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24/61

花は繊細で、時に大胆に。彼女の目はどこか遠い過去を見ているかのようで

 夏休みを迎えるための最大の試練としてそびえ立つ期末テストは始まりは長けれど、終わりは短く。

 登校が一旦ストップに近づくにつれて配られるテストの採点結果。

 多くの生徒は赤点回避したぁぁ、やったぁぁ! と口々にハイタッチやらハグで一喜一憂し、ある人は選択肢鉛筆1号、選択肢鉛筆2号何故私を勝利へと導かなかったんだと嘆いているしでとにもかくにも自分の周囲には十人十色様々な生徒がいる。

 

 さて、私の成績はやはり良くも悪くも平均を下回ることなく上回ることもないので結果としてはまずまずのオーライってとこでしょう。

 いい大学に受かるためには厳しい成績かもしれないけど……今は将来のこと深く考えていないからなぁ。

 でも、いつまでもうじうじと先を見据えてなかったらそれもそれで危機感を覚えるべきだろう。


 なんにしても高校一年生最初の夏休みが開幕!! 終業式を経て旭川遥は自由を謳歌します!!

 

 大量の宿題も合わせてセットで(泣)


「ありゃありゃ、全然進んでいないじゃない。残り1ヶ月で宿題終わらせられそうなの?」


「うーん、これだけあるとまずどこから手を付けたらいいのか分かりません。陽子さん、人生先を行く先輩としてなにかアドバイスをください!」


「その前にこれ食べない? 宿題ばっかりしてたら脳みそ腐るし、たまには箸休めしましょ」


「わーい、そうめんだ!」


 壁があるとはいえセミがミンミンうるさい夏休みの始まり。昼前から遊びに来ていた陽子さんは気前よく冷やしそうめんと濃い目のつゆを台所近くのテーブルに置きました。


 テレビ側にある丸型のテーブルの上に置いてある理科と英語の宿題を一旦ストップ。

 冷房と扇風機はもはや7月中は絶対に主戦力として頑張ってもらわねばなりません。


 さてはて、手を合わせてそうめんずるずるっと。うひょおお~


「うん! いい味!」


「そうめんの残りの分は台所の引き出しにしまっておくから好きな時に食べてね」


「分かりました。空いている時間にまた作ります」


 ずるずるっと口に運ぶ。あぁ、なんてのど越し。口の中ひんやりするし茹で加減最高です!


「ふふっ、こらこらそんな慌てて食べたらむせるでしょ? もっとゆっくり噛んで食べなさい」


「ふぉふぉい」


 大体週一、二を目処に様子見を兼ねて家に訪ねてくる陽子さん。

 夜の宿泊以降、私が帰り際に仕事に疲れた時はいつでも来てくださいとか言った直後からこういうことはもはや日常茶飯事でしかも世話好きなのかなんなのか半分私が完全に甘えてしまった結果。


 お人形という立場を逆手に取った自堕落な生活に成り下がってしまいましたとさ、ちゃんちゃん。


 いえ、こんなだらけきった生活はやっていけないという自覚はあるんですよ? 

 でも、ほら陽子さんって私を沼に嵌めるの凄い上手というかなんというか。


「遥、これ終わったら息抜きしましょ」


「息抜きって主に何を?」


「トランプとか」


「ババ抜きとかジジ抜きとか七並べとか色々遊べるあれですか?」


「うん、それそれ。ついでに罰ゲームもここで決めておきましょう」


 そうめんをずるずる食べながら罰ゲームの恐ろしさに震える。どうせ、陽子さんのことだからいたずらを超えたものしか考えていないはず。


 あれ……でも自分が勝てば写真潰せるよね? トランプゲームで陽子さんをぎゃふんと言わせたら……これはいいかも。


「なーに、ニヤニヤしちゃって」


「なっ、別にニヤニヤなんてしてませんから!!」


「急に慌ててどうしたの? もしかして私にイヤらしいことをしようと考えていたのかなぁ?」


「ち、違いますから! 私はもっと真剣な罰ゲームしか考えていないので」


「ふーん、つまんないの」


 いつもいつも陽子さんにやられっぱなしなんだ。今日こそは人形の下克上を見せてやる!

 前にバストサイズをよりにもよって裸で計らさせたことは屈辱的(しかもBだねっとか満面の笑みを浮かべて)でありここでリベンジせねばいつやるのって感じです!


「ささっ、とっととそうめんを食べ終えてトランプ始めましょう。私……なにがなんでも勝ってやりますから!」


「突き箸は行儀悪いからやめようね、お人形ちゃん♪」


「うぅぅぅぅ」


 そうめんをつゆに溶け込ましてずるずると口に運び、時に談笑しながら食べ終えること20分。


 片付けられる用事は全部片付けてからソファーの方へ。あっ、丸型テーブルの上に置いてある宿題……目をそらしつつ部屋の隅っこの方へ~


 また今度時間空いているときにでもやればいいよね、うん。


「あれれ~、もしかして」


「あっ、ちょっと!!」


 見られた。一瞬隠そうとした瞬間に見られたぁ。


「なにこれ、全然進んでないじゃない!特に理科の生物研究とか名前だけ書いて白紙とかやる気あるの? 可愛いお人形ちゃん?」


 案の定馬鹿にされるの巻。勉強ができるからって私間接的に馬鹿にされてます!


