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お家でいちゃいちゃ、最後までたっぷりと。思いを伝えるまであともうちょっと……この気持ち必ず伝えさせてもらいますね

「お、おはよう……」


「おはようございます、よ~うこさん♪ 朝食ばっちりできていますよ! 一緒に食べましょう!」


「あー、その前に顔洗ってくるね……お腹空いていたら先に食べていてもいいから」


 リビングの扉を開けてすぐに洗面台の方へと走り去る陽子さん。

 なんだか私が攻め始めてしまったら急に態度が変わってしまったような気がしてなりません。


 挨拶もどことなく覇気がなくおろおろしていますし、なにより目線を合わせてくれないのが寂しい。

 前ならもっと目線を合わせて微笑んでくれたのに。今となっては完全にやばい状況。

 

 よっぽどお腹にキスマークを付けられたのが嫌だったのでしょうか? 

 

「はぁ~、陽子さんに嫌われた~」


 もしかして……このまま疎遠? そうなったら生きていけないよ。

 寝泊まりの時は時々お風呂で背中の洗い流しとか耳掃除とかたわいもない雑談とかソファーで肩をくっつけながらテレビを見たりだとか、洗面台で鏡に向かって二人で歯を磨いたりとか自分の部屋のベッドで私が陽子さんに持たれるような形で小説を読ませてもらったりだとか。


 あれもこれも全部なくなったら私はなにを生きがいにすればいいのだろう? 

 一人で暮らしているよりも陽子さんと二人きりで暮らしている方が何倍も幸せで。


 陽子さんと一生会えない生活とか考えるだけで気持ち悪い。前までこんなこと考えなかったのに。


「あらら、どうして一人で朝食を食べていないのよ?」


「一人で食べるなんて気が進みません。私は陽子さんがこのリビングのテーブルに座って手を合わせるまでずっとこのまま座っていますから」


「ははっ、それは困るなぁ」


「ねぇ、陽子さん?」


「うん?」  


「私と目線を合わせて会話してくださいよ。なんだか、そんなことされたら」


「されたら?」


「さ、寂しいです。嫌われたみたいで……陽子さん、どうしてまともに目線を合わせようとしてくれないのですか?」


「……朝食食べない? ほら、折角のお料理を冷ましちゃうのもーーー」


「先に答えてからにしてください」


「参ったなぁ」


 目線を一切合わせず、顔を洗っても未だに頬が真っ赤な陽子さんをいじめるのはなんともゾクゾクします。

 やってはいけないことだとは重々理解していますけども、かつてここまで乙女チック全開の陽子さんなんて一生に一度見られるかどうか分からない貴重な体験。

 

 箸を持って食事に逃げ込もうとする陽子さんを容赦なく言葉でブロック。


 今日の朝に限り、ベッドの上で取り乱したのかやや乱れている桜色の髪の先端をくるくるとこねながらカアァァァっと赤く染まりつつうつむいている姿にキュンとさせられてしまいます。


 もう、まだ考えているんですか? 早く答えないと、どんどん追い込まれますよ?


「あー、最近の遥って……その、私を」


「はい」


「攻めるのが癖になったのかしら? この頃のあなた……可愛いお人形ちゃんって自覚ないよね?」


 あれ? 質問の答えになっていないような……でも聞かれたからには正直に納得する答えを提示した方がよさそうです。

 

 この人にだけは嘘をつきたくない。


 だって好かれたいから、愛されたいから。


「自覚はありますよ。私は飼い主さんに飼われた可愛いお人形ちゃんっていう自覚そのものは……だけど、なによりも一番はあなたの身体も顔も性格も全部引っくるめて求めたくなるんです」


「も、求め!?」


「あれ? 私おかしなこと言いましたか?」


「あー、なにもおかしくはないわね……えぇ」


 キョドったり、気まずくなったりしたら必ず出だしにあーっと言っちゃうの癖になりそうです。

 そういうところも含めてどっぷりと陽子さんの魅力に溺れてしまうんですよ? 自覚あるなしに喋っているのなら可愛すぎます!


