第一章23 ちょっと休息
「私の名前はミステルーシャ・アプス。長いのでルーシャって呼んでくださいね」
「はい!次は私の番ですね。私はメイア・スマクラフティーです!私たち名前長いですね!私はまだいいですけど、お兄ちゃんもグランって略されてますし」
「確かに、なんでこんなに長い名前にしたんでしょう?」
元気に自己紹介をする2人。
ちなみに、いま彼らがいるのは拠点である。
フィーストを倒した後、気絶するフィーストを縛り上げ1日かけて拠点へと戻ってきたのだ。
「あ、お兄ちゃんとルーシャさん、この世界に来てからのこと教えてよ!私が元の世界でやってたことも含めて休憩がてら話しましょ!」
「戦い続きだったからな、ちょっと休息してもいいか。どうせフィーストが目覚めるまですることもないし」
「じゃあ、私たちのことから話しましょうか。まず_____」
こう言った調子で3人のトークは止むことなく続き、久々に楽しい時が過ぎてゆく。
この時みんなはもう分かっていた。
この休息が終わったら激しい戦いが幕を上げる。
つまり、これが最後の楽しい時間であることを。
「へぇ〜!じゃあルーシャさんよりお兄ちゃんの方が早くこの世界に来てたんだ。お兄ちゃん、独りって辛かった?」
「……ああ、そうだな。そんなこともあった」
「グランさん、見た目に反して結構かわいらしいところありますからね」
「あ、わかるかも!」
「お、おい何を言ってるんだ2人して!」
いきなり恥ずかしいことを言われて赤面するが、それを見てさらに「ほらね」と追い討ちをかけてくるのでグランはそっぽ向いてしまう。
今後はこんなことがないようにしようと心から思った日である。
「そ、そういやメイア。お前とんでもないほど強くなってたが、どうやってそこまで強くなったんだ?」
「んーっとね、ユニベルグズっていう大都市に魔法研究施設があるんだけどね? そこに行って強くしてもらったの!」
「ユニベルグズというと魔法で有名ですね。なるほど、そこに行けば確かに戦力の向上に役立ちますから。あ、そうだ、この世界から脱出できたら皆んなで行くってのはどうです?」
「私さんせー! あそこは私の第2の故郷みたいなものだからまた行きたい!」
「そうか。なら、この戦いが終わったら行こう、絶対」
3人が顔を合わせて微笑む。
すぐに訪れる戦いの打破が余裕だからではない、笑わないと心に余裕がなくなるから。
「そうだ、すまんメイア、ルーシャ。ちょっと席を外すぜ。5分もありゃ戻ってこれるだろうから2人で話しててくれ」
「ん? うん、わかった。じゃあルーシャさんと話して待ってるよ」
「おう」
さっと立ち上がり拠点の奥へ駆け足で進んでゆく。
そんなグランの後ろ姿をみて、
「お兄ちゃん、どこにいったんだろ?」
「んー、あの方向は多分、王様のところですかね」
「ん、おーさま? その人も味方なの?」
「どうなんでしょう。私たちにもよくわかってないんですけどね、でも何かと協力してくれてるんで私は味方だと思ってます」
「???」
解せぬ、というようなしかめっ面をするメイアだが、ルーシャもよく分からないと言っていたのでこれ以上は追求しなかった。
だが、何を思ったのかメイアはルーシャを見つめたまま固まったまま動かない。
「?? あの、メイアさん、どうして私をじっと見ているんですか?」
「ルーシャさん、可愛いですよね」
「何が、ですか?」
「ルーシャさんが」
「え? そ、そうですか?」
「はい、そうです、そうですよ」
「あの、えと、ありがとうございます」
何の脈絡もなく突然可愛いと言われなんとも表現できない不思議な気持ちに駆られる。
だが、なぜ突然そんなことを思ったのかルーシャには全く想像もつかない。
「ルーシャさんって〜」
そして、メイアがその顔をニヤつかせ揶揄うように口を開くと、
「な、なんです……??」
「ルーシャさんって、お兄ちゃんのこと好きだったりするんですかー?」
その質問は、予想だにしない爆弾だった。
「え、えぇぇーーっ! いやいや、違いますよっ! 」
「本当にそうなんですぅ?」
「ええ、そうですよ。そりゃあ確かに、」
「確かに?」
「確かに、優しくて強くてかっこいいですけど、でも、この世界から脱出するので忙しくて、それどころじゃなかったですから」
「じゃあ、もとの世界に帰って忙しくなくなったら?」
「えっ……」
忙しかったから恋とか考えてなかったというのは本当だ。
だが、多忙な時が過ぎていって余裕がでてきたなら、どうなるのかは予想もつくまい。
