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ピンチをチャンスに!? 力を合わせて姉妹プレイで乗りきってみせます!! 

「はっちゃん?」


 酷く驚いた顔を浮かべる。それもそのはず隣に立っている女性は面識がなくあろうことか今も手をばっちりと繋いでしまっているのだから。


「あっ、梨……奈」


 どうしよ、素直に私達の関係を言ってしまえば間違いなくアウトだ。こんなところで陽子さんとの関係を切りたくない。


 好きな日に好きな場所でお喋りしたい。クラスメイトの梨奈に問い詰められて私は上手くはぐらかせる自信がない。

 この子はすぐに嘘を見破る。たった数ヶ月の関係なのにどういう理屈なのか分からないが結果的にバレてしまう。

 くっ、でも正直に話したくない! 梨奈に悪いけど、ここは!

 

「ダレ、ソノオンナ?」


 明るくハキハキと声帯をしている梨奈の一度も聞いたことがない低い声でまるで刃物で首を突くかのように鋭い。

 とても怖い。目もとも恐ろしく陽子さんが手を強く握ってくれてなかったら後退りしてその場で逃げ出してしまいそうなほど空気が冷たい。


 沈黙は危険だ。ここはせめて関係を疑われないよう設定で誤魔化しきってしまわないと!

 ありがとう、陽子さん。ピンチをチャンスに変えて見事乗りきってみせます……疑似の姉妹として。


「ごめん、紹介が遅れたね。この人は私の親戚のお姉さんで今日は買い物に付き合っていたんだ……あはは」


「もう、遥! いっつも私のことはお姉さんじゃなくてお姉ちゃんって呼ぶように言ってるじゃない! なんで呼んでくれないのよ」


 えぇぇぇ、このタイミングでお姉ちゃん呼びにこだわる必要があるんですか? 

 普通ここは私のデタラメに同情して一緒に乗り切る場面ですよね?

 

「お姉ちゃん? はっちゃんって親戚にこんな美人さんがいたんだ……へぇー」


「初めまして、春野陽子です。あなたは遥のクラスメイトさんかしら?」


「はい、そうですが?」


「お名前は」


「……平井梨奈です」


「そっ、あなたがふーん」


 じろじろ眺めても何もありませんよ? というか、梨奈嫌がってます。顔がもう完全に物語っています。

 

「仲良くしてあげてね。この子、けっこういやかなり内気だから」


 ひどっ! そんな言い方あります!? 思わず口に出しそうになったけど堪える。

 どうみたって、この空気の張り裂けた状況下で大声を出せる雰囲気ではありません。


「言われなくとも大切にしますから。そのお言葉はありがた迷惑です」


「あらら、嫌われちゃったか。私達まだそんなに知り合って間もないのになぁ」


 視線バッチバチ。まるで火花を散らしているかのように陽子さんと梨奈は両者ともにいがみ合っていた。

 うぅぅぅ、なにこれ怖いんですけど。こんな場所に挟まれたくないです。


「親戚のお姉さんのわりには凄く仲良しですね。手を一緒に繋いでいるなんてよほど愛情がおありで」


「ふーん、もしかして私達のこと羨ましいって思っちゃった? ふふっ、梨奈ちゃんって子供っぽいんだね」


「はっ、それで揚げ足を取っているつもりですか?」


「取ってないよ、別に」


「あと馴れ馴れしく話し掛けないで。私、あなたと仲良くする気はありませんから」


 舌打ちしそうな顔を浮かべながらも距離を取る梨奈と全く怯むようすもない陽子さん。

 なんだかこのままずっと眺めていたら、もはや別のジャンルのアニメが飛び出してくるじゃないかと錯覚してしまうほどの険悪な雰囲気。


 ひとまず陽子さんを親戚のお姉さ……お姉ちゃんとして認識させることには成功したからさっさと梨奈とは別れを告げよう。

 長いこと、こんな状態でのさばらししていたら梨奈に余計な疑問を増やしてしまうだけだ。


「梨、梨奈。もう私達そろそろ行くね。帰りはお姉ちゃんに私の家に到着するまでは意地でも帰らないって言われてるから」


「はっちゃん……」


「行こう、お姉ちゃん」


「えぇ、わっ、そんな急に引っ張らないでよ」


 強引に会話を断ち切り、家まで早足で目指す。去り際に浮かべていた梨奈の表情が強く脳内に刻まれる。

 名も知らぬ少女から託された依頼の件で昼食をしていた時に私が思わず走って逃げようとした時に浮かべたあの顔。


 唇を強く噛み締め、酷く苛まれていた苦痛の表情を。心のなかでごめんねと言いながらも私と陽子さんは薄暗くなり始めた夜の明かりの下で自宅へと直行する。


 あの様子なら即日アクシデントに見舞われる可能性は限りなく近い筈で少しくらいは心配しなければならないけど。

 無事に問題が起きないことを祈らせてもらおう。


「見られましたね……私達」


「親戚について深くは訪ねられなかったし、過剰に心配する必要性はないでしょうね。ただ、今後お人形ちゃんと梨奈の距離感が変わってしまう恐れがあるからそこだけは注意しておくように」


「はい。なるべく注意します」


 ばったり思わぬ人物を目の前にしても初めから終わりまで冷静に振る舞っていた陽子さんに怯えの表情はなかったし隠しているようにも見えない。

 どこからでもさっさとこいと言った感じで梨奈の食って掛かった態度もひらりと回避する。


 胆が座っているのかはたまた長年培ってきた根性なのかそれとも私よりも長年生きてきた年上の余裕なのだろうか。

 私の家まで無事に見届けた陽子さんは満足げな表情を浮かべて紙袋から更に小さな小包を取り出す。

  

