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勇者などいない世界にて(原本)  作者: 一二三
第一章 二つの世界
35/43

エピローグ 帰路と帰還と



「俺は、きっと成し遂げる。先天的で後天的な、俺への餞を持ってしてな」


 グランは何を思ったか、簡素な洞穴の前でそう呟いた。


「……ツッコむべきかどうか迷ったけどツッコませてね。お兄ちゃん、何言ってんの?」


 今この場にいるグランを除いた3人、メイア、ルーシャ、フィーストが冷たい視線で見てくる。ちょっと呟いただけでこの対応、どうやら相当奇妙な発言だったらしい。自覚はないが。


「ほっとけ、こいつの頭がおかしいのは自明の理だろ」


「むぅ、フィースト、 何言ってんの?」


 どうやら馬鹿にするようなことを言った青年にもターゲットが向けられたらしい。人を貶した報いを受けることこそが自明の理ってことだ。


「何やってんだお前ら。そんなことしてないではよ行くぞ」


「「「何やってんだはそっちもだろ(でしょ)!」」」




 今、4人がいるのは浅い洞窟、というか洞穴だ。入ってすぐに突き当たりで、雨宿り程度にしか使い所のない穴だ。


「ふぅ……でもここ、あんまいい思い出ないなぁ」


 そうメイアが呟く。「僕も、もうこの場所は来たくないかな」とフィーストがつまらなさそうに返す。それもそのはずだ。ここは闇の世界にやってきたばかりのメイアが槍で貫かれた場所なのだ。

 しからば、この何の変哲もない洞穴が何を意味するのかは明らか。


「よし、じゃあ、戻ろっか!」


「さて、何年ぶりの……なんて、もうここに来て何年かなんて数えてないけど、長い間にどれだけ世界が変わったのか気になるところではあるよね」


「まずは、安全に帰りましょう。帰るまでが遠足だという言葉もあることですし!」


「世界を跳躍するのを遠足とは言わんだろ……ま、早く皆の顔も見てみたいし、ぱぱっと帰るか」



 皆が皆、それぞれ言いたいことを一言ずつ言い、4人横に並んで歩み出す。

 グランの魔法『オリロート』で辺りを照らしているが、入り口から差し込む光で十分中を確認することはできる。よって、グランが魔法を使用しているのは別の用途、裏の()()()()()領域を払うためである。

 神代の英雄ハルツィネが「原初の炎」を用いてその領域を払ったという逸話通り、『オリロート』は「原初の炎」と同じ役割をして()()()()にすることができる。


「そのうち、俺の魔法がなくても歩けるように、裏に蔓延(はびこ)る未到達エリアを全部これで払っておかないとな」


「お兄ちゃんのお陰で私もこの世界に来れたことだし、さっすがだよね〜」


 狭い穴の中を靴音が反響する。入ってすぐに終着点が目視できるほどに小さい空間だが、奥に行けば行くほど空気が重くなるように錯覚する。

 重く感じるのはε波(イプシロン)が強くなっているのが原因だが、その聞き慣れない波が何なのかは気にする必要もない。ただ、()()()()()()()()()()ことを示す波の一種、というだけのことだ。そう、この洞穴の意味するものとは「歪み」だ。


 突き当たりの壁に出現した異質な円に触れると、身体がぐいっと壁に引き摺り込まれる。「うお!」と、誰が発した言葉かは分からないが、突然の引っ張られる感覚に慌てる様子がよくわかる。


「安心して。ここを潜れば、違う世界が広がっててまた驚くよ?」


 一度、ここを潜ったことのあるメイアが慌てる皆に優しく語りかけ、一番最初に壁に飲み込まれていった。それを見て安心したか、続いてルーシャ、フィースト、そしてグランの順で壁に吸収されていく。



