申し訳なさと後悔。これで許してくれるか分かりませんが、あなたが満足するまで受け入れようと思います
夏休みの期間は人と接点がない限り外に出ることすら億劫になる。
故に大体の人間は朝起きていつの間にか夜になってをずっと繰り返していき最終的には……宿題をやらずに終わるという最悪の結末を迎えることになりかねません。
ということで、そこを少し意識して私は現在朝食を食べ終えたあとにお家で出来る課題に取り組んでいます。
外の庭に植える花に関しては手始めに準備がいるので、その方面については陽子さんの助力を経てカバー。
一応お礼として私から頬っぺたにキスもしくはハグで我慢してくれるそうなので良かったです。
あれ以上のこと要求されたら自分がまともでいられるかどうか不安ですから。
「うーーん、終わらなぁぁい」
書いても書いても埋まらない数学の式。問題約60個でそのうち苦手な確率とかがあるからこれまた頭を悩ませる。
いけないいけない、ここはチョコ噛んで糖分補給!
「はぁ~、どうしよ」
止めるか進むか二択に一択。私の意思はどっちかといえば止めるという方に傾いている……けれど、まだ踏ん張れるかもしれない。
ソファーの上で寝転びながら頭を休ませる。そして、また、途中まで書いていていた文字にペンを走らせ無我夢中になるくらい課題に書いてある問題を私の手で埋めていく。
ページを捲って次の問題を潰す。諦めることは簡単だけど続けるには勇気と根性が必要で。
こうやってやろうって思うのは変化があったからかも。目に見える成長……私は今はいない希望の存在春野陽子さんに改めて感謝しながらも飲んでいくうちに量が少なくなったお茶に気づいて一端机から立ち上がり冷蔵庫から追加のお茶を取り出す。
ふぅ~、あともうちょい頑張ったら次は地理を片付けよう。地図関係は苦手だからこういうのはちょくちょくネットで調べて埋めていく戦法で……ん?
「あれ? 今日約束してたかな?」
陽子さん、ラインに今日来るって書いていないけど。もしかして急に遊びに来たとか? ありえない話ではないけど大体お家に来るときはラインにメッセージは必ずといっていいくらい入れてくるはず。
となると、配達員? インターフォンが鳴ったのでその場で返事をしてインターフォンの画面を覗く。
えっ、なんで汗だくになっているんだろう?
「陽子さん? 急にどうしたんですか?」
「あなたのために色々準備したのよ。レンガとか肥料とか必要な物その他諸々ね、はあ、はあ……しんどっ」
玄関で既にバテている。こんな場所で倒れられても困るので力がないながらも無理矢理リビングに引きずり出してソファーの上に座らせておきます。
「は~るか。落ち着いたら軽トラの荷台から荷物下ろしておいてくれる? もう疲れて動けないから」
「それくらいやっておきますよ。私が勝手に頼んだことですから」
「助かる。あとはお願い」
「というかそんな無茶しないでくださいよ。買うなら買うで私に言ってくれれば付いていったのに」
「なに言ってるの? 買い物に付き合わせていたら宿題進まないんだからこれくらいは大人の私が処理するべきなのよ、はぁ~あ」
「はい、陽子さん! お茶キンキン氷マシマシで入れておいたのでこれで身体を冷やしてください」
「え~、身体バテバテでふらふらなんだから可愛いお人形ちゃんが口移しで飲ませてよ」
「ふぇ!? それくらい自分で飲んでください!」
「やだやだ、絶対やだ」
「よ、陽子さん……無茶言わないで、早く」
「飲・ま・せ・て♪」
「むぅ~、仕方ないですね」
「あーん」
まさか食べ物以外で陽子さんからあーんのおねだりをされるとは思ってもみませんでした。
飲み物で口移し……こういう液体飲料って口だけで上手く飲ませられるのでしょうか?
若干不安ですが、このまま駄々こねられたら熱中症も悪化しかねないので心に決めて自分の口の中にお茶を少しだけ含むことに。
じゃあ……いきますよ? 上手くいかなくても文句だけはやめてくださいね……って飲んでいる最中だと言えないでしょ。
なら、なりふり構ってはいられない。口を開いてソファーの上で仰向けになって待っている陽子さんの首を片手でクイッと持ち上げ流し込む。
「くちゅ……ん……んんっ……」
「んむ……ん……れろ」
「……っ!?」
力強くて抜けない!? えっ、あの、これ口移しってレベルじゃなくてただのキスになって……んむっ!
