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勇者などいない世界にて(原本)  作者: 一二三
第一章 二つの世界
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第一章22 神槍トロフィー

「俺が使ってるこの槍、これの名を神槍トロフィー。これが今から、猛威を振るうことになるとそう宣言するぜ」



フィーストが静かに宣言すると即刻、戦場は修羅場と化す。

3者の放つ敵意と殺意が入り乱れ、劣悪な空気が完成。

相対する者を蹂躙するが為だけに燃える闘志は何を燃やし、何を残すのか。


用意はできた。

互いに目を合わせ、相手の意向を伺いそして……


「ぶちかますッ!」「いきます!」「最後の審判だ、兄妹」



_____戦いの幕は切って落とされた




3人が同時に大きく1歩踏み出し、氷閃と蒼閃が交わることで何度も連続して金属音が発生する。

兄妹2人で異なる方向から攻めるが、流石は本気のフィーストだ、自慢の槍を使って器用に防御しては反撃を繰り返す。


グランは武器を生成せず、拳で殴るという方法を選んだ。

武器を使うよりも直接攻撃したほうが効果があると踏んだからだ。

それに、グランは怒っていなくとも凄まじい力を引き出すことが自然とできるようになっており、その活用も無意識のうちに上達している。



「でも、本気のバトルが始まったのにこんな質素な展開なわけ無いだろってな!」



グランが立ち止まり、拳にオーラをほぼ一点集中させる。

今までは全身を巡るように渦巻いていたオーラだが、それが拳に集中するということは、言うまでもなく強い。



「君に殴られてあげるほど僕は優しくないよ」


「なら、殴られさせるだけよ!」


「正直言って、君の武器じゃ僕を動かすことすら_____」



目の前に見える薙刀は、もはや氷には見えなかった。

赫々としたオーラはまるで炎。しかしそれが炎なら氷の武器は溶けてしまう筈だからそれはありえない。

陽炎(かげろう)がゆらゆらと世界を歪め、それがフィーストに思いっきり叩きつけられる。

毎度の如く攻撃はガードされるが、メイアの攻撃でフィーストを動かすことに成功した。

そして何度も何度も、面を描くように赤い線が敵を打ちつける。



「いきなりだ、急激に破壊力が増した! それに、熱い! でも、結氷の武器がそんな灼熱に耐えられるはずが……!」


「別にこれは炎でも何でもないから溶けませんけど、ね!」



これ以上まともに対応してるとやられるかもしれない、とフィーストは考え地を蹴り後退する。

が、しかし後退しながら己の過ちに気付いてしまった。

そうだった、そう言えば、後ろには……


「なんだ? 自分から殴られに来てくれるなんて嬉しいね」


「いいや! 何としてでも避けなければ! これ以上の被害は避けなれればならない! 解放、トロフィー!」



グランの拳がフィーストに殴りかかろうとした時、彼の持つトロフィーという妖しい槍がその輝きを増した。

そしてその槍の先端から1滴の雫のようなものが宙に放り出され、振りかぶるグランの殴打とぶつかり合う。



次の瞬間には、そこから音が消えていた。

いや、音はあって、それを知覚するだけの余裕がなかっただけなのかもしれないが。

更に視界が白に埋め尽くされ、ここがどこなのかを刹那、忘れてしまって。

この場で戦う3人全員がこの不思議な事象を体験している。


力と力のぶつかり合い、互いが互いを破壊しようとし合ってさらに複雑に絡み合い、空気が大きく震え上がったのだ。

空気がその拮抗に耐えることができず、広範囲を大破させたのである。