==================



 外に出た時、思わず絶句してしまった。それは、みるも無惨な景色が広がっていたからでも、いとも簡単に世界を変えることができたからでもない。

 豊かな大地が、見たこともない自然に富んだ明るい広大な世界が広がっていたからである。


「ね?驚いたでしょ。これが裏。まだ、本当の意味で私たちの世界とは違うんだけど、ここから真っ直ぐ行けば大丈夫!って、ルーシャ? どうした、そんなに驚いてんの?」


「……あ、いいえ。確かに驚いてはいますが、私の驚きはグランさん達とは違う驚きというか。その、わたし、一度この世界に来てるっぽいんですよ、ね」


 何とも曖昧なルーシャの言葉に一瞬、3人とも顔に「?」の表情を浮かべて顔を見合わせる。


「えっとですね。さっきまでいた世界で、ファヴァールっていう大きな獣と戦った時のことなんですけど」


「ファヴァールだって? いや、あいつとここにどんな関係があるっていうんだよ」


「いいえ、多分あの巨獣と関係はないと思うんですが」



 さらにややこしくなってきた。ならなぜルーシャはいきなり関係のない獣の話題を出してきたのかと、謎が重複して考えがまとまらない。

 だが、ここでグランが「もしかして」と呟き、何か思い当たる節があると言った顔つきで言う。


「その楽器を取りに行った時、何かあったのか?」


 それを聞くと「そ、そうです!」と返す。子供みたいに小さくはしゃいで、


「この奇鬼忌琴を入手するために建物内の扉を開けた時、別の世界が奥に広がっていたんですよ。で、その景色がこの、今目の前にあるそれと酷似してるんです!」


「っ!! てことは、あの遺跡はこの裏と繋がっていたってことだったのか!」


 ここに来て大発見だ、とグランとルーシャが騒ぎ始め、残された2人は「え、ちょっと、何?」と困惑。しかしそんな2人を無視して試練がどうのこうの話し始めたところで、堪忍袋が切れたメイアが『コルティツァ』を突きつけて強制シャットダウンさせる。

 ちなみに、容赦なく氷槍を突きつけるメイアをみて少しだけフィーストは引いていた。




「ああ、なるほどね。つまり、あの世界の人間は他に裏との入口を発見していたってことか」


「もう、私たちを置いてけぼりにして話を進めないでよ!」


「すまんすまん。つい、盛り上がっちゃって」


 歩きながら弁明と状況の説明をして、ようやくメイアの許しをもらうことができた。

 他には特に説明することもなく、ただ鳥や虫、植物が独自の生態系を保って生活しているのを観察しながらメイアの後ろを着いていくだけだ。



 歩き始めて1時間かそこらが経過した。

 「歪み」のある山地からだいぶ下ってきて、歩くのが大変だった坂道も平地になり、メイア曰く、スムーズに進んでいるらしい。もはやグラン達にはこの変わり映えしない森の中を歩いていても何がスムーズなのか全く分からない。


 歩き始めて更に1時間弱経過。

 流石に4人とも、体力には自信がある者達なので肉体的には疲労を感じてはいない。が、いつになっても緑のこの裏とかいう世界。精神が疲労し始め、徐々に歩くペースが遅くなってきている。メイアを除いて。

 皆を先導して「早く歩かないともっと疲れるよ?」と度々振り返っては煽ってくる。(煽ってるつもりはないのだろうが、彼らにとっては煽られてるようなものだ)


「え! お、お兄ちゃん!あれ、あれ見て!」


「おいおい、今度は何だってんだよ……ん、あれは、人?」


 メイアが指さす先にあった_____否、指差す先にいたのは1人の男はだった。木にもたれかかって休憩しているようにも見える。上半身が裸、露出した肉体は鍛え上げられており、初見なら誰もが「森で暮らす民族か何か」だと思う男だが。


「はは、なるほどね。負けた訳ではない、のか。となると、何らかの要因で逃げ帰って来たか或いは追い返されたか、と言ったところだね」


「知っていらっしゃるんですか?」


 男の存在をメイアとフィーストは知っていた。


「あの男はザガンと言ってね、今から僕たちが帰ろうとしてるあの世界にさっきまで侵攻してた男だよ」


 フィーストは、やっと退屈が解消されて嬉しいとでも言いたげな表情で歩く。そんな彼の笑い声が聞こえたのか、座ったまま動かずにいたザガンが近づいてくるメイア達の方を向く。

