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勇者などいない世界にて(原本)  作者: 一二三
第一章 二つの世界
18/43

第一章17 動き始めた歯車

「つまり、失踪者を奪還するために扉を開けろと?」



閑散とした会議室に響く男の声。

それは前に立つ2人の来訪者へ向けた苛立ちの声である。



「ええ、私たちはなぜ禁忌とされているのかわかりません。しかし、それでも開けてもらわねばならない理由がある。それをここで議論したいのです」



そしてそれに対抗するかのように響くもう1人の男の声。

早る気持ちを抑え必死で訴えかけているのがよく伝わる。



「お願いです! 力を示せというなら示します。議論して押し返そうとするなら私たちも徹底的に反論します。何としてでも私は裏へ行きたいんです!」



そして、この会議室にいる唯一の女性の声もその部屋に響きわたる。明らかに機嫌悪そうに対応する目前の男に負けじと訴えかける。



「いや待て。君、()()()も徹底的に反論すると言ったな? そして、()は裏へ行きたいとも言ったな? つまり、裏へ行くのは君だけなのか?」


「はい、そうです! 彼はここまで付き添いで来てくれただけで、実際に行くのは私だけです!」


「ではますます認められぬ! 女1人で裏まで行くなど、誰が認められようか」



彼の言うことはご尤もだ。

禁忌とされるくらいなのだからただ強いだけの人間ですら手こずる何かがあるはず。なのに女子1人を中に送り込むなんてことをした暁には街の人々から反感を買うに違いない。


「そうだな、ではこうしよう。今この街、いや、多くの地域を騒がせている害鳥を駆除してもらいたい。それができぬようでは話にならんな」


「それはもしや、フェストグリフォンのことでしょうか?」


「うむ、既に知っていたか。そやつを葬ってくれたなら我らも貴殿らの話を聞いてやらんこともない」


「それでしたら、これをご覧ください」


言いながら眼鏡を掛けた細身の男、グリムは一枚の紙を目前の男に渡す。

その紙を読むとそこには「フェストグリフォン討伐証明書」と書かれており、紙面右下には印鑑が押してある。


「その紙は、私が先ほどこの街の集会所にて発行していただいた正式なものでございます」


「お、おい。もしや、既にあの鳥を駆除していたのか?」


「そうですが、何かご不満でも?」



そのグリムの言葉からも容易に想像できる通り、「条件は満たしてますが何か」と言うような自信に満ちたドヤ顔をしていた。

それを受けぐぬぬ、と顔を(しか)めっ面にし硬直する男性は大分鬱憤が溜まっているようだ。

今更だが、彼は都市アンスターの町長だ。



「仕方ない、貴殿らの申請について即刻、議会で話し合ってくるとしよう。明日、昼丁度にここに来ると良い」


「えっ?! 本当に?! やったぁ〜ありがとうございます!」


「メイア女史、喜びすぎですよ。まだどうなるか決まった訳じゃないんですから」


両手を大きく広げて体で喜びを表現するメイアをグリムが落ち着かせようとするも苦戦する。

しかしそれは町長の咳き込みであっという間に解消された。


「……ちなみにだ。君、名前をメイアと言うのかね。貴殿がフェストグリフォンを討伐したのか?」


「あー、違いますよ。実際に倒したのはグリムさんです。もしかして、私が倒してればもっと期待値ありました?」


「少し口を挟みますが、メイア女史は私の何倍も強いですのであの鳥なら3匹いたとしても余裕でしょうね」


「えーそれってグリムの3倍しか強くないみたいな言い方じゃない! もっと私強いですから〜」



敵の数が3倍になったからと言ってメイアの戦力がグリムの3倍であるという訳ではないのだが、メイアがもっと強いことさえ説明できれば良いと思ったためグリムは訂正しない。

