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うぅぅぅ、あぁぁぁ、やだっ! 恥ずかしい// なにこれぇぇぇ//

 恋が実るのはまだまだ先になりますが、夏休みの宿題はもう既に追い込まれぎみでちょっと……いえ、かなり焦ってます。

 ずるしても怒られないのならお金を出して宿題代行としてやってくれる人はいないかなとかなんちゃって。


「はぁ~、終わりが見えない」


 前にもこんなこと言っていたような気もしますが振り返ったところで時間の無駄にしかならないので慌てて宿題を再開。


 夏休みはもう終わりに近づきました。花火大会で自分の気持ちを自覚してからは時の流れが一気に進んだかのよう。


 蝉の死体もぼちぼち見え始めた7月の終わり、かんかん照りの日曜日。

 今日になるまで実に色んなことがあったなと宿題にペンを走らせながら思い出にせます。  


 例えば、陽子さんが性懲りもなく家の中でべたべたしたりとかはたまたお家で大嫌いなホラーのDVDを遠慮なくリビングで垂れ流したり(そのあと陽子さんが自宅に帰ろうとした時に震えが全然止まらないので無理言って一緒に寝てもらうように上目遣いでおねだりしました)だとか飼い主の気まぐれでレンタカーを使って海にお出掛けとかしたり夏休みの間は色々あったなぁとしみじみ思います。


「あのときの陽子さん……かっこよかったなぁ」


 海の砂浜、自動販売機でジュースを買ったときに私はナンパ目的なのか定かではありませんが若そうな男達に絡まれました。


 こんな地味なフリルデザインの水着で派手さもない女性のどこがそんなにいいのかやたらと絡んできます。


 どうしよ……助けでも呼ぼうかなと思ったら、向こう側から颯爽と現れてこう言い放つ。


「私の可愛いお人形ちゃんに気安く触らないでくれるかしら?」


 背中の肌を大胆にも露出しているビキニ。上は白で下は黒の花模様。


 素足でこちらに向かうエレガントな美女もとい陽子さんは桜色のミディアムをたなびかせて若そうな男達に対して怯まずに立ち向かう。


 四人組のうち二人はあちらの方へと視線を向ける。


 残りの二人は視線を変えない。ひぇぇ、怖いよぉ。


「おー、姉ちゃん。あんたも随分と綺麗な顔してんじゃねえか!」


「姉ちゃん! なんなら、この子と一緒に俺らと遊ぼうよ? ひと夏の思いで作ろうぜ!」


「けっこうよ。私は可愛いお人形ちゃんと一緒に思い出を作れればそれで充分だから」


「はぁ? こっちから優しくしてやってんのに……なんなんだよ、その態度はよ!」


「つかお人形ちゃんってなんだよ? ままごとかなんかですか? あははははっ!」


「ふふ、ふふふふふふ」


「あ?」


 桜色の髪の毛が一気に逆立つ……ように見えてしまうくらいのオーラ。


 もはや笑っているようで笑っていない。両目は完全にハイライトで拳はバキバキと鳴り響く。

 あっと思いました。これはかなりお怒りだなと。


「あんたら……覚悟しなさいよ。もう絶対に許してあげないから」


「はっ。びびびび、びびると思ってんのかよその程度で!!」


「しゃらくせぇ。女を殴るのは好きじゃねえけど」


「あとでたっぷりとそのボディで奉仕してもらうとしますかね!!」


「陽子さん、逃げて!!」


「大丈夫よ、可愛いお人形ちゃん♪」


 一人目の男の容赦ない右ストレート……の手首を容赦なく捻って下半身をピンポイントで蹴り潰し、二人目の男には向かってきたところを片足で払い飛ばしてよろけたところを腕ごと掴んで豪快に投げ飛ばす。

 すっごい、こんな一瞬でやっつけられるんですか?


「やべぇ、まじか」


「おい、俺達やばくね?」


「ほ~ら、今なら土下座の命乞いで許してあげるよ? 警察にもライフセーバーにも伏せといてあげる。嘘をついたり、あとから奇襲をしなければだけど!」


「ひぃぃぃ! 悪かった許してくださぁぁい」


「どうか命だけは! 命だけは!」


「は~るか」


「はい、なんでしょうか?」


「ちょっとだけ向こうの方で待っててくれるかな? 私の目が届く範囲で」


 あのあとどうなったかは語るにも恐ろしいです。少なくともそう思ってしまったのは陽子さんをキレさせてはいけないということ。


 なにがあろうとも決して……と言っても私の前ではいつも暖かい瞳で接してくるのでキレるもなにもないとは思うのですが。


「よし、宿題後半終了!! やったぁぁ~」


 ふふん♪ ご褒美としてプリンでも食べちゃおうかな? 全部が全部片付いている訳じゃないけどゴールでも見えてきたしプリンで気分を整えましょう! さすれば、プリンプリン~。それ、プリンプリン~。

 

 冷蔵庫の真ん中の棚にあるプリンを机の上に置こうとしたその時に玄関の方から扉の開く音と閉まる音が耳に届く。


 小走りで迎えに行くとそこには上は白のセーター下は青のハーフパンツにむき出しの足にブーツを履いている顔中汗まみれ陽子さんがいました。


 今日も今日もとて凛々しい美貌です! 汗かいても!


