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インタビュー開始! ……おや!? 数分後に梨奈の様子が…………!

 待ちに待っていない昼食の時間が訪れてしまった。胃が若干キリキリしながらも決意を胸に梨奈を昼食に誘うことから始まるのであった。

 梨奈は元気で明るくてハキハキしているからかお昼休みの時は大体他の女の子に誘われているときが多くて話す暇がないんだよね。


 いつもは一人でお昼ご飯を済ませているけど、今回ばかりはそうしてはいられない。

 何としても二人っきりの状態にしてあの子達の依頼を果たさねば。

 うぅぅぅぅ、陽子さんと二人っきりの時も想像以上にドキドキするけど梨奈の時は違った意味で緊張する。

 入学試験以来かも、聞くだけでこんなにハードルが高く感じるなんて。


「梨にゃ……あっ!」


「ほぇ? もしかして今噛んじゃった?」


「カンデナイヨ」


「噛んだよね? 梨にゃって言ってたじゃない、さっき」


「梨奈、話があるの」


「真剣な顔で誤魔化しても駄目だから。その眼差し、とっても素敵だけど梨にゃって言ってたのはしっかり聞こえたから」


 がさごそとポケットをまさぐって何しているだろうと様子見。するととんでもなくニヤついた表情でボイスレコーダーのスイッチをあろうことか入れてきた。


 いつもの凛々しさ溢れる顔立ちをした梨奈はどこに消えたの? 


 なんで、こんな……陽子さんもアレだけど何故平然とボイスレコーダーを持っているのだろうか?

 

「ほら、もう一回言ってよ」


「えっ、嫌だ」


「断ったら話聞かないよ」


 それは困る。


「許して」


「やってくれたら前向きに検討するよ」


 実質やれということですね。勧善懲悪を具現化した正義感溢れる少女だと思ったのに……私は心底悲しい。

 今や梨奈は弱味を握り、要求を提示する子悪党の畜生だ。顔が綺麗なのがこれまたむかつく。


「梨にゃ!!」


「おふっ!? こ、これは!? なんと素晴らしい……」 

 

 教室のど真ん中で何をやっているんだろう、私は。皆の視線に注目が集まっている。

 身体中が熱くなりそうで昼食を取る前にどうにかなってしまいそうな気持ちを理性で押さえ込む。


 一方で私の言葉に納得したのか後ろに倒れ込む前にギリギリのところで踏ん張った梨奈の絵面がなんともシュールで口を挟む気にもならなかった。

 

 ボイスレコーダーを今すぐにでも拾い上げて該当するデータを削除してやりたい気分だけれど昼休みには限りがある。

 さっさと無償の依頼を済ませて、名も知らぬ女子に平井梨奈の情報を渡さないと。

 

「梨奈、そろそろ話進めていい?」


「うんうん、いいよ。何でも聞いて、ぐへへ」


 この女子高何だかヤバい気がする。私も大概ねじが……いや、そもそも道徳観がずれているけど。

 さっきから何回か音声繰り返すのやめて……ちょっと噛んだからってあまりにもひどすぎる。

 

「今日のお昼ご飯は私と二人で食べない? その、色々聞きたいことがあるんだけど」


 名も知らぬ女子高生の依頼とか省いた方がいいよね? 余計な疑問を持たせて、おかしな方向に拗れても困るだろうから。


「なーんだ、そんなことだったのか。珍しくはっちゃんが緊張しているから何事なのかと思ったけど」


「うひゃ!?」


「それなら今すぐ一緒に二人で食べに行こー!!」


「えっ、ちょっ、うわぁぁぁ!?」


 誘っただけなのに腕絡ませる意味ある? あと僅かに胸当たっているのですがこれ無意識にやってるの?


 黒髪のポニーテールをぶんぶん揺らす梨奈は私の誘いに乗っかったあと鼻息を鳴らしてどこか行く当てがあるのか強引に引っ張られていく。

 あのー、誘ったのは私ですよね? なんで梨奈の方が先行しているのでしょうか?