完全に否定するだけの材料がなく、ルーシャは何も言えず口を噤んでしまう。
「メ、メイアさんは、いいんです? お兄さんを取られて悲しいとかなんとか」
「うーん、あるかもですけど……それもそれで楽しそう!」
「へ、へぇ〜」
無意識位にグランとメイアと共にすごす未来を思い描いてしまっており、それを自覚したルーシャは「あ、末期かも」とメイアに聞かれないくらいの小さな声で呟く。
「でも、なんか新鮮です」
「え?」
「私たちアプス家姉妹では恋バナなんてしませんでしたし、仲のいい子も少なかったので、こういう話を全然してこなかったんです。なので」
「あ、やっぱルーシャさんってアプス家の人だったんだ……ってやだ! 私ってもしかしてアプス家の令嬢さんと友達になれちゃった?! うわぁ凄い! 今後とも仲良くしてくださいね!」
「は、はい! 私も仲のいい友達が欲しかったので、嬉しいですよ」
イェーイ!とはしゃいでハイタッチをする2人。
その微笑ましい姿は誰が見ても癒しだ。
そんなほのぼの空間が展開されているのがこんな闇の世界でなければより素晴らしかったのだが。
「じゃあ、帰るべき世界に戻ったらまた恋バナでも何でも、やりたいことやりましょ!」
「はい、楽しみにしていますね」
「約束です!」
拳と拳をポンッと合わせて約束を交わす。
別に拳を合わせるのが彼らの世界特有の約束の交わし方という訳では無いのだが、こうすることで相手が仲間であるという意識がより引き締まるらしい。
その後もメイアとルーシャはほんわかとした女子トークを展開させ、短い間ではあったが話が尽きることはなかった。
そして、奥からグランが戻ってくるのが見えると、
「あ、お兄ちゃんおかえり〜」
「グ、グランおかえりなさい。あの、デアヒメル王さんのところへ行ってたんですか?」
「ん、まあな。……ずいぶんと盛り上がってた様だが、どんな話をしてたんだ?」
「あ、聞いて〜! ルーシャさんね、おに_____」
「えぇーーー?! それなんの話ですかぁーー?! グランさん、あのですね? 私たち、好きな食べ物の話とか故郷の話とか、そういう話をしてたんですよ」
メイアが「お兄ちゃん」という単語を放とうとしているを察知しルーシャが慌てて軌道修正する。
グランを好きか否かという話題を引っ張り出されるのは何かと恥ずかしいものだ。
「そうか。だが、なんでそんなに慌てて……」
「き、気のせいじゃないですか? 私べつに慌ててませんよ」
「お、おう……」
メイアが2人の会話を聞きながら笑みを溢しているのを見てグランは怪訝な顔をするが、ルーシャが「気にするな」とばかりに話題を発展を阻止するので何事もなく会話は終了。
そのため3人それぞれが次に何を話そうかと考え始めるが、
「_____君たち、さっきから楽しそうに話してるけどさ、そんなにゆっくりしてて良いのかい? 」
突然放り込まれた異質な声。
それは、縄でぐるぐる縛られた銀髪の青年から発せられたものだった。
気絶していた彼、フィースト・カタフが目覚め、何かを羨むような声色で話しかけてきたのだ。
「よう、フィースト。やっと起きたかよ」
「僕は君たちの凄さに打ちのめされ少し思ってしまったよ。君たちなら、可能性があるんじゃないかと。憧憬を、絆の可能性に憧憬を抱いてしまった」
相変わらず唐突なベクトルのねじれ曲がった話題に皆が困惑する。
「……つまり、何がいいたいの?」
「今回、僕は君たちの側に回ろうと思う。君たちの方が希望があるから、未来があるから寝返るんだ。ゆめゆめ、"僕が君たちの仲間になる"なんてそう安いものじゃないってのを忘れないで欲しいね」
彼の矜持からか仲間意識を嫌がっているようだが、寝返るという発言、要は「仲間になる」という解釈でいいだろうとグラン達の意見が合致する。
「うん、ずいぶん上から目線だが、正直、お前がこっちサイドに来てくれるのはありがたい。メイア、ルーシャ、どうだ?」
「私はいいと思う。だって強いし!」
「裏切る可能性も否定はできませんが、私も良いと思いますよ。今回だけでも手助けしてくれるならそれでいいです」
「……ってことらしいから、俺らはお前を信用するぜ」
3人はフィーストを見て深く頷く。
「ようこそ」と最初に言い出したのはルーシャで、それにつられて兄妹も「ようこそ」と呟く。
「君たち、なぜ僕を信用できる? 人が良すぎるのか? だって僕は悪を孕んだ存在で、君たちを殺すのが目的なんだぞ?それを、信用するというのか?」