そのグリムの考えは的中したようで、グリフォンを倒した男をさらに超えた強さをもつ少女に驚嘆していた。



「い、いやまさかそんな……我々とてその話は少し信じ難い部分があるが……まあ良い、とにかく明日の昼に来たまえ。続きはまたその時にしよう」


「はーい、良い報告待ってま〜す!」


「メイア女史……もうちょっと畏れないものですかね……」



町長相手に普段の緩さ全開で話すメイアに嘆息しつつ2人は会議室を出て行く。

とりあえず、できるだけの説明はしたつもりだ。あとは、重い扉を開けてもらえるのを信ずるのみである。


これからすぐにメイア一行についての議論が行われるらしいので、この件については深刻に受け止めてくれたようだ。



「……あやつらならば、あるいは。もしかしたら……」



ただ1人になった空間に、小さな声が響いた。

虚空に何か希望を見ているような、そんな虚な声が。



==================



「そうだ、俺がこの前出会った要注意人物について話しておかないといけないな」


「要注意()()、ですか? この世界に他にも人間がいたんですか?」


「ああ、この拠点にも人間がいるんだぜ。その人物については現時点では要注意じゃないけどな」



暗い暗い、そんな場所。例の如く、異世界の拠点である。

これは、グランとルーシャが会話をしている一幕である。



「まさか拠点に人がいたなんて……で、その件の要注意人物って?」


「……フィースト・カタフだ」


「フィースト・カタフ……それってもしかして、カタフ家の人間ってことですか?」


「ああ、今から何代も前の人間らしい。一度そいつに会ったことがあるが、今の俺ではまだ勝てない。諧謔的な口調で特徴的な槍を持った青年がそいつだ、出会ったら戦闘だけはまず避けろ」


「わかりました。どうせ私は戦えませんしね」



あの時出会った彼はまるで善人のようだった。

最終的には殺意をむき出しにしてきたが、人間が悪を孕むのとそこらの魔物が悪を孕むのとでは明らかな差がある。


『次に会うまでに死なないことだね』という彼の言葉。


次に会うのがいつになるのか分からないが、きっとグランが自惚れ自らの力を過信したならば確実に会うことになるだろう。だから少なくとも今は、向こうからやってくることは無いだろう。