爆発の中に音はなく、その中は白い世界だったというだけのこと。



破裂は広範囲にわたり、暗い世界が戻ってきたときにはすでに辺りは更地になっていた。

もちろん、グラン、メイア、フィーストも皆、被害を免れることは能わず、メイアは膝を地に、フィーストは槍を支えになんとか立っている状態。



「お、お兄ちゃん?! 大丈夫?! 」


この破裂の中心地にいたグランが爆発を直に受け、最もダメージを負っているはずである。


土煙に視界を遮られ、グランの姿が未だ見えていない。

だが、その中でメイアは確かに聞いた。

ザッ、ザッ、という、土を踏むような音を。


メイアは確信した、グランが歩いていることを。



「執念ってのが、人を突き動かす究極のエネルギーなんだって、俺は、今、身をもって知ったぜ……」



そして、パァンッ! と、地面が爆ぜる音が煙の中から聞こえたかと思いきや_____


拳にオーラを集中させたまま、目にも止まらぬスピードで土煙から姿勢を低くした状態で飛び出し、フィーストに殴りかかった。

腹に叩き込まれた一撃は、フィーストを吹き飛ばすのではなく、身体を内側から広がっていくように全身を刺激した。

それによって彼の口から血が吹き出る。



「ぐふぅあぁッ! どうして、どうして立っていられる!」


「だから、言っただろう。執念だ」



姿を現したグランの右腕は爆発の影響で爛れている。血が噴き出て皮は引き剥がれ焼け焦げている。

なのに、グランは右腕で、それも全力で殴ってきたのだ。

そう言えば、この世界に来たばかりのメイアの胸を槍で貫いた時も、彼女は執念で反撃しようとしていた気がする。


「君たちは、何故そこまで身体を酷使できる?! 君らが、できるなら僕にだってできるはずなんだぁぁぁぁぁッ!! 」


怒号がなり響き、こだまが響き、フィーストのオーラが更に鋭く刺々しい、肌にジンジンと突き刺さるようなものに変化する。

激しく顔を歪ませ2人を見る、睨む、眼光がギラリと光る。



「僕は、今までこんなに怒ったことはないね! 虫酸が走って反吐が出て血を吐いても!這いつくばることはしない!僕は、君たちより強くあり続けるッ!」



そういうと同時に、グランが前から倒れ込む。

力の酷使と被ダメージ量に身体が耐えきれなくなったのだ。


「お兄ちゃん!」


「来、るな……メイア」


「_____っ!」


「今、メイアがやるべきは、あいつと戦う、ことだろ!」


「うん、わかった! 信じていいんだね? 死なないって!」



仰向けに寝転がるグランが親指を立ててグッドサインを見せる。

信じろと言うジェスチャーを見てメイアは強く頷き、武器を構えて倒すべき敵をその目で捉える。



「ふん!君たちは2人いてやっと僕にダメージを与えられるというのに、女1人で何になるって言うんだ!調子に、乗るなよっ!」


「臨機応変に、なんとかするしかないでしょっ!」



フィーストに向かって叫ぶと、素早く自信に補助魔法をかけまくる。なんとかすると啖呵を切ったはいいが、あの怒り狂う青年を倒せるとは思っていない。

いや、もともとメイアは1人で彼を倒そうなど考えちゃいなかった。

時間だけ稼げればそれでいい。

グランが戦線復帰するまでの時間が稼げれば、それで。



「いいや、なんとかできないようにしてやるよ!すぐにこの戦いを終わらせてやるさ!解放!トロフィー!」



天を貫くように槍を上へ向け、光線が空へ打ち上げられる。

そして天高くで光るそれは、打ち上げ花火のように球を描いて散っていく。

無数に散っていく1つ1つの線は、もともとの光線と同じくらいの太さと破壊力を秘めていた。

それが大量に降ってくると言うことはつまり、



