さらっと自然にあの生々しくてすべすべな足の上にある膝に座りなさいって言われたらもう座るしかないですよね? なので遠慮なく堪能します。私は本気です
「お疲れ、遥」
「そちらこそ、お仕事お疲れ様でした。陽子さん」
手持ちのスマホでお互いのことを話ながら帰り道の途中でばったりと再会。
私の姿を見た瞬間から手を左右に振り、黒のパーカーにハーフズボンと革の足長ブーツという清楚なコーディネートからこれまではがらりと違うクールなコーディネートで整った目と鼻と口を持つ陽子さんの手には電話で話していたあれを分かりやすく見せてきた。
顔が思わずにやつく。ほんと、私の為ならなんでもしてくれる人だなぁと。
「今日はバイトないからお休みなの。だからお疲れは遥の方ね」
「そうだったんですか」
いつも平日は働いているイメージがあったんだけど。バイトってそんなに気軽でいいのかな?
「……その髪飾り、毎日付けてくれてるの?」
「えっと、はい、毎日付けてます」
「とても似合っている。今のあなたはもっと素敵よ……どんな女の子よりも」
「あぅ」
不意打ちを喰らってしまいました。急に言われたら私の顔平常心で保っていられているかどうか自信がありません。
さらっと太陽のような眩しい微笑み。自然と距離詰められたら……あぁ、変に意識してしまいそうです。
「あ、ああありがとうございます」
「ふふっ、どういたしまして」
もう顔が真っ赤なっているに違いない。甘いボイスで囁かれたら……ひゃあぁぁ、しんどいよぉ。
「あれ、それは?」
逃げ道を作った。ヘタレだ……でも、こういう雰囲気耐えられないです。お願いですから許してください。
「ん? メッセージにも残しているけど……精一杯頑張った分可愛いお人形ちゃんには褒美を与えようかなと思って奮発してみました、じゃじゃーん」
袋から取り出された箱のラベルを近くで眺める。生クリーム濃厚バニラプリン!!
うわぁ~、食べなくても美味しいって分かる! 早速家に持ち帰って即効食べたい。上の生地から下の生地まで余すことなく食べなくちゃ!!
「陽子さん、ナイスです!」
「ふふっ、そうでしょそうでしょ」
「早く家に帰って食べましょう! もう急いでレッツゴーです」
「その前に買ってきたお礼を身体で示して欲しいなぁ」
両手を広げる陽子さん。よく分からないので首を傾げてみたら早くしてという目線が尋常になく注がれる。
プリン……早く食べたいのに。これ下手したら通行人に見られたりしないのかな?
周りをキョロキョロ。うん、人の気配はあまりない。向こうの奥の方に人影が見えるけどだいぶ距離も空いてるし、空も真っ暗だから一応やったとしても。
「やってくれないのならプリンは全部飼い主のものにするから」
「そ、そんな横暴な。私の分はどうなるんですか!?」
「飼い主が食べている様子をずっと隣で眺めてなさい。それが私の機嫌を損ねた可愛いお人形ちゃんへの罰よ」
「ひどい!!」
「カウント5秒前」
あわわわっ、もう人がいるからっていちいち気にしていたら負けだ。
ほんとにカウントが0になっちゃったら折角のプリンがなくなっちゃう!
いやだいやだ、それは絶対嫌!
