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勇者などいない世界にて(原本)  作者: 一二三
第一章 二つの世界
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第一章06 ハンター・オブ・クレセント

「おいおいおい、マジかよこれは。蛇っていうからもっと小さいもんだと思ってたぞ俺は!」


少なくとも2階建ての家を上回る大きさは必ずある。

果たしてこんな奴を狩ることはできるのか?

そんな疑問が頭をよぎるが、これが試練として出された以上、やらなければならないのだ。


これが試練なら、これから先戦うことになるであろう何かはもっと強大であると言っていい。

グランがいくら強いからと言って、普通の人間であるのだ。

だから、倒せるかどうかなんて分からない。


「でも、いっちょやってみるしかないよなぁ!」


ニヤリと笑みを溢し、自分に支援魔法を掛ける。

そして、その魔法の効力で湖の上を歩いてみせる。

普通の人間には到底為し得ないだろう水中歩行を見せつけられた大蛇は、ようやくグランを警戒したのかゆっくりと起き上がる。


確かもとの世界にも頭が複数ある生物はいたはずだ。

その例にのっとるならば、敵を倒すには全ての首を切断するかひたすらダメージを与え続けるかすればいい筈。

なら、狩る方法は簡単だ。


問題点は、生け捕る方法だろう。

おそらく首を一つ残しておくとかして瀕死状態まで持っていけばいいのだろう。

一つ予想外だったのは、これをどう運ぶかだが。


とりあえず瀕死にさせてから考えるってことでいいか。

瀕死の状態を保てれば生け捕り・狩猟の難点についてもそれから考えられるだろう。


「流石に巨大なやつと戦うなら武器が欲しいところだな」


グランのひとまずの目標は5つの首を切り落とすこと。

なら、切断するための武器が必要な訳だが……


「『ノイモント』」


詠唱すると、グランの手のうちには黒い球体のような、実体をもつ影のようなものが現れる。

たが、この闇のような何かで攻撃するつもりなど毛頭ない。


「『ヤクト』」


次にそう詠唱すると手の内の闇は白く光り、形が変形していく。そして、それは一つの刃物となって現れる。

刃の形は月____厳密には三日月を成し、その端から端にかけて持ち手が伸びている。

月の放つ静けさが、グランの放つ威圧が、湖の水面(みなも)を震わせている。


武器などの何かを生成する魔法を創造魔法と呼ぶが、グランのように、何かを媒介として武器を創造するという応用技がある。

特に『ヤクト』は"ものを武器として定義する魔法"として知られ、多くの応用に用いられていたりする。



目の前に対峙する大蛇はグランの準備が終わると同時に咆哮を上げる。まるで、グランの準備を待っていたかのように。


「俺は今からお前の首を切断するぜ。殺すかどうか、それは首を一つだけにしてから考える。いいな?」


返事の無い質問を投げかけ、グランは走り始めた。


ギィィィィーーーン______


三日月の弧と大蛇の牙がぶつかり合い大きな音が出る。

力的には拮抗しているようだが、相手の頭は一つじゃなく、のこり5つの頭も様子を伺いながら襲いかかってくる。

全ての攻撃に対応しなければまず敗北は確実だろう。


拮抗してその場から動かない武器を、孤を描くような刃を利用して一回転させ歯をへし折ると、すぐさま他の頭に対応する。

グランがちょこまかと動き回っているのもあって、二頭以上が同時に攻撃するのが難しいようだ。

故に6対1ではなく、1対1の戦いに持ち込めているのだが、それでも互角であることに変わりはない。


「魔法球_____っ!」


大蛇の真上に巨大な魔法球を展開させる。

突然の巨大な魔法に()()大蛇も上に目を向けるが、魔法球の中の魔力がほぼ空であるのを見てすぐ戦闘に意識を戻してしまう。

その一瞬を突き首の切断をしようと____できなかった。


六頭という特徴を生かし、その内の半分が上を見上げ、もう半分をグランとの戦いに備えるという中々に小賢しい戦法を使っていた。