「お兄ちゃんも巻き込まれちゃう!それだけはダメ!」



全力でグランの横まで走り、赫々としたオーラを纏った武器を振るう。

どうやらメイアの攻撃で光線を弾き飛ばすことができるらしい。これならグランを守り切れる、と思ったのも束の間。


弾かれてどこかへ飛んでいった線が方向転換してメイアに再び襲いかかる。


「え?」


上空だけを見て他の飛来線に対応していたメイアはその方向転換に気付くことができず、横からやってきた白線の猛威をもろに受けてしまった。

しかもそれだけに飽き足らず、メイアに直撃したそれはさらに勢いを止めることなく方向転換と突進を繰り返す。

彼女のきめ細やかな肌を爆ぜさせ、傷を付け、メイアの姿は血に汚れた醜い姿へと変貌していく。



「あぁぁぁぁぁ……ぐぁあ……ああ……」


徐々に悲鳴の声が小さくなっていき、そのダメージが計り知れないほどに大きいものだと予想できる。



「はははっ!良いねぇ。言っただろう? 僕のトロフィーが猛威を振るうってさ! でもね、これだけじゃないんだ。今の、執念の素晴らしさを知った僕ならもっと凄いことができる気がするよ! 調子がでてきた!いいね!」



身体がボロボロになって地に伏せるメイアは今にも消えそうな意識の中、あることに気付く。

フィーストの様子が、出会ったばかりの、ただ戦いを楽しんでいるだけの青年に戻っていることに。

そこに彼の本気さを見出せなくなってきているのだ。


「今の、あいつになら……隙があるかも、知れない……」


弱々しい声で、誰にも聞こえない声で呟く。

でも、それで十分だった。自分に言い聞かせると言うことだけできればそれで良かった。



「うん、じゃあ最後に、君たちにより進化したトロフィーの猛威をお見舞いして死んでいってもらおうか!」



出血が激しい、意識が途絶えそう、眠気、そう、眠いんだ。

眠いときに寝っ転がったら、睡魔に負けるのは必定。


でも、フィーストの行動から目を離すことはしなかった。


蒼槍がくるくると回り、そこにエネルギーが溜まってゆく。

それに大気の流れが変わるのがよくわかる。

風が多方向から吹いてきて、これから起こることがとんでもない災害を引き起こすであろうことが容易に推測できる。



「俺がダメならメイアがやる。メイアがダメなら俺がやる」



そこに放り投げられた声は、メイアが必死で時間を稼いだ賜物。そのお陰でグランが回復魔法を全開で自分に使用し、立ち上がる程度には回復できたのだ。



「へぇ、この短時間でそこまで回復したんだ」


「でも、立ってるのがやっとだぜ。正直、これほどにイカれた攻撃を止められるとは思えねぇ。どうしようか?」


「それでいいじゃない!君にできるのは、そこで命の終わりを傍観しているのみだ」



不気味な笑みを浮かべ、全てを深淵に引きずり込むような暗い目がグランを捉える。

その目を見ていると非常に気分が悪くなってくる。



「いや、やっぱり武器は使うべきだったかなぁ……相手が武器を使うのに俺が使わないんじゃ損だよなぁ。ってことで、『ノイモント』からの『ヤクト』」



久しぶりの『ノイモント』からの『ヤクト』で三日月を生成する。今のグランなら2つの魔法を媒介せずとも武器を出せるのだが、敢えてそうした。

覚醒したグランの力が2つの魔法を経由してさらに武器を強化、進化させたのだ。

まるで円面を強引に割ったときのようなギザギザしたデザインと、白銀に光る3枚に重なった鋭刃。



「なに、今更武器なんかつくっても無駄なんだってさ。もう力は溜め終わるんだ。そんなに溜めなくても死にかけの君らは殺せるだろうけど、せっかくならオーバーキルしたしからねぇ」



