第一章21 邂逅の巻③
ぐるぐる、ぐるぐる、渦巻いている。
空気みたいで、水みたいで、それが混ざりあっていて。
どうしたらいいのか、何が正解なのか。
ぐるぐる、ぐるぐる、渦巻いていた。
濁っていた混合物が、いつのまにか濾過されていて。
本当の正解を見つけた気がする。
私の名前は、メイア・スマクラフティー。
私はお兄ちゃんと戦うために来たんじゃなかった。
真に戦うべきは、そう、私をおかしくした人たちだったね。
私は少ししか一緒にいなかったけど、あのお城の屋上に集まった本当の敵、8人いたけど皆強者揃いだった。
あの人たち全員と戦うとなると、絶対に2人だけじゃ駄目だと思う。
せめて、他にも戦ってくれる人がいたなら……
「メイア、もう大丈夫か?」
「え? あ、うん。もう目が覚めたよ」
「そうか。なあメイア、向こうに微かに見えるあの城下町みたいのは敵の本拠地か?」
「うん、あそこに今8つの敵がいる。そういえば、私と出会ったとき用事があるって言ってた気がするけど、もしかしてそこに行こうとしてる? あそこに集まってる人達皆強くて、今はまだ行かない方が……」
「ああいや、行かない。そこにいるってことが分かったなら今日のところは帰るぜ。ルーシャも待ってることだろうし」
「え、ルーシャ? 他にも、人がいるの?」
ルーシャ、という人物に心当たりはないがお兄ちゃんにはこの世界に帰る場所があって、そこには人もいる。
もしかしたら、戦力になり得る?
「ここからずっと南に行けば俺らが拠点にしている古い遺跡があるんだ。まずはそこに帰ってから話そう」
「う、うん、わかった。じゃあ帰……れないっぽいね」
「これは……この敵意、来やがったな」
いざ拠点に帰ろうとした途端、兄妹が共通して知っている嫌な敵意を察知した。
グランにとっては、避けては通れない近いの目標の1つ。
メイアにとっては、この世界で最初に出会った因縁の敵。
そう、そいつは、
「「フィースト・カタフ!」」
「あれぇ〜?こんなところにグラナードくんが、それに新入りのメイアちゃんもいるじゃない? 兄妹喧嘩楽しんでる?」
2人の視線の先にいるのは、木の枝に座って楽しそうに兄妹を見つめるフィースト・カタフだ。
「残念だったわね!私はお兄ちゃんの味方よ! 私を背後から串刺しにして殺してくれた恨みを晴らさせてもらうわ!」
「はぁ?! フィースト、お前がメイアを1度殺してくれやがったのか。そりゃあ、ここで倒すしかねぇなそうだよな?! 」
メイアの発言にグランが過剰に反応、いや、妹を殺した相手が目の前にいたとなっては普通の反応だろう。少しイレギュラーなのは、殺された妹が生きていることだが。
何かあったらすぐ帰るつもりでいたが、フィーストが相手となると逃げられるかもわからない。
いや、もう逃げるつもりなど毛頭にない。
森の中で狭いが、それを活かした戦い方はできないだろうか。まあ、無理なら無理で周りの木々を全部薙ぎ払って更地にするだけだ。
「へぇ……闇堕ちして、それでもなお兄の味方をするか。いいね面白いよ! 悪を払ってみせた兄妹の力とやら、見せてくれよ! さっきの力の暴発はグラナードくんがやったんだろ?それよ、それだよそうでなきゃ僕は楽しめない! 勝てるかどうかわからないからこそ、君の可能性が引き出されているからこそ僕は早く戦いたいんだ、わかるかい? この前出会ったときに僕から光線をプレゼントしただろう? 本当は普通に殺すつもりでいたんだけど、どうやってか知らないが貧弱な君は僕の攻撃を回避してみせたんだ。じゃなきゃ君がここで平然と会話してるはずないからね。だから君がどうやって僕の、この槍から放出されるレーザーを回避して強くなったのか今から見せてくれ。戦ってくれるんだろう、そうだろう?さあ、早く始めようよバトルをさっ!」
「うっせぇ! 早口でペラペラ話されてもわからねぇ! けど、俺も戦いたいのは同じだ。決着つけようぜ」
「うん、私も同じく戦うよ。どうせ戦わなきゃ村に帰れないだろうしね!」
「じゃあ、まずは僕からいかせてもらうよ」
木の枝からスッと飛び降り華麗に着地すると、特徴のある青い槍をグランに向け、白い熱線が放たれる。
その光線は、あのときグランを襲ったものと同じ。
『デアヒメル』で対処してもよいが、あれは奥の手だ。できるだけ、いざという時のためにとっておきたい。
「なら俺は、『オリヘプタ』ッ!! 」
先ほどのメイアとの戦闘で得た応用技法を用いてグランの目の前に壁を形成させる。
7つの角があるのを活かして2重の壁にすると、1枚は破られたが2枚目の壁で食い止めることに成功する。
「ほぉ? それが前回君が攻撃を防げた理由かい?」
「はっ!な訳ないだろ?そう簡単に種明かしはしないさ」
「私の存在を無視するのはやめてよ、ね!」
フィーストがグランと会話しているのをよそに横から結氷の薙刀が容赦なく振われる。
普通の氷よりも密度が濃く、水素結合を無視した金剛石にも劣らない強度を誇る武器が、リーチを活かした遠心力と掛け合わさり破壊力が格段に跳ね上がる。
しかし、ふふふと楽しそうに銀髪の青年が微笑むと彼の持つ槍で攻撃を軽々と受け流し、
「うん、筋はいいじゃない?『ヴァイスブリッツ』」
喋りながらメイアのいる位置に激しい電流を発生させる。
メイアの身体中を稲妻が走り、通り抜けてはまた身体の中に痛みを与えに入ってくる。
