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気持ちの答えがようやく見つかりました。ずばり、それは

 思い出というものはどれも振り返れば喜怒哀楽の内のどれか一つが残るもので。

 けれど、今日の花火大会では私にとっては何も残らなかった。

 多分数年くらい過ぎ去ればあっという間に記憶からなくなる。嬉しそうにはしゃいでいる梨奈。私はそんな彼女の横顔を眺めながら申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「はっちゃん、終わったよ」


「あっ」


 最後の打ち上げ……全然見てなかった。誘ってくれたのに、自分のことばっかり考えて。

 梨奈がどういう想いで誘ってきたのか分かっているはずなのに結果的に想いを踏みにじってしまった。

 

 花火を見終わった見物人は矢継ぎ早に感想を言い合い、河川敷から離れてどこかへぞろぞろと集団のように集まって去っていく。


「どうしたの? もう花火は全部打ち上がったよ?」


「うん、知ってる。それは梨奈の口から聞いた」


「なら、いつまでもいる意味ないじゃん。ほら、手貸してよ」


 ここで気持ちを伝えよう。そう思った時には梨奈の呼び掛けには応えず無言で立ち上がる。

 言葉は投げ掛けない。だけど、目で訴えかける。何が何だか分からず戸惑う梨奈。


 しばらくして、彼女も見つめ返す。こういった大事な場面では誰から言うのが正解なんだろ? 

 好意を持っている梨奈が優先かあるいはそのどちらにもくみしていない私の方が優先なのか。


「梨奈、今日は伝えようと思う。遅くなったけど……この気持ちはすぐにでも伝えるべきだと思ったから」


「はっちゃん……それって今じゃなきゃ駄目なの?」


「うん、今この場で私と梨奈の関係をはっきりさせておきたい。もう、いつまでも答えを延ばしてはいられないから」


 答え次第では私が唯一最初に出来た友達が消えてしまう。それ以上に避けられるかもしれない。

 

 でも、その選択がたとえ苦しい結果になったとしても私はめげずに戦い続けるだろう。

 

「そっか……なら待つよ。はっちゃんの口から答えが出るまで」


「ありがとう」

 

 周囲にざわつく音はない。あるとすれば向こうの屋台から微かに聞こえる雑音。

 気持ちを伝えるにはまずは言葉から。梨奈に嫌われようが一向に構わない。


 私には心に決めた人がいる。だから……自分から伝えるんだ。レジャーシートから立ち上がって靴を履いてからシートをたとむ。


 ちゃんと角と角を合わせて折っていき形が縮小してから梨奈に明け渡すと同時に一歩前に出る。


 震えそう……でも、言わないと駄目なんだ。たった一言、だけど伝えるにはあまりにも重すぎて。

 ははっ、いつまで優柔不断になっているんだろう。もう、こんな時にへこたれている場合じゃないでしょ。


「梨奈……もしかしてさ、その、勘違いかもしれないけど、私の事好きなの?」


「うん、好きだよ。一人の女性として、世界で誰よりも愛している」


「本当に?」


「あーあ、こんなことになるくらいなら自分から言えばよかったよ」


 失敗した。自分から伝えるべきではなかったのかもしれない。口に出してから梨奈の表情はみるみると青ざめていった。

 震える身体に梨杏は両手自分で抱き締め視線を逸らす。夜だとしても気温はそこまで冷えていないのに。


「いつからなの?」


「始業式の時から。はっちゃんを一目見たときから恋に落ちた……もう絶対に恋人にしたいってくらい」


「でも……私は」


「はっちゃん……いいえ、旭川遥あさひがわはるかさん。こんな私で良ければ付き合ってもらえませんか? ずっと一生私が幸せにしてみせます。それくらいあなたのことが好き……世界中の誰よりも愛しています」


 これほどまでに私が愛されているなんて思いもしなかった。梨奈とはまだまだ日が浅い、何をどうすればこんなに好かれるのだろうか?

 初めて始業式の日におどおどしている私に優しく話しかけてくれた梨奈。


 授業が終わったあとは必ずと言っていいほど声を掛けてくれたり、たまたま授業でペアになったときもにこにこした表情で雑談を交わしたり。

 なんで、こんな地味で無愛想な私なんか相手にしてくれるんだろうと思っていたりさえもした。

 

 だから……梨奈に何度声を掛けてくれても心は大きくは動かなかった。

 あの頃の私は心が若干歪んでいて周期的に誰も見ていない状況で物を盗みとらないと気が済まなかったから。

 

