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とっても素敵な1日。でも、それはピンチに早変わり! 具体的に言わずとも大ピンチ!!

「みてみて、遥! すっごくいい写真に仕上がってる」


「うわっ! それ、みせないでくださいよ~」  


「特にこの最後の写真なんて……やばいっ、興奮してきた」


 旭川遥16歳。高校一年生にして10歳年上のお姉さんに絶賛(はずか)しめを受けております。

 だって現像された最後のフレームの写真なんて人様に見せたら赤っ恥ものですよ? 


 これ手違いで世に出されたら、私もう人間として生きていくのが難しいくらい卑猥すぎるレベルで出せませんから!

 うぅぅぅ、なんでがっつり……口づけしちゃってるの! あと、こんな人前で見られているかもしれない場所で堂々と見せつけないで!!


 それと分かりやすくニヤニヤしながら写真を切り分けないで欲しい。

 こっち、滅茶苦茶恥ずかしいです。穴があったら今すぐにでもダイブしてしばらく経ってから出たいレベルでヤバイです。


「はい、これ。大切に保管してね……なくしたら許さないから」


「なくしたら社会的にまずいので家に置いておきますね。これならバレる可能性ありませんから」


 自分の部屋の写真集にこっそり忍ばせておこう。あとから見返してもいいように……って、なんでまた見る前提になっているの!? 


「じゃあ、私は最後の写真だけ切り取ってオリジナルのキーホルダーに貼り付けてから鞄にぶら下げておこうかしら。こうすればいつでもどこでもいかなる場所でも可愛いお人形ちゃんを見たい放題出ーー」


「それだけはほんとやめてください、冗談でも言わないで」


「冗談で言うと思ってる?」


「真剣に言ったとしてもお願いします。さすがにその写真だけは家に置いておくなりして保存してください。あとはお好きなようにして構いませんから」


 あんな危ない写真が外に晒すなんて死刑レベルだ。羞恥心一杯で頭が爆発して簡単に死んでしまう。

 他の写真なら肩を寄せ合ったり、身を寄せ合ったり、壁ドンされたりして比較的安全……じゃないかも。


 最後の写真以外も全部アウトだ。世に出すにはあまりにも危険すぎる。

 少なくとも女子同士で撮るような写真とは到底思えない。一歩間違えたら犯罪で裁かれるレベルでもはや爆弾級の代物。

 陽子さん……お願いだから、もうちょっと危機感持ってください。


「ふー、可愛いお人形ちゃんの頼みなら仕方ないか。この写真はひとまずお家に飾ってじっくりと堪能しとくね♪」


「ほっ」


「さて、それじゃそろそろゲームセンターを攻略していかない? まだまだ遊び足りないし」


「はい! まずはシューティングからやりましょう! これで陽子さんをぎゃふんと言わせてみせますから!」


「おっ、言ったなぁ。だったら、私も本気出しちゃおっと」


「望むところです!」


 プリクラではあれだけ醜態を晒しまくったんだ。せめて、他のゲームで汚名返上を!

 使命に燃えて、陽子さんをゲームに誘うことに成功を収めた私は意地でも勝ちたいという闘志に燃えたぎりどのゲームも全て冗談抜きの気合いで対峙する。


 特に勝っても負けてもこのバトルにデメリットもメリットも存在しないけど、ここは是非とも勝利したいところ。

 ゾンビのくせにやたらと元気なシューティングゲームは私の勝ち、ダンスゲームは体力切れで陽子さんの勝ち、レースゲームはカーブをインコースで攻めたり初心者ではなく上級者でないかと疑わしいほどのドリフトを見せつけたりするなどのテクニシャンなドライビングでこれまた陽子さんの勝ち……この時点で次のゲームに勝っても勝利することは叶わない。


「くっ、残りはクレーンゲームだけ」


「この商品をどちらか先に取った方が勝ちにしましょうよ。そっちの方が燃えるでしょ?」


 勝ったら引き分けのところを陽子さんはあえて勝ちということにして提案を投げ掛けた。

 いいアイデアなのですぐに首を縦に振り、正真正銘最後に負けても勝っても勝敗が決まるクレーンゲームに挑む。


 対象の景品はペンギンのぬいぐるみ。可愛い形をしながらもやや垂れ目でやる気のなさそうな顔をしていてとてもではないがニーズ受けは難しいのではないかという印象。

 しかし、これまた一目見て挑戦しようと意気込んでしまったので今更試合を変更することが出来ない。

 

 自前のお金を入れて横矢印のボタンで調整、とどめに縦矢印のボタンで微調整。

 うーん、まあぼちぼち。おっ、おっ? ありゃ? あー、一発で取るのは高望みが過ぎたのかも。


「あはは、無理でしたぁ」


「うふふっ、じゃあ次はこちらのターンね」


 完全に悪い顔を浮かべている陽子さんはお金を入れて横、縦のボタンを素早く押してターゲットを狙い打ち。

 クレーンがぱかっと開いた同時に下へと下がり、目標は地面へ。

 完全空振り、これまた全然かすりとも当たってませんが。


「陽子さん?」


「今のはたまたま調子が悪かっただけ。次にターンが回ったらぬいぐるみは確実に取れるから」


 こういった台詞をペラペラと迷いなく語っちゃう人はもれなく言い訳をしている。

 大体クラスメイトの梨奈もそんな感じだった。クレーンゲームが苦手な人にありきたりな言葉並べ。

 

