第一章10 グラナード・スマクラフティー①
スマクラフティー家は代々戦闘に於いて優れていた、という訳ではない。
グランとメイアのこの兄妹が特別優れていただけなのだ。
特に異質的なのは兄であった。
生まれたときより、先天的に力を授かっていたのだから。
ただ、何故平凡と言ってもいい子供にそのような力が宿ったのか、それは一族の至上命題である。
彼が初めて魔法を使ったと思われるのは生後1週間のとき。
彼の母親が水を飲むために机に置いておいた器が、母親が目を離した一瞬の隙に割れていたのが始まりである。
この時はまだ家族も何故器が割れたのかが分からず謎が闇に葬られたままでいたが、1ヶ月も経つと母親は勘づき始めていた。
壊れるものは全てグランの周囲にあるものばかりという共通項があれば推測するのも容易だろう。
彼は無意識位に何か近くの的目がけて魔法を放っていた。
それが初めて目撃されたのは何と生まれて1ヶ月と1週間経ってからのこと、グランの父がそれを目撃した。
小さな手から放たれる微笑な蒼い光。
それを見た父は石化され思考すらも停止していたが、その光は石化した彼の方向へ進んでいく。
それが弾けた時にはもう遅かった。
固まった身体_____厳密には腕と共に光は弾け、グランの父の右腕は使い物にならなくなってしまった。
生まれてひと月の嬰児ができる所業ではないし、それを無意識に行なってみせることを非凡と言わずして何というか。
それから二年の月日が流れ、グランに妹ができた。
グランの例があるので、メイアと名付けられた妹にも何かあるのではないかと注目が集められたが、特にその様子はなく普通の女の子として育っていった。
ただ一つ異質であったのは、グランとメイアの二人で戦闘の鍛錬を行い、"普通"を遥かに超えて強くなっていったことだろうか。
そんなこともあってか村では「恩恵を受けし天使」とも揶揄されるようになり一躍有名人となった。
しかし、世界にはおそらく一つの法則があるのだろう。
良いことがあった分だけ悪いことがあるという法則が、先天的に力を得たグラン、そしてその妹メイアに災難をもたらすことになる。
グランが10歳、メイアが8歳のときであった。
ある日突然、自然災害とは思えない程に激しい嵐が村を襲った。
雷鳴雷光も凄まじく、破壊の突風が村を吹き荒らしたその日を兄妹は今も忘れていない。
その日彼らの父は外出しており、天候が天候なだけに母が迎えに行こうと言い出した。
一応、スマクラフティ一家は皆非常時に備えて魔法を使えるようにはしているのだ。
母は耐性付与、父は回復、子供たちは多岐にも渡って魔法を覚えていた。
故に母は、自らに耐性を付与すれば嵐にも耐えられると踏んで迎えに行こうと言い出したのである。
しかし、まだ幼き子供が非常時の親の外出を認める筈もなく引き止める。
しかし、子供たちもまた母親の耐性魔法の凄みを知っている故に、母なら大丈夫だろうという予想も頭をよぎっている。
かつて火事が起きた家から炎耐性を付与して子供を救ったことだってあるのだ。
あえて自分の耐性の凄さを証明するためにグラン達に魔法を使わせたことだってある。
「お母さんを信じなさい。あなた達に耐性を付与しておくから、静かにここで待ってるのよ?」
だから、信じろと言われたら信じてしまうだけの信用がある。
「「いってらっしゃい!」」
幼い兄妹は両親の帰りを信じて母親を見送った。
もう一度、繰り返して言おう。
良いことがあったなら、その分悪いことが起こるのだ。
嵐が過ぎ去り雲なき晴天が訪れる。
しかし、嵐が過ぎ去っても未だ両親は帰ってこず、兄妹は家を出て二人を探しに行くことにした。
そして、家を出た直後_____否、家を出ようと扉を開けた時点で衝撃的な光景を目撃することになる。
「__________っ!!お、お母さんと、お父さん、だよね?」
「__________ゔぅぁっ、そんなっ!何故!」
母が、父を庇うようにして被さった状態で焼け死んでいた。
死因は疑うまでもなく、落雷である。
母が雷耐性を付与した状態で父を守ろうとしたのだろうが、それすらも貫通し父親も焼け爛れている。
回復魔法を使ったような、そんな仕草で倒れているので父の方は即死では無かったのだろう。
衝撃的、そう表すには子供たちからすれば優しすぎる表現だと言っても過言ではない。
さっきまでの安寧はもう無い。
澄み切った水に一滴の毒を垂らすだけでもそれは致死に値するというのに、今回の悲劇は一滴など比ではない。
明らかに、この嵐は不自然極まりないものだった。
何のための耐性魔法なのか、それすらも貫通する稲妻の正体は何であるのか。
自然に起き得る災害でないことはまだ幼いグラン達にも理解できたし、その悲劇を知った村人も同じくそう理解した。
兄妹を含め、村としての最終的な結論はこうだ。
