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勇者などいない世界にて(原本)  作者: 一二三
第一章 二つの世界
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第一章18 加速する歯車

グラナード・スマクラフティーが同じく失踪者のミステルーシャ・アプスと共に王デアヒメルのもとへ修行し始めて一週間ほどが経過したその日。


「歯車は、動き始めたか……」


小さな声で何かを呟いたのはラグラスロだ。

何のことかと思って2人でラグラスロを見ていると、彼はその翼を広げて起き上がる。


「グランにルーシャ、我はしばしここを離れねばならない。ことが済み次第戻ってくるが、変わらずここにいればよい」


「ああ、それは問題ないんだが、この世界にやることもくそもないだろ?」


「そうかもしれないな。だが、汝らにやるべきことがあるように、我にもやらねばならぬことがある。それだけだ」


「ふぅん、そういうもんか」


「では行ってくる。いつ帰ってくるかは分からんが、我がいなくとも何てことないだろうがな」



言いながら、ラグラスロはその漆黒の巨大な翼を羽ばたかせ彼方へと飛んでいった。

何をしに行くのか想像もできなが、試練を出す訳では無さそうなのでラグラスロはいてもいなくても大差はない。


否、きっとあいつは_______


「グランさん、今日もデアヒメル王さんの所へ行きます?」


「ん、おお。そうだな、今日も王様んとこいくか」



ラグラスロのことは一旦忘れて、グランとルーシャは古の王様の元へ修行しに行くことにする。

ここ一週間、彼らはラグラスロに魔力の扱い方について色々と尋ねては実践を繰り返している。

ラグラスロも悪を孕んでいるため油断はできないが、丁寧にあれこれ教えてくれてる間は問題ないだろうと見ている。



「……また爾らか」


相変わらず王の放つ圧迫感は凄まじく最初は緊張するが、毎日のようにここに訪れると割と慣れ……なかった。

しかし普通に対話ができるようになっただけ良い方だろう。



「いつもすまないな。でも王様にいろいろ教えてもらうのが1番効率的なんだ。それに、強くなるために強くなろうっていう考えがここだと浮かばないからな」


「強くなるためでは駄目と申すか」


「はい、そうです。『強くなる』だと限界が曖昧ですからどこまでやれば良いのかわからず気力が持たず時間の無駄になってしまう。一方、()()到達点のある目標というのは"最後"があるので達成できたか否かがよく分かるのです。」



今のルーシャの説明に「近い到達点」という言葉があったが、わざわざ「近い」と修飾した理由をやや詳しく説明するとこうなる。



例えばグラン達の場合、彼らの最終目標は「この世界からもとの世界へ帰ること」だ。

しかし、それだと「強敵と戦うこと」や「帰るための歪みを見つけること」などと言った難解な通過点を全て目標に含めてしまうことになる。

すると、難関な通過点を全て突破するための努力を一気に進めなくてはいけなくなり、お手上げ状態に陥りやすいのだ。


だから、「帰ること」よりも前に起こる出来事、つまり「強敵との対峙」や「歪みの発見」などの通過点1つ1つをひとまずの目標にすることで、難関通過点を1つ1つ対処していくための少ない努力で着実に成長できるのである。



つまり、最終目標よりも()()に起こるであろう事柄を現段階の目標とするから「近い」到達点なのだ。



「では、爾らの今の近い目標はなんなのだ」


「まずは、2人で協力してフィースト・カタフっていう野郎を倒すことだ」



恐らく、この世界からの脱出を目指すに当たって避けて通れないのがフィーストとの戦闘だ。

口では「慢心したらやって来る」とは言っているものの、戦わずに帰ろうとしたら必ず襲ってくるとグランは予想していた。いや、あの時彼は「次に会うときまでに〜」と最後に言い残して去っていた。

