初日から飛ばしすぎ!! いっぱいいっぱい尽くされながら今日は人生始めてのバイト!! 働くのってかなり大変ですねぇぇ……あれ? なんか異様に見守られているような。
うーちゃんと恋人の契りを交わして8ヶ月前後。蒸し暑い太陽が照らす季節となり、あっという間に7月という猛暑真っ只中の時期となってしまいました。
「るーちゃん、水……水が欲しいよぉ」
「ちょっと待っててね。すぐに取り出すから」
4月頃海原女子高等学校に新しい後輩が入ってきて私は進級を経て一年から二年へと繰り上げ。
去年在籍していた三年生は新たなる道へと旅立ち、二年生は受験が待ち受ける三年生へと繰り上がって。
二年生になった生徒は一年から見本となるような心構えをしなければならないようですが、残念なことに以前私は高校一年から万引きに手を染めた愚かな子なのでとても見本になれるようなものではありません。
むしろ、私に見本を求めるより他の子の方がよっぽどマシかと。
それこそ、髪の毛をゴムバンドで一本にまとめてポニーテールのヘアスタイルで十人十色問わずフレンドリーに接する梨奈とか。
他は誰よりもボーイッシュな髪型をしている由美さ……んはなにかが違うかも。少なくとも勉強については頼りにならないこと間違いありません!!
「むー! るーちゃん、通勤中に別のこと考えるのはやめて!」
飲みかけのペットボトルに口をつけたあと、うーちゃんは風船のようにほっぺを膨らませてなにやらお怒りのご様子。
私と恋人になってからのうーちゃんはなにかあるとすぐに機嫌を損ねちゃうわがままな女の子になってしまいました。
これはこれでとっても可愛くて、思わず桜色の綺麗な髪をなでなでしたいのですが外なので自重しましょう。
衝動的に伸びてきた手を引っ込めて春野陽子さんならぬうーちゃんにちょびっとだけ反抗してみようかな。
「えっ、考えたら駄目なの? 少しでも思い出に浸ったりしたらアウトなの?」
「私のことだけ考えていたらいいよ。るーちゃんは他のことに目移りしないで欲しいなぁ」
「無茶言わないでよ……生きる上ではうーちゃんのことばっかり考えてはいられないときもあるんだから」
「えっ」
「うーちゃん……そろそろバイト先に着きそうだし、いい加減陽子さんに戻ってよ。ずっとこの調子で働くのはさすがにまずいでしょ?」
「はぁ……いやだよぉ。るーちゃんとまだまだイチャイチャしたいよぉ」
絶賛幼児退行中。うーちゃんって27歳なのに、私の前では滅茶苦茶手間の掛かる子供になっているような気がしてなりません。
どうしたらいいんですか、これ? 親みたいにあやしたらよいのでしょうか?
とりあえずうーちゃんを説得してみましょう……私にしか使えない魔法の言葉で。
「イチャイチャは家でいつでもできるから今はバイトに集中しようよ。あとで家に帰ったらたっぷり愛を囁いてあげるから」
「うーん、じゃあ……あっちでキスしてくれたら頑張る」
この期に及んでまだ抵抗するんですか? あと、もうちょいで着くのにキスに夢中になっていたら初出勤で遅刻する可能性もぉぉ!?
「んふぅ!? んんんんんッ……んぁッ……あぁん♡ うひぃ……あひゃん♡ そこ、だめぇ♡」
ドラッグストアから少しだけ寄り道してやや離れた路地の裏。絶対に見つからないという保証もないのにうーちゃんはまるで獣のように襲い掛かる。
ありとあらゆる箇所を舌で舐められ、青のジーンズを着用したままお尻を撫で回され、しまいには半袖のシャツをぺらっと捲ってうーちゃんよりも一回り小さいおっぱいを散々触ったり。
「あぁん♡ ひやぁぁ♡ そ、そこはちょっと待っーー」
「いいねぇ。もっともっと聞かせてよ……るーちゃんの喘・ぎ・声」
「はぁ……っ……はぁ……んむっ!?」
「んんっ……んくっ……じゅるるる……ちゅぱ……んふぅ」
「んはぁ……ぁ……待って、待って……やだぁ……はぁ、はぁぁッ♡」
うーちゃんが夢中になっている姿に虜になりながらも私はただただ姿勢を低くして胸しか見えていないうーちゃんの頭に両手を回して……それから全身がひどく震えたあとにひょろひょろと倒れてしまいました。
今のでパンツ駄目になったかも……最悪です。よりにもよってやらかしました。
誘いを受けてしまった私にも責任はありますが、ここはうーちゃんに身を隠してもらいながら予備のパンツで凌ぐことにしましょう。
「うーちゃん、サイテー」
「ごめん、予想以上にエロすぎて止まらなくなっちゃった」
「チャンスがあったら襲いますから。それまで背後を取られないように気をつけてくださいね?」
「う、うん……待ってる」
警告しているのになんで期待を向けた眼差しをするのかなぁ?