「うっ、うぅぅぅ」


「えー、泣かないでよ。そんな目で見られたら私が苛めてるみたいじゃない」


「ひ、ひどい。学力上だからって下をいじめるなんてあんまりです」


「ごめんってば……もう、はいはい。これで許してよ、んっ」


「んむっ……んふぅ、んっ」


 最近気づきました。私が泣きそうになったり、弱々しくしていたら飼い主さんはとことん弱くなることを。

 そして大体は謝罪代わりにキスをします……で、それを軽く受けるで全部チャラ。


 なんか私も陽子さんも二人揃ってチョロくなっているような気がします。

 陽子さんに指摘するのもあれなのでこれは自分の胸のなかに収めていますけど。


「はぁ……ねぇ、トランプやらない?」


「はい、やりましょう」


 唇と唇が触れあう瞬間に嫌悪感はまるでなく、むしろとても心地のよいことで身体が密着しあう度に胸の高鳴りも全然止まらなくて。

 陽子さんもドキドキしているかな? あー、でもいつもは余裕な顔を崩そうとしないからトランプゲームとか勝てる自信そういえばないかも。


 誘われて始まるババ抜き、何度リトライしてようが先に上がってしまうのは確実に陽子さんでその度に人の身体を好き勝手に貪る。

 

「っ……あっ……ん」


 あまりの絶妙加減でたまに喘ぎ声が出ちゃう。悔しいって思う度に性懲りもなく挑む。


 またやられるそして挑むまたやられるの繰り返し。このままでは永遠に負けるので神経衰弱に切り替えることにした。

 

「ふぅふぅ……やっと勝てた」


「おめでとう、遥」


「はい!!」


 勝つことに全力を注いでいたので例の画像のデータ削除を促す……も、陽子さんは焦らない。

 あらら、なんで?


「ごめん。あのデータ、ここにないの」


「えっ!? ま、まさか!?」 


「心配には及ばないから。そういうのは既にお家に全部鍵付きファイルに保存してあるから下手に露呈する心配はない……まっ、ある日突然家宅捜索とかされたらうっかりあなたの写真が見られてしまうかもしれないけど」


「いやぁぁ」


 陽子さんへの罰ゲーム実行不可です。他の罰ゲームなんて考えていない……えっ、元からやる意味ないですよね?


「はい、ということでそれ以外のことなら何でもしていいよ~」


「とかいいながら目を閉じるのやめてください。それだと、まるで」


 さぞ口にしてくださいと言っているようなものじゃないですか。

 私から口にキスをする勇気も度胸もないので頬で軽く口に音を立てる。

 今の自分ではこれぐらいが精一杯です。


「ふふっ、これが私への罰ゲームかぁ」


「不満ですか?」


「うん、足りないかな。だから私からいっちゃうね。可愛いお人形ちゃん♪ ……んむっ」


「んんんッ! ぁ……はぁぁ……んっ!」


「ちゅる……んちゅ、ん、んんっ……んふぅ」


「んにゃあ……んんんッ……れろ……ちゅぱ」


「じゅるるる……んっ、んちゅ……れりゅ」


「んんっ……んはぁ……ぁ……んっ」


「ちゅ、ちゅ……ちゅぱ……んちゅ……じゅるるる」


「んふッ……んぁぁ……んんんんッ……ちゅる」


 昼間になにしているんだろ、私達は。でも、二人きりの家で咎めるものがいなければまず止まる必要性もなくて。

 床に押し倒され無我夢中に口を重ねる頃には抵抗していた両手も弱まりぶらんとだらしなく落ちていく。


 いや、もう意識も合わせてぐるぐると堕ちているのかもしれない。


 時の流れは幸せを感じている分だけ早く、陽子さんと名残惜しくも別れたのは15時過ぎ。

 すっかり寂しくなったリビング。口を重ねすぎでふやけ気味の唇を手に当てながら陽子さんに指摘された生物研究の課題の説明書きを上から下へと確認。


 テーマ虫や動物……あとは花とか適用されるようです。だったら花の経過観察に手を出してみようかな。


 幸いにも植物を育てるスペースは庭にたくさんあるから充分確保できている。


 思い立った頃には既にソファーから立ち上がり家着から純白のワンピースと暑さ対策に麦わら帽子と肩掛けの鞄をぶら下げ夏用のサンダルに履き替えて外に出る。


 あと赤のブーゲンビリアの髪飾りはもはや必需品。これつけてないと絞まらないので外に出るときとか陽子さんに見せるときは確実に付けてます。


 もはやトレンドマークって呼ばれるくらいに。


「ふ~、あっつい」


 冷房も扇風機も使えないので外はやけに蒸し暑い。セミの声は泣き止むという気遣いがないお陰かもっと鼓膜に響き渡る。

 堪えろ……これも夏の課題なんだ。終わったあとはシャワーに入ってそれから家でいっぱい涼めばいい。

 