そしてすぐに大きいという特徴をも活かしてグランをその巨軀で囲い、逃げ道を塞いでしまう。


「まあ、もともと逃げるつもりもないしな。逆に、それは失策だったんじゃないか?」


グランの顔に笑みが溢れた。

同時にグランは()()()()()()()()()()()()に向かって走り出す。

即ち、胴体の一部へ向かってである。

今までは首から先、頭の部分としか戦えなかったが、囲まれることによって胴体を狙うことが容易になってしまった。


グランが大蛇の首から遠ざかると、もちろん六つの首はグランに向かって勢いを付けて伸びてくる。

巨大であるが故に、すぐにグランは追いつかれてしまうが、だからこそ、それがいい。


「残念だが、もともと、お前の胴体なんて眼中に無ぇな!」


グランは急速にターンし、向かってくる頭を通り抜けた。

つまりそれは首ががら空きになったことを意味する。

勢いを付けていた首は、すぐさま勢いを殺し振り返らんとするも……


「これで、一本。やっと切断できるな♪♪」


振り返る頭は追いつく訳もなく、首が一つ吹き飛んでいく。

切り離された断面からは血の雨が降り注ぎ、大蛇は悲鳴をあげて暴れ回っていた。

しかし、残された五つの首はがら空きである。

もちろん、こんな好機を逃すなんて真似はしないと、グランは強く前へ足を踏み込む______



そして早くも四本の首を切り落とし、五本目を切り裂かんとばかりに三日月を振りかぶったその時だった。

斬られるたびに咆哮を上げていたのだが、今、この時の大蛇の咆哮は先程までとは違うものの様に感じてしまった。

そして、瞬く前に大蛇に変化が起きていく。


ただ敵は悲鳴をあげていただけでは無かったのだと言う真実を、目の当たりにしてしまう。

グランには、斬られた断面が復活していっているように、再び生えてきているように見える。

それは幻なんかじゃなく、見たままの真実なのだ。


気付いた時には、この戦いは完全に振り出し状態だった。


いや、訂正しよう。

どうやら相手はまだピンピンしているようだが、少なくともグランは疲労を溜め込んでいる。

今後何度も首の蘇生を行うようであれば、きっと、近いうちには互角の関係は壊れ負けてしまうはずだ。


_____と、完全復活した巨大なそれは、グランが呆気にとられた隙にその尾でグランを吹き飛ばしていた。


「オ、『オリヘプタ』ァァーーッ!!」


魔力を背面に噴射させ、身体が後ろに吹き飛ぶ威力を軽減させ、なんとか受け身を取り重症化を防いだ。

しかし、今の損害は明らかに両者の関係を互角ではなくしたであろうと、グランは考える。


グランは魔法を使い自らの自然治癒力を高め、回復させる。

しかし、この魔法では決して()()()()()()()()、即ち再び対等な関係に持ち直すことはできないのだ。


「ふぅーー。さあ、第一試合第二ラウンドといこうか」


グランは更に、新たな戦略を思考し試行し続けなければならず、彼には刹那の熟考が課されている点を見れば、二回戦目の状況が劣勢から始まることは明らかだろう。


ギィィィィーーーー


キン!______ ズゥゥン______


そして再び見かけ上は互角である戦いの音が聞こえ始める。

先程降り注いだ血の雨の臭いが、広大な湖に溶解し徐々に和らいでいくのが戦っていてわかる。

それほど血生臭く吐き気を催すような戦場に一変したにもかかわらず、今や既に元通りになりつつあるとは思わなんだ。


あと何度、この光景を見ることになるのか、これが最後となるのか、そんな考えはすぐにグランの脳から消失した。

無限回やり直すこともありえるし、これで終わるかもしれないが、兎にも角にも、早く終わらせなければならないのは確かである。

きっと、疲弊に押しつぶされ人生を終えることになるから。

決着はすぐに訪れるはずであると、期待を乗せて______


グランは目の前の敵を睥睨し、大きく一歩踏み出す。


それと同時に、大蛇は黒く輝く闇をその身に纏う。

六つの頭から邪悪なエネルギーが溢れ、六つのエネルギー体が一つに集まって、破壊エネルギーが形成される。

グランは一歩踏み出したまま動けず唖然としていたが、すぐに身体を動かすことに意識をシフトする。


だが、どこへ行けばいい?

