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勇者などいない世界にて(原本)  作者: 一二三
第一章 二つの世界
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第一章15 いってきます

突然の来訪者襲撃から一週間、遂にメイアは攻撃魔法の使用をナハトから許可された。

つまり、魔法球にスムーズに魔力を注げるようになったのである。



「不完全な魔法を禁止していたお陰で、不完全な癖も封印されよりよい魔法が放てるようになってる筈だ。メイア、バッハに一つ何か放ってみるといい」


「ええっ?! やっぱり僕が的にされるんですか、そうですよね、わかってましたけども!はぁ、いいですよ、どうぞ」


「感情の起伏の激しい奴だな。ほれ、メイア、準備オーケーらしいぞ。やってやれ」


「はい!ではバッハさん、我慢してくださいね!」



バッハからすれば理不尽な蹂躙でしかないが、一度強化されたメイアの魔法を体験しておきたいともともと考えていたバッハは逃げも隠れもしない。



「よーし、では、魔力測定を始めるぞ」


「「よろしくお願いします!」」



_____始め!



「『ルフト・オーブ』!!」


メイアが開始の合図からコンマ1秒の速さで魔法を展開する。圧倒的な精密さと素早さもまた鍛錬の成果である。


「『ヤクト』!! 空気を刃に!」


開幕早々放たれた球撃を作り出した剣で切り裂こうとするが、それだけで勢いが止まるようなやわな魔力ではない。

そんなことはバッハも分かりきっていたが、それにしてもこのひと月での劇的な変化は異常と言ってもいい。


メイアの魔法が創り出された剣を一撃で葬り、さらに風の球から空気の刃が追い討ちをかける。


「くぅッ!けど僕もここで何年も戦ってきてるんだ、日々成長しているのは君だけじゃないよ!『プロミネンス』!!」



燃え盛る業炎がメイア目がけて真っ直ぐ向かってくる。この魔法はメイアが初めてこの研究施設に来たときにもバッハが使用した魔法だ。

その時と同じ状況を再現するとしたらやはり……


「はい!『エニグマ』ァー!」


詠唱の瞬間、メイアの周りに不可思議な虹色を模した力が顕現し、あの日より更に巨大で強力になった業炎を包み込む。



「一ヶ月前を思い出すよ、前回も僕の魔法を簡単に消し去ってくれたからね!」



前回も今回もメイアの魔法によって攻撃がかき消されたが、それを見た今回のバッハの反応は驚きでも悔しみでもなく、嬉々とした表情だ。



「前回はここで後ろに回り込んでいたけど、今回はそうしないのかい?」


「今回は今回だよバッハさん。でも、だからって油断はしちゃ駄目だよ?いつ後ろを狙われるかわからないから」



すると突然、両者ともに後ろに振り向くと、目の前に飛んできたものをそれぞれ受け止める。

バッハは氷の破片、メイアは魔法の針をそれぞれその手に掴んでいた。


「僕も君も、後ろを狙うのは同じ考えだったようだね」


「背後を狙うのは自分だけとは限らない、良い教訓になると思うよ。直接背後に回り込まなくても攻撃できちゃうけどね!」



二人の戦いに観戦者達がどよめきをあげる。実は今回、急成長を遂げたメイアが魔力測定検査をするという話が施設中に広まり、多くの人がその戦いを観戦しにしているのだ。

メイアが来て一ヶ月以上、彼女は"突然現れた可憐な戦士"という肩書きがつけられて一躍有名人と化していた。


いつもとは違うオーディエンスの放つ熱気と声援に二人のテンションも上がっていく。

 


「よーし!久々の攻撃魔法、ドーンと行くよ!」


「どんと来てください!貴方の成長を、未だ広大な成長の可能性を秘めた貴方の力を、僕は楽しんでいるよ!」



ナハトもざわめく心を落ち着かせながら、遜色ない澄んだ魔法の顕現を待ち侘びている。

兄の為に一気呵成の思いで進めてきた鍛錬の日々。まだまだ鍛錬は終わらないが、その途中経過でさえこの盛り上がり。

いや、途中経過だからこそ皆は彼女の力に憧憬を抱き、目を輝かせてここに来ているのだ。


漸く魔法の流体としての性質を扱えるようになったメイア。

彼女にとってはここまでが基礎、できるようになってやっとスタートになる地点である。


だから、これは途中経過であるがスタート地点である!