 その顔に彼の持ち味とも言える威圧が無かったことにメイアは驚き一瞬足を止めるが、1秒も経たぬ間にまた歩みを進める。


「あなた、何でこんなところにいるの?」


「裏切り者……いや、俺もそんなところか。そもそも、もう悪感情が取り除かれたことだし、裏切り者もクソもねぇか」


「え、全く答えになってなくない?」


「なんか追い出されたんだよ。蹴られたと思ったらこの世界の入り口まで吹っ飛んで、落ちた。それだけだ」


 なんというか、一人にしてくれとでも言っているかのようなオーラを放っていたので話しかけようにも話すことが思い浮かばなくなってしまった。

 グランやメイアも彼から害意を感じておらず、このまま話しかけてうるさくするのも申し訳ないと考え去ることに。



「あー、ザガンと言ったか? もうお前も自由なんだろうし、近いうちにまたこっちの世界に来たらどうだ。ま、どうするかはお前の自由だがな。……じゃ、俺らは行くぜ」


 別れの言葉を告げ、みんなに「ほれ、行くぞ」と今度はグランが先導しようと踵を返すと、


「……もう行くならひとつ言っておく。冷静に、現実を見据えろ。今の俺に言えるのはそれくらい、だな」


「現実を、見据えろ? うん、わかった。またいつか会いましょ。敵としてではなく、ね」



 彼の言葉に謎は残るが、言及せずに去る。

 わざわざ去ろうとした彼らを引き止めてまで忠告してきたのだ。それは、必ず意味があることだと心で理解できた。敢えてその詳しい意味を聞かずとも、()()()()()()()()()()()()が近くにあると言っているようなものだった。

 なぜなら、ザガンが未来予知でも出来ない限り、()()()()()()()()()()()()()()しか忠告できないはずだから。



 その「出来事」が何を示すのか。

 グラン達は、ようやく元の世界に帰ってくることができた。ザガンのいた地点から10分もせずに表世界への入口にたどり着き、壁に囲まれた長い道を抜けて禁忌の扉と呼ばれる重厚な扉を潜り、古風都市アンスターの街を見渡す。


『冷静に、現実を見据えろ』


 と、その意味は、街の惨状を見れば明らかだった。

 崩れ去った建物の数々、燃える建物も数知れず。少し歩けば泣き喚く声が響き、医療従事者と思しき人が忙しく走り回っているのがわかる。今は昼頃だろうか、太陽は高くまで昇り日が眩しく照らしている。なのに、街は暗い。

 

 これが、侵略なのか。

 これほどに、残酷なのか。


「もしかしたら村も……いいや、そんな考えはよそう。日常を壊されたことを想像するなんて、するべきではないな」


「ね、ねぇお兄ちゃん。多分、この街にグリムがいるはずなんだよね。私をここまで送り届けてくれたから、きっとここで待っててくれて、ここで戦ったんだよ」


「グリムが、だと? 確かに村の精鋭達も鍛錬を積んでいるとは言っても、あの人はまだ完全に武器すら使いこなせていないじゃないか。わかった、探してみよう」


 と、兄妹が急いで走り出そうとしたのをルーシャが止めて、


「あ、あの!大切な人を探すんですよね? その間、私はこの街の様子を見てきても良いですか?」


「それなら、僕も街の様子を見てみたいかな。そうだね、それぞれ用事が済んだら、この街の入り口で落ち合おうよ」


「「わかった(わかったわ)また後で会おう(あとで会いましょ)!」」



=================



「町長さん!グリムの容態は、どんな感じなんですか?!」


 グリムは、ザガンのデコピン空気弾に撃ち抜かれ出血多量の重傷。そして、今は市役所の一室にて昏睡状態にあった。

 身体はもちろん包帯でぐるぐる巻きにされ、それでも猶、血が滲んでいる。何度も何度も巻き直され、輸血も繰り返されているようだった。


「……少しだけ、時が遅かったかな。つい先程まで息が辛うじて残っていたのだが、今はもう、心臓が止まっている」


「え……そんな、いや、そんなはず」


 思わぬ事実に後退りし、転びかけたところをグランが受け止める。当たり前のことだが、メイアの背中はグランと比べればまだまだ小さい。悲しむ姿と相まって、妹の幼さを改めて実感する。