だが、もしルーシャが驕っていたならば彼は襲撃してくるのか? 他にも堕ちた人間がいるのか? など疑問は尽きない。



「ま、あいつに会うまでに強くなればいい、か。どうせいつか戦うことになるんだ、今は余計なことを考えずにいよう」


「_______ 」



何か独り言をぶつぶつと呟いているのをルーシャがじっと眺めているが、そんな彼女にも疑問が多い。


まず1つ目に、先日の試練で入手した奇鬼忌琴について。

ルーシャの使える魔法は補助系特化であるため、戦闘は全てグランに任せるしかないというのが現状だ。

しかし、この楽器を用いればグランに並んで敵を攻撃することができるようになるだろう。

でも、それは封印されていたものだ。危険すぎる故に封印されていたのなら、それを勝手に使っていいのだろうか。

わざわざ豊かな森の生い茂る異世界に封印してあったのに、その封印の経緯を知らぬ若者が使って良いものなのか。

そんな、禁忌とされた物を扱うことへの躊躇いがルーシャの中で渦巻いていた。


そして2つ目。それは今グランからあったカタフ家の失踪者の話はについて。

おそらくグランは自分がこの世界に来る前に出会ったのだろう。しかし、問題はそこではない。

グランはフィーストという人物が特徴的な槍を持っていると言っていたが、そこが問題なのだ。


_____ルーシャはおそらくその槍を知っている。


三大派閥の間にはそれぞれが家宝とする武器やら防具やらがあるのだが、かつてカタフ家の家宝の行方がわからなくなったことがあったという。

結局は見つかったということになったらしいが、三派閥間の茶会の際に普段飾ってある槍が無かったという記録がアプス家の資料に残されていた。

つまり、フィーストが失踪とともにその槍もこの世界に持ち込んでしまったから家宝が行方を眩ましたのだろう。



「たしか、その槍の特徴も書いてあった気がするんだよなぁ何だったけ〜?」


「_______ 」



どうやら両者ともに悩み疑問は多いようだ。

ただ、その悩みはきっといつか解消され、それがこの世界の脱出に関係することは確かなのだ。



「ふぅ、どうせ俺らの謎は今考えるべきじゃないんだろう。こういうのはふとした時に閃くものだろうからな」


「そうですね。まずは鍛錬を積みましょう! といっても、私たちだけで鍛錬を積むのも厳しいものがありますけどね」


「なら、この拠点にいるもう1人の人間に頼んでみるか。あの人は、とても強い。悪を孕んでいるから絶対安全じゃないが、さっきも言ったように現状害はないしな。頼ってみるのもありかもしれない」


「うーん。ま、そうですね。私も会ってみたいですし」


「よし、そうなったら早速行くか。付いてきてくれ」



何日も何日も同じことの繰り返し。

皆はこれに耐えられるだろうか?

きっと無理だろう。



勉強に大切なのは勉強するために勉強するんでなく、何かそれ以外の目的を持って勉強することなのだ。


それは鍛錬でも同じこと。

強くなるために鍛錬するのではなく、強くなった先に何があるのかを考えて思い詰めないことが成長の近道だ。


彼らがそれに気づくのは、この翌日のことだった。




===============



そして場所は再び光の世界へと流転する。

と言ってもこの日は雨が降っており日光を浴びることはできないのだが、それでも光はそこらに存在する。


「_______ 」 


そこにいるのは全部で14人。

その内8人は既に(よわい)50を超えているであろう男性が、他4人はまだ若い男性2人と女性2人だ。

そして、残りの2人はその12人と対面するように位置している、メイアとグリムである。


つまり、この日はメイアが裏へ行けるか否かについてアンスターの偉い人達がジャッジを下す日である。


「_______ 」


メイア達が昨日とは違う広い部屋に案内されてから1分以上が経過するが、未だ沈黙が破られず重い空気が流れている。

町長を含む偉い方々がメイア達を見定めるようにずっと彼女を観察しているのでメイアも居心地わるそうだ。


「_____メイア・スマクラフティーとそのお付きの者、グリム・ベム。貴殿らには今日ここで、我々が禁忌の扉を開けるに足るかを審査させてもらう」


「は、はい!」 「わかりました、よろしくお願いします」


「肝心の判断材料は今から言う2項だ。あくまでもそれは判断材料にしかならないことを念頭に置いておいて欲しい」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


・メイア・スマクラフティーの戦闘力


・メイア・スマクラフティーの過去の経歴


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「んー、意外と簡潔なんですね。これだけでいいの?」


「ああ。これ以外にも色々とやっている時間は互いに無いらしいからな。これを判断材料にさせてもらう」


「過去の経歴、というのは例えばどのようなことをお伝えすればいいのでしょうか」


「それについては心配いらない。彼女、メイア君のことを昨日調べさせてもらったのだが、大都市ユニベルグズでは有名らしいな」


「え、そんなことまでわかっちゃうの?!」



最近のこの世界の情報網は割と広範囲に渡るらしく、技術の発展により大都市などの情報もすぐに手に入るようだ。

魔法研究に於いて多大な貢献を果たしているナハトを引き分けまで追い込んだ人物としてメイアもニュースに取り上げられていたのだとか。


電気の扱いがまだまだ発展段階にあるこの街ではより細かいことは調べられないようだが、ここが大都市だったならアル・ツァーイ村出身ということまで判明しそうで技術の発展が恐ろしく感じられる。

アンスターが遺跡探索のために作られた古い街でよかったとつくづく思う。



「ユニベルグズ魔法研究施設にて優秀な成績を収めその地を去り、ここに来たという訳か。我らで集められる情報はこれだけだが、逆にこれだけで十分でもある。君が素晴らしい人材であることがはっきりしたからね」


