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■90.ムウラタダ・イースケ大将「核攻撃が、遅すぎるぞォォー!」

 一方、新大陸東海岸――日本国自衛隊による核攻撃の標的とはならなかった旧ロシア連邦軍司令部では、二日酔いの高級参謀らが半ば呆然としていた。彼らの思いはただひとつ。どうしてこうなったのか、というところである。


(どうして……こう……)


◇◆◇


 時はさかのぼること数時間前――あろうことか旧ロシア連邦軍司令部は、久しぶりに“上物”の差し入れが入ったという事情もあり、酒宴しゅえんを開いていた。こともあろうに非番はおろか当直、早期警戒に携わる士官に至るまで泥酔。そして最悪にもそのタイミングで彼らは、開戦の瞬間を迎えてしまったのである。


「か……かーく」


「どぅわあああああああ!」


 旧ロシア連邦軍の情報収集機能は、自衛隊による弾道ミサイル攻撃を自動検知し、即座に司令部へ警報を飛ばしたが、その第一報に触れた中佐は「おあああああああああ!」と意味の伴わない奇声を上げた。

 それから突如として、


「夢……かな」


 と、素に戻った(素面ではない)。

 10秒前まで眠っていただけのことはある。


「おい、みんな! 核攻撃だぞ。夢かもしんないけど」


「おい、みんな! 核攻撃だぞ! 夢かもしんないけどな!」


 すっかり酔い潰れた連中の合間を駆け回りながら叫ぶ中佐の声に、高級参謀らが覚醒して起き出すまでに数分を要した。加えて泥酔状態の彼らが状況を把握するまでには、さらに10分が必要であった。

 最後に起き出してきたのは、黒髪の元・連邦軍大将ムウラタダ・イースケである。


「か、核攻撃ィィー!」


 と、寝起きのムウラタダ・イースケ大将は、中佐の言葉に動転して驚愕の声を上げた。

 が、なぜかここで中佐は大将の絶望と驚愕に触れて、一転して冷静さを取り戻した。


「夢かもですけどね」


「なんだ……夢か」と、ムウラタダ・イースケ大将もそれに釣られて平静を取り戻し、アフロヘアをした他の大将もまた「じゃあ、いいか……」と言い出す始末であった。

 ところが、である。

 自衛隊による弾道ミサイル攻撃は現在進行で続いており、旧アメリカ軍は即座に報復核攻撃に移ったという報告を受けて、ようやく彼らは事の重大さに気づいた。


「夢じゃないよコレーッ!」


「夢じゃない!?」


「なっ! えぇえええええええ!」


 そう騒いでいる間にも、自衛隊の弾道ミサイルは新大陸東海岸を襲っている。


◇◆◇


 そして……現在。


「遅い……」


「遅いな……」


「ユーリィ・ドルゴルーキーは何を」


「SLBM!」


「ユーリィ・ドルゴルーキーのSLBMはまだかー!」


 旧ロシア連邦軍司令部は、大騒ぎとなっていた。

 彼らもまた報復攻撃の他国と同様に手段を有していた。SLBM十数基を備える955型原子力潜水艦がそれである。彼女が背負うSLBMは多弾頭、1隻だけでも70個以上の核弾頭を投射することが可能であり、それだけに旧ロシア連邦軍司令部がかける期待は大きかった。

 だがしかし、その期待を裏切るように955型原子力潜水艦『ユーリィ・ドルゴルーキー』がパトロールする海域から、弾道ミサイルの発射が検知されることは一向になかった。


「なぜ撃たないー!」


「一体どうなってるんだー!」


「SLBMが遅すぎるぞォォー!」














 そう……SLBMはまだ発射されない。
















 なぜなら!
















 もうお分かりだろう!
















 誰も……発射命令を出していないのである!













「早く我々の攻撃命令に気づいてくれー! 誰かー!」


 と、ムウラタダ・イースケ大将は泣き叫んでいるが……!
















 そう!

















 誰も!

















 命令を下す人間がいないのである!

















「おかしい……これは……何かがおかしいぞ……」


「え?」


 突如としてひとりの渋い面構えの高級参謀が、口を開いた。


「旧ロシア海軍の原子力潜水艦は非常に優秀で」

「本来は命令から5分以内に核攻撃任務を遂行できるよう設計されている」

「通信が途絶したとしてもそれを敵攻撃による司令部壊滅とみなし、攻撃を実行できるように訓練もしているのだ!」


 彼のげんは、半分合っていて半分間違っていた。

 異世界における旧ロシア連邦軍の早期警戒システムは、敵弾道ミサイル攻撃を自動検知すると、司令部に警告を飛ばすと同時に海中に潜む原子力潜水艦へ、超長波により危機を報せるようになっている。

 その後、“司令部が攻撃命令を出した”場合に限り、核攻撃に移行することになっていた。

 本来ならば地球同様に、司令部との通信が途絶した時点で報復攻撃を実施するのが理想的なのだろうが、彼らは自身が異世界にて一から構築した早期警戒システムを信用しきれずにいたのだ。スタニスラフ・ペトロフ、1983年のような危機があってはならない。

 また情報通信技術の進展により、攻撃命令を発するよりも先に司令部が全滅することはないだろう、という思考もあった。


 それはともかく確かに渋い面構えの高級参謀が言う通り、誰かが発射命令を出したにもかかわらず、SLBMが発射されないのは不自然である。


「なのに……いまだ攻撃が行われないとは……」

「これは……絶対におかしい……」

「何かがあったに、」

「違いない」

















 そう、もうお分かりだろう……。

















 この偉そうにうんちくを語っていた、この渋い高級参謀でさえも、

















 発射命令を出していないのである!

















「通信設備をもう1度確認するべきか……」

















 と、腕組みをして呟いた士官も、
















 発射命令が出ているか確認していないのである!

















「どうしてー!」


「ユーリィ・ドルゴルーキーは何をしているの!」


「早く撃ってー! お願いー!」

















 こう、泣きながら叫んでいる中将でさえ!

















 発射命令を出していないのである!

















 狂乱の最中にいる旧ロシア連邦軍司令部の直上に、遅れて発射された自衛隊の核弾頭が迫る――。


「ユーリィ・ドルゴルーキーが発射するよりも早く、自衛隊の次のミサイルが来るなんてー!」


 恐ろしき集団心理!

 あなたが出しましょう核攻撃命令! こうなる前に!

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