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勇者などいない世界にて(原本)  作者: 一二三
第一章 二つの世界
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第一章08 魔法研究主要都市

失敗は()()()()


この私がお兄ちゃんを見つけ出せないなんてことがあったなら、精神的に廃人となりかねない。

私を快く送り出してくれた村の人たちや、これから関わって協力してくれるであろう人たちにも顔向けができない。


だから、失敗を赦せないし、許さない_____




馬車に揺られながらメイアは大都市ユニベルグズへ向かっていた。

御者の人曰く、あと半日もあれば到着するらしい。

ここまでの四日間、メイアは途中で休憩に入った町で軽い依頼をこなしながらお金を稼ぎ、旅の資金に充てていた。

初めての経験だらけの四日間だったが、旅がこんなにも疲れるものなのかと軽い悲鳴もあげていた。



「私もまだまだひ弱だなぁ。これじゃお兄ちゃんに会う前に朽ち果てちゃうよ。まずは、力をつけるところから始めなきゃいけないかぁ」


「おや、お嬢ちゃん強くなりたいのかい。若いっていいねぇ、なんでもできるって感じ」


「いやぁ、世間の女の子なんかは修行なんてしませんよ」


「わしも御者を始めてから初だよ、強くなるために遠いところからユニベルグズまで行こうとする女の子に会うのは」


この四日間で、暇潰しに御者と会話することがしばしばあったが、大都市に向かう理由を言うのはこれが初めてだった。


「もうすぐ到着だよ。道が整備されてて、思ったより早く目的地に着きそうだ」


「あ、そうなんですね。わかりました!」


とはいえ、もう到着しそうとのことなのでこの御者さんとはお別れだ。

お陰でそこまで退屈することもなかった。

少し先に見えてきた巨大な都市、それを見てつい感動の声が漏れ出てしまった。




大都市ユニベルグズ。

その名は「連なる大地」を意味しており、その名の通り連なる岩山に囲まれた土地に建てられた巨大な街である。

岩山付近に建てられていることもあり、街の中心に向かうほど坂を登っていかなくてはならないという不便にも思える都市であるが、それが逆に観光名所として知られ多くの人で溢れかえっている。



「あのぅ、すみません。魔法研究施設ってどこにあるかわかりますか?」


「魔法研究……あぁ、いくつかあるけど、特に知られているのはこの坂をずっと登っていった所にある白い建物だよ」


街の中に入ったメイアが尋ねた三人目の人が答えてくれた。

ちなみになんで前の二人はダメだったのかというと……いや、なんでだろ?