「は~るか」


「なんですか? よ~うこさん♪」


「シャワー貸してぇぇ」


「どうぞどうぞ、好きに使ってください」


「ん~、今日もあっつい」


「アイスでも出しましょうか? 今の時期だとすっごくぴったりですよ!」


「えっ、良いの!? 欲しい欲しい」


「シャワーで汗流してからにしてくださいね。アイスは後で出しますから」


「は~い」


 夏の期間は大体こんな調子で。ぐでぐでの陽子さんと家で涼しくひんやりと過ごす私は汗を流すように促し、再びリビングに戻る。

 あの暑さではさすがの陽子さんも疲れきったご様子。でも、定期的に私の家に訪ねてくれる……ので、鍵屋に依頼して合鍵を新調して渡しておきました! 


 これで、いつでも好きな人とイチャイチャできます! やったね☆


 でも、未成年が大人を家にあげていることを知ったらきっと父は大激怒するだろう。

 その時はその時になるまで分からないけど、多分私は縁を切ってしまうかもしれない。


 場合によっては家を追い出されるかも。けれど、やめるつもりはない。

 だって好きなんだもん。ずーと陽子さんと一生を添い遂げたいだもん。

 

 陽子さんが自分の前から消えるなんてことはないとは思うけど……もし、そうなったら私は死んでしまうかも。

 

 今のところ、週二で決行する万引きの癖は綺麗になくなっている。

 代わりに陽子さんの顔を眺めたり、連絡を取り合ったりするだけで心が満たされている。


「ん、これなんだろう?」


 紙袋。それは陽子さんがシャワーに行く前にリビングのテレビ台の近くに置いていった物。

 目線がチラチラ。気になる……中身が。


 けど、人の物をましてや見てもいいという許可をもらっていないのに勝手に中身を覗くのは違法だ。

 万引きと一緒で決してやってはならない……だけど、うーん、こうも視界に入る場所に置かれると。


「少しだけ、少しだけなら」


 テレビ台の近くのテーブルで宿題をやっていたから余計に気になる。

 だから、ゆっくりとゆっくりと手を伸ばす。そろ~り、そろ~り。


「ふむふむ。何が入っーー」


「こ~ら、駄目でしょ。人の私物を勝手に覗き込むなんて」


「あっ、えっと、これは、えっと……荷物をどかそうと思っーー」


「可愛いお人形ちゃんには飼い主から罰を与えましょう。ほーら口開けて」


「ぁ……んむっ!?」


「んん……んふっ……れろ」


「んっ……ようこしゃん♡ ……んふぅっ」


「じゅるり……ふふっ……んちゅ」


「んはぁ♡ んむっ、ん、んちゅ……ちゅる……じゅるるる」


「んふぅ……んちゅ……ちゅ……れろ……ぷはぁ」


 罰だなんてとんでもない。もう、これご褒美じゃないですか。舌入れてねちょねちょとお互い交ざりあって、すっごくいやらしくて。


 押し倒されて上から覆い被さるように滅茶苦茶にされて、シャワー上がりの良いにおいを撒き散らして、揚げ句の果てには首もとにマークを付けてきて。


「あぁぁ♡」


 耐えきれなくって変な声を出してしまいました。反省はしていません……だって陽子さんが無理矢理するんだもん。


「は~るか」


「はにゃ?」


「うふっ、可愛い」


 ふやけた顔。絶対今はそんな顔しています。だって、こんなにも飼い主さんから求められているですから嬉しくて仕方がありません。


 あ~、鏡の前で確認したらきっと自分の目がハートになっているだろうなぁ。


 可愛い可愛いばっかり連呼されてキスされまくったら誰でもこうなりますよ、本当にもう。


「でも、飼い主の私物を勝手に覗いたら駄目よ。人には見られたくないものがあるんだから」


「はい、ごめんなさい」


 ようやく身体が自由になった私はすかさず正座して素直に謝ってから顔を上げる。

 全然怒っていない。むしろ、頭をなでなでして好感度をこれでもかと言わんばかりに上げてくれます。


「気になった?」


「……まあ、それなりには」


「中身見てみる? 気になるんでしょ?」


「はい、陽子さんが見せてくださるのでしたら是非とも」


「ふふ~ん、見て驚かないでよ! ほ~ら、これが遥が気になっていた物よ!!」


「ん? え? な、なんですこれ?」


「メ・イ・ド・服♪ もしかして初めて見ちゃった?」


「はい、生で見るのは初めてです」


 陽子さんは立ち上がり、黒い生地と白いエプロンを基調としたメイド服を広げる。

 うわっ、これ着るのはかなり勇気いるだろうなぁ……なんて呑気に思っていたら。


「じゃ、一回着てみよっか? ほら、立ち上がって」


「えっ? い、嫌なんですけど」


「万引きに加えてプライバシーの侵害……罪を複数犯しておきながら、可愛いお人形ちゃんに断る権利なんてあるのかしら?」


「ひぇぇぇ、ありませぇぇぇん!」


「なら着替えて♪」


「はい、喜んで」


 そのまま、そこで着替えていいよと言われましたが好きな人に裸をじろじろと見られたら落ち着かないので自分の部屋に緊急避難。

 陽子さんに手渡されたメイド服をまじまじと眺めながらも、自分の衣服を全て外す。


 うわ~、私なんかが着ても大丈夫なのかな? 変に浮いたりしないかな? 