「さて……質問には答えましたけど。そろそろ私の質問にも答えてくださいよ。目線を合わせようとしない理由を」 


「えっと、その……遥と目が合っただけで朝からキスしあったこととか、お腹にキスマーク付けられたりだとかほっぺにチューされたりだとか思い出しちゃうから。そうすると視線が別の方に向くのよ……ただ、あなたのことが嫌いになったわけではないから安心してちょうだい」


 むふふふ。ですよね、やっぱりそうでしたか。


「分かりました、でしたら徐々に慣らしていきましょうよ。ゆっくりでもいいですから」


「えぇ、それじゃあそろそろ頂いても?」


「はい、頂きましょう!」


 朝食はトーストに生ハムとサニーレタスとコーンが入ったサラダにケチャップを掛けたスクラブルエッグ。

 陽子さんには甘さほどほどの熱々のコーヒーで私は牛乳も混ぜてみたカカオふんだんのココア。


 できあがってから随分と時間が経ってしまいましたが。はぁ~、身体に染みますねぇ。


「遥」


「はい?」


「明日から文化祭本番だけど……家で練習するつもりはないの?」


「ありませんよ。今日はゆっくりとのびのび陽子さんと過ごすつもりなので。やるとしても一人になってからだと思います」  


「えー、折角なんだから一曲くらい聞かせてよ」


「文化祭当日までお楽しみということで。これだけはいくら言われても譲るつもりはありませんよ」


「ぶぅ~、可愛いお人形ちゃんが私に楯突くなんて!」


「んふふっ。では、どうなさいますか?」


「ふんっ、別にいいもん。あなたが文化祭でボーカルとして出る前に私一押しのメイド喫茶があるんだから……そっちでたっぷりとじっくりと奉仕させてやるから覚悟しなさい!!」


「無理のない注文でお願いしますね、ご主人様♡」


「あふぅん!? い、いきなり言うのはやめて! し、心臓に悪いから!!」


「ちょっとからかっただけですよ? これくらいで照れないでくださいよ♪」


 むすっとした表情で朝食を食べる陽子さん。表情がコロコロと変わっていくのが次第に楽しくなっちゃって。

 二人で食べるときは大抵テレビは付けずに時々聞こえるのは鳥の声と車のエンジン音で。


 けれど、こんな僅かなひとときでも癒されて。


 口角を緩めながらも千切れた食パンをお口に運ぶ。全て平らげたあとは二人でほどよい距離を保ちながら食器を洗ったり食器棚に戻したり。


 特に出掛けるつもりはないので服装は水色主体のボタンつきのパジャマとゴムで調整できるズボンで。

 陽子さんも私に出掛ける意志がないと分かったことから同様に桃色のパジャマで過ごすようです。

 ということで朝食を取ったあとはじょうろに水を汲んでお花に栄養を与えましょう!


「もしかして……花に水を与えにいくの?」


「はい。毎日の日課ですから」


「ふ~ん、私も観察しに行っていい?」


「どうぞ、どうぞ。その方がお花も喜ぶと思いますので」


 朝の柔らかい日差しから変わっていき太陽は空全体を大きく照らす。

 土壌に植えられたお花は日を浴びて水を与えられて、私達二人を歓迎するかのように咲き誇る。

 どの花も一本一本潤っていて、どれを目にしても奪われそうです。


 花壇に新しく加えたタマスダレ・ダイコンソウ・ミソハギ。白と黄色と紫の色とりどりの花の中には私の想いを植え付けておきました。

 優しい笑みを浮かべながら花を覗き込む陽子さんに耳元で囁いてあげたいです。


 この花には純愛とか前途洋々とか前向きな言葉があるんですよと。

 口に出さず水を斜めから土壌に栄養を与えて、そっと邪魔をしないように腰を落としている陽子さんと同じような体勢で並ぶ。

 