「『リュミエール』!」



掌をバッハの方へ向け、その手から閃光が解き放たれる!!


その光の奔流は目前の男に猛威を振るわんと超特急で迫り、激しく包み込む。

魔法だからこそこれは痛みを伴い、光だからこそこの一撃は速い。


短い間にメイアが生み出したのは、素早い魔力の注入による高威力かつ相手に避ける暇を与えない速撃だ。



_____そこまで!



ナハトによる終わりのコールとともに静寂が訪れたのも束の間、その後すぐに観客の拍手喝采が地下の検査場になら響く。全ての人が戦いを反芻し、余韻に浸り、メイアに駆け寄り言葉を交わそうと溢れかえっていた。



「あ、ちょっとすみません!バッハさんのところにいかないと!」


メイアの周りに集まる人々の合間をなんとかくぐり抜ける。

そして、超威力の魔法で揉みくちゃにされてしまった満身創痍の男の下へと駆け寄り声をかける。


「バ、バッハさん大丈夫ですか?!」


「あ、ああ大丈夫だよ。身体はズタボロだけど、ね」


明らかにボロボロになっていて大丈夫とは思えないが、測定員としての矜持からか決して大丈夫じゃないとは言わないらしい。

であればその矜持を傷つけることはしたくない。彼が大丈夫だと言うのなら大丈夫なのだ。そこに言及はしないでおく。



「ナ、ナハトさん、どうです?メイアさんの技術も格段に上がってますし、何より彼女は"強さ"で強引に攻撃することを止めていたと僕は思いますよ」


「ああ、全く意義なしだ。強くなったな……」


「私、あの時は"強さ"と"力"の違いが余りよくわかってませんでした。でも、今はわかります、その差が、違いが」


「うむ、それでいい、メイア。それが理解できれば、もっと強くなれるさ、どこまでも」



力を使って強くなりたい、と一言に目標を立てていたが、実際にその時その違いを理解してはいなかった。

だから、理解できた今新たに目標を立てるならば……



「私は、正しい力を以て人事を尽くす!強くなる!」だ。



====================



そして、さらに一週間が経過した。

既に空は暗くなり、多くの人が既に帰宅し閑散とした魔法研究施設。静かだからこそ、その後は響いて聞こえる。

ナハト・ブルーメは本を抱えて廊下を疾走していた。メイアに伝えるために、新たに手に入れた情報を伝えるために。


そして、メイアのいる部屋の扉を勢いよく開ける。

突然の轟音に驚いたメイアは小さな悲鳴をあげ振り向き、


「ナ、ナハトさん?! どうしたんですかそんな息を切らして、何かあったんですか?!」


「はぁ……はぁ…ああ、何かあったか無いかで言えばあったの方だ」


メイアはナハトの言葉に何が起きたのかと不安の顔をするが、彼女が分厚く古そうな本を抱えているのに気付く。



「えっと、その本は何ですか? 随分と古くて重そうですけど、もしかしてそれが関係してるんですか?」


「そう、これだよ。これに載ってた情報がメイアの兄に繋がってるやも知れん」


「えっ?! お兄ちゃんに繋がるってことは、もしかして異世界についてとか、失踪についてとかそう言う話ですよね?」


椅子に座って休憩していたメイアだが、思わぬ話につい立ち上がってナハトの目の前までズカズカと近寄ってしまう。

長い間進展の無かった兄探しに光が差し込んだのだから仕方ない反応だろう。


「まあまあ、そう急くな。今から教えるから、とりあえずは座ろうか」


「あ、そうですね、すみません興奮しちゃって!」



興奮しすぎたことを詫びてはいるが、急いで椅子に座り直すところをみると興奮は全く収まりそうになさそうだ。

とはいえ、それくらいのやる気が無ければ到底目的は達成されないのだが。



「で、私が見つけた情報はこの本に載っていた。ずばり、裏の人類到達不可の場所ついてだ」


「っ! ついにその解決法が見つかったんですね! となると、あとは裏への行き方か……」


「だからそう急くなと言ってあろうに……ふふっ、まあ良い。その肝心の解決法なんだがな、こりゃまた私も初耳な単語があってだな、これはこれで難航しそうなのだ」


「その単語って?」


