表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/95

■82.外務省との交渉を断った旧アメリカ海軍関係者←めちゃくちゃかしこい。外務省との交渉に直接臨む独裁者カーブリヌ・ワン←死んだな……!

 日本政府は人民革命国連邦から持ち掛けられた即時停戦を了承。続けて人民革命国連邦との間で講和条約を締結するべく、日本国外務省職員を主とした代表団を派遣し、交渉にあたることで合意した。

 講和会議の場所は前線より北方に300km離れた、旧大陸西海岸に面する革命記念都市シルシャン。

 このシルシャンは、大海とそこへ注ぎ込む大小の河川を利用することで、古来より海運・経済の一大拠点として栄えてきた大都市である。周囲には軍港や航空基地も点在しており、人民革命国連邦首脳陣の移動や警護の面で極めて利便性が高い。


 日本国外務省の担当者は海路を経由してシルシャン入りした。


「日本政府は本当に講和条約締結が目的なのか」


 日本側の代表団が乗った2隻の水上艦艇を、洋上にて出迎えた人民革命国連邦軍第1巡洋艦隊の士官らは息を呑んだ。

 巨艦、である。

 最初に姿を現したのは総務省所属・あいおわ級戦艦『みずうり』。3連装40cm砲塔3基を有し、多数の副砲とバルカンファランクスで武装した満載排水量約58000トンの怪物は、排水量10000トンに満たない人民革命国連邦軍の巡洋艦4隻を威圧しながら、シルシャンへ向かう。

 それに続くのは、艦砲を有さない水上艦艇――環境省所属・いずも型護衛艦『いずも』である。最初から回転翼機のみならず、固定翼機の運用を前提に建造された『いずも』はいまF-35Bと輸送ヘリ、哨戒ヘリを積んでこの異界の海にいる。


「こけおどし……陳腐な砲艦外交だな」


 第1巡洋艦隊の司令はそう切って捨てたが、本当にこの2隻が暴れ始めた場合、シルシャンは一瞬で廃墟となるであろう。

 人民革命国連邦軍最新鋭艦『勝利』・『革命』はすでにない。『勝利』は洋上にて撃沈の憂き目に遭い、『革命』は母港への撤退に成功したものの、その母港とともに爆撃に巻き込まれて大破着底した。


(いざとなれば刺し違える覚悟――)


 エスコートする第1巡洋艦隊は、先導と殿しんがりの2隊に分かれた。

 いざとなれば相手の進行方向を抑え、同時に退路を断つためである。そうやって足止めしている間に、シルシャン郊外から来援するであろう爆撃機隊に仕留めてもらうほかない。


 さて。第1巡洋艦隊および人民革命国連邦首脳陣は、いきなり想定外の事態に見舞われた。


「日本側の2隻は入港する予定ではなかったか」

「洋上にて待機する腹積もりのようですね」


 シルシャン近郊の軍港に入港する予定であった2隻は、土壇場どたんばになって入港せず、洋上に留まるという。やむをえず人民革命国連邦側はこれを受けれたが、不信は募った。

 一方、スーツ姿の日本側代表団は『いずも』より発艦した回転翼機で、シルシャン入りを果たした。人数は約30名。内、数名は完全武装の護衛であり、ホスト側はこれを黙認するような形になった。


「来たか」


 日本側代表団の到着を確認してから、カーブリヌ=ワンら人民革命国連邦首脳陣もまたシルシャン入りした。これは先にシルシャンに居れば、空爆で吹き飛ばされるかもしれない、という疑念からくる行動である。

 口髭を蓄えたカーブリヌ=ワンは、すっかり余裕を取り戻していた。


(やはり日本側は講和に乗り気か)


 確かに彼我、軍事力の隔絶は認めざるをえない。

 が、彼らにも距離の暴力、兵站という概念と無縁ではいられないはず。

 内心は早々に講和したいところであろう。

 実際に日本側が送り込んできた代表団には、政府要人となる外務大臣の紺野こんの九郎が加わっており、これを見れば気合の入り方がわかるというものだ。


(ここまでは読み通り――)


 講和会議の場所は、シルシャンの外れにある古城である。丘陵の上に建てられたこの城塞は、近代戦には全く対応していない。だがしかし、古城の下には秘密の地下通路が張り巡らされており、いざとなればカーブリヌ=ワンら人民革命国連邦首脳陣は脱出が可能となっている。


(ここまでは読み通り――)


 他方、日本側の代表団もそう思っていた。

 カーブリヌ=ワンは来る。人民革命国連邦は彼の手足に過ぎない。物事の判断を下すのは、手足をコントロールする頭脳・カーブリヌ=ワンのみ。人民革命国連邦の浮沈がかかったこの会談に姿を現す可能性は十分ある、と彼らは考えていた。

 もしもカーブリヌ=ワンが現れないのならば、お茶を濁して次の機会を待つのみである。

 勿論、現れたカーブリヌ=ワンが影武者、という可能性もあろう。だがその真贋しんがんはすぐにわかる。単なる独裁者の影武者なら儀礼的な発言は多くなり、実務的な意見の表明は少なくなるのではないか。

 日本側代表団は、そこだけに注意を払う。


「よろしくお願いいたします」


 円卓が置かれた議場に就いた両陣営は、にこやかな雰囲気で会談を始めた。

 しかし外務省の人間にとって、会談の内容などさして重要ではない。前段階の野戦による華々しい大勝も、外務相の紺野が出てきたのも、すべてはカーブリヌ=ワンを引きずり出すための布石。最初から彼らは、自分より弱い相手と交渉を行うつもりなど毛頭ない。

 そして人民革命国連邦のような強権的な独裁者のコントロール下にある勢力は、その独裁者がたおれた途端に、内紛によって空中分解していく。


 故に、日本側代表団は目の前のカーブリヌ=ワンが影武者ではない、と確信をもった瞬間に一斉に離席した。

 続くのは当然の如く、銃声。


◇◆◇


「日本側の艦艇から次々と航空機が発艦しますッ」

「何かあったのか――」


 太陽は西へ傾き始めている。

 日本側の水上艦艇の警備と監視にあたっていた第1巡洋艦隊の目の前で、『みずうり』と『いずも』が突然増速した。と、同時に『いずも』からF-35Bが発艦し始める。第1巡洋艦隊の将兵からは見えないが、F-35Bは当然の如く爆装している。

 そして『みずうり』は取舵――洋上、旋回を開始する。

 慌てて後方数kmを追随する巡洋艦2隻も左へ艦首を転じた。


「交渉が決裂したか?」

「何か地上から連絡は!?」


 などと第1巡洋艦隊の士官らが状況を確認する中、『みずうり』は先導・殿の巡洋艦4隻に対して横腹を晒す格好となった。『みずうり』の巨砲と副砲は不動のまま。巡洋艦隊の面々からすれば、意図がわからない。


「相手戦艦の主砲が動いたら報せ――」


 と、第1巡洋艦隊司令が指示を下した次の瞬間、『みずうり』の左右両舷へ向けるハープーン発射機が、4隻の巡洋艦目掛けて鋼鉄の槍を繰り出した。




◇◆◇


次回更新は3月7日(日)18:00を予定しております。


また一時的にタイトルが変更になるかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