「ありがとうございます!」


お礼を述べると早速メイアは長い坂を登り始める。

だが十分も登り続けていれば疲れるのはメイアも同じ、街が広いだけにずっと坂。

周りの人も「疲れた」だの「休憩しよう」だの言っているが、地元の人と思われる人たちはこの坂に慣れているようにも見える。


「にしても長すぎる……けど、これも修行だよ!そう思えば、すぐに坂に慣れるでしょきっと!」


微笑を顔に浮かべ更にペースを上げて足を動かす。

すると一分もしない内に白く大きな建物が見えて来る。

街の人に教えてもらった特徴と一致しているので、おそらくそれが魔法研究施設で間違いないだろう。

建物の中に入ろうとしている女性がいた為、メイアは急いで声をかける。


「あの!ここがユニベルグズの魔法研究施設ですよね?」


「ん、あぁそうだが、君は?見たところ普通の女の子って感じだが」


そう答える女の人は長髪で、白いコートを身に纏っている。

周りにも同じような服装の人がいるのでこの建物の制服だろう。


「私、メイア・スマクラフティーです!魔法について知りたいってのと、あと、私の魔法の精度を上げたくてここに!」


「ふむ……いい目だ。天真爛漫というのは私も好きだ。うむ、よかろう、私についてきてくれ」


「は、はい!」


てくてくと、メイアは前を歩く女性の後ろをついていく。

彼女は美しく、そしてかっこいいという印象を抱かせる。


周りを見渡すと、「魔力の向上について」「魔力の種類」などについて溢れんばかりに黒板に書かれた文字がある。

それを見て目を輝かせているメイアをみて前を行く女性が微笑んでいる。


そういえばまだ名前聞いてないなぁ。

なんて呼べばいいんだろ。


「おっと、そういえばまだ名乗っていなかったか。私の名前はナハト・ブルーメだ、よろしくな」


メイアの心の内を読んだのかと言いたいくらいジャストタイミングでの自己紹介に驚いてしまった。


「おっと、君はここで待っててくれ。受付の者に話をつけてこよう。なに、そう待たせるようなことはしないさ」


踵を返し受け付けの方へ向かうナハトを見送り、メイアは再び周りの黒板を見る。

一つ気になる項目を見つけ近くによって読んでみる。



『魔力とは流体のような性質をもつとされる』


『魔法球に魔力が注がれるならばそれは液体系魔力。

また、魔法球に魔力が纏われるならば気体系魔力である』



『前者の性質を持つ者は純度の高い攻撃魔法などを得意に、後者の性質を持つ者は造形・支援魔法などを得意とする』



「これって、お兄ちゃんが消えちゃう前に話してた内容?