「神代の英雄が原初の炎とやらを使って闇を払ったと言っていただろう? その炎の名前が『オリロート』と言うらしいのだが、私には結局何のことだかわからなくてな」


「え? 『オリロート』っていう炎なんですか?」


その名前にメイアはとても思い当たる節があった。偶然か必然か、メイアはその名前の炎を知っていたのだ。

その名前を知るのはメイアだけではない、アル・ツァーイの村人は皆知っている筈なのだ。なぜなら_____



「それ、多分『オリロート』っていう魔法だと思います」


「なっ?! メイア、君はこの原初の炎の正体を、この名前を知っているのか?!」


「はい、知っています。だって……この炎、この魔法をお兄ちゃんが使えますから」



_____なぜなら、グランが闇を払う原初の炎を扱えるから。


グランのその魔法が原初の炎であるとすると、メイアはとても納得がいった。


アル・ツァーイ村には電気を灯り代わりにするということはしていない。それは決して電気を扱う文化がないからでは無く、それを使わずとも良いからである。

グランは魔法『オリロート』を用いて消えない灯りを村の人々に提供している。

こうすればわざわざ電気を使う必要もないし、明かりがいらない時は物を被せるだけでいいからだ。


消費エネルギーを節約するという文化は世界共通。

ならば少ないエネルギーで十分効果のあるグランの魔法が使われることは必然、村中にこの灯りがみるみる広まっていく。


だから、身近な単語が出てきたことがとても意外であった。


「そうだ、あと一つ気になることがあるんだが。君はラグラスロという人物を知っているか?」


「え、ラグラスロ? いや、全く知らないです。それは誰なんですか?」


「いやな、この前の二人組がいたろう。その内の大きい方が言っていたのだ。おそらく、そのラグラスロとやらは彼らのボスといったところだろうな」



この人物が失踪の犯人なのか否かは現状わからない。

しかし、それが強大な敵であることに間違いないはない。



「そうか……なるほど、そうなると話は早い。メイア、君はすぐに兄探しを再開するべきだ。遂にこの時が来たのだ」


「え、魔法の鍛錬はもう終わりなんですか?」


「な訳あるか。そうだな、明後日だ、明後日君は村に戻って炎を回収。そしてそのまま君の兄を連れ戻して来い。だから、明日は君の可能性を最大限まで高めるぞ、いいな」


「明後日……はい、わかりました!」



翌日、この日メイアが呼び出されたのは先週と同じく魔力測定場であった。

そこで再びバッハと戦うのかと思っていたメイアだったが、この日の強化計画は予想外のものだった。


「今日が終われば君は兄を探しにここを出るわけだ。だが、浮かれている暇はない。君は今日、この私と戦え!」


いつになく真剣な眼差しで号するナハト。

研究施設の準最高位の強さを持った彼女との手合わせが最後の日程、手を抜いてはいけないと、強く感じる。



「私にその力を発揮してみろ、メイア。今まで教えてきたこと総て、ぶつけてこい。そしてそれを、常に発揮できるようになれ。それが最後の修行だ」


「わかりました。……じゃあ、早速始めましょ?」


「ふ、はははっ。やはり、君は明るい、天真爛漫なところがやはり良い。よーっし、やるか!」


「ふふーん、負けませんから!」


異常なまでの成長と、今まで積み重ねてきた兄との修行。今になってやっと、強くなれてよかったと感じている。


普通と違って修行していたから、魔法に磨きを掛けたから、こうやって強いナハトさんと戦えることにワクワクしてる!


「では、今から臨時特別試合、ナハト・ブルーメ対メイア・スマクラフティーを始めます。この試合は魔力測定ではないので、両者魔法以外の攻撃を用いても問題ありません」


審判員、正確には試合の仕切り役だが、男性が合図の準備をする。この一刻一刻が、二人の精神を研ぎ澄まし……


「では……」



_______始め!



「『ルス・オーブ』!」 「『ルフト・オーブ』!」


開幕、両者ともに別々の球撃を放ち魔法の撃ち合いが行われる。流石はナハトと言ったところだろうか、メイアと比べるとやはり魔法の出が早く、連続して魔法を放とうとするとどうしてもナハトの魔法の方が数が多い。