あの黒いエネルギーの塊がこちらへ向かってくるのは必然。

避けるしかない。でも、おそらくもう間に合わない。

あ、これはもう……


もうだめだ、とグランが思う頃には既に、極大な邪悪な線が湖を突き抜け、森に一つの直線を図示するかのように力の奔流は広がっていった。

荒れ狂う黒い力により湖で波が発生し、辺り一面、森の木々は漆黒を以って薙ぎ倒された。

号する大蛇から噴出される漆黒のエネルギー波は周囲にも甚大な影響を及ぼしている。

荒れ狂う湖は津波の如く木々を呑み込み、暴風は他の木々を投擲し、たとえエネルギー波に直撃していなくとも殺傷力は十分にある。


そんな大災害の中、これを引き起こした怪物を討伐せんとする者は、下に逃げていた。

横でも後ろに躱すでもなく、下。

そこにあるのは水であり、即ちグランは湖に潜って攻撃を回避しようとしたということであり。


グランは湖に人一人分の気泡を魔法で作り、その中で佇み嵐の鎮まるのを静かに待っていた。


勿論津波と化した波の影響を受けたが、深く、そして重い大量の水の中では被害が少なく済み、長い間身体が揺さぶられた程度のものだった。

本来ならば災害時に水中に逃げるなど言語道断で正気とは思えないのだが、グランだからこそできる"力"を生かした逆の発想。


全てを薙ぎ払う猛威が過ぎ去り辺りに静けさが戻ってくる。

それを感知したグランは、もう浮上しても良いだろうと考え、浮上前のほんの一秒間目を瞑り精神統一を図る。


そして目を開けると、目の前の世界ではいつのまにか紅の煙が舞い上がっていた。


一秒前までは暗い水の中でしかなかったのに、今は赤い煙がモクモクと広がっていくように紅に染められていっている。

何が起きたのかと周りを見渡すと、その答えが見えて来たかもしれない。

グランの周りを取り囲む様に、そこには鋭い牙をもつ無数の魚が群れをなして蠢いていた。

肉食の魚群によって喰われたのだろうと、そう理解した瞬間、ようやく痛みを感知する。


血_____肉食の魚というのは血液の匂いに誘われて浅瀬までやってくることもあるとグランは聞いたことがあった。

しかし、グランは血を流しておらず、普段深層に住んでいる魚をおびきだす程の赤い液体をそもそも持ち合わせていない。

ならば、その血は大蛇のものだと断定できる。

先程首を切断したときの赤赤とした雨が湖に溶解したのだ。

雨になるほどの大量の血液は深くに住う飢えた肉食魚を誘うのに十分だろう。

兎にも角にも、まずグランは目の前の鋭い牙の嵐を対処しなくてはならなくなってしまった。だが、


「残念ながら群れる奴らと戦うのはここ最近慣れっこなんだよなぁ!」


『サラヴ』で傷の回復をしつつ、全体に攻撃をせんとばかりに両腕を大きく広げ魔法を詠唱する。


「『怒れる掌』」


荒々しい雰囲気を放つ巨大な掌が、蠢く嵐を包み込む。

一匹漏らす事なく包み込むとまではいかずとも、残りの数匹は未だ健在の三日月で切り刻んでいく。

しかし、ここで切り刻むと再びその血液により同じ悲劇を繰り返す事となってしまう。

だから、逆に下に下に赤い煙を沈めていくのである。


水面近くに血液がないのなら上まで魚がやってくることはない。よって、素早く下層へ追いやってしまえばいいと考える事ができるのだ。

巨大な手は群れを握り潰し、徐々に深く深く潜っていく。

ゆたゆたと、赫は元の色へと戻っていき、あたりに牙の群れの姿は見えなくなっていた。

もう、これで水中に脅威はない、グランの作戦勝ちである。


_____突然の水面下の戦いはあっという間に幕を閉じた。




グランが浮上すると、そこには六者六様の顔がすぐさまこちらに向き、まだ生きていたのかと言わんばかりに睥睨する。

