自然な程に私と目を合わせようとしなかったルーク様が――私と目が合った瞬間に弾け跳んだルーク様が、私の隣に座って下さるなんて……。
ルーク様はいわゆる『天然』と言われるゆるふわ系のお方なのでしょうか?
それとも、ぷにぷに系……?って、そんなことを考えている場合ではありません。
……こうしてお隣に座って下さるということは、思ったよりも嫌われていないと、勝手に解釈しても良いのでしょうか。
「驚かせてしまって、本当に申し訳ありません」
ルーク様がまた頭を下げました。
「……それは何に対しての謝罪でしょうか?」
お隣に座っていらっしゃることなら、現在進行形で動揺しておりますが、何か!?
「……あ、えーと、気味が悪かったでしょう?」
「『気味が悪い』……ですか?」
お互いに質問の意味が通じなかった為か、二人でキョトンとしてしまいました。
首を傾げるルーク様がとても可愛らしかったのですが、また、ふいっと視線を逸らされてしまいました。……残念です。
ルーク様の質問は、どうやら今の状況に対してのものではなかったようです。
「あんな風に弾け飛ぶなんて……気味が悪いでしょう?」
ルーク様は下を向いたまま『僕は人間じゃないから』と、笑いながら呟きながら膝の上に乗せている両手に力を込めました。
笑っているのに、ルーク様は酷く傷付いているように見えます。
……ああ、なるほど。
察しの悪い私は、ルーク様の質問の意味を漸く理解することができました。
恐らくルーク様は、スライムであることが理由で、以前に何かあったのでしょう。
気にならないと言ったら嘘になりますし、私で良ければいくらでも話して欲しいと思いますが……出会ったばかり私が、軽々しく踏み込んではいけない傷だと感じました。
「僭越ですが……私の率直な感想を申し上げます」
今の私にできるのは、素直に気持ちを伝えることだけです。
「……はい」
「すっごーーーく、驚きましたの」
あんな状況で驚かない方が珍しいと思いますわ。
「驚いただけ?…………っ!」
弾かれたように顔を上げたルーク様は、私と目が合う前に、また視線を逸らしてしまいます。
……やはり私の顔が不快なのでしょうか。
心臓の辺りがズキッと痛みましたが、今はどうでも良いことです。
「ええ。私は人が弾ける瞬間を生まれて初めて見たのです。すっごーーく驚いて、弾けてしまったルーク様をどうしたら元に戻せるのか……と、それだけしか考えられませんでしたわ」
それはもう必死になってルーク様だったモノを掻き集めました……。
冷静に考えれば、弾けて飛び散ってしまった物は二度と元には戻らないし、無駄な抵抗だったのかもしれませんが、あの時の私にはそれ以外の選択肢が考えられませんでした。
「スライムの皆さんからすれば、弾けるのが当たり前であったとしても、先ほどまでの私は、そうとは知りませんでしたから、とても怖かったですわ」
「そっか……。本当にごめんね。やっぱり怖いよね……」
「……?」
ルーク様に謝って欲しかったわけではありませんでしたのに、言葉が足りなかったばかりに『スライムは怖い』と私が思ってしまったと、ルーク様に勘違いさせてしまったようです。
「違います!謝らないで下さい!私はルーク様を永遠に失ってしまったかもしれなかった、あの状況が怖かったのです」
「…………え?」
「ルーク様と、こうしてお話できることがとても嬉しいです。あのまま、ルーク様が消えて失くならなくて本当に良かった……。ご無事な姿で私の隣に座っていらっしゃる今は、少しも怖くありませんわ」
私の気持ちが少しでも多く伝わるように、精一杯にこやかに微笑みます。
「ミリー……」
気付けば、ルーク様が真剣な顔で私を見ていました。少し潤んだ淡い琥珀色の瞳がキラキラしていて、とても綺麗です。
魔物でも、その他の何者であっても――ルーク様は、私の旦那様となられるお方です。
「訳有りのふつつか者ですが、仲良くしていただけたら嬉しいですわ」
ルーク様が私をまた愛称で呼んで下さったことが嬉しい。
ルーク様の綺麗で格好良いお顔も既に大好きです。
いつの間にか丁寧でなくなっていたルーク様の口調だって、嫌いではありません。寧ろ、大好きです。
でも私は、まだルーク様をよく知りません。
ルーク様の好きな物も嫌いな物も……その心の内側も。
――先ずは『お友達』からですわね!
「よろしくお願いいたします」
私はルーク様に向かって右手を差し出しました。
淑女から握手を求めるのは、はしたない行為ですが、私は敢えてそうしました。
この方が、これからの私達の関係に合っていると思ったからです。
同時に、拒否される覚悟もしていましたが……ルーク様は下を向きながらも、私の手を握り返してくれました。
……良かった。
私達はこれから少しずつ、自分達に合った関係を築いていけば良いのです。
ホッと一安心したのも束の間――
デローーン。
「きゃあぁーー!!ルーク様ー!?!?」
……大変です。
今度は、ルーク様が溶けてしまいました。
スライムって弾け飛ぶだけでなく、溶けるものなのですわね…………!?
私は本日、二度目の衝撃を受けました