「れろ……じゅる、ちゅぱ」
「んんっ!? はあ……ぁ……もう、ダメですってばぁぁ!」
「遥、もっとちょうだい」
「あぁ、もう、許ひてぇ」
「飼い主の命令逆らっちゃっていいのかな?」
「うぅぅぅぅ」
お茶を飲む。そして口の中に流し込んでからまた同じように繰り返す。
「んふぅ……んんんっ……んむっ……んはぁ」
「んちゅ……れろ……んふぅ……んっ」
キスをする度にふやけていく口。重なっていくうちにどうにでもなれと真っ白になる頭。
口移しを何度かしてガラスが空っぽになった頃には陽子さんが私の首に両手をぎゅっと抱きしめる形で今度は勢いのあるキスが始まりました。
我慢ならなくて声を出した時もある。あんまり鮮明に覚えていないけど途中べろべろと顔を舐める陽子さんの背中におもわず両手をぎゅっとやってしまったような記憶が一部ある。
両手にほかほかと残るあの背中の感触。意味もなく手を握って、勝手に心臓が高鳴る。
カァァァァっと顔が赤くなった。人がこんなにドキドキしているのに陽子さんはあのあと呑気に私のシャワーで寛いでいる。
いや、ほらまあさっきのこともあって余計に汗とか気になるだろうから善意で勧めたわけなので……よくよく考えたら別にあの人が悪いって話ではないのかも。
「重っ! 陽子さん、いっぺんに買いすぎだよ」
「はぁ~、スッキリした。あっ、それ家に取り込んでくれたんだ」
「一応荷台に乗ってるものは全部庭の方に置いておきましたよ」
「よし。じゃあ私先にトラック返却してくるから出来そうな所はある程度やっておいてね。あとから遅れるからちゃんと準備しておくのよ?」
「分かってますよ。それくらいのことはきちんとやっておきますから」
陽子さんはシャワーを浴びるや否やすぐに玄関を飛び出して軽トラをアクセル全開でかっ飛ばす。
嵐のように入ってきて、嵐のように去ってしまった。玄関の外で見送ったあとに家の鍵を閉めてリビングに入る。
また、あの卑猥な情景が浮かび上がる。最近はあちこち陽子さんにイタズラされちゃっているおかげで思い出すたびに勝手に頬が意識せずとも赤くなっちゃって大変です。
「よーし、頑張りますか!」
窓を開けて、庭用のサンダルに履き替え悶々とした気持ちを吹き飛ばすが如く花の種をばらまく前段階の準備。
陽子さんが帰ってくる前に終わらせておきたいなぁ。自分一人だけ早く終わらせられるかは運次第ってところだけど。
「あっ……これ時間掛かるかも」
スコップで雑草を取り外し、極力土地を平らにする作業。まずこの序盤から難易度が無慈悲にも強いられる。
頑張ってスコップをザクザクはしている最中に照りつける太陽。額から汗が止まらない。
花壇作りを甘くみていたので一時家に退去して防止と水筒を持ち出して再挑戦。
格闘すること二時間。自分で納得のいく花壇にはまだまだ遠い。草はある程度まとめているけど庭には大量の雑草が生い茂っているのでそう簡単には出来なかった。
うぅぅぅ、けっこう体力使うなぁ。こんなにも花壇作りがしんどいとは思わなかった。
「は~るか」
「わひゃ!?」
耳元に美しい声が。びっくりして振り向いたらニタニタしている陽子さんが同じく屈んでいた。
私と同じように帽子を被り、手袋をガッチリと装着した姿はまさに頼れる味方。
これほどまで神々しいとは。あぁ、この状況でよく来てくれました。
「作業は順調そうね」
「うーん、そんなに進んでいるように見えますか?」
「花壇の基本的な部分は形になっているからあとは一緒に夕方までには完成させてあげましょう」
「用事とかないんですか?」
「大丈夫、その辺は心配しないで」
「でしたら、お願いします」
「ふふっ、終わったらお疲れのハグくらいさせてね」
「それはその……落ち着いてからにしましょう」