 でも、いつまで経ってもお姉さんはちっとも動こうとはしない。

 さすがに花の観察だけで時間が過ぎてしまうのは嫌だ。私にもっと構ってほしい。

 

 だから耳元に近づけて誘うのです。


「可愛いお人形ちゃんが隣にいるのに襲わないですか? 今ここで」


「あっ……んもうっ」


「きゃっ♡」


 頬を真っ赤に染めた陽子さんに強引に手を引かれて、ソファーに押し倒されて、窓閉じてから強く強く口を上から塞がれて。

 はぁぁぁ♡ 誘ったらすぐにでもおっ始めるなんて陽子さん盛りすぎですよ♡


「んんんっ!? んふっ……ちゅぱ……んにゃあ……んはぁ……ぁ」


「じゅるり……はぁ……はぁ……ちょ……そこぉ……やめぇ♡」


「んむっ♡ ぺろ……んはぁぁ」

 

「あぁぁッ……や……ぁ」


 上から跨がる陽子さんの口から鼻にかけてゆっくりと舌を伸ばして感度のいい声にたまらず舌で喉仏にしゃぶりついて、また口の中で交互にうねうねさせて。

 ねっとりとねっとりとキスをするうちに陽子さんを快楽に落とす思考。 


 ベッドの中でも熱く盛り上がって、リビングのソファーでも続けて盛り上がって。

 私と陽子さんのどちらとも首に汗が付いてる。エアコンもせず換気もしていないから白熱しまくったせいで額にもべっとり。


 どちらとも唇を離したところでその一方が汗を舌で舐めとって飲み込む。 

 もう片方も気づいて同様に人の汗をチロチロといやらしい音を立てて喉の中に汗をゴクリと通す。


 掃除どころかまだ家事もまともにできていない……のに、キスだけでもうどうでもいいかと思ってしまうほど沼にはまりきった生活にのめり込んでしまっています。

 陽子さんはへとへとになったのか私の首に顔を預ける……と同時に顎の方でぴりつくような痛みが一瞬で走りました。


 なにをされたのかすぐに分かりました。陽子さんの口が顎に当たっていて乱暴に吸われて。

 解放されたのは朝の11時を過ぎてから。肌についた赤色の印がばっちりと。

  

「んはぁぁ♡ よ、ようこしゃん……」


「はぁ、はぁ、はぁ……しんどい」


「ソファーの上で横になりますか?」


「いいえ、それよりもあなたが枕になってよ。こんな固い場所では眠ろうにも眠れないから」


「……しかたがない飼い主さんですね」


 やれやれと言いつつも仰向けになっていた体勢を起こしてそのまま座り直す。

 ひざを曲げて、待っていたら陽子さんが私の膝に頭を乗せてすぐに寝息を立て始めてしまいました。


 あまりの早さにびっくりです。まだお休みも言っていないのに。

 

 陽子さんが寝て、リビングは一気に静まり返りました。結局のところ私達は朝のベッドの中で盛って、朝食を食べて、二人で花を観察して、またソファーで盛るとかいうろくでもない時間を送っているような気がしてなりません。


 ですが、幸せそうな寝顔を浮かべてむにゃむにゃしている陽子さんの顔を見るだけでそんなちっぽけな思いはどこかの彼方へと吹き飛んで心の中もすぐに満たされて。

 残りの時間もし起きたら要望次第で昼食を作ったりだとか、少しだけ家の中で映画鑑賞をしましょうとか誘おうかなと思いながらさらさらとした桜色の髪をゆっくりと撫でて。


「明日……告白しますね。あなたに捧げるこの思いを必ず届けてみせます」


 可愛いお人形ちゃんではいられない。もう、そんな存在は消えてしまえ。 

 陽子さんのことを飼い主だなんて思いたくはない。この気持ちを自覚してから遠回りしてしまったのかもしれませんがやっと明日、証明できます。


 メイドもボーカルも全部全部あなたの虜にしてしまいます。だから心待ちにしていてくださいね……よ~うこさん♪ 

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