「メイア、深呼吸しろ。あいつの言葉には、きっとこの事だって含まれていたはずだ」


「つかぬことを伺いますが、貴方が彼女の兄、ですね?」


「ああ、グラナード・スマクラフティーだ。それで、もう少し彼の近くに寄ってもいいですか?」


「ああ、勿論だとも。さあ」


 動揺するメイアの背中をさすりながらベッドに伏せるグリムのすぐ隣まで近づく。

 彼の眼鏡は外され枕の横に置かれている。グランもメイアも、彼が眼鏡を外すのは戦闘の時だけであることを知っている。戦闘の場以外で素顔を見るのは初めてのことだ。


 グッと、グランの拳を握る力が強まる。大侵攻を止められたことを喜んでばかりいたが、当然のことだった。

 元・闇の世界にはグラン達しかいなかったため、勝つか負けるかのどちらかだけを考えていればよかった。

 しかし、この世界は違う。日常を、安寧の日々の中で暮らしてきた人々がいる。この世界にもフィーストのような力を持つ侵略者が来たというなら、これほどの被害は出てもおかしくない。


「く」


 その声はどこから出たのだろう。男の声だ。涙を流すメイアから出た声でないことは確かだった。勿論、無意識にグランが発したとかいう訳でもない。

 ならば町長か、と思って振り向くも、そんなグランの挙動をみて彼は「?」という表情を浮かべる。どうやら町長からでたものでもない。


「ぐ」とまた何か音が、「ら」続けて「ん」と。

 まるで、「グラン」と呼んでいるように錯覚しているのだろうか、と。自分の耳と頭を疑うが、


「ち、が、い……ま、す。ぐら、ん。こっち、で、す」


「………え?」と、メイアが呆けた声をだす。いや、メイアだけでない、そこにいる皆が目を見開いて、呆けた。



 心の臓が止まって既に死んだはずのグリム・ベムは、目を覚ましていた。




 それから時は流れ、グリムが少しずつ会話できるようになってきた頃。


「心配、おかけしました。生き返りましたよ」


「生き返ったって、良かったけど、でもどうして?」


「どうして、でしょうね。もしかしたら、私が最後に敵の攻撃を受けて意識が途絶える瞬間。あの時に吹いた爽やかな風が、私のレイピアの力『母神の息吹(ダヌー)』だったからかも、しれませんね」


 グリムは一世一代の嘘をついた。

 確かに、彼が眠りにつく寸前に風が吹いていた。でも、その状態の彼に技を使う力は残っていない。『母神の息吹(ダヌー)』が要因で命を繋ぎ止めた筈がないのだ。もし、技を使えたとしても、だ。

 そもそもこの技は ''身体の中の異常を回復させる" ものであるけれども、「死」という異常を取り払うまでの効力など持ってはない。

 実際、グリムにとってもなぜ生き返れたのかなど分かっていなかった。でも、兄妹を安心させたいが為に偽ってみせたのである。


「レイピアの力。敵との戦いで私は足りないものを実感しました。そのお陰で、私は武器の力を解放することができ、見事撃退することに成功できました」


「己の弱さを、認めたのか」


「はは、ズバッと言いますね。事実なので否定はしませんがね。でも、その口ぶりからして、グランは私の剣だけがハバキリ様の恩恵を発動できない理由を知っていたんですね」


「まあな」


 そうですか、と一言呟き目を閉じる。ふふ、と笑っているので意識が危ういとかそういう訳ではないらしい。

 だとしたらその表情は喜びから来るものか。少なくとも、苦痛から来るものでないことがわかって兄妹も安堵する。


「私はここで治療を受けてから帰ります。だから、ふたりとも。先にアル・ツァーイに帰って皆さんにその凛々しい顔を見せてあげてください」


 グリムの言葉から村の大惨事という可能性が完全に排されている。つまり、信じているのだ。希望を抱いているのだ。


「何、不安に思うことは何もないですよ。エスティアなら、ダルジェンなら、村の皆なら。なぜなら、スマクラフティー家の兄妹を見て育った心の強い人たちですから」


 それを聞いて、ふたりも決意した。



「ああ、わかったよ。な、メイア」


「うん、わかった。ね、お兄ちゃん」



 ひと呼吸置いて、兄妹そろってただ一言、




「「帰ろう!」」





=====================



 村までの帰路、馬車でガタゴトと揺られて帰る、なんてことは()()()()

 なぜ裏にいる時からそうしなかったんだ、とさえ今となっては思うのだが、今グラン達はフィーストの神槍トロフィーに掴まって移動している。

 持ち主(カタフ家)のフィーストしか槍を扱えないらしいので、仕方なく4人でひとつの槍を掴んでいるが、狭い。


「なるほど、だから最初からこの方法で移動してこなかったのか。今理解した」


「ちっ、おそいよ気付くのが」


 当然の如く持ち主槍に座り、グランは不遇にも槍の光線放出部分ギリギリに追いやられ、女子はジャンケンの結果、メイアが空いてる箇所に座ってルーシャがぶら下がるという配置になった。