 

 教室を抜けて強引に連れ去られていく様子は多分何人かの生徒に見られていると思う。

 私達が在籍しているA組の2階から3階にそして4階の行き止まり。


 屋上に繋がる扉は学校の指定で残念ながら頑丈に施錠されているのでどこぞのラノベとは違って、私と梨奈は扉の手前にあるちょっとした階段の踊り場で食事をすることになった。


「あーあ、屋上で食べられたら最高に楽しいのに!」


「屋上が解放されたら、それこそ多くの生徒が集まっちゃうから私は嫌かも。普段使ってる場所を奪われるのはちょっとあんまりだし」


「えっ!? もしかして、はっちゃんが昼食の時にいない理由って」


「ここ愛用しているの。いつも誰も近寄ってこないし、先生の目にも触れられないから」


 入学式以来度々お世話になってるだよね。だから、屋上に繋がる扉の手前に100均で購入しておいたほうきでいつも階段の踊り場の足元を払ってから弁当に口をつけているのが日課になりつつあって。


「そうなんだ……私、全然知らなかったよ。はっちゃんが一人でこんな場所で食べていたなんて」


「でも、この場所で昼食を済ませるのはもう控えるよ。一人で食べるのって結局なんだかんだで寂しいから」


 前々から積極的に話し掛けてくる梨奈は勿論昼食の時に何度か誘ってくれることがあったけどその都度丁重に断っていた。

 口数の少ない私がクラスメイトと交じったところで盛り上がるわけないと思っていたから。

 けど、それもいい加減終わりにしたい。少しずつ変わっていかないと陽子さんに顔向け出来ないから。


「……うん。いい心構えだよ、はっちゃん! 私、はっちゃんが前向きになってくれて嬉しいなぁ」


「ありがとう、梨奈」


「じゃあ、早くご飯食べよ。もうお腹ペコペコ!」


「そだね。ご飯食べよっか」


 女子高には食堂が設置されていて、お弁当がない子でもお金があれば食事をすることは可能だれど私はお弁当の方で腹を満たしていた。

 別にお弁当が好みというわけじゃない。あの食堂の人混みが嫌いというもあって避けているところがある。


 だけど、本当の理由はもっと他にあって。大勢の人の中に一人だけで入り込んだら疎外感が生まれるからだと確信している。

 我ながら面倒くさい性格してるよね、私って。でもこんな自分を優しく包み込んでくれる人を知ったから少しは生まれ変わってみようかなと思ってもみたり。


「わー、はっちゃんの弁当美味しそう!」


「そう? これ特に真剣に作った弁当じゃないけど」


 肉と野菜炒めにミートボール。あとは塩味の卵焼きとか小松菜のごま和えとご飯の超オーソドックスな弁当のつもりなんだけど。

 ミートボールなんてもはや冷凍食品から解凍して終わらせただけの手抜き料理だし。


「はい、もらいー!」


「わっ!? そんな、いきなり!?」


「うひょー! この卵焼きの味付け最高だよー」


「えっと……どういたしまして?」


「こっちの卵焼き食べてみてよ」


 卵焼きを箸で一口つまみ、私の口に運ぼうとしたけど阻止する。途端に機嫌が悪くなったのかほっぺを膨らませ始めた。

 断ったらこれまでの頑張りが水の泡に……心折れて素直に口にいれる。ふーむ、さっぱり塩味で固めた卵焼きと違ってこっちは甘口か。これはこれで悪くないかも。下手に砂糖だけ混ぜ込んでいたら多分蒸せてたけどこの卵焼きに限っては程よい甘さがクセになると言いますか。


「……梨奈のお家は甘口なんだね」


「お母さんが甘口派でね。私はどっちかというとはっちゃんの方が好きだけどお母さんにいつも作ってもらってるから断る権利がないんだ、あはははっ」


 梨奈のお母さんは完璧主義者らしく家にいても忙しく動いているようで梨奈はお母さんの手際に感謝しつつもだらけきっているようだ。

 母は顔すら覚えておらずほぼ父との繋がりがない私とは全く別の世界にいるようだ。

 

 帰れば両親が待っている梨奈と帰ったとしても一人だけの私。クラスメイトで友達で唯一口を開けるのは梨奈。

 けれど、一番に心を開けることができる人は……そこまで考えて思考を一時停止した。

 違う。今日はこんなこと考える時間じゃない。昼食終わりのチャイムがなるまでインタビューに専念しないと!