「あ、ありがとうございます! んーと、じゃあ、私の戦闘力を測るってのはどうなるんですか?」


「……昨日、隣の彼が言っていたろう、害鳥3羽なら余裕だと。ならば、この街の付近にある彼らの巣、そこの巨鳥を全て1人で討伐してきてみせよ」


「わかりました!やってみます! 確認ですが、そのグリフォンは何羽ほどいるんですか?」


「ふむ、最低限5羽は確認されているが、それ以上いるのか否かは不明だ」


「そうですか。まあ、大丈夫です!」



そのメイアの言葉通り、実際にフェストグリフォンの巣を軽々とメイアは攻略してしまった。

小さな洞穴に作られた巣に6羽のグリフォンがいたが、今まで学んできたことを活かせば苦労する要素はほぼ無かったに等しい。

1つ苦戦したのが、大勢で羽ばたかれることで小規模の竜巻が生じ、流石のメイアでも堪えきれず風に流されてしまったことだろうか。

それも魔法を用いればなんとか解決できたし、なんなら以前の2人の来訪者の方が強かったくらいだ。


中級冒険者が苦戦を強いられる程度の巨鳥の群れを簡単に掃討するという脅威的な結果を街に持ち帰ることになった。



「なかなかどうして若くして強い芯を持っておるようだな。まだこの歳の女性が抱えるべきでないだろうに、波のように不安定な苦難を抱えて生きているようだ」


「……私も、近くで見ていてそう思います。メイア女史は、それでも進まねばならぬ宿命なのでしょう。だから私は、彼女を裏まで連れていってやりたいのです」


「グリム……」



普段から真面目で仕事熱心なグリムだが、今の彼はいつもより熱心に心の内を語っているようだった。

それはメイアの為だけじゃない。失踪したグランや、村の人々の元気を取り戻すのに全力を注いでいるのだ。

それがはっきりと伝わってくるからこそ、メイアの心は折れず鋭い芯を持ち続けられる。



「どうだ、皆。彼女が、いや、彼らが、禁忌の扉を開けるに足ると思うか? 皆の意見を聞きたい」


町長が他の11人に是非を問う。

すると彼らはそれぞれの顔を見合わせた後、


「わしゃ、反対じゃよ」、「うむ、俺もだ」、「同じく」


「わ、私も反対派です」、「ま、そうだろうなぁ」


「禁忌を解くわけにゃいかんぜ」、「幾ら強いと言えどね」


「賛同しかねるかしら」、「無理だ」、「開ける必要無し」


「強さと禁忌は別だよ。禁足地としてのルールがあるのさ」



皆が、町長の投げかけた問いに反対の意思を表明した。

まるで、判断材料など元から必要なかったかのように、否、本当に必要無かったのだ。判断材料がどうのこうのという話はメイア達にそれっぽい演出を与えて断る口実を作るため。


メイアは勝算のない負け戦に、負け戦とは知らず勝てると信じて挑んでいたのだ。

多数決の原理によってメイアの願いが棄却されるのはもはや必定。また、裏へ行く別の方法を探さねばならない。



「……だが、私は賛成だ」


「え?」


唯一の賛成意見を出したのは町長だった。

その発言に場の皆が困惑しどよめく。

だが、たった1人の賛成があったところでその意見は揉み消されるのだ。アル・ツァーイがそうして滅んだように。

優勢が劣勢を揉み消すのは世の摂理、食物連鎖と同じだ。



「君たちはあれが禁忌とされた所以を知らぬだろう? この街の偉い者でありながら、その所以を知っていない。それは何故だ?」


「いえ、私たちは理由を知っております故に、反対してあるのです。あの中にはこの世の全ての生物を凌駕する厄災が眠っていると、歴史書にも書かれているではないですか」



反対派の1人が言うと、他の10人もそれぞれ反応する。

頷いたり、「その通り」など言う者がいたりとそれぞれだ。

しかし、それに町長は反論する。



「1つ言っておくが、君たちの知っている歴史書。それはどこぞの学者が考察した内容がそのまま本になってしまっただけのものだ。本来の歴史書にそんな所以は書かれておらぬ」