理解できない、とフィーストは一言付け加え、奇人を見るような目で眼前に立つ3人を見る。
「知ってるか? 俺ら兄妹は相手の悪意や殺意を感じとることができるんだ」
「は? それがなんだってんだよ」
「だーかーら! あなたが私たちに対して今、害意を持っていたなら私たちはあなたを信用してないってことよ!というより、『君たちを殺すのが目的なんだぞ?』って言ってるくせに殺意を感じなかったわ。 つまり、あなたは私たちを攻撃するつもりは無いってわけ!おーけー?」
そんなメイアの短い説明を受けフィーストは3秒くらい固まったまま動かず、その後「ははっ」と小さく笑みを溢す。
「それだよ、それ。この前はグランに僕の殺意を見抜かれて君を殺し損ねたからね。ほんッとーに君たち兄妹は嫌いだよ」
「言ってろ」
嫌いだという彼の言葉に照れ隠し的な、自分にない力を羨むのを隠しているような、そんな意図が2割ほど含まれていることは誰にもわかるまい。
"負けた"という事実が起因しフィーストの心の内を少し変化させ、今の強さに満足せず高みを目指そうと言う意思が芽生え始めている。
とは言え、8割は"嫌い"という意味のままなのだが。
「あぁ後ね、君は名をルーシャと言ったかな。グランの野郎はこれから無尽蔵に強くなっていくだろうよ。その成長譚をよーく見ておくことをお勧めするよ。僕は見たくないがな。どうせなら一緒に成長するってのもいいんじゃないか?」
「おい、俺の成長がなんだってんだよ。あとルーシャがなんで俺の成_____」
「はいはいはいはい! その話はだいぶ前に終わったはずです、ってかその話聞いていらっしゃったのですか? あらあら寝たふりだなんてお戯れがすぎますこと」
グランの言葉を遮ってルーシャが再び早口で焦ったように語り出す。その様子をグランとルーシャ以外の2人は楽しそうに見ている。
「今日のルーシャはやけに饒舌だな。疲れすぎでこうなったなら休んでおいた方がいいぞ」
「そ、そうですね……わかりましたでは横になって休んでますね〜」
そそくさと焚き火の近くへ行き暖をとるのを見送るとメイアとフィーストが小さな声で話し始める。
「フィースト・カタフ、あなたも中々に悪戯好きなのね?」
「ああ言う女は揶揄うのが楽しいからね」
「言ってることは最低だけど気持ちはわかるからなんとも言い返せない!」
「おいおい、お前ら何話してるんだよ。随分と仲良いな」
「ふん!たまたま意見が一致しただけで仲良いわけではないさ。そこのところ勘違いしないでくれよ」
「ま、そう言うことでいいか」
つい昨日まで敵だった者とも普通に会話ができる程度には関係が改善され、総合的な戦力も高まった。
また、このちょっとした休息が彼らの疲れを肉体的にも精神的にも和らげられる。
週に一度しかない休みでは心も体も安らがないように、こんなちっぽけな休みでは回復もちょびっとだけだ。
行動量に対する回復量が追いつかない状況だが、やる気はある。心が身体に与える活力的な効果を考えれば、ガッツというのは割と優れた回復薬なのかもしれない。
フィースト参戦を祝して小さな宴が開かれ、そして夜があけた。
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彼らの体調は万全。
モチベーションはばっちり。
真っ暗なままの空も、心なしか明るく感じて。
メラメラと燃える炎のように雲が形をなしていて。
4人の戦士は強い闘志を心に抱いて前を向く。
「おいおい。これはよォ、どういうこッたァ。悪を埋め込まれてる筈の野郎が2人も敵側にいるッてのはよォ」
「だが、そのおかげで再び小さな乙女戦士と剣戟が交わせるということではないのか?」
そこに現れたのは2人の人間だった。
1人は、痩せ気味で言葉使いの荒い者。
もう1人は、身体が大きい巨漢。
「また、貴方達と戦うことができて嬉しいわ」
呟いたのはメイアだ。
そう、彼女は彼らと戦ったことがある。
「メイア、こいつらと戦ったことがあるのか?」
「ええ、カラピアとゴースと言ったかしら? 帰るべき世界までわざわざ私を殺しに来て逃げ帰った人間ね」
あの時の、ナハトと共に戦った敵が再び目の前に。
「お兄ちゃんとフィーストはラグラスロの下へ急いで。私とルーシャでこの2人は引き受ける。いいわね?ルーシャ」
「ええ、もちろん」
最終決戦の幕が切って落とされる時はもう近い。
更新ペース遅くなりますが、今後とも宜しくお願いします!