一撃一撃がそれぞれを打ち消し合うも、繰り出される攻撃の数はメイアの方が少ない。このままでは容易くメイアが葬られてしまうが、これを打破する考えが無いわけでもない。



「『ルフト・オーブ』応用版、チャクラム!」



その考えというのが、球撃の性質を用いた応用版である。

オーブが炸裂すると風の刃が更に攻撃するという性質を応用しており、球体から円盤状に変形、そして端部分に刃の付いた投擲武器となってナハトの攻撃を切断していく。

それを連発することで、少ない数でも『ルス・オーブ』をいくつも破壊することができ余裕が生まれた。


「『アボイダブル』!」


身を軽くして素早くナハトへ近寄ってゆく。

しかしナハトは風のチャクラムに未だ対応しており、迫り来るメイアに対応することができない。


_____これはいける!


強く拳を握りしめ、力を込める。その拳は魔法によって破壊力が底上げされ、防御しなければ例えナハトだろうと無傷では済むまい。

拳を大きく引き、攻撃する準備は整っている。


「刮目しなさぁぁぁぁーーいっ!」


大声をあげて叫ぶことで勢いをつけ、気合いで拳の威力を高め振りかぶる。

そしてメイアが殴ったものはナハト・ブルーメ_____ではなかった。目には見えない壁のようなもの、おそらく魔法障壁だ。


「えっ……?」


「ふっ、いつ障壁を張ったか気付かなかったろう?実は、戦いが始まった瞬間にもう壁は作られていたのだ」


思いっきり硬い物を殴ったときの反動は凄まじい。ましてや素手で殴ったのだから、その拳に返ってくるダメージは計り知れない痛みを伴う。

しかし、全力の攻撃によりその壁に亀裂が入っていた。


「うっ……ぁぁッ……で、でもこのくらい大したことないんじゃない? まだ片手だし、ね!」


片手のじんじんと続く嫌な痛みに耐えながら壁の亀裂に後ろ蹴りをして硬い硬いそれを破壊する。


「おいおい、魔法障壁を物理的に破壊するとは女の子がやるようなものでは無いだろうに。にしてもよく破壊できたな、いったい今までどんなトレーニングを積んでいたんだ?」


「過酷で苦痛を伴う大変な毎日を過ごしていけば自然と身につくと思いますよ? 」


「いやはや、それを聞いてやりたい人間はいないだろう」



軽いお喋りをしているように感じるだろうが、実はそんな優しい場面なんかではない。

メイアの凄まじい破壊力を目の当たりにしたナハトはそれに対抗心を燃やし、彼女もまた武術を用いて戦い始めている。

二人の拳の撃ち合いと蹴りの入れ合い、そしてそれを躱しつつ更に攻撃をしかけ合うその姿からは普段の優しさなど想像などできない。


そこにいるのは、さながら獰猛な蛇と虎である。


互いの手が交差すること数十回、その拮抗がいつまでも続くなら良かったろうが、一つ一つの攻撃にもそれぞれの思惑が込められている。

相手の思惑をどちらが先に越え打撃を与えるかという高度な戦いが繰り広げられているため、絶対にどちらかが攻撃を受けなければならない時が来るのである。

そしてそれは、すぐに訪れる。


「ぐぅっ……きゃァッ!」


ナハトの鋭く速い回し蹴りがメイアの脇腹へ食い込み、5メートルほど弧を描き飛んでゆく。

しかし、それだけでナハトの攻撃は終わりを迎えない。

メイアの身体が地に着くより早く、受け身の取れない不安定な身体に拳を叩き込み追い込む。


「まだ、まだまだまだ、私の攻撃は続くよメイア!」


更に加速度を増し遠くへ飛ぶメイアを更に追いかけ、腕、脚、さまざまな部位を使って一方的に攻撃を繰り広げていき、滅多打ち状態である。



この戦いを見ていた観衆からもどよめきが起こり、メイアを心配する者と、ナハトの非常なる猛威を冷たい視線で見る者が多くなっていた。

今まで見せることのなかったナハトという女性の本気に、観衆たちは本気で恐れ慄いているらしい。



しかし、メイアもメイアでただ殴られっぱなしでいる訳ではないのだ。たしかに怒涛の猛威は痛いし耐えがたい、できることならすぐに反撃したいくらいだ。

でも空中ではそれができないから、その突破法を何とか考えている。



だが、その嵐のような猛攻は突然、終わりを迎えた_____



「やはり肉体面、武術面で君は私に勝てないようだな。ここらで終わらせてやろう、この戦い自体を、この一撃で全て終了させてやる。よく戦った」



そしてナハトからの最後の一撃、踵落としが背中に叩き込まれると、メイアは腹から勢いよく地面に向かって落下し。


