ピンチをチャンスに!? 力を合わせて二人で乗りきってみせます!! の更に知られざる裏側(梨奈視点)~はっちゃんを振り向かせたい、なんとしても~
「あははっ、まだ知り合って間もない人にすごい質問を噛ましてくるんだね。確証もないのにずけずけ失礼な言葉を吐くあなた……相当ヤバイ人間ってことを理解している?」
はっ? あんたの方がヤバイ人間でしょ。否定もないってことは……つまりそういう関係だったということでいいんだろ?
「答えなさいよ。この写真から連想される正真正銘の答えを!!」
「ふふっ、そんな写真撮れたところでいくらでも誤魔化せるでしょ。たとえばここで親戚の妹と仲良くお家まで帰っていったと言えば大体の人は通じるんじゃない?」
ああ言えばこう言いやがって。上手くのらりとかわすとはかなり頭が回る女のようだ。
春野陽子……はっちゃん、なんでよりにもよってこんなヤバイ奴と関わりあっているの?
「それより、あなたのその写真……完全に盗撮よね? 人の許可も取れていないのにこっそり撮影したら違法なんだよ? 高校生でも知らないのかな? 盗撮は立派な犯罪ってことに」
「あんたこそ……はっちゃんに手を出してるだろ。この件は既にもうお互い様なんだよ」
「ふーん、たとえば?」
わざとか、わざとなのか? ここまで頭が回るなら普通証拠隠滅するだろうに。
そっちがそのつもりならつついてやるよ!
「気づいてないの? あんたの唇……掠れてるよ」
明かりが照らされているおかげでよく見える。リップに塗られた口が僅かに掠れているそれは激しく口で何かをした証拠。
普通に物を口に運んだくらいでそう簡単にリップ自体は剥げないように出来ている……なのに、そうならないということは。
「手を出したんでしょ。未成年を相手に!!」
「そうよ……って言ったら?」
「……っ!!」
喋る前に手が出た。ビンタを繰り出し、女は耐えきれず地面の上に倒れるも衣服に付着した土埃をはたいてふらふらと立ち上がる。
その顔に変わりはない。最初から心の余裕がある顔立ちにふざけんなって言ってやりたい。
「あ~痛いなぁ。もう年上相手にカッとなるなんて、あんたの学校にこの傷見せたらどうなっちゃうのかしら?」
「脅しのつもり? そんなことしたらあんたも捕まる羽目になると思うよ……このボイスレコーダーなら写真なんかよりも充分な証拠になる。これで未成年の子に手を出したあんたの人生の終わらせてやるから!」
「それと同時にあなたは遥を失うことになる。今やってることは全部遥を知らず知らずに不幸にしているの。それがお分かり?」
「分かったような口を聞くな!!」
不幸にしているのは私じゃない、あんただ! 腹の底からそんな言葉を吐きたかった。
でも、そうできないのは心の中で僅かにその罪悪感を指摘されたから。
くっ! ほんとむかつく! なんなのこいつ!
「あなたのお姉さん、こんなこと知ったら悲しむんじゃない? 自分のことを棚に上げたらすぐに手を上げる暴力的な妹だなんて……どこまでも惨めね、姉妹揃って」
「はっ? あんた……お姉ちゃんを知ってるの?」
「お姉さんから聞かされたことなかった? 多分梨奈ちゃんが小学生ぐらいのときに」
小学校五年生から六年はたまた中学一年の時にお姉ちゃんがことあるごとに話していた女の子を思い出……した。あぁ、なるほどお姉ちゃんがよく楽しそうに話していたのんちゃんって女の子は。
「春野……あんた、もしかして生徒会長のお姉ちゃんを支えていたーー」
「副生徒会長春野陽子。あなたからしてみれば10年先の大先輩ってところかしら」
春野陽子が海原女子高等学校の元副生徒会長。その事実に私の足はぐらりと揺れるもすぐに体勢を取り戻す。
私の姉はこんな女にずっと長らく苦しめられていたのか。
「お姉ちゃんは苦しんでいた……今でこそ落ち着きを取り戻していたけど、あんたのせいでお姉ちゃんは!!」
「私は麻耶のこと最初から最後まで良くも悪くもビジネスパートナーだと思っていた。好意とかはまるでなかったの」
「でも、お姉ちゃんはそんなあんたに一目惚れしたんだよ!! なんで、それでもあんたは冷たくしたんだ!」
「麻耶が一目惚れだったとしても、私は一目惚れじゃなかったから……って答えたらあなたは納得出来るの?」
「ふざけないで!!」
「真剣に答えているつもりなのよ、これでも」
「人の大事な気持ちを弄んだ挙げ句次は私のはっちゃんを狙っているのか? あんたはどれだけ私達を苦しめたら気が済むの!! お願いだから、もうこんな馬鹿なことはしないで」
「できない相談ね、それは」
「えっ?」
心臓がギュッと苦しい。こんなの耐えられないよ……まさかお姉ちゃんが今目の前に立っている女がよりにもよってはっちゃんを弄んでいることに。
私が何をしたというんだ? お姉ちゃんが何をしたというんだ?
また、こいつは大事な物を奪うのか!