「じゃ、じゃあ今まで私たちは偽物を本物だと思い込んでいたと言うことですか?! い、いや、そうだとしても禁足地に踏み入っていい理由にはならない!」


「……禁忌とされた所以だが、それは世界でたびたび起こっている失踪に由来する」

 

強引にも町長は反対意見を無視して由来について語り始める。どうやら「まずは聞け」というメッセージを言葉の裏に含んでいるらしい。


「アンスターの町長は代々失踪の秘密を知っておるのだ。そして、その秘密は、失踪を解決するため裏に行こうとする人間が現れぬ限り開示してはならないと言われてきた」


「え、それってもしかして……」


「うむ、貴殿らのことだ。兄を救うため失踪した裏に行く必要がある。そして、その裏の先にある異世界を目指すと言ったな?」


「は、はい。私はお兄ちゃんが違う世界にいると確信しています。実際、違う世界の人が私のもとへ刺客としてやって来たこともありますから、絶対それは正しいです」



そのメイアの言葉を確認し一度深く頷くと、再び町長は静かに、それでいて情熱的に話を続ける。

周囲の反応を気にせず、と言うよりいちいち反応させまいという雰囲気がこの場に漂っている。


「……よって、このアンスターの機密をこの場にだけ明かそう。我らアンスターの歴代町長しか知り得ぬはずの情報を、自らの力で推察してみせたメイア殿に感謝したまえよ」


「そ、そんなメイア殿だなんて……」


「それほど素晴らしいことなのだよ。して、肝心の機密と言うのは既に察しているとは思うが、裏から行けるとされる異世界と失踪との関係が深いこと。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()こと。つまり、異世界へ行くのは不可で危険だから、裏へ立ち入ることが禁忌とされたのだ」


