待ち合わせ
追走して……玲央は真っ青になっていた。
もう……ある意味奇才なのかも? というような無茶苦茶な走りで、玲央は後ろで走っていて久しぶりに冷や汗をかいていた。
「よく今まで生きてたよね」
と正直な感想を発していた。それを聞いて結月は赤くなる。上手いとは思っていなかったが……そんなに下手だったのかと羞恥心が沸き上がった。
「結月ちゃん……最低限だけど、俺がちょっと教えてあげるよ」
峠のふもとで停車し、真っ青になりながら結月の両片を叩くと、玲央はため息交じりにそう伝える。
(あの凪の妹だけど……女の子だしこんなものなのか)
頭は軽く混乱である。
「私……そんなに危なっかしいですか?」
青くなっている玲央の顔を覗き込む。急に結月の顔が間近に近づいて、玲央はドキッとした。
「あ、いや……うん、ぶっちゃけ死ぬ」
赤面を隠すように慌てて、玲央は結月から距離を取る。「死ぬ」とか言われてショックだったのか、結月は軽く放心状態だ。
玲央はクスッとほほ笑むと「ほいっ」と携帯を見せた。
「連絡先、教えてよ」
玲央は笑顔で結月に連絡先交換を促す。
結月はなんだか嬉しくて「はいっ!」と返事を返した。
❖ ❖ ❖ ❖
玲央はAZ-1に乗り、早朝峠に行くのが日課になっていた。
最初は「お前、本当に死ぬほど下手くそだな」と散々言われて、結月は落ち込んでいた。落ち込んでいた姿を見て玲央がクスクス笑っていることに気づき「揶揄われている」ことに気づく。
元々負けん気が強い結月のやる気をさらに増大させていた。
どんなに貶しても、玲央は走るときは必ず隣に乗ってくれていた。
玲央にとって、もう失いたくなかった気持ちが強かったのだ。これが凪の死によるものなのか、何なのか分からない。
でも、できなかったことが一つ一つできた時の結月の嬉しそうな笑顔を、間近で見れることは自分の楽しみにもなっていた。
結月に至っては、最初は玲央のことは苦手だった。
なんでも貶すし、説明よくわかんないし……でも、時々こっそり横顔を見る。目が合うとドキンッドキンッと動悸が止まらない自分がいるのを実感していた。
その日も散々罵倒されながら、走り込んで……頂上の展望台に戻った時には、空は仄かに明るくなってきていた。
結月は東の空に向かって大きく背伸びをする。後ろから「ほれ」と声を掛けられ振り向くと、玲央が温かい缶のミルクティーを投げる。それをキャッチすると「ありがとう」と言って、ベンチに座りプルトップを開けた。