水面上の戦いはまだ終わっていないのだと改めて実感させる。

流石のグランも、多量の出血と長引く戦闘も相まって疲労が甚だしい。

今になって漸く失踪以前の運動不足を後悔し、全く余裕で勝利できない自分自身に課題を見出している。

こんな状況になってまでそんなことを考える暇があるとは思えないが、していると言うことはきっと……


グランの戦いに於ける戦術は、敵がやってきた戦法や技を真似してみながら頭をフル回転させることだ。

その時、最初の七匹の獣達と戦ったときのことを振り返る。

その最後の一匹を倒す際に蒼い光線を放ったが、今度はそれをさらに強化してやり返そうというのである。


「嵐とまではいかないまでも、あいつの隙をつくることは必ずできるはずだ」


敵もそれを黙って見ているわけもなく六方向から襲いかかってくるが、今回は武器で対抗することはせず、躱し続ける。

力を溜めるのに集中したいと、武器を振うことができないのがその理由だ。

力を溜めるのに時間がかかってしまうのと、躱すことをしなければ力を溜められないことに不満を抱きながらも、確実に反撃の準備は整いつつある。


攻撃を悉く回避されるのに激昂したのか、中心の一頭が雄叫びをあげると今までにないスピードでこちらへ向かってくる。


「丁度、俺の方も準備は整った!準備時間は要改善だがな!」


仰々しい程に力を溜め込まれた力の奔流が巨大な動く塊に衝突する。

そして突撃した塊からその首にかけてを強引にも炸裂させ、首の一つが虚空へと弾けて散った。



ギュルルゥァァリィァァーーーッ!



言葉には表せない様なおぞましい叫びと共に、最初の切断時と同じく怯み隙だらけになった大蛇が目の前にいる。

ここからは最初と変わらない。

ただただ最後まで止まらずに首を打ち落とすだけだ。


最後の二つになったところで、再び蘇生の素振りを見せ始めたので、今回は足を止めずに走り大きなアギトの目の前までやってきたが、


蘇生を図るその嘶きが行われた瞬間、そのコンマ一秒という短い間ではあるものの、時が止まったような感覚に襲われた。

気付くとグランは尻餅をつく形でのけぞっており、二度目も大蛇を気絶へと追い込むことができなかった。

おそらく、再生前の咆哮は強制ノックバックの効果があるのだ。切られまいとする本能がノックバックさせているのだ。

だが、流石に


「そ、そろそろよぉ……終わらせないとしんどくなってくるんじゃないかぁ?さあ、第三ラウンドの、始まりってかよぉ」


目下に鎮座する巨軀を見据えると、今回は明らかな差が見てとれた。

息を整えようとしているグランを襲ってこないという点は、先程と比べて明らかに不自然だ。


「もしかしてお前も、再生するので疲れてるのか?」


体力を温存しているのなら、今がチャンスだ。

だが、そのまま勢いで首を狙ってもきっとまた時が止まったような感覚が襲いノックバックされて失敗することだろう。


「あれがなんなのかは謎だ。でもあれは生命の危機に瀕したときの、近づいてくる敵に対する防衛能力なんだろう。もしそうだとするのなら、今度こそ倒せるかもしれないっ!」


疲弊して苦しい顔をしていたグランだが、勝利への活路を見出した途端に微笑ながら笑みが溢れた。


二回目の血の雨が降り終わり、再び血生臭い戦場が広がる。

再び水面に血が溜まることで水面下の脅威がやってくることは十分にありえるが、直接もう被害を受けることは無いという直感がグランにはあった。直感でしかないが、彼の直感は時に正確で、それに従うことが英断だと彼は思っている。