あれだけ溜まっていた疲労がすっかり消えて、あとから合流してきた陽子さんと力を合わせたらなんだか楽しくなっちゃって。
レンガを立てて、それから栄養をたっぷりと含ませた培養土を上から垂らして小さなフォークで慣らして何時間も掛けたオリジナルの花壇が完成です。
嬉しかった。思わず人生で一度も自分からやったことのないハイタッチをしてしまうほどに。
「陽子さん、やりましたね!!」
「えぇ、そうね……あとは花の苗を植えてから水をあげたら経過観察ね。上手く育てばいいけど」
「きっと満開に咲きますよ。こんなにも頑張ったんですから私達の想いは伝わるって信じたいです」
「咲いたら連絡してね。急いで見に来るから」
「分かりました! 咲いたら絶対に写真に収めてラインに送ります!」
カラスの鳴く声が聞こえる時間帯。花壇作りが一段落したあとはリビングに入る前に砂ぼこりを落としてからソファーでお茶を飲みつつ隣同士肩が触れるか触れないかぐらいの距離で余韻に浸る。
だからこそ、最後の最後で油断をしてしまった。思えばそれは想定できていたことかもしれないのに。
「遥」
「はい?」
「花火大会の日の予定って……埋まってる?」
「勿論大丈……あっ」
「ん?」
「ご、ごめんなさい。そ、その日私……梨奈と一緒に行くことになってしまいまして」
陽子さんの口から花火大会に誘われた時どれだけ嬉しかったか。
何もなければ心の底から行きます! って大声を出していた。けれど、それは叶わない。
梨奈は陽子さんとは絶望的に合わないだろうし、反対に陽子さんだって梨奈をよく思っていない。
だから今年の花火大会は……私にとっては多分。
「そっ……か。お人形ちゃんのくせに飼い主である私よりもあの子を優先するなんて随分と偉くなっちゃったのね……とか、なんちゃって」
「陽子さん!!」
柔らかい服に一気に両手を陽子さんの背中に回してしがみつく。これ以上ないってくらいに強く。
もう今にも泣いてしまいそうになるので包容力のある胸にわざと顔を埋める。
普通の人にはしない。けれど、陽子さんはこんなことでは怒らないから優しくしてくれるから……だから私は本能的に甘えてしまう。
「ごめんなさい、勝手に約束して! ごめんなさい、勝手に相談もせずに!」
飼い主に逆らってしまった申し訳なさと一緒に見たかったのに見れなかったという後悔に押し潰されて。
でも、陽子さんは慌てず騒がず私の髪を撫でる。それはそれは眠気を誘う温もりのある手のひらで。
「謝らないで、遥。今回のことはいつまでも先伸ばしにしていた私が悪かったのよ。だから飼い主がいない分梨奈ちゃんとたっぷり夏祭りを楽しんできて、ね?」
「はい」
「もう、いつまでしがみついているつもりなの? お姉ちゃん、さすがにこの体勢ずっとされると恥ずかしいんだけどなぁ」
言葉の口々が震えている。きっと勇気を陽子さんなりに勇気を出した筈なのに私がばっさりと断ってしまったから。
命令されてもいないし、お願いされてもいないけど埋めていた胸から顔を出してお互い目を合わせようとする前に額に唇をそっと付ける。
表情が固まる。けれど、陽子さんはすぐに暖かみのある眼差しを向けて。
飼い主への罰ならまだまだ受け入れる。だから、私はそれから両目を閉じた。
肩を掴む両手の感覚は若干痛い。けど、すぐに消し飛んだ。甘い甘い味のする唇と重なりあって。
「んっ……あぁ! ……はぁぁ……んふっ」
「じゅるり……ちゅぱ……れろ」
「んむっ……ぁ……ん」
「ちゅる……んふっ……んくっ……ん、んー、んちゅ」
「んんっ……れろ……ちゅる……ぷはぁ……んむっ……じゅるるる……んちゅ、んふっ……ちゅ……れろ」
「はぁぁん……そ……こ……なめ……ないで……んはぁ」
陽子さんが満足するまで続く。それは、それはどこまでも。