なら、彼と再び遭遇するのは確定事項と見ていいだろう。



「あの時吸収した魔力。あいつの魔力を利用した技が編み出せりゃ嬉しいんだが……」


「吸収……爾、既に『デアヒメル』を会得しておったのか」


「王さんに出会ったその日にはもう会得しちまったよ。とは言ってもまだまだ微弱だがな」


「爾らは今までの失踪者の中でも筋が良いようだ」


「急になんだ?」


「……そろそろ、頃合いかも知れぬ。歯車が動き始める頃合いが、な」



「歯車が動き始める」という言葉はラグラスロも言っていたような気がする。一体何の歯車なのかはよく分からないが、何か大切なことであるのは間違いない。



「爾らに過去の吾と軽い模擬戦をしてもらおうか。もう、残された時間は少ない。やるなれば今が潮時だ」


「過去の王様と戦う? それってどういう_____ 」


「始めればすぐにわかる。勝利条件は過去の吾に一撃を叩き込むこと。敗北条件は爾らの内片方が戦闘不能になること。少なくとも、死ぬようなことはない故本気を出したまえ」



ルーシャの言葉を遮断して強引に戦闘のルールを語ると、そのまますぐにデアヒメルは魔法を使う。

すると立方体の空間がグラン達を囲み、次元から切り離された四角い世界へと誘われる。

模擬戦をするにふさわしい、丁度良い大きさの空間。


そして、その中心に1つ、佇んでいる異質な存在が……



「お前らが、今回の挑戦者か?」



砥粉(とのこ)色の髪に激しい眼力、そして鍛え上げられたその身体。

比類なき力を誇るであろう彼がかつてのデアヒメル。

勝利条件が "一撃を叩き込むこと" なのも納得だ。


「これが、太古のデアヒメル王かよ……」


「今の彼とは比べ物にすらならないくらいの気迫がします」


「俺は今、お前らを挑戦者とみなした。早速いくぞ」


その瞬間、5m以上離れていたグランとデアヒメルの距離が一瞬で縮んだ。

そのままグランの頭を右手で掴むと下へ向かって投げ飛ばす。勢いよく投げ飛ばされた分、床に激突した時の衝撃も尋常ではない。

が、しかし、


「ぐっ……ナイスタイミングだ。助かった、ルーシャ」


「気付いたら身体が反射してました。そのおかげで何とか間に合ったようで良かったです!」


床に激突する間一髪でルーシャの防御力上昇魔法がグランに掛かっていた。おかげでダメージを抑えられた訳だが。


「それでも、痛え、痛すぎるぜ……これはヤバい……!!」


「この程度か、お前ら。なら、すぐ終わらせてやる。そこでゆっくり寝そべってることだな」



デアヒメルは休む暇を与えてくれそうにない。

まずは攻撃を躱す方法を考えなければならないが……


「ぐぁあッ! こいつ、他方向から攻撃してッ…….!!」


横たわるグランをすかさず蹴り飛ばすと、すくざま吹っ飛ぶグランの裏に周り軽々と片足で上空に蹴り上げる。

そして落下し始めるグランに更に乱撃を喰らわせ体勢の立て直しを許さない。


支援に特化しているルーシャは戦闘に参加することができず、ひたすら支援魔法をグランに掛け続けている。


「えと、あーと、何か私にできることは……」



もう既に防御も攻撃も速さも、できる限りの支援をしてあるのでこれ以上ステータスアップは望めない。

だが、絶対勝利への道が残されているではないか、とルーシャは閃く。それは、


「『赤い糸』! グランさんは一撃を叩き込める!」


それは魔獣ファヴァール戦でも用いられた運命を決定する能力。その糸が切られなければ運命は確定するというものだ。

その赤い糸が今回、グランの左手に巻き付けられた。


「ナ、ナイスだ、それでいい!」


グランは死力を尽くしてとても速いデアヒメルの攻撃を躱し、すかさず相手と距離をとる。呼吸は乱れ、既に満身創痍と言ってもいい状態だ。

距離をとったところで初撃のように瞬きする間もなく攻撃されるのだが、とりあえず今はその一瞬だけ確保できればそれでいい。


「さあ、補助魔法でブースト全開、運命の糸も健在、グラナード、俺ならできる!一撃叩き込んでやるぜぇ!」


デアヒメルはグランに手を向けると、グランの横を不気味な風が通り抜ける。

普通の風のはずだが、この四角い空間に風などを発生させる機関はないはずだ。つまり、これはデアヒメルの出す気迫によるものか或いは、魔法の類か。

しかし、それを考える余裕は今はない。一点集中するのみ。


そしてデアヒメルがあっという間にグランとの距離を縮めたその時、


「時間は稼ぎます! 迎撃準備を!」


デアヒメルの拳がグランの顔面に直撃する寸前でルーシャが障壁を作り出す。それがデアヒメルの攻撃を極々少しだけ遅らせ、グランはその攻撃をなんとか右に回避。

デアヒメルの横の防御ががら空きになっていたため、グランはそのまま攻撃に転じる。



「_____ッシャァァーーーッ !! 」



咆哮とともに右手の拳にオーラを纏い全力の一撃を叩き込まんと殴りかかる。

赤い糸の運命の確定というのはやはり強すぎると思う。