なら、今は目の前のこと以外を気にしなくていい。


「じゃあここで、新しい魔法を見せてやろう。この戦いも終結間近だ、餞別として受け取れよ、『オリロート』!」


グランを囲う様に現れたそれは、水を走り大蛇方向へ真っ直ぐに突き進む。

水の上を走る炎という怪奇を目の当たりにし、巨大な尻尾で波をつくり炎を消さんとするも、燃えることを決して止めることなく大蛇の下へとたどり着く。

そうなるとどうなる。勿論のこと、熱が細胞ひとつひとつを燃やしつくし、表面は爛れていく。

例の如く、それによってできる隙をついて五つまでは簡単に切り落とす。

どんなに燃えようとも、やはり蘇生しようとする素振りを見せて来る。そりゃそうだ、肌が焼かれようと再生すればそれまでなのだから。

でも、今回はそうはいかない。



グランは大きく手を振りかざした。



しかし、なにも起きなかった。



いや、なんてこともなかった。



突然上空から、白く煌めく魔力の塊_____魔法球が復活の素振りをみせる大蛇に、隕石の如く衝突した。

それは第一ラウンドにて、相手の注意を引くために設置したと思われた巨大な空の魔法球である。

衝突による衝撃波には先程の蛇の黒線以上の力があった。

範囲こそ狭いものの、至極巨大な柱が噴き上げ霧となり、清き水蒸気が空気中を舞う。


もともと、グランはこの魔法球に時間稼ぎの意図は含まれていなかったのだ。


真の目的は、球の中ぎ空であることで油断させておきつつ、徐々に魔力を注いでいくことで莫大な破壊魔法へと姿を変えさせておくこと。


そんな隕石に直撃して疲弊した魔物が耐えられる筈もなく、眼前の大蛇は横たわっていた。死んだわけではなく、気絶しただけのようだが、倒したことに代わりはなあ。

即ちグランは、3ラウンド掛けて敵が気絶するまで追い込んでいたということをここに示し、長い戦いに決着を付けた。




そして、残るグランの懸念は「生存」か「殺害」か、という試練の達成を左右する究極の二択である。

こういう迷った時にしなければならないことは、その選択肢の情報を整理することだ。

状況を再び鑑みることで解法を閃くことがあるはずだ。



まず一つ、件のヘキサ・アナンタは一匹しか存在できず。


そして一つ、しかし二匹いることが必須の課題で。



だが、これだけでは本当に情報が足りないのだ。

他に、何か他に、情報が散りばめられていなかったか?

あの黒龍、ラグラスロとの会話にヒントはなかったか?


『出会った生物は全て討伐しろ』


それはなぜ?

この世界の生物は悪の心を孕んで()()()()からだ。

何か、片鱗のようなものが浮かんできたような気がする……


『課題の対象は今は南の森にいる。彼奴は生息地を変えない為、準備をしてから行っても大丈夫だ』


今は?生息地を変えないのに"今は"ってなんなんだ?


