第一章27 斯く美しきヴァルキリー
二手に分かれた後、彼女ら_____メイアとルーシャはそれぞれ別々の敵と戦っていた。
メイアはカラピアと。かつて元の世界でも敵対し、なんとか追い返したが再びここで接敵することとなる。そして、今度こそ決着がつく。
ルーシャはゴースと。カラピアと同じく元の世界でメイアと接敵した後ナハトに追いやられ逃げ帰る。今度の相手はナハトではないが、ルーシャは持ち前の支援魔法と封印されし武器のダブル長所だ。ここは信じて目の前の戦闘に集中していいとメイアは考える。
「っでよぉ、オメェ、強くなって来たんだろうなァ?」
「当たり前じゃない!これはまだまだ序の口よ!」
二刀流の赫いククリナイフを軽やかに振り回すカラピアに対し、『コルティツァ』の第一形態で応戦。以前は第三形態でようやく対等以上の戦いができるようになったが、今回はこれでも善戦できている。
「そうかァ、そりゃ安心したぜェ。互いに手の内が若干分かっているんだァ、俺は最初から容赦せずに行かせてもらうぜッてなァ!」
言うと、カラピアは2つのナイフを風のように乱らせいくつもの攻撃の残像が空気中に描かれる。以前の戦闘とは格の違う身のこなしにメイアは圧倒される。
一本の長い氷槍だけでは素早い敵の攻撃を対応しきれず、回避に徹底するしかない。
「おいおい、そんなんじゃァいつになっても攻撃に転じることすらできねェぜ?俺はお前が疲れて動きが鈍ったところを攻撃できれば勝ち。このままやってりゃ俺の勝ちは確定ってわけだぜェ!」
「くっ! ええい、これでも喰らいなさい!」
メイアが手を広げると、魔法『ルフト・オーブ』が無詠唱で放たれる。ナイフの斬撃とオーブが接触すると、弾けたオーブから鋭利な風刃が飛び出し、敵の攻撃を相殺する。
そして素早く武器を第二形態へと移項、一旦後ろへ退いて態勢を立て直す。
「やっかいな魔法持ってやがるじゃねェか、いいぜいいぜ、面白くなッてきやがッた!」
「私は楽しむために戦ってる訳じゃないんだけど、あなたは楽しんで戦いたいらしいわね。でも、楽しませるつもりはないよ!パパッとやっつけてあげるから!」
「ハッ!言ッてろ!できるもんならなァ!」
すぐさま距離を詰め一層速い剣撃が叩き込まれる。が、メイアもそれに対応しきれない訳じゃない。得意の支援魔法を自分に使用、パワーもスピードも底上げされ、器用に氷槌を回しながら攻撃を受け流す。
「ちィッ、このすばしっこい虫ッころ、これならどうだァ」
「ちょっとちょっと、どれだけスピード上がるの?! この前のは大違いの強さじゃない?!」
その時、メイアの頬をカラピアの赫い一閃が掠めた。若く水々しいその肌から少し血液が垂れる。
それだけならよかったのだが、そうはいかないらしい。
「ん!! なんか、熱い? 切られたところが変な感じ……な、これは何?!」
「やッと切れたぜェ。前回は貧弱なナイフだッたから切ることもできず撤退したが、ようやく、俺のナイフが火を吹くッて訳だなァ」
カラピアが言うと同時、切られた頬から文字通り微弱な火が発生した。メイアの肌を少しずつ蝕み、焼いていく。
急いで頬の火を払って消そうと試みるも消えず、それどころか触れた手にも火が移っていた。
「呆気なくオメェは負ける運命ッてことだな。その火は消そうとするものに感染し、範囲を広げながらじわじわと焼き殺すことができる不思議な火なんだぜェ。さあ、オメェはこッからどうするんだァ?」
「……熱い、熱いね、これ」
「あァ?何言ッてやがんだ、そんな当たり前なこと」
メイアは「ふふふ」と、不敵な笑みを浮かべて言う。
「確かに熱い、このままじゃ焼け死ぬかも知れないわ。でも、そうはならないのよ! だって、これから本気を出すんだもの! 肌が爛れることを恐れもしない。だって、勝つんだもの! こんな火、恐るるに足らないわ」
そして、武器は第三形態に移項。加えて、赤いオーラを纏わせて更に武器威力を底上げする。