「次は~~。次は~~です。お出口は右側です。…………は乗り換えです」


 電車に乗って10分。公共機関を利用して訪れた場所はいかに暑くなろうとも空調がよーく行き届いたショッピングモール♪ ……ではなくそこから何kmか歩いた先にある花屋さんでネットで近くの評判のいい店を探したらここしかなかったのだ。

 誰も好きでこんな怒り狂った暑さを照らす太陽の下で歩いているわけではありません。

 ほんと辛い。今日何度くらいなんだろ、これずっと永遠だったら生きていく自信がないかも。


「いらっしゃいませ~」


「あ、どうも」


 店に入ろうとした早々に声を掛けられる。外観はいかにも花屋ですって感じで入り口には夏を彩るお花がたくさん開花しており元気いっぱいな姿でお客様を迎える。


 あと地味に声を掛けてくれた店員も非常に美人で陽子さんとはまたタイプが違うが一言言ってしまえば清楚系の黒髪ロングの美女って感じで。


 なるほど、同姓の私ですらこの評価になるのだからネットではすこぶる評価がいいという理由が実感できた気がする……んだけどよく見たらこの人、初めて見たって感じにはならない。多分どこかで、いやなんか雰囲気が妙に誰かに似ているような。


「……どうかしました?」


「えっと、その、実は植物をちょっと課題作りとして育ててみたいなって考えていまして」


「ほうほう」


「それで、夏でもこう安定して育てられそうな比較的簡単なお花ってありますか? なるべく初心者にうってつけって感じがあれば助かるのですが」


「課題というのは? あれですか? 学校の宿題とかそういう方面の」


「はい、そうなんです! 理科の課題研究みたいなもので」


「失礼ですけど、もしかして高校生でいらっしゃいますか?」


「海原女子高等学校ってご存知ですか? 私、実は今そこの一年生として通っていまして」


「あー、よく知ってますよ! だって、そこ自分の母校ですから」


 どぇぇぇ!? たまたま評判のいい近くの花屋さんの美女が学校の先輩だなんてびっくり!!


「こんな偶然あるんだ」


「うふふっ。あなたぐらいの年をした妹がいますので、もし出会ったら是非仲良くしてくださいね」


「あのお名前は?」


平井摩耶(ひらいまや)です」


「梨奈のお姉さんでしたか。こんなところで身近な人に会えるなんてビックリです!」


 だから雰囲気がよく似てたんだ。でも、それにしたって梨奈よりもおっぱいの存在感がすっごい。

 と思ったら、多分あの子絶対怒るだろうからお口にチャックしておこう。


「えっ、りぃちゃんのこと知ってるの?」


「はい、いつも仲良くさせてもらっている旭川あさひがわはるかです!」


「まぁ!? あなたがはっちゃんね。うちの妹と仲良くしてくれてありがとう」


「いえいえ、お礼を言うなら私の方ですよ。こんな引っ込み思案で内気な自分に向こうから声を掛けてくれたんですから」


「そう、ひがむこともないと思うよ。あなたは私からしてみれば笑顔がすっごく可愛いから」


「あはは、どうも」


「在学中も卒業後もずっとずっと出来れば仲良くしてね。私みたいな人にならないように」

 

 話し掛けてくれた時からずっと笑顔を絶やさなかった平井さんの表情が僅かに崩れた……気がした。

 あの学生時代になにか後悔しているような……そんな表情で。


「平井さん?」


「ははっ、ごめんなさい。そういえば……遥ちゃんは育てやすい花を検討しているのよね?」


「は、はい」


「付いてきてもらっていい? そこで何個か候補を絞れると思うから」


「分かりました。宜しくお願いします」

 

 そのあとはいつも通り、笑顔を絶やすことのない平井さんから絶妙に素晴らしいチョイスを絞られ結果的に植物研究用にマリーゴールドと個人の趣味でインパチェンスを購入。


 初めのうちは多く買っても知識が少ないと枯らしてしまう恐れがある。

 だから、今回は少なめ。慣れていったらまたここの花屋さんに行くかもしれません。


「来てくれてありがとう、遥ちゃん」


「また時間があれば来ますね! 平井さん!」


「平井なんて他人行儀っぽいから摩耶って呼んで。次からは」


「わ、分かりました!」


「うふっ、大切に育ててね」


「勿論です、任せてください!」


 店内で別れて、次に店の外で砕けた口調で会話する摩耶さん。挨拶もほどほどにして私の足は駅へと目指す。


 今度梨奈に会ったらあの花屋のお姉さんを話題にしよう。凄い美人で色白の肌で癒し系のボイスが口から溢れでている素敵なお姉さんだったと……けど、まぁ自分にとっては素敵なお姉さんといえば陽子さんなんですけどね。

 

 やっぱりあの魅力には誰も叶わないんだよなぁ、えへへへ。

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