「ん?……いや、それだと、もし街の扉を開けたとしても、肝心の異世界への扉には結局到達できないってことでは?」


「ここからが重要なのだが、実は絶対に人類が踏み入ることができないというわけではないのだ。()()()()()使()()()な」


「その、あるものってなんなのさね」


「これです!」



メイアが大きな荷物かばんの中から一つのランタンのような物を取り出す。

側から見ればそれは只の灯りでしかなく、それに何の意味があるのかなどわからない。

その場の皆が首を傾げてメイアの持つ灯りを見つめている。



「これは失踪に遭ったお兄ちゃんの魔法なんです。消えない炎の魔法って言うんですかね? これが、その到達不可能な場所を踏破可能にさせられるらしいんですよ」


「何を言うとる、消えない炎の魔法じゃと? そんなの聞いたこと無い、知らんぞ儂は」


「まるで貴方は全てを知っているかのような口ぶりですね。この世の全てを把握しているのですか? 知らないと言うことは、していないというだけのことですね」


ご老齢の男性だろうと関係なくぶった斬るグリムの気迫は凄まじいものがあった。

他の10人も反論や疑問をぶつけたそうにしていたが、グリムに睨まれるとどうもその気を削がれるらしい。


どうやらここからはメイア達のターンらしく、町長、メイア、グリムの3人がは反論するペースになっていた。


そして、それから5分ほど彼らの力説が繰り広げられ……



「という訳でだ。君たちが禁忌だ禁忌だと騒ぎ立てていたのは噂の一人歩きが原因だったということだな」


「はぁ……この街の重い扉を開けて、その責任を町長は負いきれるんですか?」


「勿論、全ての責任は私にある。歴代の町長の責任も私が負う。だから、遂にこの時が来たのだ。扉は開けるためにあるのだから、遂に開ける時が来たのだ」



「これは、今までで1番苦労しそうな年になりそうね」


「まったくだ」、「過労になるぞ〜」、「しゃあないさ」



などと、皆がそれぞれに言葉を交わし始める。

その言葉一つ一つに、扉を開けることを許容したような意味合いを含んでいることにメイア達はすぐに気付く。


「えっと……いいの? 開けてくれるの?」


「どうやらいいらしいな。だが、私と1つ、1つだけ約束してくれ。絶対に失踪者をこの世界に連れ戻すことをだ。失敗は絶対に許されないからな」


「それは勿論、約束します。必ずここに戻ってくることを」


「……わかった。今日はもう遅い、翌日禁忌の扉の前に来ると良い。あれを開けようじゃないか」


「はい!」



最初はメイアが裏へ行くのに反対だった町長がいつのまにか賛成派になっていたことに後からメイアが気付いたが、町長曰く「生半可な覚悟で行こうとするなら反対だった」とのこと。

つまり、メイアの確固たる意思が裏への道を切り開いたのだ。何かを頼むなら、頼むだけの覚悟が必要。それをメイアは理解し、すでにその覚悟を持っていた。

だからようやく、裏へ行くことができる。



「正直、こんなに早く事が進むとは思ってなかったな」



呟くと、宿に戻ったメイアは思いっきりベッドへダイブする。ずっと緊張していたので疲労も半端じゃなかった。

12人に囲まれるというのはこれ以上ないほどの疲労をもたらすので今日以降は絶対に囲まれたくないとさえ思う。


「でも、町長には感謝、グリムにも感謝だね」



そのまま、襲ってくる眠気に身を委ね、目を塞ぐ。

次に目を開けたらもう空が明るいだろうが、今日は早めに寝るのが吉だろう。


みるみる深い眠りの海に沈んでゆく。

明日に備えて、メイアは深い深い眠りに落ちた。


宿で寝るだけで体力や魔力が回復するのは普通考えたら異常なことだが、疲れと魔力なら、メイアは完全に排除できる。


画期的な睡眠システムなどない世界だが、()()ならば都合良くやってくる素晴らしき世界のシステムならある。

これからも、幸運は幾度となくやってくる。これだけは絶対に言い切れる事だ。


だからメイアは幸運に恵まれ、とうとう裏へ辿り着くこの日を迎えることができたのだ。






「いよぉぉぉーーーっし!この日が来ましたぁぁーっ!」






街中に響き渡るのでは無いかと言うほどの大声で叫ぶのはご察しの通りメイア・スマクラフティーだ。

どこからそんな大声がでるのかわからないが、案の定大勢の人々の注目を浴びてしまう。

と言うのも、今いるのは人が多く行き交う場所、禁忌の扉前だからだ。



「はぁ、恥ずかしいじゃないですか。私もこの日を迎えられたのは喜ばしく感じておりますが、ここからが勝負ですよ」


「わかってるって! んー、じゃあ……」


何を考えているのかわからないが、右手人差し指を唇に当てて一瞬考える仕草をとり、ポンっと何かを閃く。






「絶対に救い出してみせるよぉぉぉーーーっ!」






何を考えていたのかと思えば、何を叫ぼうか悩んでいたようで、またまた人々の注目を浴びてしまう。


「あの、なんでまた叫ぶんですかね?」


「はっはっはっ! いいじゃないか元気で!」


「あ、町長さんおはようございます!」


突然の扉を開けると言う報告にことに役所やギルドは大忙しのようで、町長一人でここまでやってきたようだ。

にしても、このでかい扉を町長一人のちからで開けられるものじゃないだろうと思うのだが、どう開けるのだろう。


「扉の件は心配せずともよい。我々にしか伝わらぬ禁忌をかい解除する魔法があるのでな」


「ええっ! まさかの魔法で扉を開けるの ?! 」


「そうとも。ま、早速だが、開けるとするかい」



深呼吸をすると、腕をまくりゆっくりと扉に手を付ける。

すると、その手と扉が同時に青みがかった光が生まれ、その光が扉全体に広がっていくと扉の中からガチャリと大きな音が響く。そしてゴゴゴゴゴ……とゆっくりと音を立てながら扉が開いてゆく。