「へッ!この女ァ、だいぶ頭のネジが腐ってやがるじゃねェかよ。それにそのオーラ、この前俺のナイフをねじ曲げへし折ってくれやがッたのと同じだろ? 残念だが、今回のナイフは前みたいにはならねェぜ?」
「安心して。へし折れるのは貴方の心の方だから。さ、火が完全に広がる前に終わらせますよ!」
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一方、ルーシャとゴースの方では。
「楽器を携えた斯くも美しき戦少女、嬲り殺すのが惜しい。どうだ、ここは降伏して悪の道に身をやつす気はないか」
「ある訳ないじゃないですか。私は誇り高きアプス家の三女であり、グランさんやメイアさんの友達ですから」
「なんと無謀なことを。将来を無下にするとな」
「いいえ。無謀なのではなく、これが、自然な流れ。悪が討たれることが自然と、そう教わってきましてね。それが本当に正しいのかと疑うところもありますが、今、この場に於いては正しいですことよ」
ひと呼吸するだけの間を経て、ゴースが「ならば」と呟くと、戦いは始まった。
まず最初に動いたのはゴースだった。剛腕を大地に叩きつけ地を揺さぶり、地を這う蛇のように大地をグネグネと隆起させる。
ルーシャはそれを後ろへ跳び軽く回避すると、足が地につくまえに、即ち空中でジャラランと弦を弾き隆起する大地を爆ぜさせる。それだけでは止まず、やや乱雑に楽器を鳴らし攻撃をしかける。
「あら、あなたの力凄まじいのね。見た目通りと言ったところですね」
「不思議なものだな、音が力に変わるなどとは不思議なものよ。だが、それだけで倒せるとは思ってはいまいな?」
そんなことは分かりきっていると、無言で攻撃をし続ける。それでも攻撃は単純で、弾いて弾いてを繰り返すだけ。なんの応用も工夫も凝らさないのであっさりと無効化されてしまう。
音符による攻撃は魔法属性のようで実は物理的に近い。防御の固い敵には少々不利だ。
ルーシャは未だに、奇鬼忌琴の扱いに慣れていない。そもそも、初めて見る楽器を誰がスラスラと弾けようか。
だから、ルーシャはゴースに対して分がなく、普通に戦うんじゃなんら勝ち目もない。
「ちょっとずるかも知れないけど、あるものは使いますよ。私はゴースという悪に打ち勝つ、『赤い糸』!」
勝つという運命を決定付け、ルーシャに勝利が約束される。もっとも、切られなければの話ではあるが。
だが、あの巨軀から切断系の攻撃が出るとは到底思えない。見た目で決めつけるのもどうかと思うが、きっと。
その後も、ルーシャは攻撃を仕掛けるが、やはり悉く素手で音符の猛威は素手で撃墜されてしまう。
いくら運命が確定しているからと言っても、これでは永久とも思える時間ずっと戦い続け、寿命やら飢餓やらでようやく勝てると言ったようなものになってしまう。
だから、何か、気を衒った攻撃をしなければと、そんな焦燥に駆られる。
「以前、この敵を追いやったというナハトさんって人はどうやって圧倒したんだろう」
ゴースの一つ一つの動きは早くもあるが、隙が多い。しかしそれをカバーするために防御はとても硬く固めてある。
なら、単なる威力によるダメージじゃない、毒だとか電撃だとか、そんな感じで物理的でない攻撃が必須だろう。
「で、でも、私は攻撃魔法も状態異常魔法もほぼ使えない、攻撃手段はこの奇鬼忌琴しかないようなもの……もしかしたら、歌、歌が何かきっかけになる?」
歌とは、この奇鬼忌琴の本来の効果を発揮するための技。音楽を奏でることで楽器は真の威力を発揮するらしい。今までのルーシャは単に音を出していただけにすぎず、音楽ではなかった。今の彼女に足りないのは、武器を扱う技量だ。
と、その時、背中に異質な、本来のあるはずのない物の感触を味わい、なんだか変わらないが絶望的な気持ちに襲われる。その背後にある物体の正体は、
「え……岩? いや違う、これは、大地、だわ」