もしかして私からの襲い込みに期待しているのかなぁ。チャンスなんて家しかないのに。
ドラッグストアまでの道のりは熱いことこのうえないのにダッシュで駆け込みました。それでも時間に何分か余裕があったのはなによりもうーちゃんが早く出ようよと自宅前で発言していたからですが。
多分確信犯ですね……朝からムラムラしていたので近いうち襲ってやろうと虎視眈々と狙っていたのでしょう。
ほんと、どうしようもなくエッチな人です。でも大好きなので特に問題はありません。
「「おはようございます」」
「おはよう。あれ? 春野さんと一緒に来たんだね?」
「あっ……えっと」
「私達仲良しなんですよ。前から親戚同士の付き合いがあるので」
「へぇ~、そうなんだ」
「はい……それじゃあ、まずは着替えに行きましょうか? 旭川さん」
「は、はい!」
不安を胸に抱えながら、女子更衣室にて乱れた服をロッカーにしまって事前に購入しておいた半袖のカッターシャツに着替えてそのあとドラッグストア専用のエプロンをつけて上下共に乱れがないか確認してからドラッグストアの初出勤開始です!
ちなみに赤いブーゲンビリアの髪飾りは装飾品としてアウトの分類に入るのでこれは外しておきます。
本音を言うなら店でもずっと付けたかったなぁ……なんて。
面接の時に既に男性店長に報告を済ませてありますが、今回は短期間の採用という形にしてもらって夏休みの間だけ働かせてもらうことになりました!
バイトの面接にすんなりと受かったのはうーちゃんの紹介ということもありましたがなにより真面目そうでスタッフの皆からも愛されそうだねっという理由が一番だったからとか。
それと最後にボソッと私がドラッグストアにて倒れていたことを知っていたようで。
やはり赤いブーゲンビリアの髪飾りは非常に目立つようですね。
一生外すつもりもありませんし、紛失なんて絶対させませんが。
ちなみにここで働くのは当初負い目を感じていたので本当なら花屋さんで花のノウハウを習っておきたかったのが本音でした。
けれど、バイトをしたいって夏休み前に寝室で言ったときからうーちゃんの機嫌が悪くなったのです。
なんでも可愛すぎて下手したら私のいない間にお持ち帰りされてしまうとかなんとか。
妄想も大概にした方がいいんじゃないかなってレベルでとんでもない荒れ模様でございます。
結局のところ抵抗とか反論とかしてはみましたが、自分も監視できてなおかつ一緒に働きたいよぉとか上目遣いで誘ってきたので仕方なく折れてあげました。
そしたら、パァァァッと表情が明るくなったうーちゃんは私を押し倒して熱いキスを交わしあい、互いに唇がふやけてから愛し合いました。
抵抗する気が更々なかったので、みっちり求愛を受けます。最終的に私が攻めに回って、うーちゃんを気持ちよくさせてやりましたが。
「それじゃあ……改めてよろしくね、旭川さん」
「はい! こちらこそ至らぬこともあるかと思いますがよろしくお願いします!」
「店長」
「ん? どうしたんだい?」
「可愛いからって色目……使わないでくださいね?」
「あっ、あぁ……分かってるよ。色目なんて使うはずがないじゃないか。あははっ」
「うふふふっ」
うーちゃんの目が笑っていない。職場なんだから個人的な感情はどうか抑えようよ? と目線で伝えても全然伝わらないまま仕事が始まる。
大まかな流れとして開店前にピカピカの白い床を雑巾なりモップなり使って磨いてたりなどの清掃を行った後にと軽い朝礼。
次に開店したらレジ対応・商品陳列・商品補充。雑貨用品や駄菓子類や化粧品などの充実している棚の汚れ落としなどなど以外とやることなすこと盛りだくさんで一応何回も聞かないようにメモ取ったりしながらやってますがすぐに覚えられるか自信が湧きません。
うぅぅぅ、バイト舐めてたぁ。特に補充に関しては軽いものばっかりじゃなくて重たいペットボトルとか棚に並べたりしないといけないし冷凍品に限っては補充するたびに手が凍りそうになるからすごくかじかむんだよねぇ。
まぁ、そうこうして悪戦苦闘している私にさっと手を握って暖めてくれるんだけど……
「春野さん。ちょっと、それはやめた方がよろしいかと」
「先輩の好意は素直に受け取りなさい、旭川さん」
「……春野さん、レジに人来てますよ」
「くっ、よりにもよって旭川さんが大ピンチの時に限って!」
「私のことはいつでもいいので早く行ってあげてください。お客さんを待たせてしまいますから」
「ごめん、すぐに終わらせるから残りの分頑張ってね!!」
「はい、任せてください」
ピラフとかオムライスとか奥に突っ込めそうな箇所は予めやっておきました。
あとはアイスなどのデザート類の補充に取り掛かります! ラストスパートに向けてレッツゴー!!