「5・4・3・2ーー」
「えい!」
勢い余って陽子さんの豊満な胸に飛び込む。弾力のある柔らかい感触と洋服から匂う心安らぐ香りを味わう。
落ち着く。ただ、今にして思えば急いで抱き着こうとしたばかりに力加減がぁぁ。
陽子さんの反応はどうだろうと思ってふと身長の関係で胸にうずくまっていた顔をすっぽりと出して顔を見上げる。
あれだけ罰ゲームだなんだの買い主モードに入っていた本人が頬を染めていることになんだか私も照れくさくなった。
もっといっぱい密着しよう。やめてって言われても止まるつもりはない。
あぁ~、陽子さん特有の臭いがクセになるぅぅ。
「えっ、ちょっと、そろそろ離れても大丈夫よ? お礼は充分受け取ったから」
「ふぁ~、暖かぁぁい」
「……はぁ、しょうがないな。この甘えん坊のお人形ちゃんは」
陽子さんはそれから一切抵抗を起こさなかった。だから私もそのまま両手を彼女の腰に回して密着した。
別にこれまでの仕返しとかではない。ただ単純にあまりの抱き心地のよさに思わずに入り込んでしまったから。
要するに甘い罠に嵌まっただけで私は結果何十分か嫌な顔どころか優しい手つきで髪をまたさらりと撫でてくれる陽子さんに甘えただけである。
落ち着きを取り戻した頃には陽子さんと隣同士で一軒家へめざす。
私以外誰も住んでない家。今更赤の他人を家に入れ込んだところで文句を言われる筋合いはないだろう。
どうせ、父は私のことを含めて家庭に無関心なんだ。いっそのこと自分の意思で好き勝手やった方がよっぽど清々するよね。
「遥、今日はカラオケで大声でも出してたの?」
「え!? なんで、カラオケに行ったことがバレているですか!? 私まだそれ言ってませんよ!?」
家の鍵を開けてお邪魔しますと告げる陽子さんをリビングに案内するやとんでもないことを告げる。
カラオケ。まだ電話でも喋ってないし、一言もそれらしい話題出してなかったんだけど。
「あー、その時々喋っている時どことなく声が疲れているような気がしてね。身体の軸も所々ぶれていたからもしかしてと思っただけで」
発言の一文字一文字に気まずさを感じ取れる。これ以上は詮索するなという意思も合わせて。
なら、これ以上疑問を持たない方がいいのかも。妙に間延びしている声が気になってしかたないけど。
「疲れているように見えました?」
「えぇ、とっても」
「歌い疲れてしまったのかもしれませんね。初めてのカラオケでどっぷりと歌わされてしまいましたし」
「あら、慣れないのに無茶なこと押しつけられたの?」
「まあ無茶なこと押しつけられた……といえば嘘ではありませんが結果的に楽しかったんで」
「自分が楽しめたのなら別にとやかく言うつもりはないけど」
心配そうに見つめる陽子さん。やたらと心配性なお姉さんから贅沢なプリンが入った箱を受け取り、冷蔵庫の中へ。
これを先に食べるのもいいけど、まずは晩御飯から作ろう。折角なら二人で一緒にご飯を食べたい。
一人でご飯はいつも味気ないから。断ろうがなんだろうが今日は私がご馳走したい。
「プリン先に食べないの?」
「晩御飯食べてからにしませんか? プリンはそれからでもいいと思うんですよ」
「えっ? 食材買ってないけど」
「事前に買っておいたので大丈夫です」
「随分とこれまた手際がいいのね」
「いつか近いうちに一緒に食べられたらなぁと思っていたのでいつでも出来るように準備していました!」
「へ、へぇ~」
「さて、今から一時間くらいで晩御飯を用意しますので陽子さんは適当にソファーでくつろいでおいても構いませんよ。私はその間に下ごしらえとかしておきますので」
「自分も下ごしらえとかの手伝いをさせてよ。可愛いお人形ちゃんに全部負担させるなんて申し訳がないから、ね?」
手伝ってくれるのは正直ありがたいのですが、この前のご馳走を振る舞ってくれたお礼の分も含めて陽子さんにはゆっくりと身体を休めて欲しかったのが正直な気持ちです。
でも、こうなると簡単には引き下がってくれないんだよね。だったらいっそのこと。
「あははっ、じゃあお言葉に甘えて……陽子さん、一緒に私と晩御飯を作りませんか?」
「勿論。手分けして分担しましょ」
「はい! 私が適宜指示を出しますね」