魔法球に魔法を纏わせることにも意味があったってこと?」


グランの失踪前、彼は魔法球には魔法を注ぐのが肝心だと言っていた。グランは魔法球に注ぐことが出来るから強いのだろう。



「……それは逆に、私にはお兄ちゃんみたいな戦闘に特化した魔法の才がないってことでもあるのかな」


ふと、小さく声が漏れてしまう。

しかし、その声は澄み切っていて、聞こうとすればはっきりと聞こえるような声で。


「そんなことはないぞ。気体系の者であろうと、鍛錬次第では魔法球の中に注ぐことはできる」


突然話しかけられたことに驚き素早く振り向くと、そこには薄い本を手に持ったナハトが立っていた。


「君には液体系の魔法を使える兄がいるのか。そうかそうか、なら君にも彼のようなことができるやもしれんな」


「え……お兄ちゃんと私に何か関係があるんですか?」


「血が繋がっておるのだろう?本来なら似たような性質になるはずだが、君たちは運がいい。互いに違う性質ということは、どちらも扱えるようになれるってことだ」


ナハトの話を聞き反芻するメイアの顔は徐々に明かるくなり、のめり込むようにナハトの言葉に耳を傾けていた。


「とはいえ、全く魔法球の中に魔力を込められないというのは不思議なものだな。君の兄は纏わせることもできるのか?」


「あ、そういえばどちらもできてましたね。お兄ちゃんは造形魔法も単純な攻撃魔法もどちらもやってましたけど、私は支援とか造形魔法ばかりやってたかも」


「なるほど、もしかしたら魔法の使用傾向も関係があるかもしれないな。どうだメイア、私たちの戦力測定とやらを受けてみないか」


「や、やります!」



これでもかと言うほどの即答だった。


戦力測定とナハトがいったそれは、あくまでも魔法を用いて戦力を測るものである。

よって、単なる武術で戦う者にとっては無縁のものだが、魔法を主に戦闘の要とするメイアにとってはぜひともやりたい計測だ。




「ここが、私たちが魔法の精度や力を計測する場所だ。とは言っても、計測方法はとても原始的というかなんというか、対人での勝負という形なんだがな」


前を進んでいたナハトが苦笑を漏らしながらこちらを向く。

施設は地下にも繋がっており、坂を登った分下まで続いているのかと考えると目の前の広い空間にも納得である。

この研究施設を教えてくれた青年も言っていたことだが、ここが特に知られている場所だというのも、こういう広大な敷地を持っていることが理由としてあるのだろう。



「ん、そういえば今更だが、君は戦闘ができるのか?先程までの話の内容は君が戦えることを前提としたものだったが、君は普通と表すのがピッタリな少女だよ」


「んー、得意ではないですけど、できますよ?例えできなくとも、私はできるようにならなければいけないし、もっと強くなる必要がありますから」


「そうか。天真爛漫なだけではない、何か強い意志のようなものを君からは感じとれる。珍しいな、君のような若者は」



ナハトは真剣な眼差しでメイアを一瞥すると、目線を違う方向へ向けていた。

何を見ているのかと同じ方を見てみると、エリート感を醸し出している男性がこちらに向かってきていた。



「彼が君の相手をしてくれるクフ・バッハだ」


「あぁどうも、クフ・バッハです。君がメイア君だね?よろしく頼むよ」


メイアの予想とは裏腹に、彼は意外にも内向的なのかもしれない。

眼鏡を掛け少し長めの髪、そして優しい声色はメイアのイメージする目の鋭く筋肉も凄い、そんな人とは対極にあるように感じられる。


「ちょっと準備してくるので、ナハトさんと話しながら待っててくださいね。着替えるだけで時間はそうかかないから」


「はーい了解です!」


バッハは駆け足で別室に向かって走っていく。

それをナハトとメイアが見送ると、ナハトが何かを思い出したかのような仕草をする。


「そう言えば、君はなぜより強くなろうとしてるんだ?この世界、そう危険もない。君のような少女が強くなったところで何になると言うのか」


「まあそうなりますよね……実は、この前お兄ちゃんが失踪に遭ったんです。あ、失踪っていうのは人が突然消えてしまう有名なあれです」


「あれか、確かアル・ツァーイという村から広まったという噂の……まあ詳しいことはよくわかっていないが」



ナハトは唸り声をあげ考え込む。

恐らく考え込んでいるのは失踪という単語によるものだけではない。

なぜならナハトの"何故強くなるのか"という問いにメイアは"兄の失踪"の話を答えとして持ち出した。

これが何を意味しているのか、簡単には分かりかねるのは至極あたりまえのことだ。

故に_____



「それで、失踪の寸前、何か禍々しいもやが出てきたんです。それがお兄ちゃんを覆って、最終的にはお兄ちゃんごと消えちゃって……」


「なっ!?失踪の瞬間を目撃しているのか!?」


「えぇ……多分、あれはどこか別の次元というか、違う世界に引きずり込むような力があるように感じるんです。村の人達が調べてくれた限りでは、裏にある歪みのようなものを使えば別世界にいけるって!だから、私は強くならなきゃいけない!」