 フリルのついたメイド服。上下は普通に服のように着替えられる……けど、肝心のエプロンの部分が中々難しいです。

 

 ん? んん? あれれぇぇ~?


「ねぇ、まだ終わらないの~?」


「ぴゃ!? いきなりノックしないで入らないでくださいよ」


「あら……もしかして苦戦しているの?」


「最後の部分が上手くいかなくって」


「ふ~ん、ちょっと貸してもらえる?」


「はい、どうぞ」


 陽子さんにエプロンを渡すと、なんということでしょう! あれだけ苦戦していた箇所がてきぱきと形になっていくではありませんか! 

 帯を作って、後ろに回して正面の部分に両肩を乗せて背中に掛かった生地を交互にしてから形を作るとはい、完成!


 至近距離で着替えを手伝ってくれたから今心臓バクバクです。全然止まってくれません。


 あぁ、服装も滅茶苦茶恥ずかしいけど……陽子さんの目付きもなんかイヤらしいよぉ。


「はぁ~、死ねる」


「えぇ!? 死なないでくださいよ!」


「天国……これが天国という奴ね」


「しっかりしてください!!」


 やばい、陽子さんが壊れた。私の服装を見た瞬間から目線も表情もどっか飛んでいる。

 辛うじて呼び掛けてみたら次はボイスレコーダーとカメラを両手に構え出した。


 うっ、準備よすぎ。まるで、着用するのが元から計画にあったかのような。


「ねぇ、は~るか? 折角ならあれやって。両手でスカートをちょこんと摘まみながら元気よくお仕事お疲れ様ですご主人様! って呼んでみてよ」


「うぅぅぅ~」


「ほら、カモン! 早く早く」


 事態は急を要するらしい。ご主人様呼び……か。私にはハードルが高すぎる。

 絶対にやりたくない……けど、陽子さんの頼みならまあやるしかないよねぇ。


「………………お仕事お疲れ様ですご主人様♡」


「ぶはぁ!!」


「えっ、陽子さん!? 陽子さぁぁん!!」


 血を吐いて倒れてしまいました。な、何があったんでしょうか?? 

 とりあえず介抱してしばらくしてから無事に目を覚ましたのでまあこれで一件落着としましょう。

 ただし、メイド服からはまだ解放されませんが。


 1日中ずっとメイド。宿題しようが途中でお茶休憩に入ろうが例外なくメイド。


 しまいにはメイド服を着ている状態で陽子さんからディープキスされたり、カチューシャ付きの頭を撫でられたり、お尻を触られたり飼い主だからとやりたい放題。


 そして、昼食は陽子さんのリクエストでオムライス。手間はそれなりに掛かったけど台所近くのテーブルに置いた途端に走り込んでくるように喜んでくれたのでなんだか嬉しくなってきた……のに。


「ねぇ、遥?」


「ご主人様、どうかされましたか?」


 呼び方は強制です。これ脱ぐまで絶対です。別にご主人様呼びに目覚めたわけでありません。


「ケチャップでオムライスの上にハートを書いてよ。魔法の言葉で♪」


「はい……かしこまりました、ご主様」


 家にはテーブルの椅子に座っている陽子がうきうきした顔でまだかまだかと待っている。

 震える手つきでケチャップを持つ。オムライスが出来た時にケチャップを掛けようとしたところを制止させられたのはこれが狙いだったんだと今更気付いてしまった。

 

 魔法の言葉……わざわざ陽子さんが料理をリクエストしてくるから何か企んでいるのではと思っていたから調べておいて正解でしたね。

 けれど、ハードル高いなぁぁ。人前でこれを口にするのすっごく恥ずかしいよぉぉ。


「お、お、お」


「お?」


「お、美味しくなーれ♡ 萌え萌えキュン♡」


「ぐぼはぁ!!」


「えぇぇぇ!? ご主人様!?」


 また血を吐いて床の上に倒れてしまいました。まあ……ほどなくしてよろよろと起き上がったのでよしとしましょう。


 あれやこれや過ごしてみて分かりましたがメイド服は陽子さんにとって刺激が強そうです。

 たまにならいたずら半分で呼んでみても楽しそうですけどね。

 例えば家にふらふらになって帰ってきた陽子さんに。


 

 

 お帰りなさいませ、ご主人様♡ って。

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