痺れる、という表現は優しすぎるほどに身体が硬直してしまって動けない。そんなメイアにできる事はない。
なら、もう1人が対処すればいいのだ。
「ルーシャから教えてもらった、『絶縁の衣』!」
電撃を弾く、つまり雷を無効化させる耐性魔法の最高峰がメイアを覆う。
そしてメイアを貫いていた無数の電撃が発散した。
「あ、ありがとう、お兄ちゃん!」
「なぁんだ、もう雷耐性つけちゃったの? この魔法、僕が1番得意な魔法だったんだけどなぁ?」
「それにしては残念そうじゃなさそうだな?」
息を整えながらフィーストを睨むと、メイアはすぐに攻撃に転じる。
手に握る薙刀で切り刻もうと……したのはフェイントで、五月雨の如く細やかな手つきで乱れ突きをする。
しかしその素早い突きの動作は尽く受け流され、刃が敵の身体に届くことは能わず。
でも、メイアの表情に焦りや緊張がなく、どちらかと言えば「それで良い」とでも言いたげな、そんな顔で。
雨のように乱れ打たれる薙刀はいつになったら止むのだろうとさえ思うが、その雨は突然降り終わる。
特にダメージを与えたでもないのに、役割を果たして一仕事終えたような顔をしていた。
フィーストはその些細なメイアの表情の違いを怪訝に思ったが、そんなことを考える余裕は既になく。
「俺は、怒ると怖いんだぜ」
いつのまに後ろに回り込んだのか、ドスの効いた声で背中の方から莫大な圧力を感じる。
フィーストはすぐに振り向こうとするも、遅かった。
背中に一点、破壊の一撃がそこに放り込まれる。
攻撃されたのは背中の一点でしかないのに、そこから注ぎ込まれる力の本流が全身に伝わり激しく身体を揺さぶる。
そのまま足が地から離れ浮遊すると、槍が木々に当たり木を抉りながら四方八方へはね返る。
勢いが収まってくるとフィーストは槍を木に突き刺し、それにしがみつくとようやく止まる。
それでも見た感じフィーストに目立った損傷が見られない。
明らかにダメージは入っているはずなので、手に入れたばかりのこの力を使っていけば倒せるかもしれない。
フィーストは木に突き刺さる槍にしがみついたまま前を見ると、そこにはグランが呼吸を整えている姿が目に入る。
だが今度はその妹の姿が見えない。ということはつまり、再び彼は背後をとられていたのだ。
「短い間だったけど、闇サイドに堕ちたことで私は少し収穫を得たの。隠密に行動できるっていう技術をね」
「相手に索敵をさせずに近づく技法をこの短い間で身につけただって? なんなんだこの兄妹! 弱いくせに無駄に技術でカバーしてくるから更にムカつく!」
「ねぇ、いつまで槍にしがみついて休憩してるのかしら?喰らいなさい、『エニグマ』!!」
腹を立てるフィーストの言葉を完全に無視して放たれた魔法は虹色のようで虹色じゃない、なんとも形容し難いゆらゆら揺らめく何かだった。
メイアが手を下に軽く振り下ろすとその液体のような魔法がフィーストを槍ごと巻き込み地面に叩きつける。
それだけで『エニグマ』の効果は尽きず、まるで液体のようなそれは地面に当たってはね返ると、今度は無数の細かい針のような形を成しフィーストに降り注ぐ。
降ってまた跳ね返って降って……を繰り返し終わることのないエンドレスな虹の雨。
それを蒼い棒から放出される無数のレーザー光が吹き飛ばし青年が立ち上がる。
「あぁ、舐めていた、楽観的でいるのはここまでのようだ。久々だよ、僕の額から血が流れるなんてのはさ。下が土じゃなかったなら、もっと硬い地面だったならもっと被害は大きかったろうから、戦場に救われたよ」
確かに、1滴2滴という程度ではあるがやっと目に見えて分かる損傷を負ってくれた。
でも、それがきっかけでよりフィーストがマジになってしまったのでこちらも気を引き締めなければならない。
「お互いに、ここからが本気の勝負ってことだな」
「うん。でも、こっちは全力が2人いる。2人合わせればフィースト、あなたよりも戦力は上のはずよ」
「ああそうかも知れないなぁそうだよなぁ。でも、さっきから君らがしてるような技術のゴリ押し、あれみたいに戦略さえ立ててしまえばどうにでも対処できるんだ。要は戦い方なんだよ、大事なのは。明らかな戦力差が無いなら、色んな方向からやってみればいいだけじゃないか。そうだろう?」
目の前に対峙する1人の青年はもうさっきまでの諧謔的な笑みを浮かべるでもなく、楽しそうに話すでもなく、戦う者の、勇ましい戦士になり変わっていた。
その目には闘志という業炎が渦巻いており、彼の思惑は一層深いところに隠れて見えなくなってしまっている。
即ち、この状態の彼が何をしてくるかは推察すらできない。
こいつは、本気で殺りにきている。
彼らは反目し合い、その場は剣呑な雰囲気に包まれる。
「ここで1つ紹介しておこうか。僕が使ってるこの槍、これの名を神槍トロフィー。カタフ家に代々伝わる家宝で、僕が失踪するときにたまたま持ってたんで一緒にここへ来た。これが今から、猛威を振るうことになるとそう宣言するぜ」
妖しく、艶かしく蒼い光を放って蒼槍はその姿を主張する。
珍しく文が短くなりました!
また長くなるか、それとも次も短いかはお楽しみに……
して、ようやく決戦フィースト・カタフと相なった訳ですから、戦闘も力を入れていきたいと思っております!
ではまた次回!