観衆の中にはその痛々しい一撃から目を背ける者もいて、誰もがエリートの強さを改めて実感し。


勝利を我が物にした当人は、しかし、未だ油断を見せず構えをとっている。

誰もがナハトの勝ちを確信しているのに、ただ一人、勝者は未だ、勝った気ではいないということなのか_____



_____今だ!今しか、チャンスは、無い!



「『コルティツァ』ーーッ!」



着地の瞬間、全身を使って受け身をとる。そして疾風のごとく身のこなしでその身を起こし、創造した薙刀をナハト目掛けて思いっきり伸ばす。



「絶対に諦めていないと思ったよ!流石は私が教えた生徒だね、いいじゃないか!」



顔を斜めに傾け氷の一閃を避け、ナハトは両手に雷槍を生成する。槍とは言っても、それをまるで剣のように扱っているので正しい表現はナハト自身にもできない。



満身創痍のメイアとまだまだ余裕のナハトによる剣戟が始まり、既にボロボロの少女が形勢逆転を目指すという形になった。

薙刀は2本の稲妻の辻を器用にくぐり抜けナハトの肌を少しずつ裂いていく。より正確に攻撃の合間を縫うように氷閃が放たれ逆転も夢じゃないと思われたが、それに負けじと雷光がメイアの肌を焼いてゆく。


いくら魔法の雷槍では感電しないとは言っても、それが高電圧の電気であることに変わりはない。

内在する高エネルギーが熱となり、それは攻撃と共にメイアの皮を焼き切るのには十分な熱さである。



正直、この場にいる者は皆、なぜメイアが戦えているのかを理解できていない。あんなにも滅多打ちにされたなら、骨の一つでも折れていそうなものだ。

それに、壁や床に叩きつけられた後に電撃の熱で更に身体中を負傷しているのだ。これでまだ立ち上がり武器を振えることが信じられるだろうか。



「そろそろ私も疲れてきたよ、メイア。なぜ君は満身創痍なこの状態で戦っていられるんだ? 本来、そんな状態では誰もが戦闘不能になるはずなんだがな」


「だ、誰かさんがこの前、諦めるなって、そう言ったんじゃないですか。傷だらけになっても、諦めない。そんな意志の強さだけが、私を今動かしているんです」


「そうか、なら最後まで、地に伏せてでも戦ってみせろ!」



剣戟と言葉を同時に交わしつつも、攻撃することに関して、相手にその権利を渡すまいと武器を振るう。

だが、その戦力さは誰が見ても明らか。

誰もがエリートの勝利を予想した。その予想を跳ね除けるだけの期待があるとは誰もが思ってはいない。


_____メイア・スマクラフティーだけを除いては。


「はぁぁぁぁーーっ!『リュミエール』!」


片手で武器を持ち、もう片方の手を相手に向ける。

そして放たれるのは、バッハとの魔力測定でも使った閃光の波動。

「勝利」だけを追いかけて盲目である今だからこそ、「勝利」に貪欲になっている今だからこそ、先日とは違う、更に強い光が戦場を真っ白に染める。



「_______」



何も聞こえない。



「_______」



何も見えない。



「ーーッ!」



何かが、何かしらが抗う、そんな音が聞こえてくる



「ーーれが、最後だぁぁぁッ!」「ーーれで終わりだ!」



そして。



「私の勝ちか……いや、そうか。メイア……お前も、勝っていたんだな」



目の前の世界が元通りになった時、勝負は終わっていた。

2本あったはずの雷は一本になっており、その雷が膝立ちするメイアの顔の目の前に。

膝立ちのメイアの負けかと一瞬思われたが、彼女は氷の刃をナハトの首もとにあてがっていた。



_____そこまで!



即ち、この戦いは「引き分け」となって幕を閉じた_____



終わりの掛け声がかかると、メイアは忽ち脱力、その場で倒れ込んでしまう。

力が抜けたことで氷華の薙刀は霧散し消える。

微塵たりとも動かないが、それは極度の疲労と限界を超えたダメージをその身体に蓄積しているからだろう。そらは昏睡状態と言ってもいいかもしれない。



「ここまで耐え切ってみせたんだ、体力も限界だろうな。かく言う私も、もう限界に近い状態だが……な」



雷槍が消失し、ナハトもまた膝をつく。

メイアほどの体力消費はしていないものの、最後の閃光が彼女に与えた被害は計り知れないものがあった。


「本当に、『リュミエール』とかいうあの技。あれは、新進気鋭で究極の切り札になるだろうな。『コルティツァ』と『リュミエール』は今後一生、どの戦いに於いても使われることになる。だから今のうちに完成させておくのが吉だな」