 ターンが回ってきた瞬間に息を整え、横と縦の矢印を細かく調整しながらぬいぐるみの射程圏内へ。

 ペンギンの首根っこに垂れ下がった輪っかにクレーンをはめて見事に掴みきったぬいぐるみは商品の受け取り口へと落下。


「私の勝ちです」


「お、お見事……まさか、お人形ちゃんごときに敗北を許してしまうなんて」


「屈辱でしたか?」


「えぇ、屈辱よ。これ以上ないくらいに」


 言葉のわりには口角が上に上がっている陽子さんの表情には屈辱という文字が似合わないほどに眩しかった。


「どうぞ、これ受け取ってください」


 ふてぶてしくやる気がない顔を浮かべるペンギン。私は迷わず渡す……反応は戸惑っている様子。

 突然貰われてもどうしたらいいのか迷っているようです。


「受け取っていいの? お人形ちゃんが取ったんだから自分の物にすればいいのに」


「元々取れたら陽子さんにあげようと思っていたんです。色々貰っておいて何もプレゼント出来ないのは辛いのでせめてこれくらいは受け取ってもらえないでしょうか?」


「あー、そんなこと言われたら断るに断れないじゃない!」


 間延びした声で照れくさそうにぬいぐるみを受け取る陽子さん。

 耳も真っ赤で視線も全然合わせてくれない。この人は唐突なサプライズに弱いのだろう。

 なんか、いつも心に余裕がある人だなと思っていたからこれは実に意外かも。


「大切にしてくださいね」


「言われなくとも大切にする。もう絶対に返してやらないんだから」


 ペンギンさんは店員から紙袋をもらってそれでお家まで持っていくようです。

 ふぅ~、これにてゲームは全部終わりです。お疲れ様でした。


「……このあとどうします?」


 もうゲームセンターもこれで充分満足した。このくらいで私達のお出掛けも終わりかな?

 時間帯もお昼過ぎてそろそろ夕方に差し掛かる頃合いだろうから。


「喉渇いたからジュースでも買って休憩しましょうか。帰るのはそれからでも遅くないでしょ?」


「えぇ、私もちょうど喉が渇いていたんで助かります」


 四階のゲームセンターから立ち去り、一階のホールに戻る。いくら時間が経とうとも減らない客足。

 都合よくいい具合に並んでいないジュース屋さんでブドウジュースと青森産のりんごジュースをそれぞれ頼んでいい具合に空いていたベンチに座って一口。


 うーん、ぶどうのこのほどよく染み渡る食感と舌触りがなんとも美味です!


「遥、ちょっとだけここでお留守番してもらえる? なるべく早く帰ってくるように努力するから」


「お留守番って一体どこへ?」


「何があっても飼い主が戻ってくるまで男に誘われても女に誘われてもホイホイ付いていっちゃ駄目よ。お願いだから、それだけは必ず頭の片隅にでも入れておいて」


「えっ、陽子さん!?」


 質問に答えることなく言いたいことだけ言って去っていってしまった。ベンチに一人だけ残され、ただ飲み物を口にすることしかできない。


 少し離れただけでなんだか心細くなってしまった。待ち合わせの時からずっと……トイレ以外一緒に歩いてたからその反動が余計に跳ね返っている。

 一般人の集団の中へと消えていった陽子さんの背中。何分間待てばいいのか? 腕時計を片手に構える習慣がないので時間はスマホでちまちま確認しよう。

 

 一人で座っていることがこれほど苦痛だなんて思いもしなかった。 

 私を置き去りにして今どこで何をしているのだろう。なにか危ない目に……遭ってるわけないか、あの人は私よりもしっかりしている人だから。

 

 でも、少しくらい……少しくらいは連絡してほしいよ。あとで何秒で何分で戻ってくるとか正確に。

 いや、それはおかしいでしょ。友達だとしたらそれは絶対嫌われる奴だ。


「お待たせ、遥! ん? 顔色大丈夫??」


「別に問題ありません。心配もしていません」


「あら、私がちゃんと戻ってくるかどうか心配してくれていたの?」


「ち、違っ」


「へー、じゃあ違うか」


「違わ……ないです」


「もう拗ねないでよ、それぐらいで」


「拗ねてませんから。勘違いはやめてください」


 頬ずりされたぁ~、ぎゅって強く抱き締められたぁ~、陽子さんの特有の良い香りが鼻腔をくすぐって、ふぁぁぁぁ。


「じゃあロッカーの荷物回収してからお手て繋いで一緒に帰りましょうね、二人仲良く」


「ふぁい」


 またこうして結果的に陽子さんに振り回されるだったけど、本心では幸せいっぱいで。

  

 いつか予定が重なったらどこか行きたいな……と、例の写真の件はどっか頭の片隅に追いやられていて。


 充実した1日。私を家まで送り届けるということで自宅近くの駅で一緒に降りて、一瞬手を離して改札機に切符を入れてまた程なくしたら手を繋ぐ。


 どこでもずっと私達の会話は尽きない。むしろ言葉がなくとも、私と陽子さんの空間自体が居心地よくて……でも逆も当然あったりして。













「はっちゃん?」


「あっ、梨……奈」


「ダレ、ソノオンナ?」


 帰り道髪を一本に結んだクラスメイトの梨奈とばったり目を合わせたその時までは幸せでした。

 ここからは言葉を慎重に選ばないといけない。でなければ私と陽子さんとの関係が終わってしまう。


 この気持ちの答えはまだ見つかっていないのに。

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