 けど、まずは何をするにも弁当を食べてから。私は梨奈と当たり障りのない会話を済ませながらご飯とおかずを平らげ、しばらくしてから。


「あのね……今日は梨奈個人について聞きたいことがあって」


「私に!? いいよいいよ! はっちゃんなら何でも答えちゃうから!!」


「そ、それなら助かるよ」


「具体的に何答えたらいいかな? はっちゃんがお望みならスリーサイズくらいなら口に出してもいいよ」


「いや、それは答えなくていいから」 


「えー、つれないなぁ」


 まだ質問始まっていないのに回答者の方がどえらいこと言い出した。

 多分、これ私がお願いしますって言った瞬間にB/W/H漏れなく全部言ってしまいかねない雰囲気だった。


 こほん……落ち着いて、リラックス。大丈夫、名も知らぬ女子が主張していた言葉をそっくりそのまま言うだけ。

 ほら、全然簡単な仕事じゃないか。これくらいで怖じ気づいてたまるものか!


「梨奈は私に聞かれたことに対して正直に答えてほしいの。ねぇ、お願いできる?」 


「うん、任せて!!」


「じゃあ最初は好きな食べ物を」


「お肉全般!」


「嫌いな食べ物は」


「納豆以外の豆!」

 

「趣味は?」


「走ること!」


「誕生日は?」


「1月20日だけど……私、はっちゃんに言ってなかった?」


 言われて思い出す梨奈の誕生日。当初教えてくれた時私としては関わり合いが薄かったから別に覚えてはいなかったけどこれは非常にまずい。

 

「あ、あああ言ってた。言ってたよ、覚えてる覚えてる」


「はっちゃん……嘘下手だね」


「えっ、そんなことはないと思うけど? あはははっ」

 

 最後の最後に肝心な質問を残してしまった。あぁ、口元が震えるけど勇気を出して。


「好きなタイプ……とか答えられる?」


 言ってしまったぁぁぁ!! もう、こうなったらやけだ! 答えてください、お願いします!


「うん、それならばっちり答えられるよ」


 ほっ、良かった。これで気まずい空間から解放されーー


「毎日毎日髪がサラサラのショートカットで自分がしつこく話し掛けても何でも受け入れてくれる包容力とか喜怒哀楽どれもが全部全部輝いている表情とか。片時も目を離したくないから一生身体の骨を隅々まで私の骨に溶け込ませて滅茶苦茶にしても仮に今ここで愛を囁いたくらいでそのぱっちりとしたつぶらな瞳がトロンってなってくれるような……そんな子が私の好みなんだよね」


「へぇ、かなり具体的に喋ってくれるんだね」


「でしょ?」


「ねえ、梨奈? 顔近づけるのやめよっか? ちょっとどころかけっこう怖いから」 


「ん~? どういうこと? 言っている意味が分からない」


 頬を勝手に添えて、今にも顔を近づける意味はなに!? というか梨奈の顔滅茶苦茶赤いけど……私もドキドキしていて落ち着かない! 

 これ、梨奈の様子明らかにおかしい。今はとにかく梨奈を引き剥がしてお互い距離を取らないと。

 

「あの~、そろそろ教室戻らない? もうお昼食べ終わったしさ」


「まだデザート残ってるよ?」


「デザート? 梨奈ってお菓子作りも得意なんだ、意外だなぁ」


「ここまでされてすっとぼけるんだ? ふーん、なら私から先に頂いちゃおっと」


 やばばばば! 壁際に押し倒されている私に逃げ場はないの!? これって誰かに見られたら完全に襲われている図だよね? もうからかいってレベル超えてるんですけど!!


「一旦息を吸って吐いて落ち着こ?」


「ごめん、止まれない」


 屋上の扉へと繋がる階段の踊り場。学校中は静かな温もりに包まれガラスの扉に一つの日差しが差し込みやがて……チャイムが鳴った。

 校内中に響き渡る一定のリズムを刻んだ大きな音は梨奈自身ピクリと動きが止まり、その瞬間を狙って私は彼女の制止を振り切って逃走する。


「待ってよ、はっちゃん!」


 学校のチャイムが鳴らなかったら今頃どうなっていたか分からないけど……救いの手とも思えるタイミング。

 あれで流されて受けていたとしたら確証はないけど後悔すると思う。

 次に陽子さんに会ったとき、心がズキリと痛むから。

 

 この気持ちの答えはまだ見つからないけど。

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