 ここで伸ばしてきた梨奈の手を掴めば……私はきっと梨奈と結ばれることになる。


 それはそれで幸せになれるのかもしれない。黒髪のポニーテールで元気はつらつと前向きな性格は校内屈指で同姓から人気が高い。

 こんな彼女と結ばれるなら誰もが本望だろう。多くの子は選ぶなら平井梨奈の手を取るに違いない。いや、そうに決まっている。


「梨奈……ううん、平井梨奈さん」


「はい」


「ごめんなさい、あなたとは付き合えない」


「どう……して?」


「今でも私はあなたをクラスメイトもしく友達としてしか見えていません。それ以上でもそれ以下でもなく」


 あぁ、なんて残酷な女なんだろう。一世一代のプロポーズをここまでばっさり切り捨てられるなんてとんでもなく罰当たりな奴だ。

 クラスメイトが見かけたら容赦なくいじめられるだろう。それくらい惨い光景。


 手を引っ込めた梨奈は今にも泣き出しそうだった。本当なら駆け寄りたいけどそれは空気が読めていない。

 一緒に帰る雰囲気ではなさそう。夏休み明けたらお互い何もなかったということになって関係も終わるのかな? ははっ、そりゃ辛いよ。


「待って、はっちゃん」


 とても梨奈を連れて帰れる雰囲気ではないので一人で帰ろうとした瞬間に掴まれた手首。

 振り返る……今にも泣き出しそうだった梨奈の表情は学校で見せていたキリッとした眼差しに変わっていた。


 どうしたのだろう? 私は彼女の口から言葉が出るまで待ち続ける。

 いくらでも待つよ。どれだけ時間を掛けても。


「好きな人でも出来たの?」


「えっ? 梨奈、一体何を言ってーー」


「春野陽子のことが好きなんでしょ? 私の目は誤魔化せないよ……はっちゃん」


「親戚だよ? 好きも嫌いも何も」


「この際下手な嘘をつくのはやめようよ。言い訳は聞いていて見苦しいから」


「うぅぅぅぅ」


 あっさりばれたぁ。上手いこと姉妹プレイで乗りきっていたと思っていたのは私だけなのぉ?


「幸せそうだったもん。はっちゃんをたぶらかす春野自体は大嫌いだけど……そんな奴と一緒に歩いて帰っているはっちゃんの表情はこれまでに見たことがないほど輝いていた。それこそ、恋しているってくらいには」


「恋?」


「ぶっちゃけた話、今もその人のことを考えるだけで胸がドキドキするんじゃない?」


 陽子さんの顔を思い出すだけで心拍数が上がった……ような気がした。

 今までずっと嫌な顔をせず、お人形ちゃん扱いされようともなんやかんや大切にしてくれたお姉さん。

 キスの情景も全部全部浮かび上がる。あぁ、空想に浸るだけでこんなにも心が満たされるとは。


「ははっ、こりゃあ完敗だね。は~、そんな幸せそうな顔されたら無理矢理にでも恋人に出来ないじゃん」


「えっと」


「想いを伝える気はあるの?」


「どう……かな。今すぐっていうのは」


「私よりも何十歳か上なんでしょ? 告白するのってけっこうハードルが高いと思うんだけどなぁ」


「や、やってみないと分からないと思うよ?」


「へぇ~、引っ込み思案のはっちゃんがそれ簡単に出来ると思ってるの?」


「馬鹿にしないでよ」


「してないよ、はっちゃん♪」


「ぶ~、いじわる」


「私の告白を容赦なく踏み潰したはっちゃんが悪いんだもん。これくらい馬鹿にしてもバチなんか当たらないんだから」


「うぅぅぅ」


 けたけたと腹を抱えながら笑う梨奈。完全にからかわれているような気がしてならないけどさっきまでのことを含めたらこれくらいされて当然なのでささやかな抵抗としてジト目で見返す。

 しばらくして満足したのか、突然深呼吸を何回か繰り返した梨奈はおもむろに鞄から何かを放り投げる。しかも、ちょっと大胆に音を鳴らして。

 

「はぁ~、本当なら塩を送る真似なんてしたくなかったんだけどなぁ」


「塩を送る?」


「はっちゃん、先に最寄りの公園で待っててくれるかな? だいぶ長く待たせることになるかもしれないけど……絶対に後悔させないから。だから、ね? お願い……そこで待っていて」

 

 言葉の一つ一つに重みがあって。それは多分冗談とかからかいとかではなく……公園に行ったところで何が起きるのかさっぱり分からないけど。

 

「分かった……待つよ、ずっと」


「ありがとう、はっちゃん。いつまでもどこまでもだーいすき♡」


「うん、知ってる」


「じゃあ、さらばだぁ!!」


 クラウチングスタートからの壮大な走り。あっという間に向こう側へと走り去り気づけば姿が見えなくなる。

 置いていかれた私は梨奈が走り去っていった方角に沿って公園へと向かう。


 道中、何分間か歩いた先にある明かりのついた場所には何ヵ所か雨が降ったような箇所がちらほらと見受けられた。

 今日は朝から晩に掛けて雨なんて一ミリも降っていないけど……我慢しきれなかったのだろう。

 

 あれだけ強がっていても私は傷つけたんだ。彼女の恋心を。


 反省を募らせる一方でいつの間にか景色はたくさんの遊具が兼ね備えてある公園と到着する。

 子供も大人も誰もいない、もはやもぬけの殻。私はなんとなくブランコに座る。


 公園の場所は違うけど……ここに座ると思い出す。私の悩みに真摯な態度で向き合ってくれた陽子さんを。

 でも、まあ話が終わったあとは突然唇を奪われたんだけど。けど、結局は自分も夢中になってしまったから最後らへんは奪われるとかそんなものは一切関係なくて。

 

 今日も明日も明明後日しあさっても日をまたぐ度に陽子さんのことを考えるだけでドキドキする。

 これってもしかして……とは思ってもいました。だけど、普通は男と女で成り立つ感情と思っていたばかりに遠回りをしてしまいました。

 梨奈に指摘されてようやく確信に至る。同姓であろうともあれだけ情熱的に伝えられたら鈍い私でさえも気づきます。


「はーい、遥。ここはこんばんはと言っておくべきかしら?」


「陽子さん!?」


「ふふっ、可哀想に。花火大会の日に置いていかれたんでしょ? だから、飼い主はこうして可愛いお人形ちゃんと戯れることにしましーーおわぁ!?」


「陽子さぁぁん!」


 ブランコから飛び上がって全速力で陽子さんにダイブ!! うわぁ、夢じゃなくて本物だぁ。

 

 すりすりすりすりぃ。


「もう、急に飛び掛からないでよ!! びっくりして腰抜けそうになるからやめて!」


「えへへ、ごめんなさーい」


 気持ちを見つけました。その答えはずばり……恋です! LikeじゃなくてLoveです!!

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