そう言うと同時にパワーの充電が終わったらしく、フィーストの槍から感じたことのない禍々しく津波のような怒り荒ぶる力の奔流を感じる。

進化した月の武器を用いたところでそれをぶった切れる自信は全くない。それができたならフィーストなど瞬殺ものだったはずだから。



「でも俺は武器を生成しただけで、これでお前の攻撃を阻止するなんて言ってねぇだろうよ……」


「ふん!ぬかせ。じゃあ阻止なんてせずにこれを喰らって死にな!『超魔力厄災(カタストロフィ)』!」



咆哮をあげるように唱えると、フィーストを中心とした超爆発が引き起こる。それは、先程の大爆発など比にもならない威力と範囲を誇る、まさに厄災。

兄妹は勿論、大地を、大気を、周囲の全てを巻き込んで破壊は広がっていく。

膨大な魔力の拡大はそのエネルギー量によって熱量も増加していき、爆発に触れずとも近寄るだけで身体が茹で上がりそうだ。



直径50mくらいに爆発範囲が広がった辺りで魔力の暴発は拡大を止め、徐々に魔力が薄れてゆく。



その中ではフィーストの乱れた呼吸と空気の入り乱れる音だけが奏でられていた。

辺りには何もない。大地が削りとられ、深く大きな溝が出来上がっていた。



「はぁ……はぁ……こ、こんなに凄い力を扱うのは人生初だよ……グラナードくん、メイアちゃん、感謝するよ。君らのおかげで、僕は、新たに成長できた!」



爆発の前まで兄妹のいたところを見るも、激しく吹く風によって土煙が舞い上がっており姿を確認できない。

いや、そもそも彼らの姿形すら削り取って消滅したのかもしれないが……



「い、いや違う……これは、土煙なんかじゃない! 何か、霧のようなもの? というか、あそこの部分だけ地面が完全に抉られていないぞ? 激しく地面が隆起しているかのように、あそこだけが何故か爆破の被害を逃れている!」