『此度の災害は、何かによる作為的な陰謀である』と。
"何か"が指すものは推測すらできないが、この日の出来事は今後、永遠と伝えられてゆき、"何か"の存在は至上命題として扱われることになった。
厄災の翌日から兄妹は悲しみに明け暮れ、慟哭で時を浪費し、どこからかやってくる憤怒に苛まれ、虚空を見つめ怠慢であり続けた。
日々の暮らしに灯りはなく、心の穴を埋める役割となるセメントはどこにもなかった。
その停滞した時間を瓦解させたのは、メイアの言葉だった。
「あの嵐は、絶対に誰かがわざとやったんだよ。私は、だから、せめて、仕返ししたい」
こんなことを幼い女の子が言うべきではないのだろうが、それを兄のグランが気にする訳もなく。
「そうか……なら、仕返ししようぜ。俺たちはまだ何もしらないが、俺たちが強くなれば絶対に仕返しできる」
時折グランの即決は自分自身、そして妹に栄養剤としての役割を果たすことがある。
のしかかる石の塊を打ち破り新たな芽を生やさせる、そんな強い栄養剤として。
静かに逆巻く憤怒の炎は、少年少女を「小さな巨人」へと成長させ、それは幼くして執念に燃える苦難の道を進んで歩くようになる最大の理由だった。
その世界にて彼らの「優者」としての心が、この時完成されたのである。
「優者」が完成されるのは、これからまたずっと先のことであろうが、既に完成への切符を手に入れたことは確かだ。
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しかし、現在、この仄暗い世界にて。
彼は「優者」ではなかった。優れた者が、優れすぎている者が、既にいたからである。
相対的に、余りにも違いがありすぎたから、グラナード・スマクラフティーは再び芽を成長させなければならない。
だがしかし、この世界に於ける「勇者」になることはできよう。あの世界、つまり光の世界には勇者などそもそもいらなかったが、それはこの世界とは別の話でしかない。
この世界に於いては、闇を祓うという勇者の仕事がある。
いつか「優者」になる日を夢見て、そしてそれは「勇者」への道でもあって。
グランに劣等感を叩きつけた最大の存在、デアヒメルがいたからこそ、"劣等"の二文字が肥料の役割を持つようになったのだ。
故に、彼の中の炎は未だ消えず燃え続けている。
いつかの復讐のため、いつかの再会のため。
_____俺は、この世界を攻略する、と。
____________________。
「そう思っていた時期もありました〜って展開になるのかい?それは楽しみだねぇ♪」
その声は誰が発したものだろうか。
突如横から聞こえた諧謔的な声は、未だ聞いたことのない者の声であった。
この世界にいる人間は皆、悪のはずだ。
ならばグランが臨戦態勢を取るのは必定、敵を見据える。
「やだなぁ〜そう警戒しなくてもいいよ、今回僕は君を攻撃しにきたわけじゃないから。でもすぐ臨戦態勢を取ったのは褒めるべき点だったね」
そこにいたのは、青みがかったような銀髪の青年。
ただ一つ、謎の青い槍を持っている点を除けばただの青年であるのに、その武器のせいでとても異質だ。
「あ、ごめんごめん。僕はフィースト・カタフだ。大体200年前に此処へ来て、今や悪を孕んだ存在の一つさ」
自ら悪人宣言をするも、悪意、敵意を感じないところにグランは戸惑いを覚えてしまう。
「ん、あぁ、俺はグラナード・スマクラフティーだ。お前は、三大派閥が一家、カタフ家出身なのか?」
「グラナードくんね、ヨロシク♪ で、君の質問だけど、君の言う通り僕はカタフ家出身だ。それにしても、今もカタフ家が三大派閥と呼ばれているのはほんと驚きだね」
「辺境の村に住んでる俺ですら知ってるほど有名だ」
カタフ家とは、「世界三代派閥」の一つに数えられる偉大な家系であり、強さがトップを争うような人間を続々と排出している。
カタフ家の他にアプス家、ラミティ家の二つが派閥に含まれているが、三家とも代々凄まじい戦力を誇る強者揃いである。
最も驚きなのは、そんなカタフ家から失踪者が出ていたことだ。グランはかつての大嵐の後、己の鍛錬の模倣とするために世界の強者について大量に調べあげたことがある。
もちろん三大派閥についても調べたが、失踪に関わる情報はどこにもなかった。
つまり、情報を開示していないのだ。
「あぁ、君は……いや、世界中の人々が僕の失踪を知らないんだろうね。どうせ秘密にされている筈だし」
「おい、お前は何故俺を攻撃してこない」
「_____おや、これは突然だねぇ!」
フィーストは不気味な笑みを浮かべ、グランを凝視する。
彼の放つ異質な空気に揉まれているからか、グランの身体も硬直しつつある。
嫌な汗が滴るのを感じながら、質問の答えを待ち続け……。