_____強くなる理由が失踪で異世界へ行ったと推測し、それを追うために強くなろうとしていると知ったナハトは極限なまでに驚嘆した。


「お待たせしましたー!準備できたのでこっちに来てもらっていいですかー?」


向こうから大きな声で呼びかける声、それはバッハのものだ。

先ほどの制服姿とは違い、軽い胸当てを付けただけの軽装だった。それが故に彼の筋肉、即ち熟練の証があらわになり一層強者感が増している。

眼鏡を外したその姿は、まさに戦う者のそれだ。


「僕は何度もここで検査員として戦っているので多少の事じゃ負けない自信はあります。だから、思いっきり来てもらっていいですよ」


なんという自信なのだ、と思わず「へぇー」と口に出てしまった。

だが、私だって鍛錬は積んでるんだ、とばかりに返事を返し、メイアもまた自信による笑みを浮かべる。


「では、私が指揮を取ろう。両者準備はいいか?」


「「もちろん!」」


「よし、これは魔法の精度を測るためのものだ。よって、両者魔法を主な攻撃手段として使うように。では……」


_____始め!



「『コルティツァ』ーーッ!」


始めの合図と同時にメイアが氷槍を生成し距離を詰める。

そして一気にバッハにそれを叩きつけるも、バッハは両手で攻撃を受け止め、後ろに弾くだけに止まってしまう。


「ほぉ、なかなかいい創造魔法だ」


ナハトの感嘆が聞こえるが、今はそっちに耳を傾けている場合ではない。

両者が互いの出方を疑い睨み合うと、やはり先に行動するのはメイアだ。


「『コルティツァ』第二段階、『凍てつく槌』!」


先程まで氷槍だったものが槌へと形を変え、さらに武器の精度が高まる。

槌の頭部分は小さく、メイアでも振り回せるように調整されているため更に強い一撃を叩き込めるはずだ。

武器が完全に変形をやめると再びメイアは距離を詰めようと走り始めるが、それを黙って見てるバッハでもない。


「『プロミネンス』!」


メイアに向けられた両手から凄まじい熱気を放つ灼熱の赤が放出され、一直線に相手の方へ向かっていく。



氷の武器には炎で対抗しようってことだろうか。

氷系統の魔法を使うメイアには炎が有利と考えたのならそれは間違えだ。



「はい!『エニグマ』ァ!」


詠唱の瞬間、メイアの周りに不可思議な虹色を模した力が現れ、向かってくる熱線を包み込み消し去った。


「なっ、エニグマを使用できるだって?超上位の魔法で私たちの中でも使えるやつは数えるほどだと言うのに……」


ナハトの驚きの声が響くが、驚いているのはバッハも同じである。最上位に近しい難易度の魔法を見せられては驚かざるを得ない。

バッハは一瞬目を相手から離してしまったことに気づきすぐに相手を見据える……筈だったが、肝心の相手、メイアは目の前から姿を消していた。


「さぁて、呆気にとられててよかったのかな?」


その声の主は紛れもなく、メイアだ。

そしてその声が後ろから聞こえるということは……


まずい!と後ろを振り向いた瞬間、強化された氷の武器に殴られバッハは吹き飛ばされた。



_____そ、そこまで!


ふぅ、とメイアは武器を消しナハトの下へ駆け寄る。

そのときの顔はメイアが大満足していふことを推測するのに十分なほど明るかった。


「どうでした?!私ちゃんと魔法使えてましたよね!」


「もちろん。というか、逆に出来過ぎとまで言えるな。若くしてエニグマを使える者はごく少数。私も、君のような凄い実力を持った者をみるのは久しぶりだ」


「いやぁー、計測前に自信満々でいたのが恥ずかしいくらいだよー」


吹き飛ばされていたバッハは腹をさすりながら先ほどの計測に評価をつける。

一度でもメイアの氷槍を受け止めた彼はたしかに強い。

それだけでも彼の強さを示すのに十分だ。


「負けた身で言うのもあれなんだけど、一つアドバイスをするとしたら、君は力じゃなく()()で押し切っている感じがするね」


「強さ、ですか」


強さと力。その違いがはっきりと理解できず、首を傾げる。


「んーと、わかりやすく言うなら自分に合った魔法でないのにそれを無理やり使ってるってところかな」



流体的な魔力の系統について言っているのだろうか。

つまりメイアが気体系の魔力に特化しているのに対し、先ほどの計測では液体系魔法のエニグマを用いたことについて言及しているということだ。

今までは強引にでも魔法を使用していれば何ら苦労することなどなかったため、魔法の適正など気にしたこともなかったのだ。


「だからメイア君が液体系の適正も得ることができたなら、エニグマなどの強い魔法を使う時の魔力の消費量や効率もグッと上がるはずだよ」


「おぉ!ぜ、是非わたしに教えてください!」


「ふふ、君はとても優秀で見込みがある。だからさっき受付のところへ行ったときに君の名前を登録させといた。つまり、君はここで鍛錬を積むことができる」


「え……あ、ありがとうございます!でも、お金とかそういうのはどうすれば?」


「ふむ、君は今の測定で最高評価を得た。ちなみに、最高評価だったものはわざわざ金を払わずともここで学ぶことができるのだ。つまり?」


「私は無償でここで強くなることができる……?」


「そうだ。強くなれるかどうかは君次第だがな」



バッハ、ナハトがこちらを見て「ようこそ」と呟く。

この日から、メイアはこの研究施設の生徒という形で通うことになり、液体系魔法を使う上での根本的な問題の解決に向かって歩みだしたのだ。

より良いエネルギー効率を我が物とすることが、今後どれほど役に立つことかは想像するまでもない。

だからこそ_____



「私は、強さでなく、力を使って強くなりたい!」と。

今回も読んでくださりありがとうございます

今回はメイアが魔法の訓練を始めるまでの過程を書き連ねましたが、次回からはなんとグラン編に戻ってしまいます!


ですが、実はグランが失踪してからメイアの方がより長い時間を過ごしているんですよね。まあ大都市への移動時間でその時間を費やしているわけですが。

なので、グランの方が失踪してからの時間がまだ短いというわけで、グラン編にもどります



暇つぶしにゲームをしているときにこの「勇者などいない世界にて」を思いついて軽く書いてみようかな程度の気持ちで始めたんですが、文を書くのは本当に難しい!


国語が大の苦手な私からしたら他の小説家さんたちは凄いですねほんと。まじリスペクト!

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