 神槍トロフィーにまあまあの長さがあって、4人分の重さでも落下しない推進力を持っていたことが僥倖だった。

 流石カタフ家の家宝だな、と感心する。




「うわぁ〜!すっごいね!馬車だと本当に時間がかかるのに、もう着いちゃったの ?! 」


 ずっとぶら下がってるのも大変という理由で少しづつ休みながら移動し、日が沈む前に途中宿で一睡したが、それにしてもあっという間だ。

 朝日が昇り始めた辺りで出発して、馬車ならあと1日はかかるだろう距離を、太陽が最高点まで昇りきる前に到着したのだ。


「まあそれも驚きだが、すごいな。グリムの言った通り村はそのままだ」


「よかったぁ……」


「まずは皆んなに会ってからだ」


「そ、そだね」



 正直、グランも心の中は安心と喜びで満ちているのだが、それを全力で押し殺している。なんとまあ、無駄な足掻き、男の意地でしかないが。


「ここがおふたりの故郷ですか。アル・ツァーイ、話には聞いたことがありましたが、こんな場所だったんですね」


「一言で表すと、"ど田舎"だな。かつては城で栄えていたとかで、あのデアヒメルが治めていたんだろう?見る影もないね」


「そりゃそうだ。この村が城だったことを知ってる人間なんてこの村でも村長くらいだしな」



 そして、帰還の時はきた。



 村の門を抜けると、スマクラフティー兄妹は村人が集まる広場まで一気に走ると、2人に気付いた人々がざわざわとし始め、その内何人かが何処かへ急いで去っていく。

 そんなことは気にせず、グランとメイアは互いに顔を見合わせ頷くと。

 すぅーっと、仰々しく深呼吸をして_____




「「ただいまぁぁぁぁぁーーーッ!!」」




 村全体に声が伝わるように全力で号し、天が震えた。

 こだまする声はどこまでも広がっていき、誰もがその声の拡散を阻止しまいと、黙って兄妹を笑顔で見つめていた。その中には涙を流す者もいたが、笑顔であることに変わりはなく。



「おかえりなさい!」



 帰還を告げる声があるなら、それを迎える声があるのは必然のこと。遠方から響くのはそれだ。

 資料室司書エスティア・シンシア。広場から割と離れている筈なのにこの素早い駆けつけっぷりは、彼女が全力ダッシュで来たということを意味している。



「やっと帰ってきたかいな!おかえり!」



 また別の方向から、凱旋を祝福する豪快な声が。

 警備班班長ダルジェン・サーケ。珍しく鎧を外し、いつもより彼の筋肉が露わになっている姿は新鮮だ。



「ずっと、待っておったぞえ。儂はまた生きて会えたことが嬉しゅうて嬉しゅうて。おかえりなさい」



 そして振り返れば、暖かい笑みと優しい言葉が。

 彼女、村長ハバキリだ。村長と共に先程何処かへ駆けていった人が呼びにいたので、村長を呼びに行っていたのだろう。



 3方向からの迎える声。いや、それだけではなく、360° 全方位から掛けられる声援が村をどっと包み込む。

 そんな村中からの凱旋曲(おかえり)を受けてグランとメイアはもう一度、



「「ただいま!」」



 メイアが空に向かって魔法を打ち上げ、花火のように氷が緻密に弾けると、ひとつひとつの微細な氷の粒子が光を反射して見事な光の世界が形成される。

 斯くして、ひとつの世界を救った兄妹は()()となり帰ってきたのだった_____




 しかしまだ、この世界に勇者は()()()




「じゃあ、最後にもう一回言うとするかな」


「ん、何を?」


「……俺は、きっと成し遂げる。先天的で後天的な、俺への餞を持ってしてな」


「_____ふ、ふふ、あははは! もう、お兄ちゃん最高!本当にさ、ばっかみたい!」






第一章『完』!!


話を終わらせるって、バカ難しいですね。

『完』までの道のりが長すぎるって話なんですよね。


ま、ここでボヤいても仕方ないので、では


また次回もよろしくお願いします!

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