今までゴースがルーシャに攻撃するたびに隆起させていた大地の壁だった。平地だったはずの戦場はいつのまにか同じような壁だらけ、回避しながら攻撃手段について思惑を構築するのに夢中になってしまい、周りの状況が見えていなかった。痛恨のミスだ。
「我がただ闇雲に殴って殴って、暴れ回っていた訳ではないと今ようやく気付いたようだな。壁と我に挟まれた其処許はもう、逃げられまいよ」
ゴースの言う通り、今から動いて攻撃射程からの離脱を図ろうとしてももう遅いだろう。
やばい、やばい、やばいやばいと、ルーシャの拍動は徐々に加速していく。汗が頬を滴り、頭が回転しない。
「呆気なく散る、それもまた美しいと我は思う。そう嘆くなかれ、抵抗は一番の苦痛ぞ」
無慈悲な、微かに闘志と光を宿した眼差しでルーシャを見つめ、腕を大きく後ろに引く。攻撃の構えだ。
「だ、駄目、ここで死ぬ訳にはいきませんもの!まだ、生きなければ!」
必死な形相でルーシャは目の前に魔法の壁を張る。魔獣ファヴァール戦の時は少しではあるがこの壁で時間は稼げた。
しかし、それはそれ。ゴースはそんな魔法壁なんぞないかのように軽く体当たり突き破り、そのまま拳を前に突き出そうと________
「このままじゃ!わ、私を守って、敵を倒して、ダメージを、いや、それより身を守らないと!」
頭が真っ白になり、無我夢中で奇鬼忌琴の演奏する。ジャジャン、ジャジャジャン、ジャーンジャランと、無意識に変則的なリズムを刻みながら音を出す。
それはさながら、「曲」だった。無意識の、心から溢れ出る懇願の曲。
「お願い!私の、いいえ、私たちの戦いに勝利を!」
そう、ルーシャが号したとき、ゴースの殴打が彼女を襲う直前、彼女を不思議な黄緑の膜が囲った。
「む、何かを纏ったか。だが、このまま突っ切る。これで終わらせてくれる!」
その膜は風船のようにぷくーっと膨らみゴースの攻撃を受け止める。柔らかいゴム風船のようなそれが敵の拳を受けると、そこが激しく凹みパワーを分散させる。
さらにその力、エネルギーは膜中を駆け巡り再び作用点まで回帰、ゴースに全ての力が跳ね返ってくる。
「む、むむむむうぅ! これは、物理的な威力じゃなく、エネルギーが返ってきているのか!」
力という概念的なもので腕を貫かれ、内側から掻き乱される。その結果、彼の右腕は大破し、赤褐色の血肉が花火のように飛び散る。
無意識位ではあるが、ルーシャはついにダメージを、それも片腕を消しとばすという大ダメージを与えることができた。
「こ、これは……私が、やった……??」
「……見事、なり。よもや、ここまでとは」
「そうなのね。これが、私のポテンシャルなのですね」
時間が経つとルーシャを覆っていた膜が消失する。正直、次に攻撃が来ても同じことができる自信はない。どうやって演奏したのかわからず、頭は真っ白に近い。
だがひとつだけ、確かなことがある。
それは、魂の叫び、心から溢れ出る願いや思いが曲になるのだと。それが、新たに音楽を創る方法だと。
「お主に問おう。手に入れた力で我らを倒した暁には、何を欲す? 我らを滅し、次は何をする? 力があるのだ、その力を使わぬなどそれを持つ意味もなし。使えるものは使うが条理ではなかろうか」
「私は……そうね、混沌が跋扈しない、皆が安寧に囲まれて過ごせるような世界の維持に貢献しますわ。例えば、貴方達のような、世界の改変と銘打って侵略をするような輩の排斥、とかですわ」
ルーシャは心の内を、本当に思っている通りに強く語る。
「それに、力は何かを支配するためのものではありません。寧ろその逆、支配を緩めるために、抗うためにあるべきだと私は思います。だって、王様や村長、町長、長官、様々な統率者はいますが、彼らは只の象徴的なものにすぎません。支配するのは、人民皆。統率者を含めた、全員が全員を、本来は均一に支配するような設計になっていると私は思っています」
「愚かな……力があれば全てを捻じ伏せ欲しいがままにできるものを、勿体ないとは思わないのか」