「_____どうしたよ、フィースト・カタフ。何騒いでる?」


「_____驚いたわ。貴方にも、お兄ちゃんにも。凄いわね」



爆ぜる魔力の影響を唯一あまり受けていないその場所から、生きているはずのない2人の人間の声がする。

いや、仮に生きていたとしてもメイアという妹の方は喋れる状態では無かったはずだ。

回復魔法か? いや、例え回復魔法を使ったとしても_____



「普通に立っていられるはずがない……」



「魔法球第二式『デアヒメル』。何とか、生き残れたぜ」


「その魔法、私、それをお兄ちゃんが使ってる夢見たわ」


「そうか。じゃあ、俺らはいつでも繋がってる。絆で繋がってるってことらしいな」



「普通に会話を始めるなッ! 何をした!何故死なない!」



血相を変えて怒り狂う青年を見ると、グランは空を指さして何故か微笑んだ。

メイアが指の指し示す方を見ると何故か驚いた表情をする。



「何をやってる、いったい何があるって言______」


「何があるって言うんだ」と言おうとしたが、その言葉は空を見ると中断されてしまう。

空にあった……いや、空から降ってくる光るそれは、ここにいる誰もが知っているもの。

光の線が、蒼白い線がフィースト目掛けて降っている。



「あれは、僕の槍から出される光線じゃないか。いや、僕はあれを出した覚えはないぞ! いやそんなことより、僕の方に向かって来てやがる!」



流石にフィーストが使用している技なだけあって楽々とそれを槍で弾き返す。

しかしそれは打ち上げ花火の様に弾け飛び、1つ1つの白線がターンしてフィースト目掛けて再び突っ込んでくる。


「馬鹿な! トロフィーの能力を一時的に解放しなければこれは使えないはずだぞ!」


言いつつも、全力で彼の持つ槍を振り回し襲いくるレーザーを跳ね返そうとする。

だが、何度もターンしてはエンドレスで襲ってくる白線をどう対処することもできず、着実に傷が増えていく。



「うーん。中々に操作がむずいな……これは要練習だな」


「……あ? 今、なんて」



ボソッと呟かれたグランの言葉。

それはまるで、グランがこの光線を操っているかのようなものだったが……



「いやだから、これは俺が放った光線だ。お前の魔力、活用させてもらってるぜ」



フィーストは知らないことだが、魔法球の応用技『デアヒメル』は魔力を発散させて吸収するという性質がある。

つまり、グランはフィーストの魔力の大爆発を吸収するとともに、それを利用して彼の光線を再現したのだ。

ちなみに死にかけのメイアが回復していた理由は、吸収した魔力をメイアにも分け与えたからである。



「せっかく魔力をもらったんだから、やっぱり使わなきゃ失礼よね! 『リュミエール』ッ!」



復活したメイアが掌をフィーストに向け解き放たれたのは、閃光の波動。

光の世界でも2度使用した、メイアの自慢の魔法だ。

白光はフィーストを覆い、これまでとは格段に違う威力のダメージが蓄積される。



「いつの間に、こいつら……こんなにも、強くなっていたのかぁッ! 慢心していたのは、俺の、方……」



光線に焼かれ、更に閃光に身体を焼かれ、ボロボロになったフィーストは何とか立った状態を維持できている状態だ。

超魔力厄災(カタストロフィ)』というフィーストの必殺技を起点とした、大・形勢逆転である。



「くそッ!くそッ! 驕り自惚れるお前を殺すと宣言したのに、結局死ぬのは自惚れた俺だったってわけか! いいや、ただでは死なないぞ、何も被害なしに殺されはしないぞ!」