「悪を孕んだから攻撃してくるって?それは偏見だよ。まあ獣達は見境なく襲うだろうけど、僕たち人間が悪を孕んだとしても、考える力は残っているさ。勿論君を襲うことに変わりはないが、いつ、どこで、どうやって殺すか、それは僕が自由に決めるさ。ただ、殺さなきゃって使命感があるだけで、それ以外は普通の人間とそう変わらない!」
彼の答え、「悪にも個性がある」という旨の答えは一理あるとグランは感じた。
その例がデアヒメル王だ。
彼がグランを襲わず、逆に自分の魔法を見せようとさえしたのだから、彼の答えは真実なのだ。
「ちなみに僕が今日グラナードくんのところへ来たのは、君を観察するためだ。来たばかりだまだ脆い君をここで殺すのは勿体ないだろう?君が強くなって自信をつけたそのとき、僕が君の心をへし折ってやりたいと思うよ!」
__________。
「おまえ、今嘘ついたな?」
突如、グランはフィーストの言葉が嘘だと断言した。
その根拠は、グランの嘘・害意を察知する力によるものだ。
フィーストの視線が刹那、グランへの殺意となって襲ってきたのである。
「おまえ、襲う気満々だったろ。俺は相手の害意やら嘘やらを見抜けるんだ。まさに今俺は自惚れていたところだからな、だからこそ、今俺の心をズタボロにしようってんなら残念だったね。俺は、俺が自惚れていたことを知っている」
激しく顔を歪ませ、狼の如く槍を持つ青年を睨みつける。
その反応を見てフィーストの顔から笑みが消え、明らかに殺意が溢れてきた。
「そうかい、僕は気分を害したよ。嘘が気付かれるわ、既に君が既に自らの自惚れに気付いているわで、僕のしたいことが全くできないじゃないか」
「はっ。俺の驕りに気付いたのはついさっきだがな。で、どうするつもりだ、お前の目的は今日達成できない。どうやら俺は更に強くなってお前を倒す日が来てしまうらしいな?」
「そうだね、僕は今日、自惚れた君を殺すと言う目標が達成できなくなった。気分も悪いことだし帰ることにするが、ゆめゆめ、次に会うまでに死なないことだね」
フィーストは、一瞥もくれることなくその場を去っていく。
束の間の、精神を落ち着かせるための休憩のつもりが、まさかこのような邂逅に繋がるなんて。
この邂逅はグランに目標を残していった。
デアヒメルよりも先ずは、フィーストを超える。
そのためには魔法球第二式『デアヒメル』を大成させ、さらなる研究をするのが良いだろうか。
ふと、グランは手のひらに魔法球を浮かべてみる。
いつもしているように魔力を注ぐとその次に、魔力を纏わせてみる。
デアヒメルはどのように溢れさせたのだろうか、と考えたのも一瞬だけ、感覚で魔力を放出させることに成功した。
「……ヌァッ?!」
上空から何かが降ってくる、それも超高速で落ちてきているような感覚に襲われた。
でも、それがグランに対する攻撃だと言い切れる。
きっとこれはフィーストの攻撃なのだと言い切れる。
『次に会うまでに死なないことだね』
というフィーストの最後の言葉。
きっと、「これで死ぬようなら成長を待つまでもない」というメッセージなのだと、グランはそう理解した。
__________勿論、俺が負けるわけないだろ。
そう心で訴えかける。
しかし、それと迫り来る攻撃を防ぐことには何の関係もないのだ。いかにして攻撃を防ぐか、それはわからない。
何せ、今から何をやったところで間に合わないのだから。
だが、またしてもグランの"感覚"は無意識に彼に魔法を使わせていた。
「魔法球第二式『デアヒメル』………」
微弱ながらも、溢れる魔力は煙となってグランを覆っていた。銀河も、渦すらも形成されないが、効果はあった。
「これが……この魔法の効果だったのか……」
新たな魔法『デアヒメル』の片鱗が上空からやってきた攻撃を掻き消していた。
溢れ出て霧散する魔力は、同じ魔力を発散させる効果をもっていたのだ。
発散した魔力がその場に漂い残っていることにグランは気がつく。その魔力は澄み切っており、痺れるように優れた力を見るとカタフ家の凄みがよくわかる。
よく見ると、溢れ出た魔力がフィーストの攻撃を防いだ後、魔法球のなかに純粋な力が吸収されていた。
僅かに残った強い力が、グランのものになってゆく。
「とはいえ、こんな微笑の魔力じゃ余り変わらねえよな。だがせっかくだ、ありがたく頂戴させてもらうぜ」
フィーストが意図していないであろう魔力というお持て成しを、グランはその身に吸収した。
このお持て成しがどれ程の意味を持っていたのか、そんなことはグランにすら分からない。
寒くなってきた今日この頃。
国語が苦手な筆者はかじかむ手と戦いながら執筆する。
国語力の欠如と手のかじかみ。
この二つが交わると、誤字脱字に文脈すら怪しくなってくるであろう。
しかし、ここまで読んで頂けたなら私は嬉しい!
というわけで、今回もありがとうございます。