街の住民を含めた皆がその様子を呆然と眺めており、完全に開き終わるまでずっと立ち尽くしていた。


そして完全に扉が動くのを止めると、その先にある道が露わになる。扉と同じ素材で作られたであろう頑丈な壁に挟まれ一本の道が完成している。裏へ繋がる唯一の道が。


「ここを進めば、裏へ行ける……」


「もう、行きますか? いや、開けてしまった以上、もう行かなくてはいけませんね」


「うん、準備はしっかりしてきてるよ!」



ざわざわと周囲が騒がしくなってきているが、そんなことはもう気にしてられない。

扉の前で息を切らしている町長の横まで行く。


「扉開けるのにすごい魔力を使うんですね、大丈夫です?」


「いやぁ、こんなに疲れるとは思っちゃなかったよ。でも、無事成功できてよかった。メイア君は、もう行くのか?」


「はい、この時をずっと待ち望んでいましたから」



いつもよりも深く深呼吸をして心の高なりを落ち着かせ、覚悟のできた顔になる。

「優者」としての、本当の戦いの地へ赴く時がきたと。



「町長さん、グリムさん、待っててくださいね」


「ああ、是非とも、失踪の謎を解いて兄を救ってやれ」


「私も行きたいところですが、私は私でやるべきことがあります。だから、それぞれの仕事を全うしましょう」


「勿論!」



言うと、メイアは大きく1歩を踏み出す。1歩1歩、そこには兄救済への希望と戦いへの覚悟が込められている。

長い1本道を独りで進んでゆく。しかしメイアは独りだとは決して思っていない。

ダルジェンが、エスティアが、ハバキリが、グリムが、ナハトが、バッハが、そしてグランがメイアの近くにいるように感じている。決して幻覚が見えている訳では無い。


みんなに見守られている、そう思えるから独りだとは思わない。そう思えるから頑張れる。

人間のモチベーションは割と単純なのかもしれない。



皆の希望を背負った彼女は小さな遺跡の前に辿り着く。

1本道の終着点、そして裏への入り口である。


『裏に行くときは頭から行け』


これは、最後に町長から伝えられた言葉だ。

代々この言葉だけが伝えられてきたらしい。

頭から行く、とは何を言っているのか全くわからないが、それは遺跡の中に入った途端に理解できた。


そこにあったのは小さな穴、底を見る事ができない、深い深い深淵への穴だ。

つまり、ここに頭から飛び込めというメッセージなのだ。


勇気がいる、落ちて死ぬかも知れない穴に頭から飛び込むなど意味がわからない。

だが、頭から飛び込む理由が必ずあるのだ。

流石のメイアも()()怖気付いた。だが、



「ここで立ち止まってられないよぉぉぉおーーーッ!! 」




頭から、手を頭の上でペタンと合わせ飛び込む。

どこまでも、どこまでも深い深い深淵を落ちていく。

空気の抵抗をもろに受け顔を激しく歪ませながらも必死に堪えながら落ちてゆく。

凄まじいスピードで落下していたのでいつの間にか水中に入っていたことに気付かなかった。


ーー否、空中と水中の境界面が無かったというべきか。


今度は水中を沈んでいくのか、沈んだ先に何があるのか、そんな考えが頭をよぎったが、その考えはすぐになくなった。


ザバァァンーー


水しぶきを上げメイアは呼吸をする。

それはつまり、メイアは沈んでいたのではなく、いつの間にか浮上していたのを意味している。

頭から飛び込めという言葉は、そうすれば頭から浮上できるから、という理由からだったのだろう。


「こ、ここが、裏の世界?」


目前に広がる広大な世界は、一言で言うなら緑に富んだ明るい世界だ。

小さな池からメイアが浮上したらしく、周りは平原が広がり背後には絶壁が広がっている。


肝心の歪み、異世界への扉があるのが地点(0.8.2)。

今メイアがいる地点は(0.0.0)。

数学的っぽく言うなら、ここから北に8、高さ2、平行移動した地点に歪みが出現するということ。


その場所はここからでも容易に見る事ができる。


「あの山の中に、歪みが顕現する……」