「怒ると周りが見えなくなるからやめた方がいいぜ。これは、怒ると怖いグラナードからの警告だ」


「えぇ、それ自虐してる? 」



「いいや、僕はいたって冷静さ。これは、お前らを殺すための演技なんだからな!」


「……っ! お前、槍をどこにやった……」



フィーストがいつの間にか槍を持っていなかったことに気付くも、その時既に時は遅かった。



「ぐぁっ……ぐぐぅ……お、兄、ちゃん……」



形勢逆転返し、とでも表現するのが良いだろうか。

メイアはその胸を槍で貫かれていた。



「やった。やったぞ! 妹を仕留めてやった!油断したな、小さな勇者」



"勇者"なんて存在はグランの世界にはいなかった。

だがフィーストが敢えて"勇者"と呟いたのは、兄妹はまさに勇者、悪を祓おうと奮闘する希望の戦士だからだ。


光の世界に勇者はいない。それは絶対的な悪がいないから。

しかし、この世界に悪はいる。

それを倒そうと旅に出て、それを成し得る可能性のあるものを勇者と呼ぶのだ。

今まさに、兄妹はここまでフィーストを追い込み格段に成長した姿を示してみせた。それは勇者と呼ぶにふさわしい。



「つまり私たちはこの世界で勇者をやっていいってことね」



「……は?」



「やっぱり貴方は慢心しているわ。だから負けるの」



メイアの胸に槍は突き刺さっていない。

それどころか、傷穴すら開いていない。

そう、メイアに槍など突き刺さっていないのである。



「あれは幻覚。そう言う魔法を使ったの、わかる?」



槍は、魔力の爆破の被害を免れた大地に突き刺さっていた。

メイアには魔力研究施設で養った、()()()()()()、背後からの攻撃に気付くことができるという技術がある。

戦闘中以外は警戒心が余り強くないので対応できないのだが、それでも背後に気を配れるのは強い長所である。



「いや、まだ、まだ俺は諦めないね。まだ、チャンスはあるんだよぉ!」



決死の様子で叫びながらフィーストが何かを掴み取るような動作をすると、神槍トロフィーがひとりでに動き出す。

突き刺さる槍がそのまま隆起する大地を貫きながらグラン目掛けて一直線に突き進む。


だが_____





「そうはさせませんよ!」





突如槍が「何か」とぶつかり爆発、槍は勢いを失いその場で落ちてしまう。


「なんだ?! 兄妹どっちの仕業だ?! いや待て、今聞こえた声はどちらのものでもないな? それに、なんだこの音は……」



どこからか流れてくる美しい音。それを的確に表現するならば、「音楽」だろうか。

音楽が槍を食い止めたのだ。



「この音、この滑らかでいて激しく、槍をも食い止めるこの威力。俺は知っている。この音楽は……」


そう、グランはこの音を、奏でられるこれを知っている。


「お兄ちゃん、この音を知っているの?この華麗に奏でられるこの曲を」


「ルーシャだ。ルーシャがここまでやって来たんだ」



「_____ええ、お待たせしましたグランさん。ミステルーシャ・アプス、ただ今駆けつけました!」



そこに現れたのは、特徴的な形の弦楽器、奇鬼忌琴を手に携えた1人の女性、ミステルーシャ・アプス。

奇鬼忌琴を使用することを躊躇っていたルーシャだったが、どうやらグランが北方遠征に出ている間に使うことを決心していたようだ。



「そして、貴方はカタフ家のフィーストさんですね? この戦場を見る限りどうやら凄まじい激戦が繰り広げられたようですが、それももうここまで。終わりにしましょう」


「っ! トロフィー!戻れ!」



ルーシャが戦闘終了の宣告をすると、そのままゆっくり奇鬼忌琴を手でなく()()()()()演奏し始める。

それが繰り広げる猛威は、前回のファヴァール戦で見たものとは全く違って更に非情であり美しいものだった。

全てを尽く薙ぎ払う。奏でられた曲から生まれ出る音符が恐ろしい速さで、非武装のフィーストをも軽々と。



「まだ曲という曲はありませんが、私が曲を奏でられるようになったとき、更に凄い攻撃ができるらしいですよ」



ルーシャはいたって冷静で、フィーストを憐れむように語りかけるも、それを聞いていたのはスマクラフティー兄妹だけだった。

神槍トロフィーをその手に戻そうとしたフィーストだったがそれは叶わず、無慈悲な音符に打ち破られていた。



「ああ、今、思い出しました。カタフ家の家宝の槍。神槍トロフィーの能力は無数の光線をこれでもかと放出するものでしたね」




「うっわぁ〜あの女の人めっちゃ強いね……」


「いや、俺も驚いてる。まさか補助役だったルーシャがフィーストを倒しちまうとはな……」


「いや、私も驚きですよ!」


「だがまあ、これで目標の1つは達成されたな」



そう、強敵フィースト・カタフを倒したことで"近い目標"の 1つをこうして達成できた。

苦難の道のりだった。

まだ全てが終わったわけではないが、グランがまだこの世界で貧弱だった時からの目標を達成できたのだ。



「これからどうするか、要話し合いだな」


「ええ、そうですね。グランがどうしてこんなところまで遠征してたのかも聞かないと、ですよね?」


「そ、それはすまん……」


「ねぇ!まずは自己紹介をしましょ! ルーシャさん、よね?私たちまだお互いのことを知らないもの」


「ええ、そうでしたね。では、まず私から_____」


「いや、自己紹介はそこで気絶してるフィーストを対処してからだろ!!」



素晴らしい戦果を残せたのは良かったが、メイアとルーシャは初対面。

だから、3人の間にまとまりなんて無かった。



「ふふふ。でも、こういうのも楽しくていいですね」


「ああ、そうだな。よく来てくれた、メイア」


「そりゃあ、お兄ちゃんを救うためですもの!」



でも、それが逆に心を安らげる最高のソースとなる。

彼らの心に安らぎがもたらされ、彼らを繋ぐ''絆"という見えない糸が強く紡がれた。

疲れた。

一言で言って私は疲れていた。


何しろフィーストとの決戦をどう繰り広げていくか、どんな技を使わせるか、それを思考するので100m走を全力で走るのと同じくらいの疲労が。

それを文字に起こすので中距離走(1500mくらい?)をするのと同じくらいの脳の疲労が。


やっぱ、作家さんはすげぇわ。流石です。

こんな国弱の私とは月とすっぽんの差がありますわ。



ってことで、また次回もお楽しみに!(ため息)

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