「信じられないかもしれないけど、私も一目惚れって奴なの。今までずっと26年間そんなくだらない言葉信じていなかった……でも、出会ってしまった。一目見たときにあの子の寂しいそうな目を全部私が呑み込んでしまいたいって思ってしまうくらいにはそれが一目惚れだってことも頭の中ですんなり認めてしまうほどに」
「ははっ、はははは。ふざけてんのか、この期に及んで」
「旭川遥が好き。近い将来あの子に一緒に死んでって言われたら素直に死んでやってもいいって思っちゃうほど心の底から愛しているから」
「はっちゃんは渡さない。絶対にあんたなんかに渡したくはない」
「最終的に選ぶのはあの子よ。どれだけ私が一目惚れでなにかと理由をつけて関わりを持とうとしても選択は遥自身。もし、あなたが無理矢理にでも選ばせようとするなら」
足が近づく。拳を握っているのに私の身体はブルブルと震え上がる。
なんなんだ、これ。どうして、こんな女を相手に怖じ気づいているんだ?
構えろよ……早く構えろよ!
「容赦なくあなたを地獄の底まで苦しめてやるから……覚悟しなさい」
「あっ、あああ」
「じゃあね……梨奈ちゃん。また用事があるなら私の家に来なさい、そのときは話し相手として付きやってあ・げ・る♪」
春野の足音が段々と消えていく。今更追いかける気力もないし言い返せる気力も残っていない。
悔しい……しかし、10年先を行く年上の心の余裕とやらにはどう抗っても勝てる気がしなかった。
貧しい公園の中心で取り残される私。ふとスマホの電源を入れて思い出したかのように開く。
メールに遅くなるからとお母さんに送って数時間。案の定ひっきりなしに電話が掛かっていた。
買い物をせずにふらふらと寄り道をし過ぎたのかもしれない。着信相手のお母さんの途中に紛れ込んでいたお姉ちゃんにタップする。
1コール、2コール……
「りぃちゃん、今どこにいるの!? お母さんもお父さんも滅茶苦茶心配していたんだよ! なにか事件に遭ったんじゃないかって!」
「ごめん、お姉ちゃん……すぐに戻るから。だから実家で待っててくれないかな?」
「いいえ、迎えに行くから現在の地図を住所付で送りなさい!! 返事は!?」
「うん、分かった……送るよ」
「絶対にそこから離れないでよ。じゃないと私」
「大丈夫、お姉ちゃんの言うことは守ってみせる」
「大人しく待ってて。スピード上げて走るから」
「なるべく飛ばさないでよ。警察に捕まったら元も子もないんだから」
「はいはい、それくらい分かってます」
きりのいいところで私の方から電話を切り上げて、ちょうど座れそうな遊具に座りながら空を見上げる。
電話で駄目なら直接会ってから春野の話題を出そうとも考えていたけど姉思いの私には重かった。
正直軽々しい口調で春野と出会っただなんて出せるわけもない。
臆病者だ、私は。春野の話題を出して泣きじゃくるお姉ちゃんの顔なんて見たくもないし思い出したくもない。
あんなことはたくさんだ。今日のことは上手くはぐらかして乗りきってしまわねば。
ただ、帰ったあとの言い訳が思い付かない。試しにネットの知恵袋先生に頼みの綱として頼ってみようかな?
明るい星が立派に輝き、暗い星も比較的やや目立つ上質な星空の下で生物の声に時々耳を傾けながら私はお姉ちゃんを待つ。
夜遅くに家へ帰ったとしても説教が早く済むような最適な言い訳をじっくり……そう、じっくりと待つ。
時々運んでくる夜風に気持ちよく身体に伝わっているとしても。
「りぃちゃん、りぃちゃんってば」
「すぅ、すぅ、すぅ」
「あらら、疲れちゃったのか……もうどうしようもない妹ね」
「すぴー、すぅ、」
「ふふふっ、可愛い寝顔。そうだ、ここは久々に撮ってしまいましょうか。バレないうちに」
「ぐー、すぴー、すぅ、すぅ」
なお家に帰宅した後に隣は姉の摩耶で正面は母というテーブルでの緊急対談を取り行った際に考えに考え抜いた言い訳は渡されたお使いのメモ書きが強風で飛んでいってしらみ潰しに探しにいったら夜まで掛かってしまったとのこと。
当然母親は下手な言い訳に激怒しましたが、優等生で小さい頃から梨奈と同じく可愛がられた摩耶(現在一人暮らし)になだめられ一件落着……だったそうな。
梨奈の寝顔については一切バレていません。きっと、いや既にアルバムとして飾られているでしょうね……
ここまで可愛いお人形ちゃんにされてしまった私を拝読していただき誠にありがとうございます(誤字報告いつも感謝です)
展開としてはこれでもまだ続いていく予定ですので、時間がある方もしくは気分が優れている方にはブックマーク、ポイント(この部分の評価に関しましては後書きの下の方にある星に当たります)など登録していただければ作者は天井を突き抜けて空中で感謝を募ります(その後はもれなく落下してクレーターの一部になります)
では、これからも本作品をよろしくお願いいたします。