「遥、受け取って」


「えっ、なんですこれ?」


「開けてからのお楽しみ。その箱は寝る前にほどいて」


「今じゃ駄目ですか」


「恥ずかしいからやめて。これでも誕生日プレゼントの代わりになるかなとか考えて選んでるんだから」


「私の誕生日知っているんですか?」


「知るわけないでしょ、あくまでもプレゼントの代わりなんだから」 


 真っ赤な箱だけど黄色いラインも入ったお洒落な紙の箱。中央に結ばれたリボンをほどいてしまえばプレゼントの中身も分かるだろうけど陽子さんに言われて我慢を覚える。

 私が一人で待っている時に必死に選んでくれていたとしたらこんなにも嬉しいことはない。

 

「……誕生日は10月10日です」


「スマホの手帳に書き込んでおく」


「ちなみに陽子さんの誕生日は?」


「12月24日」


「クリスマスの日?」 


「えぇ、よりにもよってクリスマスプレゼントと誕生プレゼントが重なる日に産まれてしまったのよ……この私が」

 

 うわぁ、ということは誕生日が訪れてもプレゼントはほぼ一つしか渡されないということか。

 私はその前に誕生日が来たとしても中学までは父の素っ気ないメッセージと冷蔵庫にケーキが1ホールだけ虚しく置いてあったりするんだけど。


 こんなの一人で食べたところで私が感謝すると思っているのか? あんなメッセージだけでありがとうと口から出ていると思っているのか? 

 プレゼントに期待なんてしていなかった。けど、それならせめて直接的会って言えばいいじゃないか。

 

 いつも仕事ばっかり逃げ道作って逃げないで私と正面に向き合ってよ。

  

 あぁ、思い出すだけでむかつく。なんであんな人が父親なのか? 

 お母さんが生きていたらこんな思いをせずに済んだのかな? ねぇ、もしどこかで私を見下ろしているのなら……教えてよ。


「遥? 遥!! しっかりしなさい」


「…………あっ。すみません、ぼうっとしていました」


「色々あったから疲れたようね。今日は夜更かしせずにすぐに寝なさい。ただし、小包だけは絶対に開封してから寝るのよ、いい?」


「あはは、そこまで強気に言われなくとも開けますってば」


 こんなにワクワクするプレゼントは初めてです。開けないで寝るなんてむしろ勿体ないですよ。


「本当に?」


「本当です。信じてください」


 真剣に見つめた。けど、いつも余裕のある陽子さんの方から先に目を逸らされた。

 どうしてか耳が赤い。夜に差し掛かろうとしていてもよく見える。

 

「今日はありがとう。色々と特に最後も含めてスリリングだったね。また、予定が合えば会いましょ」


「はい、気をつけて帰ってくださいね」


「えぇ、それじゃあ」


 名残惜しくもあるが、陽子さんの背中が消えるまでずっと見届ける。

 時々振り向いてくれた時は手を振って、そうやって今日のお出掛けは終わりを迎える。

 

 明日から学校が始まる月曜日。残念だけどこの月曜日とやらに祝日の設定されていないので起きたと同時に学校に向かわないといけない。

 自宅の扉を開けてから家事もご飯も入浴もてきぱきとこなしていくうちに訪れる就寝時間。

 

 あれから陽子さんの連絡も梨奈からも連絡が来ていない。夜の10時前後。

 夜更かしやめて早く寝なさいというアドバイスに従って就寝……する前に。


「なにかな、これ」


 リボンをほどいて綺麗に包まれた箱を丁寧に破ってゆっくりと出てきた白い箱。

 開けてみると中にはヘアピンが入っていた。しかも、これまた綺麗な赤色の花が特徴的的なヘアピン。


 俗にいう花の髪飾り。こんなに心が踊るプレゼントは初めてで私はなんともいえない高揚感に包まれていた。


「あー、ほんとずるい」


 なんて花なんだろ? 箱とかヘアピンに何か書いているがさらっと確認。

 箱の裏の詳細欄にローマ字でブーゲンビリアという文字を見つける。

 花には言葉があるそうなので、気になったことはすぐにスマホのネット先生に聞いてみる。

 検索ワードはブーゲンビリア 赤 花言葉で。


 ………………


 ………………ん?


 情熱、あなたしか見えない……?


「どれが正解なんだろ?」


 情熱なんて絶対あるわけないし、かといって残りのあなたしか見えないとかだと遠回しなプロポーズに聞こえる。

 いやいや、私これでも飼い主に買われたお人形ちゃんですよ? 

 自惚れてはいけない……けど、全然というより全部当てはまっていないような。


「聞きたい……うぅぅぅ、でもなぁ」


 明日の仕事に備えて寝てるよね? そう思った私はブーゲンビリアが咲き誇ったヘアピンを大事に箱にしまってからベッドに入る。

 悶々とした気分、天井を眺めてもなおもどかしい気持ちに浸りながら視界は段々と眠りに誘われていく。

 意味はまた陽子さんに時間があるときに聞けば……いっか。

白のブーゲンビリア:熱心な気持ち、あなたは素敵


ピンクのブーゲンビリア:魅力がいっぱい、あなたは魅力に満ちている


一口にブーゲンビリアといっても花の色が変わるだけで花言葉がこんなにも変わるんですね……一方でブーゲンビリアには薄情という言葉もあるようです。

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