「魅力的な言葉ですね、欲しいままって。でも、全てが満ち足りている生活の何が楽しいのです? 欲しいものがあって、それを手に入れるのが難しい。だから頑張る。そうしなければ何者も成長できない。満ち足りてないことにこそ、成長の為の栄養があり、人を裕福にさせる種があるのでは?」
「……ここまで美しいとは、なるほど。終ぞ、我らは善にはなれぬのか。我らが善である世界は存在し得ぬのか」
ゴースから勢いが急速に失われた。ルーシャの言論はゴースの精神にも力を与え、彼の体力は徐々に失われていく。
巨大な身体から流出する血液は大量だ、そのまま放っておけばその内彼は自然と滅んでいくだろうが、
「貴方、善になりたかったの? そう、でも、悪を孕んでしまったものは仕方ないですわ。では、善でありたいと思える内に、この戦いを終わらせてしまいましょう」
「……これで、決める」
両者ともに、深く深く呼吸をする。これから行われるのは残虐な殺し合いではなく、単なる力のぶつけ合いでもなく、相入れぬ者同士でありつつも、敬意を持って行われる決闘。
侵略者の中でも、最も「美」を好むのがゴースである。
美しく戦い、美しく勝ち、スマートに敵を追い詰めることを追求して精進をしてきた。故に彼はメイアを、ナハトを、美しく舞い戦う彼女らを褒め称え、敬意を持って戦闘に臨んでいた。
そして現れた新たな美女。だがしかし、彼女は単純な動きしかせず戦闘には不向きで、容貌にしか美しさがないと若干の落胆を感じていた。
________だが、それは間違いだった。
「我は戦う乙女らをいつも、戦乙女と呼ぶ。さる美しき容貌に加え、さる強き芯。お主のような者に逢えたことをいつまでも覚えていよう」
ゴースは、非力で戦えない彼女を再評価した。
「今まで出会ったどの戦士よりも強い、未来がある」と。
「るぅあああああああぁッ!」
残された左腕をこれでもかと叫びながら振り上げ、拳を地面に叩き込む。古来より封し続けてきた利き手は、もう既に利き手とは言えないかも知れないが、勘はある。
かつての勘を働かせた全力が世界を震撼させたかのように大地を凹ませ、周囲が波をなすように蠢く。
「アプスに伝わりし讃歌よ、願わくば私に救済の一手を。簡易・狂詩曲『アプスのラプソディー』」
一方ルーシャは先代より伝わりし伝統の歌を演奏する。ぎこちなく弦を弾きながらも正確に音を拾っていく。魂を込めることで効力を発揮するならば、この曲はまさしく奇鬼忌琴にぴったりだ。
「私が子供の頃から聴かされてきた思い出の曲ですわ。思い出に乗せて、歌を貴方に、風に乗せ届けて差し上げます!」
ルーシャを囲うようにして抉られた地面が波を起こす。固形物体が引き起こす異質な波に呑まれ姿を眩ましてしまう。
一歩早くゴースの一手が叩き込まれ、音楽が引き起こす効果を見ることが能わずに終わる。
かと思われたが、そこは流石にアプス家の人間だ。土砂に塗れ姿が見えないのに、どこからか美しい音だけは奏でられている。耽美主義のゴースが魅入るほどに滑らかな音が。
隆起した土の津波が動きを緩め、中で揉まれているであろうルーシャを更に締め上げる。すると、ちらりと土砂の柱の中から彼女の姿が見え隠れ。顔と腕だけが空気に晒されて、側から見るとそれは十字架に処された者の姿だ。
『赤い糸』は既に切れており、この攻撃によって彼女はひどく衰弱しきっている。だが、
「ふふ……もう、音は、届きました……」
弱々しく、それでいてゴースにも聞こえる声量で笑ってみせる。こんな時に笑う人間の心境は大体2通り。
負けを確信して心が壊れたか、逆転を確信したときか。
「貴方はもう……音を聞いたのでしょう? なら_____」
冷たい風が吹く。
特筆すべきことは何も起こらず、本当に何かが起こるのかとさえ思うが……
「……そうか、少しばかり我は」