幻想を、理想を、空想を、何もかもを現実にすることはできない。だから求められるのは、何を大成させるか。



今現在、魔法は「詠唱」、つまり魔法の名前を口に出すことで放つことができる。


しかしナハトには、「詠唱」をせずとも顕現させられる魔法があるのだ。

この戦いでは用いることをしなかったが、ここでまず特筆すべきは()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という点である。


誦んずる時間を完全に排し、相手よりも先に攻撃が打ち込めるという至極素晴らしい利点が生まれるのだ。


これが多くの魔法、主にメイアでいう創造魔法や閃光を放つ魔法などのようなもので扱えるようになったならば、より一層の戦力アップが見込めるという訳で……



「次に大成するべきは、無詠唱で攻撃をすることだな……」



ぽつりと、倒れ込み深い湖に沈むようにぐっすりと眠るメイアに対して呟いた。



=====================



翌日、少女は建物のエントランス、扉の前で大勢の人に囲まれていた。

この日ようやく兄を探す旅を再開し、この施設を出るときが来たのだ。その別れを惜しむ者もいれば、また帰ってくると信じている者もいたが、彼らは共通して笑顔である。

最後の言葉を彼らと交わしていると、ひとりの女性が人混みを掻い潜ってやってくる。


「あ、ナハトさん。ほんと短い間でしたがありがとうございました!」


「きっとまた、ここにやって来い。今度は、兄を連れてな」


「へへ、そうですね!その時はお兄ちゃんとも手合わせしてあげてくださいね? 」


「そりゃあ骨が折れそうだな。そうなると、私もこれから鍛錬を積み直さねばならないな。それにしてもバッハのやつ、こんな時に何をやってるんだか。寝てるんじゃないのか?」


少女の恩人、恩師と言ってもいいその女性はいつになく笑顔で、凛々しさを持ちながらも優しさに満ち溢れていた。

恵まれた環境が、少女をとても()()にしてみせた。


「まあまあ、バッハさんも疲れてるんでしょうし、そっとしておきましょ? ……よし、じゃあ、いってきます! また会いましょう!」


その少女、メイア・スマクラフティーは「さようなら」とは言わなかった。

なぜなら、この地は彼女にとって既に第二のホームとなっており、ホームだからこそ、そこを出る時は「いってきます」が正しい言葉の選択となるのだから。

また帰ってくるという心の内を言外に含んだ言葉なのだ。



「ま、待ってくださぁーい!」


今にもメイアが扉を開けここを去ろうとした時、誰かが遠くから大声で呼びかけてくるのが聞こえた。

振り向くと、向こうから全速力で息を切らしながら走るバッハの姿がそこにはあった。


「おいバッハ、なんて間が悪いやつなんだお前は。メイアがここを去る感動のシーンだったのに」


「す、すみません〜。寝坊してしまいまして、すぐ飛び起きて全力で走って来ましたよ!」


「はは、バッハさんらしいね」


最後の最後で慌てる彼にどっと笑いが起こる。それは蔑む笑いでも嘲笑でもない、場を盛り上げる嬉々とした笑いだ。

この雰囲気が好きなのだと、メイアは常日頃思っていた。


「メイアさん、これあげます」


「これは……御守り?」


手渡されたそれは、メイアの言う通り御守りだ。

特徴といったものは特になく、ただの菫色(すみれいろ)した御守りで。 


「普通のやつとなんら変わらない、ただの御守りだよ。だけど、しっかりそれを身につけておいて欲しいんだ」


「……はい!了解です! 大切にしますから、心配しなくて大丈夫ですよ?」


「ははは、それはよかった。走ってきた甲斐があったよ」


「ほれ、バッハ、そろそろ行かせてやれ。さっき『いってきます』って言ったのに、まだここにいるなんて変だろう」


「そうだね。じゃあ、メイアさん、またいつか」


微笑みを顔に浮かべて二人とも、いや、皆が、手を振ったりサムズアップをしたりと、再び見送ってくれる。



「じゃあ、でかけてきます!」



扉を開けて、メイアは振り返らずにその扉をくぐる。

晴天の青空を仰ぎ見て、まずは故郷アル・ツァーイへ向けて動き出すのであった。

そろそろ私筆者のプライベートが忙しくなってきましたよ。でも、ちょくちょく書いていきたいなとも思っているんですよね……


なんとかなるなる!

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