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■79.異世界包囲殲滅陣(ふくろづめ)!ニンジン大収穫祭!

 人民革命国連邦軍は、総崩れとなった。


 先の第112戦車師団は激しい砲爆撃に晒されながらも、じりじりと南側から押し寄せる法務省人権擁護局・人権擁護委員戦闘団に抗しようと踏みとどまった。この時点で師団の戦闘職種・後方職種要員ともに、航空攻撃によりかなりの死傷者を出している。

 が、すぐさまその後背にNHK異世界総局・受信設備普及旅団が現れた。未舗装の悪路と河川さえも踏破とうはしてきたのである。地上のいかなる場所にでも受信設備を設置しに向かう彼らは、05式水陸両用歩兵戦闘車をはじめとする水陸両用車輛を多数備えている。野戦においては相手が想像だにしない地形を長駆ちょうく突破し、打撃するのが得意なのだ。

 半包囲の窮地きゅうち

 状況を把握した第112戦車師団はすぐさま退却を試みたが、独力で逃げられるほど人権擁護委員戦闘団と受信設備普及旅団の攻勢はぬるくない。


 あるべき最前線から150km離れた場所で食い散らかされていく第112戦車師団を救援する部隊はない。

 周囲に存在するはずの他の予備部隊もまた、砲爆撃によって身動きがとれず、進撃する日本側の機械化部隊によって分断・孤立してしまっているからである。

 しかも彼らに逃げ場はない。

 なにせすでに第112戦車師団から数百km後方には、観光庁国際観光部・海外邦人救援課の経空けいくう師団がIl-76からの空挺降下で展開している。

 さらに教え子のためならばいかなる戦場へも狂信的に身を投じる左派集団(※)、日本教職員組合もチャーターした戦術輸送機により、空挺強襲を仕掛けていた。


(※日本教職員組合は「子どもたちが生き残るために、伝統的教育は全くの無力。国旗で敵は殺せない」「国歌斉唱の際に起立することを教える時間があるなら、核攻撃に際して身を守るすべを教えた方がいい」「先の大戦を猛省もうせいし、戦争に負けた弱い旧日本軍は悪と教育するべき。強くて戦争に勝った者が正義」と唱えるほどの筋金すじがねりであり、故に左派といわれている)


 これぞ現代のバグラチオン。

 かつての最前線から数百km圏内は、日本側の砲爆撃と機械化部隊による攻撃に晒される。晒され続ける。後退する先には空挺部隊が待ち構えている。逃げ場はどこにもない。

 袋のねずみ

 否、袋のニンジン。しかも袋詰め放題。

 人民革命国連邦軍は日本側の縦深同時攻撃に太刀打ちできず、故にそこかしこで包囲殲滅陣が完成する。


「何がどうなっている?」


 にもかかわらず最前線の部隊も予備戦力として控えている部隊も、状況が把握出来ていなかった。戦場の霧は深く立ちこめ、下りてくるはずの命令は来ない。一部の戦車部隊は後方に敵部隊が出現したという噂を信じ、転進した。

 はたしてその通りであった。

 河川に架かる橋梁に近づいた偵察隊は、すでに同所を押さえていた日本教職員組合から待ち伏せ攻撃を受けた。先頭を往く短砲身の従来型機械戦車が84mm無反動砲で撃破されたのを皮切りに、続く車輌も十字砲火を浴びて蜂の巣となる。激しい銃撃に偵察隊員らは後退も出来ず、身動きがとれなくなってしまった。

 そこへ観光庁国際観光部・海外邦人救援課経空師団のBMD-3歩兵戦闘車が側面へ現れ、機関砲と対戦車ミサイルで釣瓶つるべ撃ちに撃ちまくり、彼らを壊滅させた。


 そして一方の本隊は、といえば橋梁まで辿り着くことすら出来なかった。

 環境省環境保全隊の無人機に捕捉され、車列の先頭と後方を対戦車ミサイルで潰された直後、同隊のAC-1が備えるM61 20mmバルカン砲による対地掃射と、文部科学省・初等中等高等教導評価隊制空教導隊のSM-27Jの襲撃を受け、道端でそのままスクラップになっていった。

 特に30mmガトリング砲を固定武装とし、10発以上の対戦車ミサイルを携行可能なSM-27Jは、人民革命国連邦軍の機械化部隊にとっては死神に等しかった。


◇◆◇


 日本国環境省環境保全隊をはじめとする日本側の地上部隊が初めて足を止めたのは、2週間後のことであった。

 その前進距離、約500km。

 彼らの無停止進撃は概ね成功したといっていいであろう。距離もさることながら、大規模攻勢のために集結していた人民革命国連邦軍・親衛軍集団の過半を死傷せしめ、あるいは捕虜としてしまった。


「誤報ではないのか」


 カーブリヌ=ワン以下、人民革命国連邦の首脳陣は唖然とした。

 2週間で100万規模の軍集団が壊滅状態にまで追いやられ、500kmも前線が後退したのだから当然である。

 いくら畑から兵士がれるといっても、地上部隊100万と装備品、その戦闘力を保証する膨大な物資の喪失は、即座に補填出来るものではない。

 人民革命国連邦軍はやむをえず非戦闘員(生産に従事する一般人民)を根こそぎ動員し、時間稼ぎの肉弾として送り出す一方で、新たな防衛線を構築しようと足掻あがき始めた。

 だが現実には、ろくな武器も持たされないまま投入された人民マンドラゴラらは、そのそばから虐殺の憂き目に遭った。

 しかも戦線の立て直しもうまくいかない。

 日本側の地上部隊の前進は一旦停止したものの、長距離砲と航空機による砲爆撃はむしろ激しさを増し、再編成・再配置の人民革命国連邦軍地上部隊は、移動するだけで深刻なダメージを受けていく。




◇◆◇


次回更新は2月24日(水)を予定しております。

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