そう遠くない森の中に山が見える。

歪みが顕現するときはε波が観測されるらしいが、そんなのを観測できるような物は持っていない。

だからメイアにできるのは、目的の地点でひたすら待つのみである。



「よし、まずはそこまで行かないと」



池から這い出て服を乾かそうと思ったが、何故か服が濡れていなかったのでそのまま歩き始める。

濡れていない、というのは恐らく()()()()()()()()()()()()()()()なのだろう。


と、そう言えばこここらどうやって戻ればいいのか不明だ。


だが、それは帰りになればわかるだろうと後回しにする。

きっとここに来ればわかるだろうと、そんな予感がした。



「だから、やるべきは一直線にすすむだけ。そうよね?」



メイアは微笑みながら呟き、再び歩き出した。




========================




闇、その場を一言で表すなら闇がピッタリだ。

そんな場所の枯れた木の上で1人の青年がくつろいでいる。


彼は何をするでもなく、独りぽつんと退屈そうに一点を観察し続けていた。


その一点とは、何の変哲もない洞穴。

入ればすぐに行き止まりになってしまう、そんな洞穴だ。

もう何年もそこを観察し続けているが、勿論何も起こらず、面白いことなど一切ない。


「今日も、何も起きず退屈な日になるのかねぇ……そろそろだと思っているんだけど、ね」


はぁ、とため息をついて眠りにつこうとしたその時だった。


コン……コン……コン……


洞穴から、何者かが歩く音が反響して聞こえてきた。

しかし、彼は洞穴に誰かが入る姿を一度も確認していないし、中を覗いても誰もいなかったのを先程確認していた。


つまり、突然そこにワープしたとしか考えられない。



「へぇ……? これは、やっと、楽しくなりそうだなぁ♪♪」



洞穴からでてきたのは、桃色の髪をした少女だ。

髪が肩に掛かるか掛からないかくらいの可憐な女の子。



しかし__________



その女の子の胸を、蒼い棒が突然貫いた。



口と胸から血が吹き出し、膝を地に付けると彼女は棒の飛んできた方を睨むように振り返る。



そして、手のひらを青年の方へ向けると、


「ここ…….で、立ち、止まれ……ない……のよっ……!! 」


氷の塊を青年に向けて放つ。つまり魔法を使用したのだ。

だが、その魔法は左手の甲で簡単に弾かれてしまう。


「へっ!そんな死にかけで魔法を放たれても意味ないね。今の一撃、だいぶ鍛錬を積んでいるようだったけど」



そもそも、胸を穿たれて何故魔法を放つ程の力が残っているのかわからなかったが、恐らく執念だ。

何かに対する執念だけが、彼女を生かして、動かしている。



「僕の名前はフィースト・カタフ。 死ぬ前に覚えておきな」



こういう法則があったのを覚えているだろうか。

良いこと、つまり()()があっただけ、その者を不幸が襲うという法則を。


胸を棒で穿たれた少女が今まで得てきた幸福が今、死という形で不幸となって返ってきたのだ。



「じゃあね。必死で生きなよ」



青年の投げた蒼い棒、それは正確には槍だ。

少女に突き刺さる槍を引っこ抜くと、その槍から白い熱線が放射される。

その一線が胸に空いた穴を抉り、少女にトドメを差す。



この日、暗い世界のある場所で、1人の女の子が命を落とした。あっけなく、儚く、命は散っていった。




フィースト・カタフは、彼女の名前をまだ知らない。


しかし、


彼女のファミリーネームは、恐らく彼は知っている。


なぜならそれは、


「あいつの家族なんだろ? 失踪の被害者グラナードの」

今回も読んでくださりありがとうございます!

長くなってしまいすみません!


脳死で文章を書いているので誤字脱字文法の間違い等が多いですがそういうものだと思ってくだせえ!


ではまた次回お楽しみに!

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