……………創られる、つまり生命が消えることで再び生命は創造されるということだろうか。

そうなると、つまり。


「ああ、そういうことなのか。いや、もしそうじゃなかったとしても、これは勇気を出さなきゃいけないかもな」


あいつを今討伐すれば、どこかで新しいあいつが生まれる。

つまりそれは二匹を相手にする事が可能ということ。

もしこのグランの結論が誤りなら、試練が失敗ということになってしまう。

だが、この試練は力を試すものなのだ。

もちろん、力には"決断する力"も含まれているはずなのだ。


やるしかない、やらないなんて選択肢は除外しろと、心に訴えかける。


「ーッ!じゃあな大蛇さんよ!ダァラアァァーーッ!」


血飛沫舞う静かな水の上にて、三回にわたる戦い_____

最終的に、彼は命を奪う方の目的を終わらせた。

事実上、生け捕りは不可能となったとも言える。とは言え、グランの考えが正しければ、再び大蛇はどこかで復活するはずであるから、またすぐに戦うことになるはずだ。


一度敵を倒すことができたなら、

生け捕りをすることなどなんら難しいことじゃない。


「ふぅ、もうこんな面倒なやつはごめんだぜ。俺も、こんな奴らをホイホイと倒せるようにならなきゃいけないかもな」


だが、今回戦ってみて分かったのだ。

これが課題なら、これより強い存在はまだまだいる。

本当にやるべきことが明確になってきた。


「俺は、強くならなきゃ帰れない」、と。



=======================



「んで、ラグラスロさんよ、新しいヘキサ・アナンタとやらは何処にいるんだよ」


拠点に戻り討伐の報告を済ませたグランは、新しく創造されたはずの大蛇の居場所を聞き出していた。


「……何故そう考えるか」


「だってそうだろ?"今は"南の森にいて、生息地を変えないんだ。じゃあなぜ"今は"なんだ?生成されてどこかでピンピンしてるからだろ」


「……よかろう。汝の言う通り、ヘキサ・アナンタは新たに創造されておる。彼奴はいま南の森の湖にいるがな」


「結局同じ場所じゃねえかよ!」





それからは早かった。何せ、ほぼ同じことをやってのければいいだけなのだから。

先程と戦い方が違かったという点を考慮すれば同じことをやっている訳ではないが。


違う戦い方というこは以下の通りだ。

魔法『ノイモント』で生み出された黒い塊を『ヤクト』で武器に変形させて戦ったのに対し、今回は『ノイモント』の闇をそのまま用いて戦った。

グランの使用した武器を「三日月」と表現すらならば今回の黒い塊は「新月」と表すのがピッタリだろう。



グランはその新月を大きく口を開け噛み砕かんとする大蛇の口内に投げ入れる。

すると黒く蠢く新月が爆ぜ、首一つごと吹き飛ばした。

しかし爆ぜた漆黒のそれは再び一つの新月へと戻り、首を一つ失い号する大蛇の口に再び入ってゆく。

後は同じことを繰り返すのみ、首を破裂させ怯んだところに即座に新月を放り込みまた破裂させる。

その素早い攻撃に大蛇は首を蘇生させる余裕すらない。


二回目戦目は二分とかからなかった。

相手の行動パターンを知っていたからこその戦略だったが、今回の試練を受けてグランは傾向と対策を掴むことの重要性に気付くことができた。


試練とは"力"を試すもの。

どの力をどのように使うかを判断することもまた力ならば、真の目的はヘキサ・アナンタに非らず。

達成までの過程を糧とできるかどうかであるのだ。


つまり目標とは、過程を通して最終的に成長した状態でこなすものである。



「よし、終わったぜ、ラグラスロ」


グランはラグラスロに達成の報告をしていた。


「見事だな。今までの失踪者のなかでも達成できたのは数える程しかおらん」


「そうか、つまり俺は今までの強い失踪者たちの中でも強いってことだな?」


「そうだ。そうだがしかし、達成した者らは未だ誰一人として帰還を果たせていないのだ。従って汝が慢心するのは早計というものだ」


「……それもそうか、まだ何があるかわからないもんな。

………わかった、少し休憩も兼ねて外をふらついてくる」



踵を返し翳るグランは、ため息をつく姿と相まって何かを無意識に抱えているようだった。


過程を通しグランは思考力を成長させた。

しかし、彼の()()が変わった訳ではなく、ただ現状出せるだけの力だけあれば達成できてしまうことに慢心さえ抱いてしまう。

力を高めるための試練で、力を高めずに達成できてしまったのなら驕ってしまうのも当然だろう。


だからこそ、グランは強さを求められることに重さを感じてしまっているのだ。

だからこそ、グランは未曾有の苦行に対する拒否反応を少なからず示してしまうのだ。


そういう意味では、この試練はグランに"より強くあれ"という言外のメッセージを与えたと言えよう。



「クソッ、今までにない苦痛だぜ。もしかしたら、敢えて成長なしに達成でき得る試練にしやがったのか?」


いや、違う。きっとラグラスロは全ての失踪者に同じ試練を出してきた筈だ。

だから今回はたまたまなのだ。

その偶然がグランの気を引き締めるのに役立ったというのなら、とても皮肉なものだ。


「何にしろこの苦痛はあの日のものに並ぶ気がするぜ……まったく、虫唾が走る気分だ」


そしてグランは精神を落ち着かせるため拠点の門の傍に寄りかかった。

今回、黒龍ラグラスロからの試練を達成したグランですが次回は試練編を一度中断して、別視点でのお話を挟みます!


文章や言葉選びでの至らなさがあるかと思いますが、今後ともヨロシクおねがいします!

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