使い方によってはなんだってできるのではないかとさえ思う程だ。だからこそ、この模擬戦も勝ち取れるのだと。



「っ! グランさ______ 」



グランの左側に立っていたメイアが何かに気付き、すぐさま注意しようとしたがもう既に時は遅かった。



満身創痍の身体に撃ち込まれる最恐の威圧は、グランの体力を完膚なきまでに打ち砕いた。

それによってグランは気絶し、戦闘不能状態に陥った。


まさに、彼が最後に使用した技はルーシャも使用する『限界超圧(オーバープレス)』の完全版。

超濃度圧力を瞬間的に放出するという恐ろしい力を垣間見ることになった。

いや、あの技はただ単に「威圧」を限界まで引き出すというだけよ技のはず。

その「威圧」をもダメージにしてしまう、その熟練された攻撃には何も言えまい。


グランが戦闘不能になったからか四角い空間は崩れ始め、不思議なことに、デアヒメル王も戦場も煙となって消えていった。



「どうであったか、彼奴は」


「彼奴って……昔の王様のことですか? 一言で言って、驚かされました」


「何か、疑問に思っていることがあるような顔だが」


「疑問、そうですね。1番気になるのは、()()()()()()()()()()()()、ですかね」



戦闘の最後、メイアが気付いたこととは、グランに掛けた『赤い糸』の効果が切れていること。そう、糸はいつの間にか切られていたのだ。



「それを推測し、対策することもまた強くなるための一歩である。爾らが観察し、それを対策、或いは模倣する。ほとんどはそうやって強くなるものだ」


「……そうですね、考えてみます」


「そこの者を運んで休むと良い。身体への負荷が強いからな、この模擬戦は」



頷くとルーシャはグランを背負い部屋へと運んでいく。

女性が男性を背負うのは力がいるように思えるが、ルーシャは体力や体幹もしっかりとあるので苦労する程でもない。

ベッドにグランを寝かせると、ルーシャは昏睡する彼の顔をじっと見る。


「寝ていても、何かを抱え込んでいそうな深刻な顔をしているのね。子供のときから苦難の道のりを歩いてきたってのもよくわかる」


そう言いグランの頭をそっと撫でると、そのままルーシャは部屋を出て行った。

その顔はまるで慈母のような、慈しみのある微笑みを浮かべた表情だが、その表情の意味は計り知れない。


そのままルーシャは自室へ戻り、眠りに落ちた。



この日の翌日から3日間、グラン達は過去の王に挑み続けた。

1日1回という誓約があったとは言え、対策を考えたりしてから挑んだと言うのに(つい)ぞ一撃を叩き込むことは叶わなかった。


だが、それで得られたものも多い。

その例の1つが、初日に『赤い糸』を切り裂いたものが何なのか。それが明らかになった。

デアヒメルがグランに手を向けたときに突如として現れた謎の風。あれが糸を分解させたらしい。

おそらくあの不気味な風は只のまやかし。

斬撃属性の小さな風で糸を切断するのを不自然な風で紛らわしたのだろう。



他に得られたものを大雑把に纏めるならば、デアヒメルの使った技や立ち回りを模倣することで、初日よりも長く戦闘が続くようになったと言うべきだろうか。


とは言っても、戦い方を模倣したらデアヒメルは戦い方を変えてくる。それをまた真似ようとすると更に戦い方を変えてくる。

と言った具合にデアヒメルが多くの戦闘技能を持っていることに驚かされてばかりなのだが。




闇を孕んだデアヒメル、そして過去のデアヒメルとが一心一体となってグランやルーシャを育ててくれている。

そう感じてからは更に2人も成長するようになり、成長の歯車も動き始めたかのように見える。



「よしっ!グランさん! 今日も王様の立ち回りを学んで、生かしていきましょう!」



「俺たちには鍛えるだけじゃなく、学ぶ、というのも必要だからな。それに、俺たちには学んだものをしっかり活かせる強みがある。それを、今は確実に実践しなきゃ駄目だ」



「ふふっ、大丈夫ですよ。そんなに抱え込まなくても。同じ境遇にあるもの同士、苦難は分け合わなくては!」



「ああ、すまない。だが大丈夫だ。これは俺の悪い癖だな」



====================



まだ見えない、「何か」は裏で暗躍を始めている。


いや、気付かないだけで、「何か」は既に見えていたのだ。



__________始めの内から、既に。

そういや、勇者どこいった?って思い始めました。

兎にも角にも、勇者はいないので作品名は無いものとして呼んでくださいね (今更?!)



By the way (突然の英語),

前話とか、すごい長くなってしまった印象があるので今回はその半分くらいにしてみましたので、以前に比べれば少しは読みやすくなったかと思いますが、また長くなるかもしれないのでそこは先に謝っときます。


では、次回もよろしくです!

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