■88.建前なしの殴り合い!
旧大陸の至るところから、大質量の鋼鉄が白煙濛々吐きながら、曇天の空を貫いて天へ翔け上がった。
もしも90年代、00年代の平和な時代に生きた者が見れば、誰しもが驚愕したであろう。
弾道弾による自衛隊の容赦なき先制攻撃。
出し惜しみをすることもなく、手を抜くこともない。
ダメージレースを最小限の被害で勝ち残るための全力攻撃である。
数発は敵人工衛星を狙った衛星攻撃ミサイルであり、残るは全て新大陸の地上施設へ向かう。
「BMD戦ッ」
自衛隊の弾道ミサイル攻撃に対して即座に反応したのは、洋上に展開する旧アメリカ合衆国海軍第2駆逐隊である。
アーレイバーク級ミサイル駆逐艦6隻から成るこの有力な防空艦隊は、旧大陸から新大陸へ突き進む超高速飛翔体目掛け、大陸間弾道弾の迎撃能力を有する艦対空誘導弾を次々と発射した。
RIM-161スタンダードミサイルの改良型であるこのミサイルは、膨大な運動エネルギーとともに大気圏外を往く敵弾に食らいつく。
「報復攻撃だ!」
他方、新大陸側でも偵察衛星により事前に捕捉していた日本側軍事施設目掛けて、米・中・露・英・仏が保有する大陸間弾道弾が撃ち出された。こちらは当然のごとく核弾頭。だが彼ら国連軍首脳陣に躊躇いはない。
これを迎え撃つ自衛隊は三重の防御手段を擁している。
洋上ではこんごう型護衛艦をはじめとする所謂イージス艦が擁する、改良型RIM-161スタンダードミサイル。また地上には地上型迎撃ミサイル(GBI)、そして終末段階の弾頭を迎え撃つためのPAC-3が配備されている。
さて、最初に炸裂したのは国連側の核弾頭であった。
しかしながら旧大陸直上で炸裂したわけではない。
「核弾頭型ABMを発射した馬鹿はどこのどいつだッ!?」
国連側が放った1発の核弾頭は自身の頭上、つまり新大陸とその沿岸部の直上にて炸裂した。
敵の弾道ミサイルを確実に迎撃する――そのために核弾頭を搭載し、危害半径を極大化した核弾頭搭載型弾道弾迎撃ミサイルは膨大な熱量を以て、飛翔する日本側の弾道弾を数発まとめて無力化する。
が、その代償は大きい。
「ターゲットをロスト」
「日本人野郎どものEMP攻撃か!?」
洋上に展開する旧アメリカ海軍の駆逐隊や、新大陸東海岸に配備されている地対空ミサイルシステムは、超高空に撒き散らされた熱エネルギーと吹き荒れる電磁波のせいで、飛来する後続の弾道弾を見失った。
米・中・露・英・仏、どの軍事組織が核弾頭搭載型弾道弾迎撃ミサイルという時代錯誤の遺物を発射したのかは定かではないが、これはあまりにも致命的なミスであった。
国連軍の監視網が再び日本側の弾頭を捉えたときにはもう遅い。
核爆発を隠れ蓑とした後続弾頭群は、すでに音速の10倍、20倍という超高速で地表へ殺到するところであった。国連軍の地対空ミサイルによる迎撃は、間に合わない。自衛隊の弾道弾はそのまま軍港を焼き、航空基地を焼き、通信施設を焼いていく。
核弾頭が配備されていると思しき国連軍の軍事基地直上では、総武省国際戦略局国際武力課から提供された戦術核弾頭が炸裂し、全てを無に帰した。熱線が有機物を蒸発させるとともに超音速の衝撃波と吹き戻しが、広大な敷地を更地に変えていく。
「まずは完封か」
JTF-自衛隊司令部の面々は、気を緩めることなく戦局の推移を見守っている。
全てが想定通りに進んでいた。自衛隊の放った弾道弾は1/3が無力化されたが、国連軍が発射した核弾頭は1発として旧大陸にて炸裂することはなかった。国連軍が保有する弾道弾の数は、自衛隊側のそれよりも遥かに少ない。そして自衛隊の防空網を突破するのにも不足であった。
さて、この弾道ミサイルによる応酬の前後では、洋上にて激しい航空戦が勃発していた。
特に両陣営ともに核弾頭を搭載しているかもしれない爆撃機と、敵が発射したかもしれない巡航ミサイルの捜索に血眼になっていた。また航空戦力の競り合いに勝利するために、早期警戒管制機や空中給油機を狙って、ステルス戦闘機が続々と送り出される。洋上に遊弋する複数個の空母打撃群は、洋上の航空優勢を得るために艦上機を連続で発艦させた。
まず自衛隊の攻撃が集中したのは、旧中国人民解放軍海軍『山東』を中核とする空母打撃群に対してである。