目の前で起こることばかりに気を取られていて、気づくことさえできずにいた。どうやら、既に彼女の攻撃は終わっていたらしい。冷たい風に乗せて攻撃はいつのまにたどり着いていたのだ。
ゆっくりと、ゴースは違和感を確かめるように下を向く。違和感は違和感ではなく、真実、予想通りの異質な光景があった。ぽっかりと、彼の胴体に穴が空いていたのだ。
それに気づいた途端にそこから血が激しく吹き出す。巨大から出る血液は噴火のようにも見えて、彼は、深紅に染まって崩れる。
そして、微かに残された命を懸命に働かせ、言う。
「死期を悟った……この刹那、我は垣間見た。どうして……我は、武の道から……あるべき善から踏み外して……あの時の、苦痛でありつつ、輝いてもいたあの時を、どうして、あき……らめて……しまっ……た……の……………か」
ありし日の記憶を呼び覚まし、彼、ゴースは血の絨毯の上に迎え入れられた。
暖かい歓迎の赤に絡まれて、彼は静かに命を溢した。
「貴方は、本当に強かった……善であり続けられたなら貴方は、より……強くなれたでしょうね……」
敵が滅びたことでルーシャを締め付ける土のピラーがひび割れて砂のように崩壊する。
土の呪縛から解放され倒れ込むと、意識が途絶える前に回復魔法を自分にかける。
「あとは、メイアさん。そちらでも、決着を……」
震え力の入らない身体を無理矢理に叩き起こして、脚を引きずりながら微かに残る腕の力でメイアの下へと向かう。
ゆっくり、ゆっくり、息を切らしながら……
バタンと、体力を消耗しつくしその場に倒れた。
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その頃、もう一つの戦いも晩期へと差し掛かっていた。
結論から言って、メイアが敵に打ち勝つには少々、否、大分条件が悪すぎた。
何度もカラピアのナイフで身体を切り込まれ、既にメイアの身体中は炎で爛れてしまっている。
「ハァ……ハァ……なかなか足掻く野郎だなァおい。全身丸焦げになッてもう死ぬかもッてのによォ〜、だいぶ頭もイカれてきてるんじゃねェのかァ?? 常人なら立つことすら諦めるだろうによォ」
燃え盛る身体が周りを照らし、彼女はすでに暗い世界を灯すランタンのようなものに変わり果てている。光が邪魔してもう彼女の表情を伺い知ることは難しい。
カラピアも気になっていることだが、もはやここまでくるとなぜ彼女が立っていられるのかが唯一の疑問だろう。
今もなお、彼女は無言でやや闇雲にも氷の薙刀を振り回しては躱され、振り回しては躱されをなり返している。
炎にも負けじと溶けない氷の武器とその使用者は二つで一つと言ったところだろうか。武器が溶けないのならメイアも動き続ける。
「おいおいィ、それは執念ッてやつなのかァ? 面倒な女だぜ本当に。そこまでして生に執着して勝ちをもぎ取ろうッてんなら止めときな。もう、勝ち目はねぇからよ」
無慈悲にもそう吐き捨てると、カラピアは低く態勢をとって攻めの姿勢に出る。「これで終わらせてやるぜッ!」と口角を上げニヤつき距離を詰め、首に鋭利な刃物か差し迫ったその瞬間、
「あぁ……し…ッ……」
その声が発せられたのは、意外にもメイアからで。
もう喉も焼け焦げ声を発せないとばかり思っていたから意外だったこともあり、カラピアはほんの一瞬だけ足を止めようと脳裏がよぎった。だが、止めない。止めずに殺ると決意した。
「くぁ……っ……ぁ……いぃッ」
それが、カラピアが聞いた最後の声。
正確に聞き取れた自信はないが恐らく、彼女はこう言いたかったのだろうと予想する。それは……
『_____勝ちたい』
実際にそれだけが、今メイアに残された唯一の心だった。
もうちょっと戦いじゃない、のほほんとしたお話も書いておくべきだったかなぁと、今になって後悔。
しかしまあ、戦いの描写はむずすぎますって……
あ、これあと何百回か言うつもりです(小声)
〜読んでいただきありがとうございます〜
また次回、別の戦場にてお会いしましょう!




