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勇者などいない世界にて(原本)  作者: 一二三
第一章 二つの世界
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第一章04 相対的にハームフル

闇が徐々に消え微少な光が差し込んできたことを理解したと同時に、今自分が宙に浮いていることも理解した。

正しく言えば、おそらく標高300mはあるだろう高さから自由落下していると言ったところか。


とても小さな_____否、その高さ故に小さく見えている木々が遥か下に見えている。


ふと今更ながらではあるが、今のこの条件の異常性に気付いてしまった。

勿論、急に空に放り出されて落下していることもそうだが、真に問題なのはこの場所。


空がとても暗い、と言うよりはこの世界自体が暗いように感じる。

夜なんかじゃない、先ほどまで(グラン)を囲っていた闇のような気味の悪い暗さだ。


世界がこんなにも暗いなど、常識的に考えてあり得ない。

少なくとも、グランが住んでいた世界のものではない。


「つまり、ここはさっきまでと違う世界ってか……」


しかし今この世界について考えていても仕方ない。

落下による強い空気抵抗を受けながら、まずはこの宙にいる状況をどうにかするべく思考を巡らせるが_____


バサッ バサッ バサッ


_____何やら大きな羽ばたく音のようなものが聞こえ、思考が中断される。

音のする方を見ると黒く大きな、それもこちらを睨みつけるように飛ぶ龍がいた。

一つ龍との相違点を挙げるとするならば、その翼は天使のものの様であることだろう。


「お、おいまじか。こんなところで龍なんてどうしろって言うんだよ!」


空中で身動きがほぼ取れないが、それでもグランは必死で臨戦態勢に入る。

例え地上にいたとしても勝てるとはとても思えないが、やらなきゃ死ぬだけだ。

だが、こちらに向かってくる龍を見ていると害意を感じない。まるで別の目的があるかのように見えるのだ。

臨戦態勢を崩さぬまま観察してみると、グランは臨戦態勢を解除した。


そしてそれとほぼ同時に、グランは黒龍の上に着地_____否、意図的に乗らされていた。




乗せられてから数分後、グランと彼を乗せる巨躯は会話をしていた。そう、黒龍は喋れる存在だったのだ。

彼の名をラグラスロといい、過去の小城アル・ツァーイと関係があるらしい。

先程グランが臨戦態勢を解除したのは、ラグラスロの額にアル・ツァーイの紋章が刻まれていたからである。


「で、黒龍さんはいったいここで何をしているんだ。俺に何が起こったのか知っているのか?」


「汝は今"失踪"を体験した。失踪とは小城の王より始まりし怪奇的な人の消失事件のことだ」


「……つまり今までの失踪者は皆ここへ来ていたっていう解釈でいいのか?こんな暗い世界に?」


「その通りだとも。そして吾は汝ら失踪者と呼ばれる者らを護っている。そして、我々が今向かっているのはこの世界での安全地帯とされる場所だ」


今この龍は"この世界"と言った。

それが意味するのはつまり、グランはやはり先程までとは異なる世界に来てしまったと言うわけだ。

そしてこの地の安全地帯に行くということから察するに、この世界は危険が多い。敵が多いということだろうか。


「ちなみに今まで我が護ってきた失踪者は皆、強き者であった。そこらの敵に挫くことの無い強みがあった」


そういう龍、ラグラスロからも溢れ出る強者の威厳というものが見て取れる。

いくら失踪者が強かろうと、この巨軀はそれらを悉く挫くことができてしまうだろう。

この龍は敵に回すべきでないとグランは直感した。



===================




「……で、ここが拠点か?やっぱどこも暗いな」


グランが今拠点と呼んだ安全地帯とやらに着いた。

だいぶ昔の宮殿のような感じだが、建物があることはまず驚きだ。きっとこの他にも建物があるのだろう。


「そういえば、俺らを守る存在とか言っていたが何者なんだ?何故そんなことをするのかいまいち分かってない」


「吾はこの世界に仇なす者だ。つまりグラナード、汝が元々いたその世界にいるべき存在ということよな」


淡々とそう語っているが、この龍がこの世界の存在でないことはグランからすれば驚きでしか無い。


「吾はデアヒメルを護る者としてここまで追いかけてきたが、その後の失踪者も護ることにしたのだ」


「いやでも、帰る方法はないのかよ」


「あるにはある。だが、今まで挑戦した者どもは皆悉く失敗し、帰路への入り口すら開けていない」


「挑戦するってことはつまり、敵に挑んだりだとか隠された地を探すのに挑んだりだとか、そういうことだな?」


「うむ、この世界に汝らを誘うた者をどうにかする。或いは『歪み』を探すかのどちらか」



この世界にグランを誘いし者。

それが誰であれ、ここに来させたのには理由がある筈だ。

なら、確実に帰すなんてことはさせないだろう。



『歪み』。

それが何かははっきりとは解らないが、予想するに次元的な何か、この闇の地とあの光の地を繋ぐものなのだろう。

だが、見つけたところでそれが本当に帰るべき場所へ繋がっているかすら不明である。



「なるほど、どちらも戻れる確証はないし、目的の敵あるいは場所にたどり着けるかも不明と。難しいな」


しかし、やってみないことには分からない。

ここで暮らしたくなんかない。

なら、ここで立ち止まっていても何も変わりやしない。


故に_____


「やる価値はある。俺は帰るためにどちらもやるし、なんならそれ以外の何かも試してやるつもりだ」


そうラグラスロに言い切ってみせると、彼はその大きな(まなこ)でグランを見定めるように全身を見る。


「なぜなら、ここは俺がいた世界よりも遥かに醜い。比べるまでもないが、ここには何か心を毒されそうないやな暗さがある。生物には、それぞれ適した環境ってのがあるんだぜ」

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