「おぉっ、やってるねやってるね! 旭川ちゃん!」
「あっ、お疲れ様です」
高身長で茶髪のボブ。スラッとした華奢なボディラインにぴったりと合う白衣と革ズボンを履いて歩いても特に音が鳴らない無難な靴で30代~40代にも見える大人の女性。
朝にお会いしたときからちゃん付けで呼ばれて。それからは大体ちょくちょく勤務中でも話し掛けられることがあります。
というのも10月の文化祭の後、ドラッグストアで陽子さんが珍しい悲鳴を上げていたので早足で現場に近づいた際に私の顔を確認されていたらしく……挨拶を交わしたときからすぐにドラッグストアで倒れていたあの子と勘づいたようです。
それにしても、やたらと距離が近いような気がしますね。
私、そこまで許したつもりはないんだけどなぁ。
「…………」
「えっと、あの……」
「ここだけの話、あなたなんのためにバイトをしているの?」
「それはまあ社会人としての経験とかちょっとした小遣い稼ぎとか」
「嘘よね……それ?」
「え?」
「あなた、両肩が一瞬だけピクリと震えていたわよ。もう、くせになっているんでしょうね……それ」
バレてるぅぅ!? 嘘なんか、この人の前では通用しな……あれ、そういえば梨奈にもうーちゃんにも嘘見破られていたよね?
もしかして普段から嘘がバレていたのってこれのせい?
「ごめんなさい、仕事中なので……そういうのはまた後日ーー」
「おおかたプレゼントでも送るつもりなんでしょ? 春野ちゃんがとびきり喜ぶような代物を」
そうです。バイトを始めた理由はほぼうーちゃんに当てはまっているのです。
自分が働いて手に入れたお金でなにかしらお返しなんかが出来たらいいなぁとかあれこれ考えていました。
うーちゃんには言っていません。そんなこと言ったらサプライズにもなりませんし、なにより私のことをとにかく大事にしているのでそれ言ったらますます止められるでしょうから。
「ふぇ!? ど、どうしてそんな事が分かるのですか?」
「だって……あなたって朝からなにげなく春野ちゃんのことをちらちらと見てたでしょ? まあ反対に春野ちゃんも異常なくらい旭川ちゃんを気に掛けているような気がするけど」
「……」
「ふふっ、朝っぱらからお熱いのはいいのけどお店の中では節度は守ってね~?」
「ご、ごめんなさい」
「いいよ、でもあなたの顔じっくり観察していたらお熱くなるのは無理ないかもね。旭川ちゃんってなんだか無性に守りたくなるような庇護欲を掻き立てーー」
「アキノサン……」
「あら?」
背後から目も笑わない上に光彩があらず、口も笑わずで全身からブリザードをまとううーちゃんが参戦。
店内は冷房でひんやりとしておりますがうーちゃんのおかげで今はもっともっとひんやりしています。
「旭川さんをいじめないでもらえませんか? それ以上ちょっかいを掛けるようなら店長にチクりますよ?」
「じゃあね、旭川ちゃん! 仕事ガンバ!」
「はい、頑張ります!!」
「……」
うーちゃん、怖い。そんな目で私を見ないでよぉ。ただ普通にちょっとした雑談していただけだよ? ひぇぇぇぇ!
「旭川さん」
「は、はい」
「私以外の男女に話しかけられても相手にしないで。あなたは私だけ見てればいいから」
幸先不安です。バイト期間が終わるまで私上手く振る舞えるのでしょうか? ……あぁ、不安だよぉぉぉ。