直後可愛いお人形ちゃんが飼い主である私に!? とかなんとか文句を言っていたような気がしましたが黙らせました。
さすがにこればっかりは私の指示に従ってもらわないといい料理が出来ませんので。
食材の下ごしらえを陽子さんに任せて、手が空いている間はそこに加勢するようにしたりして準備ができた食材をフライパンに投入したりなどお互いやれることは代わり代わりにやるといった具合で始まりから終わりまで何もかも滞りなく進む調理。
ほぼ息ぴったりなのはまぐれなのか奇跡なのか。とにもかくにも私達は息のあったコンビネーションに一喜一憂しながらも肉野菜炒めと味噌汁並びに玉子焼きとご飯のオーソドックスな晩御飯を台所の近くにあるテーブル席で食べ終え、食後のデザートであるプリンを優雅に一口。
「うまぁぁぁい!」
「口に生クリームついてるよ。あっ、動いちゃ駄目。私が舐め取るから」
「いや、それなら自分でーーあひゃ!?」
晩御飯の時は何もしてこなかったのに。プリンに限っては口の回りについてしまった生クリームを舌で舐め取られたり、無言であーんを押しつけられたりとここにきて飼い主さんのご機嫌を取りながらなんだかんだで時刻は夜8時に。
前は陽子さん自分から家に帰っていったけど、今回は都合がよければ泊めさせたいなぁ。
こんな夜遅い時間に一人にさせるのもちょっと不安というかなんというか。
「陽子さん」
「うん? なーに?」
「よろしければ今日泊まりませんか? ここで」
「いいの? 私、あなたの友達でもなんでもないけれど?」
「別に構いませんよ。これは自分が決めたことなので」
「服と布団とかはどうするつもりなのよ?」
「服はお母さんのでよければ貸しますし、布団は自分の部屋の押し入れから引っ張りますから何も心配は入りませんよ」
「そこまでして私のこと泊めたいのね」
「えぇ、夜も陽子さんと一緒の方が何かと安心しますから」
「そっ、ならありがたく泊めさせてもらうわね」
なんかさらっと失礼なこと言ったりしてないかなと不安に思いながらも陽子さんは素直に誘いを受け取ってくれたので大丈夫でしょう。
よし、そうと決まれば布団の用意……より、まずはお風呂沸かそうかな。
15分以上で溜まるだろうから今のうちにやってしまおう! テーブル席から立ち上がり一旦リビングの扉ーーおわっ!?
いきなり立ち上がったから疲労がここに来て込み上げてきたのかな?
ふらっとする足取り。少し立ち止まってからまた歩こうとしたところで私の名前を呼ぶ声が。
声がした方へ向くと陽子さんはいつの間にかテーブル席からソファーへ。
「遥、ほら早く」
「あっ、はい」
言われた通りお姉さんの真正面に。すると、次に陽子さんはあろうことかとんでもないところに指を指して。
「座って」
「えっ!?」
「なに、文句あるの?」
白い肌が眩しい生々しさしかないすべすべの足……の上にある膝。
目の錯覚でなければ陽子さんは間違いなくここに指を差している。
あ、あぁぁぁぁ、これ、膝枕、ですよね? 俗にいう。
「お、お邪魔してもよろしいのでしょうか?」
「私が許可しているのだから、遠慮なくどうぞ。むしろ断ったりしたら許さないけど」
「では、失礼して」
ソファーの上に仰向けになるようにして頭を陽子さんの膝の上へ。
座った瞬間から実感する。こ、これは最高に素晴らしい触感。もはや市販の枕となんら変わりがありません。
しかも何も言ってないのに私が膝の上に座ってから陽子さんは優しく微笑みながら片手で頭をさわさわと気持ちよくなで下ろす。
あまりの気持ちよさに声がぁぁ。うぅぅぅ、我慢出来なーー
「ふにぁぁぁぁ」
「あらあら、猫ちゃんみたいに鳴いちゃって。そんなに気持ち良かった?」
「はぁ……ぁ……ふみゅうう」
「疲れているならしばらく寝ててもいいのよ? このまま遥が寝るまで頭撫で続けてあげるから。ほーら、素直になって」
はい、なります、素直に、寝ます。お風呂沸かそうかなって思ったけど……あとからでもいいや。
しばらく堪能しよう。うん、そうする。だって陽子さんの膝枕気持ちいいんだもん。
起き上がったら用事しよう。それまでお休みってことで。
「すぅすぅすぅ」
「お休み、遥。お風呂沸いたらまた起こしてあげるね……んっ」