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勇者などいない世界にて(原本)  作者: 一二三
第一章 二つの世界
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第一章01 氷山の一角

まず断っておくが、この世界に勇者なんて者はいない。

勇ましい者がいないのではない。皆が想像するように、救世主的な勇者が存在しないのだ。


悪の存在に脅かされていたり、強大な敵が世界中を飛び回っていたりなんてしていないのだから、救世主も何もない。


だが勇者がいないと言った上で、敢えて勇者に相当する者を挙げるとしたらそれは………


辺境の村アル=ツァーイの小さな家に住む兄妹であろうか。

彼らは自然に囲まれた豊かで安寧な環境で過ごしている。

そんな田舎の兄妹が何故勇者に相当するのかと思うだろう。


兄妹の内、兄の方は先天的に能力を授かっている。何の因果で彼に力が宿ったのかは彼自身にもわからない。

また妹の方はそんな兄と過ごし、彼と修行を積み重ねている内に力を身につけていくのだが、それはそれで凄いことだ。


それが、この兄妹を勇者たり得る者として選別した理由であり、苦難の道を行くことになる理由でもある。

勇者とは、どこに於いても苦難の道を行かざるを得ないのである。

であればそれに近しい彼らも困難に陥ることが予想できよう。



「お兄ちゃーん!今日こそは山賊さんをとっちめなきゃ駄目だよ?」


「わかってるんだ。わかってるんだけど、俺の身体が怠惰を望んでしまっているんだよ」


そう即答された妹、メイア・スマクラフティーは頬をぷくーっと膨らませる。


「何言ってんの!この村で戦えるのは私たちくらいなんだから、頑張らないとダメじゃない!ほら、さっさとやっちゃお!」


「まぁ、そうだな。さっさと終わらせて平和な俺の時間を過ごすとしよう」



グランはふと敵は何人いるのかと気になったが、聞いたところで全部倒すだけなのでそんな疑問はすぐに忘れた。



「山賊さんは全員で10人いるらしいよ〜。どのくらい強いか分からないけど何とかなるでしょ?」


だが、まるで心の内でも読んだかのようにメイアが言う。

10人……普通に考えたら2対10で不利にあると思うが、それは数だけで見た場合でしかない。

戦力を考慮すれば、相手が山賊であるなら10対2くらいの戦力差までもっていけるだろう。

などと考えていると、


「ほら、どうせ余裕だとか思ってるんでしょ?最近お兄ちゃん運動不足だろうし、丁度いい運動になるよ」


「あぁ、わかったよ。行こうぜ、準備は別にしなくていいよな?」



そう言い彼らは村からすぐの森へと足を運ぶ。


ちなみに説明しておくと、この世界には魔法がある。

この兄妹だけが魔法を使えるわけでもなければ、この兄妹だけの特別な力なんてのは、兄グラナードの力を除けば無いに等しい。

そうは言っても、幼少の頃から魔法を使い鍛錬をしてきた彼らが強いのには変わりない。


と、話が逸れたので兄妹が山賊を討伐する話に戻ろう。



「んで、山賊の皆さーん?ここから居なくなって改心してくれたりしないですかねー」


山賊に囲まれようとも気にする様子無く話しかけるのはメイアである。

兄グラナード・スマクラフティーは興味なさそうに周りを囲む連中を睨みつけている。


「何言ってんだァ?おめェ、まさか若くて売れそうな奴らと出くわしたってのに逃す奴がいるって思ってんのかよォ?!」


数の上でもこちらが有利だと言わんばかりの笑みを浮かべた顔で兄妹を見ている。

その中にはメイアを視姦するかのような目付きの奴もいて(すこぶ)る気味が悪い。


「ふ、そうだろうな。予想通りでしかない」


グラナード、通称グランは頷きながら睨み続ける。


「んじゃあ、お兄ちゃん、改心しないらしいからもう始めちゃおっか。準備はいいよね?」


「なに、準備するまでもない」


グランがそう答えた瞬間、二人は戦闘態勢に入り_____

 

「ーーッ!」


グランの周りに漂う蒼い光、即ち魔法が炸裂した。

それだけで、山賊の半分以上が戦闘不能になっている。

魔法がある世界とは言っても、山賊は平民を襲うのでわざわざ魔法を覚えている者は少ない。

この山賊も魔法は使えないらしく、あっけなく散ってゆく。



「お、おい!やめてくれ!お願いだ、まさかあんたらが強いだなんて思ってなくて!」


「今更遅いよ、一度やられなきゃ君達は改心しないでしょ?やられても改心しないかも知れないでしょ?」


戦いが始まったと思いきや彼らは清々しいほどに素早い動きで懺悔の態勢をとっていた。

しかし、そんな残された山賊達の願いを一瞬の内に拒否したメイアは、


「後はやらせて!」


走って敵に近付き、呆気にとられている残党に巨大な氷塊を_____訂正、冷気を纏った魔法の槍を叩きつけた。


彼らを撃退するのに1分と掛からなかった。

しかし、撃退するにあたり兄妹が見せたのは力の片鱗でしかない。10人という数の人間を屠るのも準備運動感覚なのだ。

とは言え、準備運動をしている間にやる事が無くなってしまうのだから、もはやそれは軽く動いただけでしかない。

故に兄妹たちからすれば今の彼らは運動不足という部類に入り、兄妹同士の修行が唯一の運動となっている。



その後兄妹は村に帰り、問題視されていた山賊を撃退した(正しくは目を覚ました彼らが更生することを誓うまで脅した)ことを報告した。

そしてその功績は村の人々に賞賛され、村の安寧を取り戻した。


日はもう傾き始め、帰宅途中の兄妹にも影が差していた。

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